六十七話
『我は保護していただけだ。
今までに何人も保護した老人や男達を街へ返している。
"行方不明"というのはおかしい!
何故話が通っていないのか!?
しかも継続して保護していたのは天涯孤独、人買いに拐われて、輸送中に賊やモンスターに襲われて泉に逃げ込んだ少女達だ!
我が引き止めていた訳じゃなく「帰りたくない」「帰っても行く場所がない」と訴えた少女達だ!』アクアがギルドマスターに訴える。
「そうは言うが、確かにお前らが持ってきたリストの少女達は捜索願いが出ているぞ?」とギルドマスター。
「なぁ、捜索願いを出したのが"人買い"って可能性はないか?」と俺。
「どういう意味だ?」とギルドマスター。
「おかしいと思わないか?
泉で助けられた人々が何人も街へ帰って来てるんだ。
その話が何でギルドに通ってない?」
「そう言われて見れば・・・」
「その話を途中で止めてる輩がいる、依頼で都合の悪い部分を伏せている輩がいる、と考えるのが自然だ。
そして、少女達への捜索願いを出し続けた。
理由は少女達は人買いの飯のタネだからな。
・・・捜索願いの内容を聞かせてもらえるか?」
「あぁ、捜索願いの文章はこれだ。
『行方不明者を捜索されたし。
泉には凶悪なモンスターがいる。
泉は非戦闘区域だがモンスターは関係なく襲いかかってくる』」とギルドマスター。
「ちょっと待て!
お前、そんな危険な依頼だなんて一言も言わなかったじゃねーか!
『単なる探索任務だ』とか言って!」と俺が怒りながら言う。
『襲いかかってくるのはお前らであろう?
非戦闘区域なのに我を化け物扱いして攻撃をしかけてきた!』怒っているのは俺だけじゃない。
アクアも憤慨している。
「このお嬢さんは?」とギルドマスター。
「泉のモンスター」と俺。
『誰がモンスターだ!』
「ごめん、ごめん。
『モンスター』じゃなかったね。
『ビースト』だったね」と俺。
「びーすと?」とギルドマスターが首を傾げる。
そうか、この世界には獣はほとんどいないんだった。
「この娘はアクア。
依頼者が言う『行方不明者』を保護していた古龍だよ。
最初は俺らにも敵対的だった。
たまに泉に来る者に有無を言わさず攻撃を受けてたらしい。
話してみると悪い龍じゃない」
「この娘が古龍だって!?」ギルドマスターは胡散臭そうにアクアをなめるように見る。
『人化してるからな。
ここで水龍に戻っても良いが、街の中で古龍が現れたら大騒ぎになるんじゃないのか?』
「そ、それは困るな」とギルドマスターが焦る。
「この依頼を出して来たヤツらはおそらく人攫いだぞ?
街の警察に付き出した方が良いんじゃないか?」と俺。
「ケイサツ?」とギルドマスター。
"警察"が翻訳されてない?
異世界に"警察"にあたる言葉がないのか?
「街の平和を乱す輩がいないかパトロールするヤツらはいないのか?」
「冒険者ギルドから冒険者が派遣されるな。
報酬は国から出るが」
「罪を犯したヤツを裁く機関はあるのか?」
「『代官所』がある。
でもそれらの権限は『分けなきゃいけない』と言われているんだ。
『権力を集中させちゃいけない』と」
三権分立みたいなモノだな、権力の集中は独裁者を産む、とかなんとか。
「でも、王制なら権力の集中は望ましいんじゃないか?」と俺。
「王以外に権力が集中する状況は望ましくないだろ。
王に全ての権限が集中して、王だけ忙しくなる状況も」
なるほど。
封建社会にも色々と決まりはあるんだな。
もっと王様がどんぶり勘定でやってるもんだと思ってた。
「で、アンタは俺らに何て言うんだ?
『行方不明の少女達を依頼者に渡せ』と?」と俺。
「そうだな・・・。
ギルドが依頼者を裏切る訳にはいかないな。
しかし俺は何にも聞いてない。
『行方不明者が戻って来た』なんて話はまだ知らない・・・って事でどうだ?
本当ならこの話はお前らが解決出来ないで戻って来るはずだった。
それで『小さな街の冒険者ギルドが請け負える仕事じゃない』と言うアピールを国の中枢にするつもりだった。
お前らが解決してしまうのは誤算だった」ギルドマスターは本音をぶちまけた。
つまり"冒険者ギルドは不干渉だよ、お前らで何とかしろ"と言う事か。
「それで充分だ。
依頼者がどこに住んでる何者か、教えてもらえるんだよな?」と俺。
「この話にギルドは関わらない。
依頼なら掲示板に貼ってある。
そこに依頼者の住所と氏名が書かれている。
それを勝手に見な」とギルドマスターはニヒルに笑いながら言う。
食えない男だ。
「良いのか?
俺達がギルドの依頼者を・・・場合によっては殺す事も有り得る訳だが?」
「構わんさ。
本来ならギルドを謀った依頼者には『血の制裁』を喰らわせなくちゃいけない。
でも、謀った証拠を揃えるのも面倒臭い。
お前らが連中の始末するのは都合が良いくらいだ」とギルドマスター。
やっぱり封建社会は所々(ところどころ)物騒だ。
『決闘裁判』の制度を聞いた時も"恐ろしい"と思ったが、地球でも中世ではそんなものだったかも知れない。
『行方不明』の依頼者の住所は掲示板から調べられた。
こんなに簡単に個人情報が調べられて大丈夫なんだろうか?
異世界のセキュリティは激甘っぽい。
依頼者は街のスラムに住んでいるらしい。
おかしいと思えよ。
スラムで行方不明なんて日常茶飯事だろ。
大体、何でスラムの人間が遠く離れた『西の泉』付近の行方不明に絡むんだよ?
・・・んなもんソイツらの稼業が人攫いで、拐った少女達を輸送中だった、って話確定じゃねーか!
街は『商業区』『工業区』『住宅区』に分かれている。
農業は街の周辺が農地になっていて、そこに農夫が農作業している。
『商業区』はほぼ市場だ。
店舗を出しているのは少し高級な店で、大体は屋台で商売をやっている。
『工業区』は大きな工場はない。
産業革命前のような『家内制手工業』といった感じで、鍛冶屋なども"師匠と弟子とその家族"で切り盛りしている。
街の中心には噴水がある。
噴水の周りには各ギルドの建物がある。
言ってみれば『ビジネス街』だ。
ビジネス街の周辺に飲食店や宿泊施設があるのは日本と同じだ。
その南側は役場、衛兵の詰所、代官所がある。
言うなれば南側は『官庁街』だ。
『街の治安維持は冒険者がしているなら衛兵は何をしているんだ?』
警察がいても自衛官がいるように、街の治安維持活動を冒険者がしていても、衛兵には衛兵の仕事がある。
例えば門番。
例えば外敵から街を護って闘う。
街の西側は職人街、『工業区』が広がる。
数は少ないが『武器屋』や『防具屋』は『商業区』の中ではなく『工業区』の中にある。
街の東側は市場などの『商業区』が広がる。
『商業区』の屋台の中には飲食関係も多く、『ビジネス街』の飲食店は建物の中にある。
北は『住宅区』になっており南寄り、中央寄りほど高級住宅だ。
南寄りの方が利便性が高い、というのもある。
街の治安維持を冒険者ギルドが請け負っている関係上、南寄りの方がセキュリティが高いのだ。
だから北に行くにしたがって治安が悪くなる。
従って街の最も北側にスラムがある。
スラムからは自由に出れない。
入るのは簡単だ。
スラムも周りには壕が掘られて壕は水をたたえている。
スラムに入るには壕に渡してある橋を渡らなくてはならない。
橋には見張りがいる。
見張りはいかつくて堅気には見えない。
「スラムに入ったら出れないのか?」
そんな事はない。
スラムには闘技場、カジノ、売春宿などがある。
スラムに遊びに来る外の人間も多い。
スラムに入る人は手の甲にスタンプを捺す。
「スタンプが消えたらどうするんだ?」
大丈夫、スタンプのインクを消す方法は一つしかない。
インクを消す方法は『時間の経過』しかない。
インクは四時間で消える。
時間内は何をしても消えないが、時間が経過したらインクは跡形もなく消えるのだ。
インクの原料は明らかになっていない。
作り方はスラムのボス、アルテしか知らない。
「で、少女達の行方不明捜索の依頼をしたのがスラムのボス、アルテか」
これは何か裏がありそうだ。




