七十一話
生姜焼もたらふく食べた。
さて、本来の用事に戻ろう。
俺が異世界に来た理由は『ナオミさんを日本に連れて行こうとした』からだ。
「じゃあナオミさん、日本に戻ろうか?」と俺。
「え?
この食事が終わったタイミングで?
少し休ませてよ!」
「明日の朝まで待っても良いけど、朝、日本に行って用事済ませて異世界に帰ってきても、その足で、休息なしでネクロマンサーの修行に行く事になるけど良いの?」
「良くないわよ!
大体何で私が日本に戻らないといけないのよ!?」
「ナオミさんのお母さんが何度も『ナオミは元気?』って聞いてくるからだよ。
そろそろ、ナオミさんの元気な姿を見せないと"ナオミさんを山奥に埋めた"って思われそうだ。
それと有末さんのご両親が入院されてる病院に行く予定なんだよ。
その病院ってのが、どうも『ナオミさんが元々地縛霊に取り憑かれてたのに、さらに大量の悪霊に取り憑かれてた』あの俺とナオミさんが入院してたあの病院みたい。
ネクロマンサーとしてあの病院がどうなったのか、気になるでしょ?」
「取り憑かれるのは"霊媒体質"の人だけのはずだからよっぽど大丈夫だとは思うけどね。
現に杏奈だってあの病院に入院してたけど、取り憑かれてなかったでしょう?
でもまぁ、そうね。
私に取り憑いてた、みたいな悪霊が他の誰かに取り憑いてたら・・・と思うと、気分が悪いのよね。
もう一度病院へ行ってみようかしら?
・・・と言うか杏奈、よく平気よね?
貴女、常に飛び回ってるでしょう?
しかも全力で。
私が飛び回るのは貴女と同行している間だけだもの」
「俺が大変?
何で?
訳がわからん」
「自覚ないのね」
「?」
俺とナオミとのやり取りを見ながら有末は複雑な表情をしている。
やはり、多くの人を見捨てる事を納得出来ないらしい。
「それじゃあ行こうか?」と俺。
「え?
どこに?」と有末。
有末は生姜焼を食べた後寛いでいる。
何でも『体操選手だった時は体重制限が厳しくて腹一杯食べれなかった』との事だ。
いや、芸能人だってスタイル維持のため、腹一杯は食えないだろう。
まぁ、食える時に食っておく事は悪い事じゃないだろう。
それより寛ぎすぎだ、日本に戻りたくないんかい。
まあ『親は死んでも食休み』なんて言う人もいる。
少しゆっくりしようか?
今回も何人かは女の子を日本に連れて行こう。
そう言えば泉に連れて行ってレベリングした女の子達はステータスが上がって『適職』に目覚めた娘らがいるんじゃなかろうか?
女の子達のステータスを盗み見る。
これ、日本だったら『プライバシーの侵害』とか問題になりそうだ。
カナは『モンスターテイマー』になれそうだ。
なりたいみたいだし調度良い。
他の女の子らのステータスも見る。
カナと仲が良いのだろう、いつも一緒にいる『アン』と言う少女だ。
この娘はステータスが高目だったんだよね。
何で『適職』が目覚めないのか不思議だった。
元々これだけステータスが高かったら何でもやれそうなのに。
「やりたい仕事とかないの?」と聞くとアンは「どれも何か違うんです」と答えていた。
う~ん、日本にもたまにこういう人いるんだよね。
何でもやれるけど、何にもやりたがらない人が。
おー、適職が目覚めてる!
凄いな『錬金術師』か。
どこでどうやって適職を磨いたら良いんだろ?
地球じゃ見たことない職業だ。
ゲームの中じゃたまに見る職業ではあるな。
『◯◯のアトリエ』とか言って。
ガスト行けば良いのか?
ハンバーグ食べて帰って来る事になりそうだけど。
とにかく本人がやりたいと言わないと無理強いは出来ない。
俺はアンを呼び寄せて要件を告げる。
「アン、適職が目覚めてる、錬金術師って職業」と俺。
「れ、錬金術師・・・。
道理で今までどの職業もしっくり来なかったはずだ」
「嬉しくなさそうだね。
適職がない事を気にしてたんじゃなかったっけ?
そんなに『錬金術師』はイヤな職業なの?」
「イヤと言うか『錬金術師』は時代によっては禁じられた職業だったから。
今も偏見の目で見られる事もあるし・・・」
「何で?」
「『錬金術師』は『贋作家』として扱われる事もあるんだよ」
「『贋作家』?」
「錬金術ってモノ自体があまり理解されてないけど"石ころを金に出来る"って認識がある職業なんだよね。
そんな事されたら困る国家は多いよね?」
「金を量産されたら・・・、国家財政は破綻するな。
備蓄してる金の値段が大暴落するだろうから」
「でしょ?
だから『錬金術師がいたら国家が傾く』なんて言われてるんだよ。
実際のところ、よくわからないんだけどね。
ただの風評だし・・・本当の錬金術師を正しく利害関係人してる人なんていないし」
「じゃあ『錬金術師』になるの止めとく?
強要はしないよ?」
「・・・ううん。
やっと目覚めた『適職』だし、実際は風評とは違うかも知れないし。
でもどうやって『錬金術師』になれば良いんだろ?
『錬金術師』は表に出て来ないんだよ。
今の時代にいるかどうかも良くわからないし」
「さあ?」
俺とアンが首を傾げていると、アクアが会話に加わってきた。
『我は古龍として若いが錬金術師について昔、会った事があるぞ?』
「若い、ってアクアは何歳ぐらいなの?」
『1000歳ぐらいだろうか?』
「『アラウンドサウザンド』・・・、アラサウか」と俺。
『何を訳のわからない事を言っている?』
「いや、何でもない。
『錬金術師』について知ってる事を教えてくれ」
『知っての通り、古龍の腎臓結石は"賢者の石"の材料と言われているが・・・』
「無茶苦茶初耳だわ!」
『そうなのか?
人はその歴史の中で"賢者の石"の作り方を失伝してしまったのか・・・
それはともかく、錬金術師が"賢者の石"の材料を採りに泉を訪れた事があってな・・・』
「・・・で、腎臓結石は渡したのか?」
『先程の我の話を聞いて居なかったのか?
我は古龍の中では若いのだ。
子供と言って良い。
人は子供が腎臓結石になるのか?』
「いや、大体ビールっ腹のプリン体摂りすぎのオッサンがなるな」
『ビール?プリン体?』
アクアは何の事を言ってるのかわからないようだ。
『何の事を言ってるかわからんが、とにかく腎臓結石は渡さんかった。
いや、渡せんかった。
でもその時に錬金術師と少し会話をした』
「どんな話をしたの?
『本日はお日柄も良く』って感じ?」
『何故世間話した部分を話さなきゃならんのだ!?』
あ、したんだ、世間話。
古龍も錬金術師も律儀だな。
「そりゃそうか。
で、どこから来たって?
ザールブルグ?」
『ザールブルグ?
そんな国は聞いた事がないぞ?』
「だろうね、実在しない国だし」
『時々杏奈の言っている事が理解出来ない・・・。
我はそこそこ知識を積み上げていて、我々古龍の事を人は"賢者"と言い、我々の腎臓結石の事を人は"賢者の石"と言うのだが・・・。
杏奈は我などを遥かに凌ぐ賢者なのか?』
「やっと気づいたか。
アクア、思い上がるなよ?
お前なんて『井の中の蛙』なんだからな。
そんな事より話の続きを頼む」
『話を脱線させたのは杏奈だったと思うが・・・。
まぁ良い。
錬金術師がどこの国の者だったか、だな?
確か"グラム"とか言う名だったか?』
「"グラム"って!
数百年前に伝染病が流行した時に壊滅している国じゃない!?」とアン。
『そうなのか?
グラムになら案内出来ると思っていたんだが。
"賢者の石"は渡せなかったが、我は賢者としてグラムへ招待されたからな。
確か、杏奈のワープは一度行った事がある場所には行けるんだよな?』
「国が滅亡していても、そこに錬金術師になるためのヒントが残されているかも知れない。
"グライシンガー"だっけ?
行ってみる価値はありそうだな」
『"グラ"しかあってないが・・・』
「グラムへは行けないのよ。
伝染病が流行した時、難民の流入を恐れた国の施政者がグラムに通じる山あいの道を高く頑丈な壁で塞いだから。
それ以来、現在に至るまで壁の向こうがどうなってるか誰にもわからないのよ」
「じゃあ、何で滅亡したってわかってるの?」
「グラムが存在した時代には存在しなかった小型飛竜を乗り物にした『ドラゴンライダー』が壁の遥か上空からグラムの遺跡を見たからよ。
その遺跡を見てあらためて『やっぱりグラムは滅亡したんだな』と人々は認識したのよ。
でも遥か上空から見ただけで、遺跡には降りたってはいないのよ。
伝染病の病原菌が残ってたら怖いから」
「その伝染病ってどんな病気だったんだろう?」
「一切、魔法治療が効かなかったらしいわ。
魔法で患者の身体を治療しようとすると病原菌が元気になってしまう。
だから、治療しようとすると更に患者は病原菌に侵されたらしいわ」
「なるほど。
魔法での治療は不可能だったなら、薬による治療はどうだろう?
ベガを連れて行ってみる価値はありそうだな」
「危険だよ!
止めておいたほうが!」とアン。
「俺の世界の医療より魔法医療が優れた面も沢山ある。
でも俺の世界の医療が優れた面も沢山ある。
同様に薬学だったら伝染病を簡単に解決出来るかも知れない。
やってみる価値はあるんじゃないかな?」




