八十二話
「『呪い返し』?」
「そう。
これが呪いの類いなら、ネクロマンサーの出番だよ。
呪いを仕掛けた人に呪いを返す事が出来るわ」
「そんな事言っても今回だって無関係の人々を沢山巻き込みそうだったし。
呪いを返したら沢山の人を巻き込むんじゃないの?」
「それは大丈夫。
だって"壺"は今、私達の支配下にあるから。
『あんまり瘴気を吐き出すな』と命令すれば、命令は聞くしかないはず。
それに今、壺は活動源になる生け贄を吐き出している状態よ。
そんなに無制限に瘴気を吐き出せる状態じゃないわ、多分」
「そんな未確定な話が根拠なの?」
「壺が吐き出した生け贄の女の子達は四人、でもおかしいでしょ。
今までに捧げられた生け贄が四人ばかりのはずはない。
しかも捧げられた生け贄がそのままの状態で吐き出されたのだっておかしい。
『彼女らはまだ消化されていない備蓄だ』と考えるのが自然よ。
壺は生娘じゃなくても"エサ"に出来る。
でもグルメな壺はご馳走である生娘を喰らわずに取っておいたのよ」
「そ、そんな危険な壺を仲間にして良いの!?
エサとして生け贄を要求されるんじゃないの!?」
「それは多分大丈夫。
壺が活動源として必要な生気はカナが自分の生気を与えるから。
逆に壺はカナの許しなく生気を吸う事は出来ないはず、そうよね?」とナオミがカナに聞く。
「そうなの?
じゃあ『勝手に生気吸っちゃダメ!』って壺に行っておくわ」とカナ。
おいおい。
「それより未だによくわからない。
『生気』と『瘴気』ってどう違うのさ?」
「アンナ・・・まだそこ?」ウンザリした顔でカナが言う。
「つまんねえマウント取ってんじゃねえ!
あと『さん』をつけろよ、デコスケ野郎!」
「『野郎』じゃないし。
デコもそんなに広くないし」
「説明してあげれば?」とナオミがカナに言う。
「ナオミさんが言うなら・・・」
「『さん』付けかよ!
・・・そんな事より、説明してくれよ!」
「アンナが『さん付けがどうだ』って文句言ってきたんだけど。
しょうがないな、私は『瘴気』や『生気』については詳しくないんだけど。
簡単に言うと『瘴気』はモンスターにとって出す物で、生気は吸うモノよ」
「異議あり!
全てのモンスターが生気を吸う訳じゃないよね?」と俺。
「大量に水を吸う植物とほとんど水を必要としないサボテンがいるでしょう?
大量の生気を吸うモンスターもいれば、ほとんど生気を吸わないモンスターもいるのよ。
それに、獲物の肉にも生気は含まれていて、獲物を狩るだけで、生気をまかなっているモンスターがほとんどなのよ」とナオミ。
「わかったような、わからないような。
じゃあ、瘴気は?
瘴気はモンスターにとってウンコみたいなモノなの?」
「本当にガキはウンコが好きよね。
これで『さん』を付けて欲しいとか。
大体見た目も私より年下じゃない!」とカナ。
一触即発の俺とカナの間にナオミが割って入る。
「まあまあ、杏奈には異世界の例えはわかりにくいかも知れないわね。
瘴気は蛇が吐く毒みたいなモノよ。
言ってみれば武器ね。
壺は瘴気で獲物を狩る訳ね」
「ホラ、大人の説明はこんなにわかりやすい!」と俺がカナに文句を言うとカナが悪びれずに言う。
「ごめんね、私もアンナも子供って事よね。
アンナは私の事を子供だと思ってるみたいだけど、私はアンナを私より子供だって思ってるの」
「こっ子供って言うヤツが子供なんだぞー!」俺がカナに言い返そうとするとナオミが間に入る。
「はい、そこまで。
『呪い返し』するなら相手を逃がさないように素早くやらないと。
早ければ早いほど『呪い返し』の成功率は高いんだし」
「でも・・・」
「デモもストもない!
呪具、この場合『壺』と呪いを発動させたヤツは"契約"しているのよ。
今回は成功報酬でこの建物内にいる人を好きに喰らって良い、って契約になってるみたいね」
「壺は生娘を生け贄にしてたんだろ?
この建物内にいる人で生娘どころか女性なんてほとんどいないんじゃない?」
「考えてもみなさいよ。
この壺の中に閉じ込められていた生け贄の女の子達を。
120年前に閉じ込められていたのよ?
その後、壺は一切活動していなかったのよ」
「何でそんな事がわかるの?」
「活動していたなら、壺の中の女の子達は壺の養分になったはず。
壺が活動せずに眠りについていたから、彼女らも一緒に眠りについていたのよ。
壺が活動していなかった理由はわからない。
何者かに封印されていたのかも知れない。
一つだけわかっている事は壺が120年ぶりに目覚めたと言う事と、何者かがこの壺と契約した、と言う事よ。
じゃなかったら段ボールの中で大人しくしてた意味がわからない。
誰かが段ボール箱を給湯室に置いた。
その後に壺は契約通り瘴気を振り撒いた。
でもカナが壺をテイムしてそれまでの契約を無効にしたのよ。
契約していた者と壺はネクロマンサーにしか見えない糸で繋がっている。
急ぐ理由はネクロマンサーも時間がたつとその糸が見えなくなってしまうからよ。
今なら糸を辿って、この建物に呪いを仕掛けたヤツが誰だかわかる」
なるほど、一刻の猶予もないって事か。
しかし元はブヨブヨだった、女の子達を放置しては立ち去れない。
何せ彼女らはスッポンポンだ。
アイテムボックスから彼女らが着れそうな服を出す。
でも俺が持っている服はどれも異世界の服だ。
うん、間違いなく古風な日本人の顔立ちの少女達がアルプスの少女みたいな格好だ。
しかも木靴はいてもらうしかないし。
しょうがねーだろ、これしか持ってねーんだ。
彼女らは全く訳がわかっていない。
120年前の日本語は多少わかりにくいんだろうが『翻訳スキル』が全く不便さを感じさせない。
時間がない。
「とにかくついて来い」
「わかった、ついて行く」なんて簡単な話じゃない。
彼女らは無理矢理生け贄にされたんだろう。
周りの人間には不信感しかないはずだ。
「ここはどこだ!?
今度はどこへ連れて行かれるんだ!?」というモノだろう。
まずは彼女らの信頼を得るところが、彼女らとのコミニュケーションの第一歩だろう。
人間不信の野良猫ですら、コミュニケーションが取れるようになるまで半月ぐらいかかったりする。
「俺らが君らをこの壺から救出したんだよ。
この壺は今や、俺達の敵じゃない」と俺。
彼女らはノーリアクションだ。
そりゃそうだろう。
何が何だかわかっていないのだ。
彼女らは120年前の人間だ。
彼女らにとってここは近未来なのだ。
俺にとってドラえもんの世界と同じだ。
困った。
説明して納得させないと、彼女らは一歩もここを動かないぞ。
反抗している訳じゃない。
俺が出した服を文句も言わずに着たからある程度従順なのだろう。
そうじゃない、ビビってすくんでいるのだ。
連れ歩けない。
決めた、俺は彼女らと手を繋ぎナオミのアパートへワープした。
ワープした彼女らは全く事情がわかっていない。
「「「「?????」」」」
部屋の中で土足の彼女らに「靴を脱げ」と言うかどうか考える。
まあ良いや、説明するのが面倒臭い。
俺は買い置きのじゃがりこのサラダ味を大きな皿に五箱あける。
「これはこの世で一番美味しいお菓子だ。
これを食べてここで待ってて」と俺。
何も嘘はついていない。
俺はじゃがりこより美味しいお菓子はないと思っている。
俺が人にじゃがりこをあげるなんていうのは最大限の歓迎だ。
彼女らは訳もわからずコクコクと頷く。
あ、これ、家に放置して行ったら逃げるな。
しょうがないよね、だって俺らが善人だなんて思ってないだろうし。
今までだって騙されたり、脅されたりして生け贄にされて人間不信なんだろうし。
まぁいいや。
逃げるなら逃げるで。
別に監禁しておきたい訳じゃないし。
でも120年前の人間が突然現代に現れたら、「ここはどこだろう?どこに行けば良いんだろう?何をすれば良いんだろう?」と混乱すると思っただけだ。
用事を終えて戻って来た時、まだいたらとりあえず異世界に連れていこうか。
そこでこれからの身の振り方を決めてもらえば。
俺はワープで給湯室に戻る。
ステータスを確認すると、誰もがレベルアップしている。
壺はかなりの高レベルで、テイムした事でこちらのパーティに大量の経験値をくれたらしい。
日本ではレベルアップしない、というのは認識違いらしい。
日本にはモンスターはいないんじゃない。
極端に少ないのだ。
異世界にだってアクアみたいな獣だって少ないけど存在するんだから当然か。
カナが胸に壺を抱えている。
「大丈夫なの?
危険じゃないの?」と俺。
仲間にすれば壺は別に危険じゃないらしい。
敵に回したら厄介だけど、味方にしたら怖くないらしい。
ナオミが何やら壺の前で印を結ぶ。
『呪い返し』はかなり危険を伴う儀式との事だ。
だが、呪いの対象である壺が俺達の支配下にある状態ではその限りじゃない。
ナオミが言うには「壺も協力的」との事だ。
「一旦契約した相手をこの壺も簡単に裏切るモンだね」と俺が言うと、正規の契約なら横入りして敵のモンスターをテイムする事などは出来ないらしい。
敵は正規の契約をはしょった。
生け贄も供えてはいないし、成功報酬の後払いだし、「報酬は今回の被害者達を好きなだけ喰え」と言われても。
実質被害者を生み出すのは壺だし、お前ら何もしないじゃん・・・と言うのが、壺の思ってた事だ、と。
「何にもしてくれなかったヤツに恩義を感じる必要はないよな?」と。
壺は相手との契約を途中破棄して、こちらのテイムに応じた。
ポケモンバトル中に相手のポケモンを奪い取ろうとしたら、怒られるもんな。
普通は敵をテイムするのはルール違反らしい。
でも、それが出来たのは何故か?
・敵の壺との契約がいい加減だった。
・壺が契約者に反感を持っていた。
・カナの持っているスキル『テイムルールブレイカー』が発動した。
そう、例えるならカナはポケモンバトル中に相手のポケモンにポケモンボールを投げつけて、自分のポケモンに出来るスキルの持ち主なのだ。




