般若のお面の男?
「駿河様は妻子を大切にしていたらしい。そして神の使いである猫様がいたとも聞いている」
「じいさんの話によると駿河様の身体の一部を守る末裔がいるらしかった」
忍び装束のおじいさん達が、亡くなったおじいさんから聞いた話を教えてくれているけど……
「……猫様……末裔……」
これが小犬丸さんから聞いた『神の使いは猫様、神であるお方を蘇らせよ』の言い伝えの真実?
うーん……
亡くなったおじいさんは脳じゃなくて『身体の一部』と話していた……
やっぱり駿河の脳の存在を知っているのは、ごく一部の限られた忍びだけだったんだ。
あれ?
『神であるお方を蘇らせよ』の部分は?
「じいさんは言っていた。俺達に忍びの力は無いが今でも忍びの力を持つ者達がいる……と」
「俺達はそれが羨ましかった。平凡な俺達とは違い、同じ末裔のそいつらには忍びの力がある……何十年もそう思い続けてきた。そして十日くらい前……あの男が現れた」
「駿河の脳がある場所を教えたっていう男?」
「そうだ。脳がある場所と今いる群馬の地図を渡しながらこう言った。『ここに駿河様の脳がある。盗み出して群馬で儀式をすれば忍びの力が手に入る。神である駿河様を蘇らせよ』」
「俺達はその言葉に高揚した。ずっと憧れていた忍びの力を手に入れられる日が来たんだ……と」
じゃあ『神であるお方を蘇らせよ』の部分はその男に言い伝えられてきたのかな?
脳の存在も知っていたみたいだし……
何者なの?
「それで神奈川の地図の場所に忍び込んだの?」
「若い頃に呉服屋で仕立ててもらった忍び装束をタンスから引っ張り出し、バスと電車を乗り継いで神奈川に向かおうとしたら孫に止められて……」
「そんな格好で外に出ないでくれと懇願されたんだ」
「……自分のおじいちゃんが忍び装束でバスと電車に乗ろうとすれば孫は必死に止めると思うよ」
もし友達に見られて『お前のじいちゃん忍者だったぞ』なんて言われながらネット拡散でもされた日にはもう立ち直れないよ……
「それでもやめようとしなかった俺達を見て代わりにやると言ってくれたんだ」
「俺達が詐欺に遭いさえしなければこんな事には……」
「……その男って……どこの誰だか分かる?」
「あぁ……般若の面をしていたから男という事しか分からない」
「俺達よりは若そうだったが……孫よりは年上に見えたな」
「……そう」
般若のお面……
おじいさんが経営するおまんじゅう屋に般若のお面をつけた男が来たの?
そんな怪しさ満点の男が現れて『忍びの力が欲しくないか』なんて言い始めたら通報案件だよ……
「夢物語……だったんだな。俺達はずっと忍びに憧れてきた」
「じいさんもこんな嘘を信じて死んでいったのか。いや……じいさんは自分も忍びだと言っていた……現実と妄想の区別がつかなくなっていたのか」
亡くなったおじいさんは自分を忍びだと言っていた?
じゃあ『一般人と結婚して里を出た忍び』だったんだね。
「……おじいさん達は忍びのどこに憧れていたの?」
「え? それは……かっこいいだろう? 黒装束に身を包み悪者を倒す……テレビや小説で見る忍びは正義の味方で悪を倒していた……ただそんな風になりたかっただけなんだ……」
「そうだな……でも俺達は大切な孫を犯罪者にしてしまった」
ずっと憧れていた忍びよりもお孫さんの方が大切なんだね。
やっぱり悪い人じゃなさそうだ。




