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リクルーター  作者: 海星
73/94

七十三話

 街の冒険者ギルドのギルドマスターの部屋にワープする。

 「おい、お前ら!

 スラムの中で暴れたのか!?」とワープするなりギルドマスターに詰問された。

 「暴れてない。

 いきなり監禁されそうになったから、ワープで自分の家に帰っただけだ。

 こちらの都合も聞かないで、いきなり監禁しようとする連中に『それじゃあお暇します』って断わってから帰る義理はないだろう?」と俺。

 「そりゃそうかも知れないが・・・。

 スラムの連中の言い分じゃ、お前らが逃げるときにスラムの連中を連れ去ったって話だぞ?」

 「監禁されそうになった時に、閉じ込められた牢獄に監禁されてた人らをついでに家に連れて行ったんだよ。

 誘拐された娘なんかも沢山いたし、俺らは"助けた"って認識なんだけどな。

 ギルドマスターはスラムの連中と俺らの話のどちらを信じるんだよ?」

 「そりゃ、お前らを信じるけど。

 お前らが敵に回した連中はあまりにも大きいぞ!」

 「大袈裟な。

 所詮、ゴロツキでしょ?」

 「ゴロツキと言っても数が半端じゃない!

 問題はそれだけじゃない。

 ゴロツキのバックだ!」

 「と言うと?」

 「連中、売春や賭博なんかでスラムに訪れた権力者達の弱みを握ってるんだよ。

 更に賄賂を渡して、国の中枢までに取り入ってるらしい。

 おかしいと思わなかったか?

 監禁されてた人が他にもいたんだろう?

 何故、お上が悪事を見逃しているのか?って」

 「そう言えば・・・。

 アクアも小屋に少女達を保護してただけなのに、スラムの"人買い"の言い分にはお咎めなしだったのも不自然だし・・・」

 「簡単な話だ。

 お上は連中を取り締まらないんだ。

 冒険者ギルドも積極的には関わらない。

 連中の依頼も本気で解決するつもりはなかった。

 お前らが解決してしまうのは予想外だったが。

 ・・・簡単に言えば、お前らは敵に回したら面倒臭い連中を敵に回したんだ!」

 「ふーん。

 そんな話よりベガ連れて行くよ?

 ここにいるんでしょ?」

 「ダメだ!

 そんな危険なところにベガを連れて行くな!」

 「何でギルドマスターがベガの行動を制限するんだよ?

 ベガは元々『お尋ね者』で、俺らとも行動を共にしてた"厄介者"じゃん。

 ここにいたら冒険者ギルドの立場がマズくなる。

 追い出すならともかく、ここに匿う意味がわからん。

 まあ、これだけバレバレなのにお互いとぼけるのは止めよう。

 ギルドマスター、アンタ、ベガと出来てるんだろ?

 隠すような事か?

 もしかして不倫か?」

 「別れた元女房とはベガと会う前に円満に別離済みだ!

 その事はベガにもちゃんと話してある!」

 何だ、思ってたより関係進んでるじゃねーか。

 既に『事実婚』って感じだな。

 「もう居場所がない訳じゃないし、街に居なくたって良いだろ?

 道具や材料が必要なら、俺が街へ連れて行くよ。

 むしろ手配書が回ってない、他の街へ連れて行っても良い。

 その方が安心だろう?」と言っても「そうねえ・・・ちょっと考えさせて?」とベガは煮え切らない態度を繰り返してきた。

 俺は全くベガの変化に気づけなかった。

 しかし俺の周りの女の子達にはベガの変化はバレバレだったらしい。

 「いきなり街に行く時にお洒落したり、化粧し出したりする理由は街に気になる人がいるからだろう?」と。

 「いや、街ではほとんど外に出てはいない。

 出るのもやむを得ず買い出しに出る時だけだ。

 今回はその買い出しの予定もない。

 街で会うのは滞在先のオッサン、ギルドマスターだけだ」と俺が言ったら「ベガの相手はギルドマスターだ!」と確定していた。

 コイバナ好きの女の子達だけじゃなく、ケイやナオミなんかも「ベガさんはまたギルドマスターのところに行ったの?乙女だなあ」と普通に確定情報として"乳繰り合ってる"と認識されていた。

 そう思われていると知らないのはベガとギルドマスターだけ。

 鈍い俺でさえ、二人が出来ているのは既にわかっていた。


 「どうしたの、ロイ?」

 ベガがノックもしないでギルドマスターの部屋に入って来た。

 「ロイって誰?」と俺。

 ちょっと高いファミレスか?

 ロイホか?

 「俺の事です・・・」と真っ赤になりながらギルドマスターが白状する。

 名前で呼び合ってるのか?

 初々しいな!


 俺は日本行きの説明をベガとギルドマスターにする。

 ベガはあんまり乗り気じゃなさそうだ。

 でも、日本に行ってる間に、異世界の時間は進まない。

 つまり、ギルドマスターにとってベガがいないのは一瞬だけなのだ。

 俺の家にベガがイヤイヤ帰って来る時と比べたらギルドマスター的に別離の期間はあまりにも短い。

 要は『ベガがギルドマスターと離れたくない』のだ。

 「ふざけんな!

 ガキじゃねーんだ!

 それともテメーらがガキが出来ちゃうような事を繰り返してるのか?」と俺が突然キレる。

 「そ、そんな事はない!

 俺達は清い交際をだなあ・・・」とギルドマスターが慌てて言う。

 ダウトだ。

 ベガとギルドマスターは"清い交際"の距離感じゃない。

 そもそも"清い交際"の二人が名前で呼び合う訳がない。

 「何でそう思うか」って?

 勘だよ、俺だってこの身体に入る前も入った後も"子供が出来るような事"なんてした事もない。

 俺がまだ身体を自由に動かせなくって、ベガに清拭(せいしき)してもらっていた頃ベガが言っていた。

 「人に裸を見られるのは恥ずかしいよね?

 でも大丈夫。

 私は女だから。

 それに私には恋愛感情なんてないから」と。

 それがどうだ?

 "恋愛感情がない"どころじゃない。

 恋愛感情の塊だ!

 恋する乙女だ!

 ベガには世話になった。

 幸せになって欲しい。

 しかし俺はギルドマスターと言う男をイマイチ信用していない。

 隙あらば、俺らを騙そうとする男だ。

 情熱で突っ走るんじゃダメだ。

 一端離れてクールダウンしてみよう。

 もしかしたら「あの男のどこが良かったんだろう?」なんて思うかも知れない。

 逆に『会えない時間が愛を育てる』なんて事もあるかも知れない。

 「決めた!

 やはりベガは連れて行く!」と俺。

 「何で勝手に決めてるのよ!

 私の判断はどうでも良いの?」

 「ベガの為なんやでぇ?」

 「何で訛ってるのよ!?」

 関西弁は"訛り"として翻訳されるらしい。

 関西人が知ったら発狂しそうだ。


 俺はベガと手を繋ぎ、ベガの了解を得ないで俺の家である小屋へワープした。

 「何で無理矢理連れて来たのよ!?

 こんなの拉致と一緒じゃないの!?

 誘拐よ!」とベガが喚く。


 思えば嫉妬だったのかも知れない。

 ベガは「ずっと独りだった私にとってアンナはたった一人の家族だ」と言っていた。

 口には出さないがベガの一番は俺で、俺の一番はベガだった。

 しかし今、明らかにベガの一番は俺じゃない。

 一番はギルドマスターだ。

 それは健全な事かも知れない。

 いつまでも家族にベッタリではなく人は新しい家族を作るモノかも知れない。

 ・・・しかし俺はそんなにものわかりが良くはない。

 俺はベガの同意は一切得ず、ナオミと、有末と、ケイと、カナと、ベガを連れて日本のナオミの部屋にワープした。


 「まあ、私が異世界にいる間に好き勝手にこの部屋使うのは良いわよ?

 私も異世界の杏奈の小屋に住まわせてもらってるし。

 でも、勝手に私の部屋を模様替えしすぎよ!」とナオミがちょっとクレームを入れる。

 「そうかな?

 模様替えしたつもりはないんだけど」と俺。

 そういや、元の部屋はほとんど生活感がなかった。

 お洒落な部屋を目指してたのかな?

 でも所詮は貧乏アパートだ。

 俺は百均グッズを大量導入した。

 大体、このアパートにお洒落空間は似合わないんだよ。

 一気に分相応な空間になったと思う。

 悪びれない俺を見て、ナオミは「まあ良いわ」とため息をついた。


 まだ昼間だ。

 そうか、日本を出たのはこんな時間だった。

 「じゃあ、病院に向かおうか?

 ・・・と、その前に異世界の服を着替えよう」

 異世界の服は"アルプスの少女"といった感じだ。

 異世界にいる時にはさほど気にはならないが、日本に帰ってくるとコスプレ感が強い。

 ナオミには私服がある、当たり前だ、ナオミの部屋なんだから。

 俺と有末には制服がある。

 ケイとベガもこの部屋を拠点として生活してた事があるから、ユニクロで買った私服がある。

 問題はカナだ。

 カナは小柄な俺とも、細身過ぎるナオミやベガとも体格が合わなくて着る服がない。

 「この娘は私の服が着れそうね」と有末。

 俺と有末は学院寮の有末の部屋にカナが着られそうな服を取りにワープする。

 有末の服、というかジャージはカナには良く似合っていた。

 「こんな格好しかなくてごめんなさいね。

 今まで、お洒落にあんまり気を使った事がないのよ」と有末。

 イヤイヤ、カナにはアルプスの少女みたいな格好よりジャージの方がスポーティーで断然似合っている。


 「じゃあ、病院に向かおうか?」と俺。

 「病院ってどこにワープするの?」とナオミ。

 「有末さんのご両親の病室で良くない?

 大部屋で、ワープ先で見られちゃう可能性ありそう?」

 「そうだね、六人部屋だから。

 出来れば病室じゃない方が良いかな?」と有末。

 「じゃあ、トイレにワープするね」と俺。

 「え?トイレ?」カナが眉を潜める。

 カナは日本の病院のトイレがどれだけ広くて清潔か知らないんだろう。

 "トイレにワープする"と俺が行った途端にカナは明らかな嫌悪感を示した。

 説明するより行った方が早いか。

 病院で人があんまり来ないトイレは一ヶ所しか知らない。

 女になったばっかりの俺は女性用トイレを使用するのに抵抗があって、あまり人が利用していなかった少し病室から離れていたトイレを使用していた。

 そのトイレに今からワープしよう、というのだ。


 俺達は病院の外れにある女性用トイレにワープした。

 「こ、ここがトイレ!?」とカナ。

 不衛生な汲み取り式のトイレを想像していたんだろう。

 悪臭が全くしないどころか、仄かに芳香剤の匂いがする空間に驚いている。


 「とりあえず有末さんのご両親の病室に行こうか?」と俺。

 「じゃあ、案内・・・したいけど、一体このトイレ、病院のどこにあるの!?」と有末。

 しょうがない。

 一端、病院の入口に戻ろう。

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