表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リクルーター  作者: 海星
PR
78/94

七十八話

 姉は『私は霊を集めてしまうから』と妹から遠ざかった。

 妹は知らず知らずに悪霊を遠ざけていた。

 妹は生まれながらにエクソシストの素質があったのだ。 

 結果、妹がいないと姉は悪霊に取り憑かれる。

 姉は悪霊に生気を吸い尽くされ、死にそうになる。

 今、まさに姉が死のうとしている時に、同じ病室の少女の付き添いの女性に薬を飲まされる。

 その薬とは失った生気を取り戻す薬だった。

 姉は尽きかけていた生気を取り戻し、意識も取り戻す。

 それが、姉、ナオミと俺との出会いだ。

 そしてナオミは俺と行動を共にするようになる。

 ナオミは『霊魂を集めてしまうのはしょうがない。そういう体質だ。その体質と霊魂を自在に操れるようにならないと自分の命が危ない』と異世界でネクロマンサーを目指して今に至る。


 問題は綾美だ。

 適職が『ネクロマンサー』だったナオミがネクロマンサーを目指すのはわかる。

 じゃあ、適職が『エクソシスト』の綾美はエクソシストを目指すのか?

 「綾美は日本で大学生を続けてた方がいいわね」とオレの心を読んだようにナオミが言う。

 「綾美が異世界でエクソシストになる理由はないわ。

 綾美は私と違って、悪霊に取り憑かれる心配はないわ。

 だからエクソシストになる必要はないのよ。

 元々綾美は岡田家の後継者でエクソシストにならなくても食いっぱぐれはないし」

 そういう考え方もあるか。

 そう言えば適職についてる人の方が少ないんだ。

 適職じゃなくても何年も修練する事で適職になったりするしその逆だってある。

 適職だったのに、怠惰な生活を送るうちに適職じゃなくなるとか、身体能力が上がって適職が目覚めるとか・・・。

 綾美も現時点では目覚めていないだけで、『経営者』としての才能が開花するかも知れない。

 人の『適職』を覗き見てその仕事を勧める、とか本当はチートなんだよな。

 「ナオミさんがそれで良いならそうすれば良いよ。

 姉妹の進路だもんね」と俺。

 「そうしてもらわなきゃ困るのよ。

 私は絶対に家を継ぎたくないんだから!」とナオミ。

 少しでも『良いお姉ちゃん』と思った俺が間違えてた。

 ナオミは自由に生きたいんだ。

 決められたレールの上を歩くのはイヤで、自分で決めた道を進みたいんだ。


 「何を二人でこそこそ話しているのかしら?」と綾美。

 俺らの話を綾美に聞かせる訳にはいかない。

 別に内緒にしてる訳じゃないけど、どうせ聞いても信じないだろう。

 「頭がおかしくなった」と思われるのが関の山だ。

 こういった時には同室の有末がフォロー入れて誤魔化してくれるもんなんじゃないのか?

 有末はなんかボケーっとしている。

 しょうがないか。

 両親の事で頭が一杯なんだろう。

 ベガに『明日には意識を取り戻す』と言われたら、そりゃ気が気じゃないよな。

 今夜は有末は置物みたいなモンだと思っておこう。

 逆に何も言わない、って事は『口裏を合わせる必要がない』とプラスに受け取っておこう。


 俺が綾美に『何の話をしているのか?』と聞かれて『どうやって誤魔化そうか?』と思案していた時「失礼します!」と昼間のオッサン執事が入ってきた。

 「ヴィルヘルムじゃんか。

 どうしたの?」と俺。

 「そのような者ではございません。

 ・・・そんな事は今はどうでも良いのです。

 テレビをつけて下さい!」とオッサン。

 綾美が壁に埋め込まれたテレビの電源を入れる。

 スゲー!

 80型ぐらいのモニターか?

 いや、おっきいモニターってゲームやる時に表示遅延(ラグ)が半端じゃないんだよな。

 アクションゲームには向かないの。

 小さなモニターには小さなモニターのメリットがある。

 ・・・負け惜しみじゃないよ?


 テレビには緊急ニュース速報が映し出される。

 たまたま映ったんじゃない。

 どのチャンネルもこの事件の緊急ニュース速報を流しているんだろう。

 いや、東京の某テレビ局だけはグルメ番組を流しているかも知れないが。


 リポーターが大声でがなりたてる。

 「繰り返します!

 岡田コンツェルンの本社ビルの周辺で謎のガス漏れが発生しました!

 ガスを浴びた人々は昏倒し、安否は不明!

 正確な情報は入って来ていません!

 これより先は規制されており、我々報道陣もこれより先には入れません!」

 テレビの映像は岡田コンツェルンのビル周辺の上空からの映像で、おそらくヘリコプターからの撮影映像だと思われる。

 「お父様は無事なの!?」と綾美。

 「わかりません。

 御当主様とは連絡が取れていません」とオッサン。

 「お母様はこの事を知っているの?」

 「奥様は既に現場近くへ向かっています」

 理事長は当主と連絡がつかない以上、当主代理として、現場近くで事の終息に努めなくちゃいけないのだろう。


 「何が起きてるんだろうね?」と俺。

 「杏奈には見えないの?

 ビルの周辺に瘴気が満ちているのを。

 ガス?

 冗談じゃない。

 昏倒した人々が吸ったのはガスじゃない。

 瘴気よ」

 「『瘴気』?

 それってどんなモノなの?」

 「『瘴気』っていうのは悪霊が発するモノよ。

 『瘴気』は猛毒なの。

 でも霊媒体質じゃない人にとっては大した害にならない・・・はずなんだけど」

 「それは何で?」

 「瘴気は外気に触れたらすぐに霧散して無害化しまうはずなのよ。

 だから濃い瘴気を浴びてしまう霊媒体質の者以外にはほぼ無害なのよ」

 「分かりにくい・・・」俺が頭を悩ませていると、綾美が補足を入れる。

 「外気に触れられたら霧散してしまう猛毒なんて珍しくはないわ。

 有名なところでは"ボツリヌス菌"ね。

 あと外気の中で安定しにくい猛毒としては"オゾン"があるわね」

 「く、詳しいね」

 まさか綾美が口を挟んで来るとは思わなかった。

 ナオミほどじゃないけど、綾美も霊が見えるらしい。

 だからこの一見、荒唐無稽な話を冗談と思わないようだ。

 「大学でちょっと研究したからね。

 それより、お父様がかかわってるのよ。

 早く続きを話して!」

 綾美が話の続きを促す。

 だから俺は綾美に聞かれた事をこの際気にせずナオミに尋ねる。

 「その霧散しやすい『瘴気』が何で満ちてるのさ?」

 「その前に大前提を話すわ。

 霊媒体質じゃない人は悪霊に取り憑かれない。

 例外を除いて、ね」

 「例外?」

 「ホラ、有末さんの御両親は悪霊に取り憑かれてたでしょ?

 霊媒体質じゃないにも関わらず」

 「あ、そう言えば・・・」

 「悪霊だって元人間なのよ。

 特定の誰かに『呪ってやる』『祟ってやる』『取り憑いてやる』って意思はあるのよ。

 有末さんの御両親は単なるクズの逆恨みで取り憑かれた。

 悪霊になるような『魂』には"確固たる自己"ってモノがないのよ。

 人間でも"確固たる自己"がないヤツは悪事に利用されやすいでしょ?

 詐欺グループに勧誘されて、使い捨ての"かけ子"として利用されたり、マルチ商法の子ネズミとして利用されたり・・・。

 悪霊も悪意を持ったクズに集められたりするのよ。

 集まった悪霊達は霧散しない濃い瘴気を発するのよ。

 この瘴気はおそらく集められた悪霊達が発しているモノね」

 それがわかってるんだったらナオミさんはネクロマンサーなんだから悪霊達を消せるんじゃないの?」

 「消せるわよ。

 でも犠牲者は救えない」

 「どうして!?」

 「食中毒でも加熱して毒性が消えるのは一部の大腸菌とかだけでしょう?

 加熱しても毒性が残る細菌だってあるのよ。

 動物だって同じ。

 死んだフグだったら毒性は消える?

 消えないわよね?

 同じように悪霊を消しても瘴気は残るのよ。

 新しい被害者は減るだろうけど、しばらく事件現場周辺の被害は防げない。

 この場合、事件を迅速に解決するのはネクロマンサーじゃない。

 悪霊と瘴気をまとめて浄化するエクソシストよ。

 ネクロマンサーとエクソシストは犬猿の仲。

 たとえエクソシストを異世界から連れて来るとしても、ネクロマンサーである私の願いを聞くエクソシストはいないわ。

 それ以上に事は緊急を要するのよ?

 エクソシストに事情を説明して、説得している時間があるのかしら?」

 ナオミはかなりイライラしているようだ。

 そりゃそうか。

 実の父親と連絡が取れていない、と聞かされたんだから。

 「エクソシストに知り合いはいないけど、適職がエクソシストの人を知ってる!

 その人は霊を浄化した実績もある!」

 「もしかして・・・綾美を連れて行くつもり!?

 無理よ!

 綾美はエクソシストとして、全く知識がないんだから!」

 「知識無して霊魂を浄化出来る天才なんだよ!」

 「だけど!」

 「お父さんを助けたくはないの?」

 「・・・わかったわ。

 でも今回だけだからね!

 妹は異世界とは関係なく平穏に生きていくんだからね!」

 なんだよ、なんだかんだ言って『妹想いのお姉ちゃん』じゃんか。


 オッサンは話を聞いているはずなのに何も言わない。

 姉妹に事件の事を伝えたのはオッサンだ。

 幼い時から姉妹を見てきたオッサンは『きっと姉妹なら、こういった時には正しい行動をするだろう』と二人の事を信じているようだ。


 「時間がないわ。

 これからの予定を話すわね」とナオミ。

 「私の父親の会社の人達を救出するには瘴気を消さなきゃいけないんだけど・・・」

 「瘴気を減らすのは任せて。

 私のテイムビースト達が瘴気を喰らうから」とケイ。

 あ、そうだった。

 獣達はモンスターを食って、その瘴気を吸収するんだった。

 「獣達にとって、瘴気は毒にならないの?」と俺。

 「獣達はあまり瘴気の影響を受けないわね。

 でも瘴気はテイムビーストにとって力を与えるものよ。

 瘴気は人間にとっては中毒症状を引き起こしたり、ショック症状を引き起こして人体に悪さをする事はあるけど。

 ショック症状は最悪死に至るわ」とケイ。

 なるほど。

 モンスターを食ってテイムビースト達はバカみたいに大きくなったりしたもんな。

 アレが瘴気の影響か。

 今回、昏倒した人々は瘴気を浴びてショック症状を受けているのか。

 「それじゃあ溢れ出す瘴気の処理はケイに任せるわ。

 瘴気を浴びた人々の浄化は綾美、お願い出来るかしら?」とナオミ。

 「ちょっと待って!

 貴女達は何を荒唐無稽な事を言っているの!?  こんな時にふざけているの!?」ナオミの話を聞いていた綾美がついに疑問をぶつける。

 「ふざけているんじゃないわ。

 綾美にも少しはあの瘴気が見えているでしょう?

 子供の頃から、綾美も私ほどじゃないにしても人々には見えていないモノが見えていたじゃない」

 「確かにテレビにモヤモヤしたモノが映って見えているわ・・・」

 「それが瘴気よ。

 私達はそれを取り除いて、お父様の会社の人々を救うのよ。

 出来るわよね?」とナオミ。

 「やらなきゃしょうがないのよね?

 ・・・やってみるわ」と綾美が覚悟を決めて言う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ