表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リクルーター  作者: 海星
83/94

八十三話

 壺を抱えたカナと、その隣にいるナオミの後について建物を出る。

 建物の周囲には非常線が張られていて、付近には誰も人がいない。

 もう少ししたら防毒服を着込んだレスキュー隊員が雪崩れ込んで来るかも知れないが、それにもある程度の準備期間を要するだろう。

 あと30分くらいはそれもない。

 つまり建物の周りは完全な無人だ。


 「こっちよ」とナオミ。

 何でも契約者と呪物は糸で繋がっていると言う。

 ネクロマンサーはその糸を視認する事が出来るらしい。

 「そんな事言っても、今の壺との契約者はカナなんでしょ?

 前の契約者と糸が繋がってるのって変じゃない?」と俺。

 「だから急がなきゃいけないのよ。

 糸の痕跡を辿れるのは契約終了から一時間が限界ね。

 そうしたら『呪い返し』は難しくなっちゃう。

 なのに杏奈は呑気にワープでどこかへ行っちゃうし」ナオミが非難めいた瞳をこちらに向ける。

 「悪かったよ。

 でも、あの娘らを敵のところに連れて行ける?

 無理だと思うよ?

 『何で自分が今、ここにいるか?』も把握していない女の子らを連れ歩いて、敵と向き合える?」と俺。

 「確かに難しいか。

 ・・・でも、彼女らはどこに置いて来たの?」とナオミ。

 ナオミん家だ、とは言えない。

 でも他に思いつかなかったんだもん。

 『異世界の俺ん家の小屋』ってのも考えたんだけど、いきなり言葉の伝わらない所に連れて行かれたらどうする?

 俺なら暴れるね。

 何されるかわかんないもん。

 だいたいあの娘らは人間不信気味なんだよ。

 そりゃそうだろう、いきなり生け贄にされたんだから。

 「まぁ、どこでも良いじゃない。

 いなくなった時はいなくなった時だよ」

 「・・・そうなんだけど。

 何か引っ掛かるのよね」とナオミ。

 やはりネクロマンサーは勘が鋭いのか。

 今頃、アンタの部屋で土足で寛いでるよ。


 話をしながらトコトコと歩く。

 規制線の外に出るかと思ったら、ナオミとカナは『岡田コンツェルン』の建物の隣の建物に入って行く。

 その建物も避難勧告が出されて建物の中にいた人達には「規制線の外側にいるように」と命令が出されている。

 隣の建物の中には既に誰もいないはずだ。

 なのに壺と前契約者は糸で繋がっていて、ナオミにはその糸がハッキリ見えているらしい。

 そしてその糸は間違いなく隣の建物の中に続いている。

 その事実が意味するところ、つまり隣の建物の中に壺の呪いを仕掛けたヤツが間違いなくいる。


 「隣の建物って事は・・・」と俺。

 「岡田コンツェルンの関連企業って事よ」

 そう言う綾美の表情は険しい。

 「『乳珍中の虫』ってヤツか」

 「それを言うなら『獅子身中の虫』よ!

 そんな珍妙な虫知らないわ!」

 突っ込みを入れながらもナオミの表情は優れない。

 「もしかして、呪いを仕掛けた人に心当たりがあるの?」と俺。

 「『心当たり』と言うか、この建物は父親の兄、本来『岡田コンツェルン』の跡取りになるはずだった叔父の会社なのよ。

 叔父は女癖が悪くてね。

 妻子がありながら、取引銀行の娘さんに手を出してしまったのよ」

 「それが男だけの責任になるのは嫌いだな。

 妻子がいるとわかっていながら、男と関係を持つ女にだって責任はあるじゃん」

 「『妻子持ちだ』ってわかってればね。

 ただ、女は叔父に『独身だ』と騙されてたのよ。

 それを聞いた取引銀行の頭取はカンカンよね。

 『娘を騙して傷モノにした』って」

 「その考え方自体が嫌だ。

 『傷モノ』って何だよ?」

 「そりゃ、私だって嫌な考え方よ。

 でもそういう時代だったのよ。

 でお祖父様、岡田コンツェルンの先代当主は次男である私のお父様に跡目を譲ったのよ。

 でも、叔父は勘当されなかった。

 お祖父様も鬼になりきれなかったのね。

 『兄弟で岡田コンツェルンを盛り立てて行って欲しい』と、グループ企業の社長に叔父を据えたのよ。

 その生温い罰のせいで叔父は反省するどころか、いまだに逆恨みしているのよ。

 で、岡田コンツェルン本体と、岡田機械は犬猿の仲なのよ。

 私が叔父に最後に会ったのは、お祖父様の告別式かしら?」

 親族経営の企業で親族同士が骨肉の争いを繰り広げている、なんて珍しくもない。

 『岡田グループ』もその例に漏れないのだろう。

 しかし今回は『いつもの事か』と笑って見過ごす事は出来ない。

 一人殺そうとしたんでも見逃せないが、対象だけを殺そうとしたんではなく、無差別殺人だ。

 まぁ、殺人を犯そうとしたのが、ナオミの叔父とは限らない。

 他にも岡田コンツェルン本体に恨みを抱いていた人物はいるかも知れないし、功を焦った叔父の部下が暴走した可能性だってある。

 今から『アイツが企んだ』なんて決めつける必要はない。


 建物に入って行く。

 基本的に周辺は立ち入り禁止になっているので、人はいない・・・はずだ。

 でもナオミが言うには人はいるはずだ、と。

 何故なら『ガス漏れじゃないから』『加害者は呪いの被害を受けないのはわかっているはずだから』

 わざわざ避難する理由はない。

 何なら本体の建物に倒れている人しかいないなら乗り込んで行って、金品や大切な書類を強奪しに行くだろう、と。

 そんなの監視カメラに映らないか?

 その心配はしないで良いらしい。

 霊障や強い呪いは精密機器を作動させなくさせる。

 だから、カメラ映像は気にしないで良いらしい。

 むしろカメラ映像に残る事を心配するなら、こうして正面から敵の本拠地の建物に乗り込むのは得策じゃないはずだ、と。

 そりゃそうか。

 「何でそんな事知ってるの?」と俺。

 「私は子供の頃から霊感が強かったのよ?

 カメラに映っちゃいけないモノが映ったり、作動しなかったりなんて日常茶飯事だったのよ。

 これだけ強い呪いの中で監視カメラがまともに作動する訳ないじゃない」とナオミ。

 なるほど。

 ナオミの周りではノートPCや、ビデオカメラが頻繁に壊れたらしい。

 ナオミは「何もしてないのに壊れた」と言っていたが周囲からは「機械音痴はみんなそう言うんだよね」とナオミを白い目で見ていたらしい。

 なんと不憫な。


 『岡田機械』の建物に入る。

 受付には誰もいない。

 受付をすり抜けてオフィスに入ろうとする。

 暗証番号を入れないと入れないらしい。

 困った。

 「ガラスをぶち破って入りましょう」とナオミ。

 「オイオイ、そりゃダメだろう?」と俺。

 「多分、暗証番号のシステム、動いてないわよ?」

 「何でよ?」

 「呪いとか霊障って精密機械を壊すって言わなかったかしら?

 暗証番号のシステムだって故障してるはずよ?」

 「大体警備システムが働いてるなら、私達みたいな侵入者がここまで侵入して、警報が鳴らない訳ないじゃない?」

 「もし警備システムが一つでも生きてたら『岡田コンツェルンの社長の娘が強盗として入って来た』って問題にならない?」

 「でもどうすりゃ良いのよ?

 目の前に大量無差別殺人をしようとしたヤツが間違いなくいるのよ?

 ソイツを告発するのに一刻の猶予もない。

 ソイツをみすみす見逃すの?

 ・・・要はソイツを捕まえて自白させれば良いのよ」

 「相手が悪人だから、何でもやって良いってモノじゃないと思うんだがなあ」

 「いや、善人に好き放題するより、悪人に好き放題した方が心は痛まないよね?」

 「そりゃあね」

 「だったら好き放題しよう!」とナオミ。

 「それで良いんだろうか?」と俺。


 ガラス扉にパイプ椅子を叩きつけて割る。

 気分は尾崎豊だ。

 割ったところから手を入れて内側からロックを外す。

 鍵は簡単に解除された。

 「セキュリティこんなに簡単で良いのかよ!?」

 「普段だったら監視カメラも生きてるし、電子制御だってされてると思うわよ?

 でも、そういった精密機器がとことん霊障に弱いのよね。

 『岡田機械』自体がそういった精密機器メーカーなのよ。

 つまり、会社全体が霊障に弱いって事ね。

 今なら好き放題出来るわよ」

 ナオミはどうも岡田機械の事が嫌いみたいだ。

 そりゃ父親の事を殺そうとした連中の事を好きになれる訳がないが、それだけじゃないモノを感じる。


 「さぁ、早く奥まで行きましょう!」

 ナオミはズカズカとオフィスの奥に入って行く。


 そうだった。

 電子系統がイカれているんだった。

 電気がついているのは奇跡みたいなモノだったんだ。

 とは言うものの、ついている電気は普段の半分以下の『非常灯』だろう。

 『非常灯』というのは災害時に電気が消えた時に、蓄電されたバッテリーで数時間足元を照らすための電灯だ。

 つまり、霊障で停電になると同時に、非常灯がついたのだ。

 しかし、薄暗い明かりはついているが、エレベーターは動いていない。

 壺が導くフロアまで、俺達は階段で上らなきゃいけない。

 うーん、面倒臭い。

 俺やナオミや有末やケイは『ただ面倒臭い』だけだが、ベガや綾美は死ぬほどゼエゼエ言っている。

 体力がないのだ。

 「大丈夫?」と俺。

 「大丈夫じゃない。

 死にそう」と綾美。

 「だから『下で待ってなさい』って言ったじゃない」と綾美にナオミが言う。

 「冗談じゃないわよ。

 一人で侵入した建物の一階に残ってられる訳ないでしょ!?」

 「じゃあ外で待ってれば良いじゃない」とナオミ。

 「貴女達の言う事全てが半信半疑なのよ!

 信じられる信じられない、と言う話じゃなくて全ての話が奇想天外で!

 私が多少なりの霊感がある人間じゃなかったら、話の全てが信用されてないわよ!?」

 そうか、綾美はナオミの双子の妹でイヤでも霊を感じる時もあっただろうし、ナオミの話を『頭のおかしい人の話』とは片付けられなかったんだろうけど、今までの全ての話が本当は信じられなかったんだろう。

 有末が綾美の言う事に激しく頷いている。

 今さら有末は俺達の事を疑ってはいないだろうけど、『疑う気持ちはよくわかる』と言ったところだろうか?

 しかも、今ここで一人で置いてきぼりにされたら、どうして良いかわからない。

 しょうがないから有末とケイでベガと綾美をおぶる。

 カナはおぶらなくても体力的に大丈夫なようだ。

 やっぱり普段からやっているレベリングは体力作りになってるね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ