六十六話
ケイは水龍をテイムした。
「何!?
この痛み!?」山神さんが全身を襲う痛みを脂汗を流してうずくまりながら焦った声をあげる。
「あぁ、山神さんは初体験だったね。
低レベルの時に大量の経験値を得るとレベルが大量に上がるんだよ。
その時に身体の内部の構造が一気に変わるみたいで、痛みを伴うんだよ?
成長期に急に背が伸びたりした時、急激な変化とともに膝とか痛くならなかった?
あれみたいなモノだよ。
でも山神さんは『レベル1』だからこの中で一番痛みが大きいはず。
あ、どうもテイムすると闘ったのと同じ経験値がパーティ全員に入るみたいだね。
つまり山神さんにはレベル1で古龍を倒したのと同じ経験値が今、入ってるんだよ」と俺。
『古龍を倒した人のパーティは我が知る限り、勇者パーティのみのはず。
しかも勇者が倒した古龍は『古龍の中でも最弱』『古龍の面汚し』と言われていたヤツだ』
「何その『ヤツは四天王の中でも最弱』みたいなノリは!」
「しかし良くこの痛みにレベル1で耐えられますね!
ある程度レベリングした私達でもかなりキツいのに・・・」とカナ。
「痛みには慣れてるから。
私は膝のケガと日常的に付き合ってきたから」
カナと山神さんが普通に会話しているのを誰もおかしいと思っていない。
異世界人のカナと日本人の山神さんは言葉が通じなかったはずだ。
二人のステータスを見てみる。
急激なステータスアップで、二人とも『翻訳スキル』を得たらしい。
山神さんのステータスウインドウを見ていて驚いた。
地球でレベルアップはしない。
でも地球でステータスが一切上がらない訳じゃない。
年齢とともにステータスは変化する。
ステータスが年齢とともに"良い方向に"変化しやすい体質になるには努力は必要だ。
それとは別に地球ではステータスの『補正値』が上がるのだ。
『補正値』は地球で活動しないと目覚めない。
『補正値』は『(+◯◯)』と表示される。
能力値のゲタになるのだ。
例えば『力10(+5)』だったら、実質『力15』なのだ。
『力10』の『(+5)』は大きい。
でも『力1000』の『(+5)』はハナクソだ。
俺はだから補正値を軽く考えていた。
「多少地球で努力してもハナクソ程度の補正値が足されるだけだ」と。
しかし地球で活動していると補正値は『(+◯◯%)』という表示に変化した。
努力が無意味な訳じゃない。
努力でステータスが良い方向に変化しやすくなる。
その上補正値が『(+30%)』と言った感じで割合で上がるのだ。
しかも%は活動次第で上昇していく。
だから俺は「地球でも努力が無駄な訳じゃないんだ」と少しホッとしていた。
いや、『努力が無駄だ』なんて思いたくないじゃん?
・・・で山神さんの話に戻る。
山神さんの『補正値』だが、『(+95%)』・・・。
おいコラ。
山神さんは古龍の経験値が入って、アホみたいにレベルが上がって、アホみたいにステータスがはね上がった。
アホみたいに上がったステータスに補正がかかって、さらに約倍のステータスが上乗せされている。
痛みに強い山神さんが骨格変化の痛みに脂汗を流すはずだ。
というか痛みで発狂しなかった山神さんはスゴい。
ステータスによっては俺より遥かに山神さんは高くなった。
『我が主よ』と水龍。
「え?誰?」とケイ。
『お主だ。
自覚した方が良い。
主はこの世界ではじめて古龍をテイムした存在なのだ』
「そんな事言ってもこの世界でビーストテイマーが不遇なだけだし。
ビーストテイマーが他にもいれば古龍をテイム出来る存在は他にいくらでもいただろうし・・・」
『いや、おらん。
我がビーストテイマーだったら誰にでもテイムされていたと思うか?
我が主に"テイムされても良い"と考えたのはただの気まぐれじゃない。
一つは"主のステータスがそこそこ高かったから"だ。
もう一つは"主に下心がなかったから"だ。
主達はここに我をテイムしに訪れた訳じゃないのだろう?』
そうだった。
ここには行方不明者の探索を冒険者ギルドに依頼されて来たんだった。
「水龍さん・・・で良いのかな?」
『"アクア"で構わん。
我を"アクア"と呼んだのは我の母上だけだがな』
古龍にも母親がいたのか。
そりゃ木の又から産まれた訳じゃないだろうし。
「それじゃアクアさん。
俺達は行方不明者達を探索するためにここに来たんだ。
アクアさんは行方不明者に心当たりはない?」
『"さん"は不要だ、が、そんな事はどうでも良い。
・・・行方不明者だったな。
もしかしたら泉の近くで野盗などに襲われてここに逃げ込んで来た、我が保護している者達の事だろうか?』
「アクアが"保護"?」
『我を野蛮な暴れん坊かなんかだと思ってないか?
我はこの泉の支配者ぞ?
"この泉は中立地帯"という決まりを作ったのも我だ』
「アクアだけは決まりを守らない存在だと思ってた・・・」
『ある意味正しいな。
決まりを破って暴れる者を唯一罰する事が出来る存在が我だ』
個人が暴力を振るう事は禁止だが、刑罰の執行人が決まりに従って刑罰を振るう事がある、みたいなモノか。
『"中立"の決まりにも抜け道はある。
泉から獲物をつけていき、離れた所で獲物を襲う者は後をたたない。
泉に逃げ込んで来た者達も、泉の近くにいる間は"中立地帯"という絶対的な規則に護られているが、一歩、我の目の届かない所まで離れてしまえばモンスターの餌食になる。
だから我は泉に逃げ込んで来た者を一時的に保護して来たのだ。
泉に立ち寄る商隊などは少なくない。
ヤツらに保護している者達を託したりもした』
「ちょっと待ってよ。
じゃあ、アクアに保護された後に商隊に街まで送り届けられた人達って"水龍は実は人に危害は加えない"って知ってるの?」
『さすがに泉に来た者に水龍としての姿を見せない、という訳にはいかない。
水龍としての姿は見ての通り図体が大きいからな。
イヤでも泉の近くまで来ればスガキヤは見えてしまう。
しかし"自分達を保護した存在"と"水龍"が同一だと思っている保護された者はおるまい』
意味がわからない。
アクアは何を言っているんだろう?
首をかしげる俺を見てアクアが言う。
『説明不足だったな。
我は人に変化出来る。
保護した者達と共に暮らしている時は、人の姿だ』
アクアは説明しながら、巨大な水龍の姿から紫色の髪の毛の少女の姿になった。
「紫色の髪の毛って"大阪のババア"か!」
『?何を言っている?』少女に俺のツッコミは通じなかった。
「で、その"保護した者"ってのはどこにいるの?」
『泉の畔に小屋が建ってるんだが、そこで我と共に生活している』
「そんな事言っても、龍と人じゃ生活様式とか色々違うでしょ?
食べ物とか全然違うだろうし」
『我は二年ぐらい何も食べなくても何ら問題はない』
「ダイオウグソクムシか!」
『お前の言う事は時々、訳がわからんな』
「まぁいいや。
その"畔の小屋"とやらに案内してよ」
『うむ』
「コラ。
このロリコンレズが!」
『何を根拠に・・・』
「うるせー!
この光景を見て申し開きが出来るか!」
小屋の中には少女達がいる。
『我が人に対して劣情を催す事などない・・・はず。
性的なトラブルが起きないように、年齢の高い男性を優先して泉を訪れた商隊などに引き渡してたのだ。
全員引き渡せるのであればそれに越した事はないが、商隊の荷車に乗れる者も限られているからな』
「だったらババアがいたっておかしくないじゃねーか!
少女しかいない理由はなんだよ?」
『小屋に残すのは身寄りのない、我に懐いていた者ばかりだ。
商隊の荷車に乗れる、というのは家に帰れる、という事だ。
出来るだけ"帰れないショックが少ない者"を小屋に残すのは致し方あるまい?』
「一応、理屈は通ってるか。
でもこの娘ら全員、街まで送り届けるぞ?」
『送ると言っても、ここにいるのは帰る場所がない娘ばかりだ。
街に孤児院でもツテがあるのか?』
「ツテはないが・・・。
あ、そうだ!
俺の家で職業訓練してもらうのはどうだ?」
『"職業訓練"?
そんな事が出来るのか?』
「ここにいる女の子達も身寄りがなくて、職業訓練中だ。
よし、そうしよう!」
『わかった。
しかしこの娘らを全員乗せられる荷車があるのか?
お前らだけでもそこそこの大所帯だ。
我の背に乗ろうにも、我は陸上での移動で速度は出ないし、陸上で他のモンスターと争いになった所で我が負ける事などは考えられないが、この娘らを護りながら闘う事はおそらく無理だぞ?』
「それは大丈夫。
アクアほど強くないけど、ケイにはここらのモンスターなんて相手にならないテイムビーストが何匹かいるし、他の女の子らも結構強いから。
この娘らを護るぐらいわけないよ。
・・・というか、別に荷車で移動する訳じゃないしね」
『?』
当たり前だが、アクアはワープというモノを知らない。
全員で手を繋いで輪になって、ワープした時おどろいてすらいなかった。
何が起こったかわかっていなかったのだ。




