首をトンってしても気絶はしないんだね
「ほれ、そこだ」
里のおじいさんが指を差しながら教えてくれているけど……
小犬丸さんが上着を脱いで猫のユウちゃんをグルグル巻きにしたから鳴き声がうるさくなくなって良かった。
声は少し聞こえるけど周りに響かないから黒ずくめの奴らには聞こえていないよね?
ユウちゃんと神奈川にいるおじいちゃんは繋がっているらしいけど……
どうか普通に息をしていますように……
ん……?
え!?
ちょっと待って!?
里のおじいさんが指差した所にいるのって……
「あれって時代劇とかでよく見る忍者!?」
真っ黒い頭巾に真っ黒い忍び装束……
小犬丸さん達の忍び装束は現代風なのに、この人達は時間が止まったみたいに過去のままだ。
「話に聞いてた通りだなぁ。こんな真っ昼間からあんな黒い忍び装束に頭巾まで被ってるなんて……目立ち過ぎだろ……」
小犬丸さんがかなり呆れているのが分かる。
「あいつらは忍びに憧れてるんだ。好きにやらせておけばいい。どうやら駿河様を復活させて自分達に忍びの力を授けて欲しいと考えてるみてぇだ」
道案内をしてくれた里のおじいさんが険しい表情で話している。
「そんな事何ひとつ叶うわけがねぇ。まったく……かわいそうな奴らだなぁ」
「今はあいつら年寄り二人だけだ。あと二人の若い奴らは三十分もすりゃ戻ってくるだろ。その若い二人は仕方なくじいちゃんの手伝いをしてるだけ……みてぇな感じだなぁ。忍びの存在すら信じちゃいねぇ」
「そうなんか……優しい孫だなぁ」
「施設に脳があると知ったじいさんが孫に頼み込んで盗み出させたらしい」
「……とんでもねぇじいさんだなぁ」
「とりあえず孫が帰る前にあの二人を始末するか?」
「いや、作戦変更だ。あの二人の記憶を真葵ちゃんがいじってくれる事になった」
「ん? そうか。まぁ殺さずに済むならその方がいいだろ。あいつらは悪い奴じゃなさそうだしなぁ。じゃあ俺は孫を見張ってる奴に、この事を知らせてくる。間違って殺っちまう前になぁ」
間違えて殺る前に……?
何を間違えたらそうなるんだろう。
あ……
里のおじいさんがすごい速さで山を下って行った。
もしかして小犬丸さんは私に合わせてゆっくり歩いてくれていたのかな?
「真葵ちゃん、どれくらいかかる?」
「うーん……二人か……忍びに憧れているなら記憶にしっかり刻み込まれているだろうから……全部の記憶を消さないで一部を消すなら……一人……長くて十分……かな?」
「そうか。二人で二十分か。テレビが映る場所から車で来られる場所まで十分……そこからここまで最短距離で五分……だが奴らはその道を知らねぇはずだから……あと三十分はあるはずだ」
「その孫は、やる気がないみたいだから実際はもっと遅いだろうね。でもなるべく早めにやってみるよ」
「そうだなぁ。そうしてくれ。じゃあ俺はあのじいさん達を眠らせてくる」
「え? 眠らせるって……どうやって?」
「んん? そりゃ死なねぇ程度に……か?」
「テレビでよく見る首をトンってするやつ……とか?」
「ははは! ありゃダメだ。上手くやらねぇと痛いだけで気絶なんかしねぇんだ。それだけじゃねぇ。下手すりゃ脊髄損傷するぞ」
え?
そうなの?
麦多が付いてこなければ、お兄ちゃんの首をトンして車で寝かせておこうとしていたんだよね。
はぁ……
やらなくて良かった。




