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リクルーター  作者: 海星
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八十話

 段ボール箱からは肌色の液体が溢れている。

 「何だ、あの液体?」と俺。

 「あれ、液体じゃないわよ?

 段ボール箱を見て。

 全然ふやけてない。

 アレが油分だとしても段ボール紙には染み込むはずよね?

 アレは水分でも油分でもないのよ」とナオミ。

 「凄い観察眼だね」

 「『アレは何だろう?』って私は杏奈より早くから注目してるからね。

 そして、アレは霊体でもない」

 「何でわかるのさ?」

 「霊体だったらネクロマンサーのスキルで消すなり何なり干渉が出来るはず。

 ネクロマンサーは『対アンデッド』のエキスパートだからね。

 でも、さっきから私はアレを消そうとしているけど消せない。

 という事は霊体じゃないのよ。

 ・・・でも、ネクロマンサーのスキルに全く反応がない訳じゃない。

 明らかに私を避けている」

 「ちょっと待って!

 "避けている"ってあのドロドロに意志があるって言うの!?」

 「ご名答。

 アレは霊体じゃない。

 意志がある。

 そして何やら生々しくて、気持ち悪い。

 ・・・つまり?」

 「つまりアレは生き物だ、と?」

 「その通り。

 ケイのテイムビーストが瘴気を取り込んで巨大化したでしょう?

 異世界に元々いた獣も瘴気を取り込んでモンスター化したんでしょ?

 異世界にいる獣はアクアだけなんでしょ?

 瘴気は生き物を変質させる。

 でも瘴気を身体に取り入れられない生き物もいる。

 それが人なのよ。

 人は瘴気の拒絶反応で倒れたりするのよ。

 さっき、会議室で倒れてる人達を見たでしょう?

 それに、コイツはおそらく『寄生型』の悪霊よ」

 「『寄生型』?」

 「そう。

 生物だって処世術はそれぞれ。

 毒で獲物を殺す生物だっているし、何かに寄生する生物だっている。

 悪霊だって同じよ。

 瘴気を撒いて、獲物を狩って人に寄生するタイプだっているんでしょう」

 「『いるんでしょう』って、ずいぶん自信無さげだね」

 「そりゃそうよ。

 こんな霊見るの初めてだもの。

 だからネクロマンサーとして悪霊を消そうにも、悪霊は寄生した人にコーティングされてるのよ。

 だから消す事が出来ない」

 「『取り憑く』と『寄生する』ってどう違うの?」

 「全然違うわよ。

 ・・・でも口で説明するのは難しいわね。

 見た目を簡単に言うなら、人の身体をそのまま乗っ取るのが『憑依』

 使うのは人の身体の核になる部分だけ。

 人の身体を変化、変質させるのが『寄生』

 私が意識を失って、入院してたのが『憑依』、目の前のドロドロにされた人がされたのが『寄生』よ」

 「わかったような、わからないような・・・。

 で、これ、どうするの?

 ネクロマンサーのスキルもコイツには届かないんでしょ?」

 「私にはどうしようもないわ。

 どうすれば良いのかしら?」

ーーーーーーーーーーーーーー

 「カナ、良い?

 もしかしたら貴女が行動する事がみんなを助ける・・・かも知れないのよ?」とナミがかつて私がニホンに旅立つ前に行った。

 「?

 訳がわからないよ。

 私に何が出来るのよ?

 アンナさんには『カナにはモンスターテイマーの才能がある』とは言われたけど」

 「・・・詳しくは言えないけれど、他の人がついて行っても駄目なのよ」

 「なんでナミさんがこれから起こる事を知ってるの?」

 「な、何でって。

 私は元々勘が良いのよ!

 私の勘の良さは杏奈さんにも認められてるんだから!

 今回の"カナの同行"だって私の勘が評価されたからなのよ?」

 「勘が良い割りには言う事が大雑把ね。

 もう少し具体的に言ってくれないと何をすれば良いかわからないんだけど・・・」

 「あくまでも『勘』なのよ。

 何が起こるか、まではわからないから!」

 「そんな漠然とした指示じゃ何して良いかわからないよ」

 「じゃあ、行くの止める?

 ケイについていけないわよ?」

 「・・・行く」

 「カナに何が出来るか良く考える事ね」

 「わかった」

 『わかった』と言いながら、実はカナには何をすれば良いのかわかっていない。

ーーーーーーーーーーーー

 「コイツ、物を投げても全く効いてないよ!」と有末。

 「物理的攻撃は全く効かないみたいだね・・・待てよ?」俺は咄嗟に閃く。

 もしかしたら、魔力でコーティングした武器ならば、コイツにダメージを与える事が出来るかも知れない、異世界のモンスターのように。

 俺はアイテムボックスからショルダーポーチを取り出す。

 日本では『ウエストポーチを腰につけるのはダサい』と言わているが、このウエストポーチは中々の優れモノなのだ。

 何せこのウエストポーチに入れた全てのモノに魔力をコーティング出来る。

 つまり、このウエストポーチは小石でも何でも、対モンスターの武器に出来るのだ!

 だから異世界ではおじいちゃんもおばあちゃんもこのウエストポーチをつけている。

 そして若者はあんまりこのウエストポーチはつけていない。

 なぜならダサいから。

 若者には肩からかけるタイプのポーチが流行していて、ウエストポーチをつける人はあまりいない。

 「「「「「ダサっ」」」」」日本の人にも、異世界の人にも俺は言われる。

 そんな事言ってる場合か!

 俺はウエストポーチから取り出した小石を肌色のブヨブヨしたモノに投げつける。

 今まで投げたモノ全てを吸収していたブヨブヨしたモノに穴があく。

 しかもブヨブヨしたモノの溢れ出す勢いが一瞬止まる。

 「効いてるよ!

 どんどん小石を投げつけて!」とケイ。

 「ちょっと待って!

 これ、おそらく人の成れの果てだよ!

 しかもまだ生きてる!

 ネクロマンサーのスキルが一切効かないのはそういう事だよ!

 人を殺すの!?」とナオミ。

 「だったらどうするのよ!?

 さっき倒れてた人達を見たでしょう?

 おそらくこのブヨブヨしたヤツは彼らだって取り込むつもりだよ?

 この肌色だっておそらく今までに取り込まれた人達なんだよ?

 そもそもこうなった人達を助ける方法ってあるの?

 倒すのを躊躇してたら、私達もあのブヨブヨしたヤツに取り込まれちゃうんじゃないの!?」ケイの言う事は尤もだ。

 『瘴気がだんだん濃くなってきておる。

 我もそう長い時間は吸い込み切れんぞ・・・』とアクア。

 ヤクザ達ですら異世界送りにしたが、殺さなかった。

 俺には人を殺すという事に関する覚悟がない。

 しかも取り込まれた人達はおそらく被害者だ。

 でも自分達が被害者になる訳にはいかない。

 今、決断するしかない。

 濃い瘴気を浴びれば俺達は全滅しかねない。

 いや、もしかしたら綾美だけは瘴気の影響を受けないのかも知れない。

 でも溢れ出した肌色のブヨブヨに物理的に飲み込まれそうだ。

 そうなれば、圧死するか窒息死するか・・・。

 俺の戸惑いが判断の遅れを生んだのか、段ボール箱から勢い良くブヨブヨが溢れ出す。

 まるで『AKIRA』の暴走した鉄雄だ。

 俺が慌てて小石を投げつける。

 まるで小石は『焼け石に水』

 溢れ出すブヨブヨのほとんど足止めにはならない。

 考えろ。

 何かこの場を切り抜ける方法があるはずだ。


 『おかしいとは思わぬか?』とアクア。

 「今、そんな事を言ってる場合じゃないだろ!」と俺。

 『いや、これだけは聞いてくれ。

 人は"モンスター化しない"。

 だから向こうの世界には我など古龍を抜きにしたら獣はほぼいない。

 皆、瘴気でモンスター化してしまったからな。

 しかしその考え方を改めた。

 "ビーストテイマーがいる限り、獣はモンスター化しない"

 現にケイにテイムされている獣は、巨大化はすれど、モンスターにはならないのだ。

 しかし死人はモンスター化出来る。

 死人がモンスターになったモノを"アンデッドモンスター"と言う』

 「だから何!?

 そんな事を言ってる場合じゃないだろ!?」

 「いや、言ってる意味は私にはわかる。

 "条件付きで"『モンスターになる』『モンスターにならない』が分かれる、って事よ。

 つまり"人をモンスターにする"条件っていうモノがあって、その条件を満たした結果、人があのブヨブヨになっているのよ!」とケイ。

 「・・・で、その『条件』って?」

 『わからん』

 「結局わからないのかい!」

 『しかし、それがわかれば突破口になるかも知れん。

 突破口にならなければ、この建物一帯を燃やすしかない。

 そうなればこの建物内にいる者は焼死するだろう。

 しかもそれは"これが火で燃えるかも知れない"と言う希望的な博打だ。

 この建物の中の人々を無駄死にさせる可能性も高い。

 全ての人々を助けるためには"人をモンスター化させる条件"を潰すしかないのだ』

 「"条件を潰す"って言ってもどうするのさ?」

 『先ずは現状を正しく把握せねばな。

 とりあえずあの箱を壊せ』

 「あの段ボール箱を・・・。

 わかった。

 段ボールを破るから、あの箱の近くに満ちてる瘴気をアクアが吸い込んでね。

 瘴気が満ちてると俺は近付けないから」

 『わかった。

 満ちてる瘴気を吸い込むが、長くは持たんぞ。

 我が吸い込める瘴気にも限界がある』

 そう言うとアクアは大きく息を吸い込んだ。

 見るとアクアの顔が赤くなっている。

 言葉通り、長くは瘴気を吸い込めないらしい。

 俺は急いで段ボール箱に近付き、段ボール箱を引き裂こうとする。

 あ、この段ボール箱、引っ越しなんかで使う丈夫なヤツだ。

 俺は段ボール箱を引き裂くのに難儀する。

 しかもかなり重い。

 引き裂くのに全体重をかけているが微動だにしない。

 どれだけブヨブヨが詰まっているんだよ。

 考えただけで鳥肌が立つ。

 でもそんな事を言ってる暇もない。

 アクアが瘴気を吸い込んでいられる時間はそれほど長くない。

 俺はついに段ボール箱の生地を引き裂いた。

 引き裂いた片側を俺が持つと、何も言わないでも引き裂いた片側を有末が持った。

 そして二人は正反対な方へ走る。

 引き裂かれた段ボール箱は破れた裂け目が大きくなり、最後には真っ二つになった。

 しかし本当に有末は機転が効くな。

 運動が出来るヤツって頭が良いのかも知れない。

 そういや小学校の時、運動も勉強も出来る憎たらしいヤツいたよな。


 引き裂かれた段ボールの裂け目からブヨブヨがドロドロと溢れ出す。

 想像はしていたが、やはり気持ち悪い光景だ。

 ブヨブヨは自重で床に平べったく広がる。

 まるで肌色の水たまりのような光景だ。

 肌色の水たまりの真ん中に何かがある。

 何だろう、アレは?

 壺か?

 2ちゃんねるのトップページの画像のような壺が段ボール箱の中には入っていた。

 引き裂いた時、勢いで倒れたのだろう。

 壺は横向きに倒れている。

 どうする?

 取り敢えずあの壺を割ろうか?

 何か取り返しのつかない事になるんじゃないか?

 俺が思案していると壺がグルグル回り出す。

 回っていた壺は徐々に斜め回転を始め、最後には立ち上がった。

 立った壺はピクリともしなくなった。


 「あの壺、意識を持って立ち上がろうとしてなかった?」

 誰かがそう呟いた。 

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