六十三話
「さあ、二度と芸能活動しねーぞ!」写真撮影を終えた俺は伸びをしながら大声で宣言した。
撮影班の面々がビックリしながらこちらを向いているが、知った事じゃない。
元々芸能科に入れれば、後はどうでも良いのだ。
理事長との約束は果たした。
後は明日から、芸能科の生徒として登校すれば良い。
「じゃあ、帰ろうか?」と山神さん。
「その前に行きたい所があるんだよ」
「どこ?」
「山神さんのお父さんとお母さんが入院してる病院」
「何で?
二人とも面会謝絶よ?
私も数えるほどしか病室に入れてない」
「入った事はあるんだよね?」
「そりゃ肉親だし。
何回かは集中治療室に入ってるわよ」
「行った事があれば大丈夫。
じゃあ、病院に行く前に飯でも食いに行こうか?
撮影が長引いてすっかり遅くなっちまったな」
「この時間から病院に行くの?
一般病棟の面会時間ももう終わってるわよ?
ましてや、集中治療室に今から行くなんて・・・」
「病院の人が少なくならないと忍び込めないからね」
「『忍び込む』!?
無理よ!?
集中治療室には厳重に施錠がしてあるわ!」
「大丈夫。
行った事あるんでしょ?
一度行った事ある場所なら簡単に忍び込めるから。
それはそうと、病院行くなら連れて行きたい人がいるんだよね」
「連れて行きたい人?」
「そうだな・・・一言で言うなら『死人フェチ』かな?」
「『死人フェチ』!?
そんな危ない人を病院へ連れて行くの!?」
「『危ない人』って言うのは理事長の前では言わない方が良いと思うよ?
彼女、理事長の娘だから」
「そうなの?」
「理事長に『今、娘は何してるの?』って何度も聞かれてるんだよ。
『今はちょっと出掛けてる』とは言ってあるけど、早かれ遅かれ理事長には娘を面会させない訳にはいかないとは思ってたんだよ」
「大体話が読めてきたわ。
その理事長の娘は『異世界』とやらにいるのね?」
「そういう事。
だからちょっとここで待ってて。
・・・って言っても俺が異世界に行ってる間に地球の時間は進んでないから、次の瞬間には俺がナオミさんを連れて戻って来てる感覚なんだろうけど」
「その『死人フェチ』の人、ナオミさんって言うのね。
どんな狂人かは知らないけど、一度会うべきだと思うし」
「狂人・・・ね。
確かに変わり者かも知れないね。
聖華の卒業生なんだけど、エスカレーター式に大学に行かずに『一人立ちがしたい』って家出して社会人になったんだし。
とにかく理事長にナオミさんを会わせて、安心させないと。
じゃないと理事長に会う度に『尚美はどうした?』って聞かれるし」
「わかったわ。
でも私も連れて行って!」
「別に良いけど。
でも今回は理事長の娘を連れて来るだけで、異世界で何かする訳じゃないよ?
行ってもつまんないと思うよ?」
「単純な興味だから。
私、今でも異世界って半信半疑なのよね」
「今さら?
モンスター退治で『地球だったら有り得ない生物』を沢山見たじゃんか」
「疑ってる訳じゃないのよ?
イマイチピンと来てないだけで
・・・ねぇ、連れて行ってよ」
「別に良いけど。
でも異世界であんまり好き勝手に動き回らないでよ?
モンスターが蔓延ってる世界だし『不法入国』みたいなモノなんだからね。
ギルドマスターが味方だから大丈夫だとは思うけど。
それに今回行くのは街じゃないし」
「わかったわ。
異世界じゃ杏奈の言う事に従う
でも『街じゃない』ってどこに行くつもりなの?」
「今建造中の『マイハウス』だよ」
「?
家って街の中に作ってるんじゃないの?」
「俺もその方があらゆる意味で便利なんじゃないかと思ったんだけどね。
同居人がお尋ね者で、街に住む訳にいかないんだよ。
・・・そのクセ、今は街の冒険者ギルドに身を寄せてるんだよ。
テメーのためにわざわざ森の中に家作ってるのに。
まぁ、薬師だからね。
ある程度の設備がないと仕事にならないのかな?
設備が出来るまで街に身を寄せてるだけだと思うけど」
「『薬師』って、私の膝の治療をしてくれた人?」
「うーん、確かに薬を調剤してくれたのはベガだね。
でも異世界にはどうも『治療』って概念がないみたい。
身体を癒すのは『薬』と『魔法』。
『リペア』って概念がないみたいなんだ。
異世界には『医者』が見当たらない。
いたとしてもごく少数だ。
俺もベガの薬に癒してもらったんだけど『癒したのは薬でしょ?私は何にもやってない』って何度も言うんだ。
そこら辺の感覚が地球人とは違うみたいだ」
「『文化の違い』は地球人同士でもあるみたいだし。
わかったような顔はしないけど。
でももっと異世界を知りたいわ!」
「わかった。
でも森は街とは違った"危なさ"があるから気をつけてね」
「わかった」
「じゃあ、俺の手を握ってね」
俺と山神さんは建造途中の小屋の前にワープする。
しかしスゲー建造スピードだな。
俺や山神さんはレベリングで短期間異世界に滞在した。
時間経過はそれだけの時間だ。
だって俺が異世界にいる間しか時間は経過しないんだから。
なのに小屋の外観は既に出来上がっている。
今は小屋の内装作業をホビット達がしているようだ。
作業の邪魔をしちゃいけない。
俺はケイや山賊から救助して、今この建造途中の小屋で保護している少女達を探す。
ほどなく少女達は見つかる。
俺は少女達に聞く。
「ナオミさんはいないの?」
「ナオミさんならネクロマンサーになる修行に行ってます。
夜には戻ると思いますが」
「あちゃー留守か、タイミング悪かったね。
じゃあまた夜に来るよ」俺は立ち去ろうとする。
しかし困った、日本に戻ると異世界の時間は進まない。
異世界の時間を進めるためには異世界で過ごすしかないのだ。
異世界で時間を進めるなら、ギルドマスターから押し付けられた依頼をこなさない訳にはいかない。
『急ぎの依頼』とは言われていない。
でも行方不明者がいる以上、悠長に構えて良い話ではないだろう。
時間を進めるついでにギルドマスターの依頼をこなそう。
俺は「それじゃあ」と手を振って森に消えて行こうとする。
「待って下さい!
どこへ行くんですか?」
「西の泉だよ。
ギルドマスターに調査を依頼されててね」
「どうやって行くつもりですか?」
「どうって歩いて行くしかないよね。
行った事ないし」
「なら私が案内しましょうか?
『西の泉』なら行った事ありますし」
行った事あるなら、彼女と一緒に行かない手はない。
だって誰かが行った場所ならワープで行けるんだから。
でも『西の泉』に彼女を連れて行って平気か?
聞くとケイは頼まれて、少女達のレベリングをしていたらしい。
少女達は自分達に『適職』がないと思い込んでいるみたいだ。
『だから自分達は置いてきぼりにされたんだ』と。
『適職』がまだ発現していない人はいるが、『適職がない人』なんてそうはいない。
そして『適職』についている人もごくわずかだ。
能力が伸びたり変わったりして『適職』が変化する事もある。
山神さんも『体操選手』から『ダンサー』になった。
つまりこの娘らが今、適職が見えていないからと言って、将来的に『適職』が現れない事などは決してないはずだ。
焦る事はないのだ。
少女達は自分を磨き、自分の『適職』に見つけて欲しい。
適職につけなくたって『向いていない職業』に努力してしがみついている人は少なくない。
・・・と言うか、そんな人の方が多い。
『適正✕』だった仕事がいつの間にか『適正△』になり、しまいには『適正◯』になる。
そんな人生を歩んで行くのが普通の人間だ。
人間の『適職』を覗き見れてしまう、そしてその適職を紹介出来てしまう俺の方が『ズル』なのだ。
でも仲間の何人かを目の前で連れて行ったら、置いてきぼりを食らった少女達は『見捨てられた』ような気持ちになるよな。
「ちゃんと説明しとけばよかったな。
普通の人間は自分の『適職』なんて知らないんだよ。
君らが今心に抱えてる『自分は何者なのか、何者になれるのか?』って漠然とした不安が本来誰もが持ってる不安なんだ」と俺は呟く。
正直、彼女達がどんな仕事に向いているのかなんて、現時点では俺でもわからない。
鍛練する前から『適職』がステータスに出ている人の方が珍しいのだ。
彼女達を不安にさせたのは俺の落ち度だ。
その罪をちょっと償おう。
「じゃあ、レベリングしようか?
冒険者ギルドのギルドマスターに依頼された件もあるし」俺が言うと少女達は瞳を輝かせて何度もうなずく。
しかしこの娘らを庇いながら、レベリングするのはかなりの手間だぞ?
そうだ、ケイに手伝ってもらおう!
普段、ケイは少女達のレベリングの手伝いしてるみたいだし、庇いながら闘うのも慣れてるはずだ。




