七十二話
「じゃあ、行こうか?」と俺。
「どこに?」と有末。
「日本にだよ」
「え?
グラムとか言う昔、国があった場所に行くんじゃないの!?」
「順番に片付けて行かなきゃダメなんだよ。
『あれもやらなきゃいけない、これもやらなきゃいけない・・・どうしよう?』ってオロオロして結局何も出来てないってのが最悪なんだよ。
順番に片付けて行って、それでも間に合わなかったらそれはそれでしょうがないんだよ。
反省はするべきかも知れないけど"次回への反省"程度に留めておくべきで、優先順位で行動するのを止めるべきじゃないんだ」
ケイは『それを杏奈が言うか!』と言う顔でこちらを見ている。
・・・見ているが、決して口を開かない。
確かに杏奈の"異世界跳躍"はズルだ。
異世界の問題を日本で解決する限り、異世界の時間は一秒も進まない。
日本の問題を異世界で解決する場合も日本の時間は一秒も進まない。
ズルではあるが、同時に地獄でもある。
苦痛な時間でも人は目を閉じてやり過ごせる。
しかし、杏奈は少しでも可能性があるなら別の世界で一週間でも一ヶ月でも永遠にでも、もがき続けなきゃいけない。
人が瞬きをしてやり過ごしている時間に、杏奈は永遠かも知れない時間を別の世界で過ごして解決策を見つけているのだ。
「・・・杏奈はいつそんな考え方を身に付けたの?」と有末。
「よくぞ聞いてくれた!
あれは中学二年生の時の二学期の中間試験の時だった。
数学も勉強しなきゃいけない。
英語も勉強しなきゃいけない。
国語も勉強しなきゃいけない・・・。
どうしよう?どうしよう?どうしよう?どうしよう?・・・・・・、悩んでるうちに試験の朝になってたんだ。
それで結局、数学も英語も国語も全滅した。
その時に学んだね!
"間に合うか、合わないかなんて悩む権利があるのは行動したヤツだけだ"って!
"間に合わなかったらどうしよう?"なんて悩んでる間にも時間は過ぎるんだって!
一個しか間に合わなかったとしても、三個間に合わないよりは遥かにマシなんだって!」
「ほ、本当にそこから学んだの?」と有末が呆気に取られて言う。
「おう!尊敬しても良いんだぞ!」と杏奈は胸を張る。
浅い、器じゃない。
皿のように浅い話だ。
これっぽっちも含蓄がない。
しかし、杏奈の"全員救えないなら救える人だけを救おう。全員救おうとしてこちらも全滅したら何の意味もない"という一見ドライな考え方の理由の一端が見えた気がした。
日本に連れて行くメンバーを選抜する。
俺、有末、ナオミ・・・ここまでは確定だ。
ケイも連れて行く。
異世界に獣が知る限り古龍しかいないからだ、もしかしたらテイムビーストが増やせるかも知れない。
ベガも無理矢理連れて行く。
だって病院に行くんだもん。
ベガの薬学は日本の病院で何か活かせるかも知れないし、逆に日本の病院で何かインスピレーションを得るかも知れない・・・と言うのは建前で、最近のベガは色ボケ気味に見える。
"目を醒ませ!"と言いたい。
有末は学院の寮に帰るところがあるとはいえ、既にあのクソ狭いワンルームのアパートに4人、かなりのタコ部屋だ。
あと一人連れて行くのが限度だろう。
実は全員連れて行きたい。
女の子らには色んな経験をした上で、自分の身の振り方を決めて欲しい。
「あの・・・私を連れて行ってもらえませんか?」振り返ってビックリ。
声の主はカナだった。
意外だった。
引っ込み思案のカナが自分から『連れて行って!』と言うとは。
「この世界に獣が少ないように、地球にはモンスターは少ないよ?」と俺。
いない、とは言わない。
霊だって、アンデッドモンスターの一種だと言えない事もない。
異世界に獣もいるように、地球にだってモンスターは探せばいるだろう。
「わかってます」とカナ。
「じゃあ何で地球に行きたいの?」
「・・・私が『モンスターテイマーになる』と決めたからです。
これから私は『モンスターテイマー』の修行のため、ここを離れなくちゃいけません。
だからケイさんとは離ればなれになります。
その上、ケイさんは杏奈さんについてチキュウ?に行ってしまいます。
だから、今回、私がケイさんと一緒にいられるのはこれが最後かも知れません!」
「あぁ、カナはケイさんに懐いてたから・・・」という呟きがどこからともなく聞こえてくる。
・・・まあ、ケイもどこかでビーストテイマーの修行した訳じゃないし、モンスターテイマーも我流で修行してない人も多い。
我流でカナはモンスターテイマーになっても良い。
でも誰にも師事しないで、我流で何かをやろうとしたら『壁にぶち当たる』ってのはあるあるなんだよな、で、我流で身に付けた事が師事した時に成長の邪魔になっちゃうの。
俺が「どうしようか?」と考えていると「私に任せてくれない?」とケイ。
いや、任せるのは良いけど、ケイはビーストテイマーじゃん。
ビーストテイマーとしても我流じゃん。
「そういう訳にはいかな・・・」俺が反対しかけた時に口を挟む少女がいた。
「連れて行ってあげたらどうですか?」と。
いや、そうは言うけど。
心情的に仲の良い二人を無理矢理引き離すのも気が引ける。
でも別に遊びに行く訳でもないし、修行しないで変な癖がついてモンスターテイマーになれなかったらどうすんの?
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私はナミ。
漢字で書くと奈美。
名字は浪越。
浪越奈美。
高校でのあだ名は"ナミナミ"だった。
そう、私は日本からの転移人。
異世界に転移したポイントは杏奈さんとは違う。
転移ポイントは一つではないらしい。
杏奈さんは「無作為に異世界に転移するといつも同じ異世界の森につく」と言っていた。
"杏奈さんに関わる転移"は森一択なのかも知れない。
とにかく私は杏奈さんとは違うところに転移した。
少し立場は違うみたいだけれど、杏奈さんと似た境遇にある。
私は異世界と日本を言ったり来たり出来ない。
私に『世界旅行』のスキルはない。
私にも転移に伴い、チートスキルを与えられた。
私の持っているスキルは『時間溯行』だ。
つまり私は時間を巻き戻せる。
それ以外に使えるスキルはない。
『時間溯行』は私が異世界に転移するより前には戻れない。
戦えない。
発言力もない。
だから「このままならとんでもない事が起こる」と私が言った事は無視される事が多かった。
だから最悪の結末を迎える寸前に時間を何度も巻き戻した。
しかし、未来は簡単には変えられない。
私が住んでいた村が族に襲撃されて、私はとある街のスラムにある牢獄に閉じ込められる。
何度、この未来を変えようとしたかわからない。
しかし、未来を変えようとすると未来はより最悪な方向に転がるのだ。
「何をしてもダメだ」と自暴自棄になった時に、ふいに未来が開けた。
牢獄に救出の少女達が現れたのだ。
その時にわかった。
"未来を良い方向に変えるのは理屈だけじゃない、タイミングが必要だ"と。
タイミングがズレると未来はとんでもない方向に転がって行く。
私は未来を知っているんで杏奈さんの『世界旅行』のスキルを知っている。
そして私はこの後、未来で起こる事を知っている。
いや、正確に言うと日本で何があったのかはわからない。
とにかく日本に行った連中は二度と異世界に戻って来ない。
恐らく日本で何かしらの事件、事故に巻き込まれるのだろう。
命を落としたのかも知れない。
何度『時間溯行』を試してみても結果は同じだった。
私に物事に干渉出来る"影響力"が足りないのだ。
タイミングで未来は大きく変わる。
それは間違いない。
でも、多少異世界でタイミングを変えたところで杏奈さんが異世界にいる間は日本の時間は止まっているらしい。
つまり日本にワープした後のタイミングはほとんど同じなのだ。
つまり日本に行った後は延々同じタイミングが繰り返されている、と言う事だ。
日本で何かしら事件、事故があった時に私の『時間溯行』は全く無力だ。
「私を連れて行ってくれ!」と懇願した事もある。
「私は転移者だ!」とカミングアウトした事も。
それは杏奈さんからしたら「へーそうなんだ、でもだから何?」と言う話なのだ。
杏奈さんもナオミさんも有末さんも転移の方法が違うだけで転移者だ。
杏奈さんは「今回は用事が立て込んでて連れて行けないけど今度日本に連れて行くよ。
約束する」と私に言った。
そういう事じゃない。
私は日本に行って未来を変えなきゃいけない。
日本に行こうと何度か『時間溯行』を繰り返した時にふと思う。
未来に日本で恐らく事件か、事故があったのだ。
そしてそこで杏奈さんは死んでしまったのかも知れない。
その事件で私が一緒に死んでしまったら?
死んだらもう二度と『時間溯行』は出来ないだろう。
私が死んだら全てが終わりだ。
もしかしたら私が杏奈さんと共に行動するのは悪手なんじゃないか?
だから日本に私がついて行かず、日本でのタイミングを変えようと決心した。
どうやったらタイミングが変わるのか?
『行動する人物が変わったら』タイミングは確実に変わる・・・はずだ。
どうやったら『行動する人物が変わる』?
日本に行くメンバーを変えるしかない。
私は「日本について行きたい!」とカナさんが駄々をこねた時に、それに乗っかった。
「連れて行ってあげたらどうですか?」と。
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たしかナミって娘だ。
本来なら『何でナミの言う事を聞かなきゃいけないの?』という感じだ。
ナミの意見を採用したのには意味がある。
・普段わがままを言わないケイが言う珍しいわがままだった。
・ナミのステータスを覗いた時に見た『時間溯行』が気になりすぎる。
・勘。
『勘』が一番大きい。
俺はこれを頼りに今まで凌いできた感じだ。
俺は自分の勘を信じている。
その『勘』が"カナを連れて行け"と囁いている。
「わかった。
今回の日本行きのメンバーは俺、ベガ、ナオミさん、ケイ、カナ・・・以上の五人だ」




