八十一話
「良く言うじゃん。
『念を込めて作られた物には魂が宿る』って。
妖刀とか、呪いの人形とか・・・」とナオミ。
ネクロマンサーが日本の言い伝えを口にするのは変な感じだ。
異世界にもモンスター化した物はあるらしい。
「ゲームなんかにも良く出てくる『ミミック』って知らないかしら?
人の物欲が宝箱に乗り移って、モンスター化したモノの事よ。
つまり人をモンスター化して、あのドロドロにしているのはあの壺のはずよ」
「何でそんな事が一瞬でわかるのさ?」
「言ったでしょう?
"普通、生きた人はモンスター化しない"って。
生きた人をモンスターにするには特殊能力があるモンスターが絶対に近くにいるのよ。
杏奈だって聞いた事があるでしょう?
人を"吸血鬼"ってモンスターにするヴァンパイアの存在を。
今回、人間をあのドロドロに変えているモンスターが近くにいるとしたら、あの壺がそのモンスターなのよ。
・・・しかし日本にもモンスターがいるのね。
異世界にもビーストのアクアがいるんだから例外はあるのか。
そんな事は今はどうでも良いわ。
あの壺を何とかしなくちゃね」
「わかった!
割れば良いのかな?」
「それはわからない。
割った事で瘴気が消えるかどうか、なんて予想がつかない。
もしかしたら割ったことで逆に瘴気が溢れ出すかも知れない。
そしてあの壺を割ったら、モンスター化された人々はそのまま死ぬかも知れない。
ヴァンパイアを殺すと、ヴァンパイアに吸血鬼化された人々も灰になって消えるのよ。
それと同じ事が起こるかも知れない」
「じゃあどうすれば良いんだよ!?
手詰まりじゃんか!」
「私はあくまでも可能性の話をしただけよ。
『もしかしたら』って。
結果はわからない。
博打ね。
最悪の結果を生むかも知れない。
でも生まないかも知れない。
一番の悪手は結果を恐れて何もしない事よ。
現に躊躇していて、投石じゃ間に合わなくなったんでしょ?
二の足を踏んでいたら、今度こそ取り返しのつかない事になりそうよ?」
「あのぅ、すいません」カナが遠慮がちに言う。
「あの壺、モンスターなんですよね?
テイムしてみても良いですか?」
カナは何故か俺にはタメ口なのに、ナオミやベガには敬語だ、納得いかん。
・・・それはそれとして、カナはあの壺をテイム出来るのか?
『モンスターテイマー』としての修行を全くしていないのに。
「テイム出来るの?」と俺。
「ケイは『ビーストテイマー』の修行を全くしないで、獣をテイムしてるんだよね?
だったら私も出来るはずだよ!」
やっぱりカナは俺に対してはタメ口だ。
納得いかん!何でやねん!
確かに俺は幼く見えるかも知れない。
・・・まぁ、ナオミやベガよりは年下だけど。
確かにあの壺を割っても、取り返しのつかない事になるかも知れない。
かと言って、このまま放置していたらもっと取り返しのつかない事になりそうだ。
一縷の希望に託してみよう。
「それじゃカナ、やってみよう・・・」俺は言うがやはり不安だ。
カナが壺の近くに行くと壺をむんずと掴んだ。
「何してるのよ!?」とケイ。
「"何"ってテイムしてるのよ」とカナ。
「何が起きてるのか良くわからない。
ケイは何で急に大声をあげたの?」と俺。
「テイムの仕方は『ビーストテイマー』も『モンスターテイマー』も基本的には同じなのよ。
いくつかテイムする方法はあるんだけど・・・。
①対象と仲良くなる。
②対象に力の違いを見せつける。
③対象を弱らせて捕まえる。
④対象を説得する。
⑤対象と取引する。
⑥対象を脅す。
他にもいくつもテイムする方法はあるわ。
どの方法も一長一短で友好的な方法でテイムした対象は命令に従わない事が多いわ。
アクアは呼び出さなくても、出てきちゃう事が多いでしょ?
威圧的な方法で仲間にした対象はこちらに隙さえあれば歯向かおうとしてくるわ。
後から信頼関係を築いたりも出来るんだけどね。
・・・そんな話はどうでも良いのよ。
カナのテイム方法はそれのどれにも該当しないのよ!」
カナのやっている事はいきなり掴んで『仲間になれ』と。
遭遇したポケモンにいきなりポケモンボールを投げつけるようなものらしい。
「カナ!
その壺を放しなさい!
どんな方法で襲いかかってくるかわからないわ!」とケイ。
「え・・・でも・・・この壺、もう多分テイム出来たよ?」とカナ。
「何を言ってるの?」と俺。
「だってこの壺と繋がってる感覚あるもん。
多分私の考えてる事、この壺に通じるよ?」とカナ。
「だったら試しに『ドロドロになった人達を開放しろ』って言ってみてよ」とナオミ。
「『開放するのは構わないけど、代わりにお前の生気を吸わせろ』だってさ。
そんな大量に生気吸われたら困るなぁ」
「生気を補充する薬ならいくらでもあるわよ?」とベガ。
「だったら、生気ぐらい吸わせてあげようかな?」とカナが言うや否や肌色のブヨブヨが三人の裸の少女の姿になる。
「うげー、ガッツリ生気を吸われたー」カナがゲンナリした顔で言う。
これが『適職:モンスターテイマー』の実力か。
約束通り、ベガはカナに『生気回復』の薬を手渡す。
「う~渋い」とカナ。
どうやら『生気回復』のポーションは渋いらしい。
ベガもエリクサーをカナにあげれば良いのに。
あれだったら美味しいし、全てのステータスが回復するなら生気だって回復するだろうし。
「それよりこの裸の女の子達は何よ!?」と有末。
「そんなの私に聞いてもわかんないよ」とカナ。
「カナ、貴女、意識がこの壺と繋がってるんでしょ?
だったらこの壺に聞いてみてよ」とナオミ。
「え~。
コイツ、がめついから聞いたら対価求めそうだよ」
「生気求められたら、いくらでも薬飲んで良いから」とベガ。
「わかったー。
えーっと、この女の子達は『生け贄』なんだって。
壺は今から120年くらい前に『呪いの壺』って言われて敵対団体のアジトに送り付けられたりしたんだってさ。
そこで敵対団体のアジトを瘴気で満たして、敵を全滅させたりしたんだってさ」
「敵対団体の構成員を瘴気で倒して、取り込んでたんじゃないの?」と俺。
「この壺はグルメで取り込むのは若い生娘だけだったんだってさ。
最低だね、この壺。
だから今回も成功報酬で生娘が捧げられる話になってたらしいよ。
この壺に」
「そうか、つまりこの娘らは120年前に捧げられた生け贄なんだね。
今の時代では天涯孤独な訳だ。
縁者が生きてたとしたって、彼女達の事は知ってる可能性は低いんだね」とナオミ。
「放っていくのも寝覚めが悪いね。
・・・じゃあ連れて行こうか。
それよりこの壺を仕掛けたヤツって誰なの?」と俺。
「仕掛けたヤツ?」と有末。
「マジックには絶対タネとか仕掛けがある。
仕掛けには絶対『仕掛けたヤツ』がいるんだよ」
「事故だったら、仕掛けはないんじゃないの?」
「今回は事故で処理されるだろうね。
"ガスが漏れた"とかそんな理由をつけてね。
現代日本じゃ、オカルト話はだいたい『ガス漏れ』で処理されるんだよ。
でも俺らはこれがガス漏れじゃないことを知っている。
だったら今回、故意に瘴気を溢れさせた犯人はハッキリさせておいた方が良いんじゃないか、と思ってね」
「あちらの世界にも『魔力事故』はあるわよ?
でも事故で瘴気は漏れ出さない。
そもそも意図的に瘴気を漏れ出させる装置を段ボールの中に隠してたんだもの、故意って部分じゃ疑う余地もないわね」
「誰が?
何の為に?」とナオミ。
「その考え方はするだけ無駄ね。
1人の勝者の下には多数の敗者と挫折者がいるのよ。
その敗者が勝者を妬まなかったと思う?」と有末。
「まるで知ってるかのような話し方ね」と綾美。
「知ってるのよ。
勝者の立場も、敗者の立場も、挫折者の立場も。
恨まれた事も、妬まれた事も、・・・妬んだ事もあるわよ。
嫌がらせを受けた事だって、妨害を受けた事だって当然あるわよ」
「悪意に日常的に晒されていた、と?」と俺。
「『悪』じゃないのよ。
私が『正しい』としたら、別の立場の『正しさ』があるってだけで。
『岡田グループ』に反感を抱いてる人にだって『違う正義』があって、それを守ろうとしているのよ、きっと」
「『違う正義』?」
「そう。
例えば『関わる人や社員の家族を守る』というのがわかりやすい正義よね?
対して、社員の家族の生活を脅かす『岡田グループ』は彼らから見たら悪なのよ」
「だったら、この壺を仕掛けた連中は悪くないって事?」
「正々堂々、商売で勝負しないで『岡田グループ』で働く人達を殺そうとした事は『悪』よね、一般的には。
でも相手には相手の言い分があるって事よ」
「しかもオカルト的な事を裁く手段はこの国にはない・・・。
それは異世界でも似たところがあって、暗殺に呪殺はよく使われるのよ」とナオミ。
「相手にも言い分はあるんだから、殺されたって文句は言えない・・・って事?」と俺。
「そんな訳ないじゃない。
こちらがやり返すのも、逃げるのも、やられそうな人々を守るのも当然よ。
やられそうだからって黙ってやられる筋合いはない。
当然、やり返すんでしょう?」
「もちろん!
やり返さないと、また何か仕掛けて来るからね。
『正義』とか『悪』とか関係ないよ。
仲間の家族と知り合いが被害を被った。
それに対して"お礼参り"するでしょう?
しないと調子に乗って、何度も嫌がらせしてくるだろうし。
命に関わる事を仕掛けて来るなら『やってくるならこっちもやり返すぞ』って態度を見せないと!
・・・でも、どうやってやり返そうか?」と俺。
「ある程度壺に話を聞けるんだけど、壺は意識は持ってるとは言えそんなに知能が高くないのよね。
あんまり細かい事まで壺の言う事を理解は出来ないわ」とカナ。
「大丈夫、私に考えがあるから」とナオミ。
父親を殺されそうになったのだ。
ナオミが静かに怒るのも当然か。




