六十二話
「はい、ポーズを取って~」とカメラマン。
面倒臭せーな。
それにレフ板って言うの?
光を集めてるのか、何かわかんないけどやたら光あてられて眩しいんだよ。
こりゃ早く終わらせよう。
不愉快にも程がある。
俺は拳を握り『ファイティングポーズ』をする。
「おかしい。
女子高生が拳を握るのが絶対におかしい!」とカメラマンが喚く。
うるせーな『女子高生らしく』って言うなら俺をモデルに使うなよ。
「わかった、わかった。
言う通りにポーズ決めるよ」俺が今度は拳を握らずに『ストロングスタイル』のファイティングポーズを決める。
「グラップラーか!」
「ダメなのか?」
「そんな総合格闘家みたいな女子高生がいるのはおかしいでしょ!?」
「あれもダメ、これもダメ・・・。
本当に注文が多いなぁ」
「普通に振る舞ってよ!
普段通り振る舞ってくれれば良いから!」
「普段の生活でカメラを向けられたりしてねーぞ?
そんな状態で『普段通り』は無理があ?だろう?」
「カメラの前で『普段通り』を演じるのが芸能人なんだよ!」
「芸能人ってのはそんな悲しい『猿芝居』をしなきゃダメなのか」
「タレントが芸能界を否定するんじゃない!
とにかく普通にしてろ!」
「お前の『普通』と俺の『普通』が違うんだろ?
お前の価値観を俺に押し付けるな」
「押し付けなかったら撮影出来ないだろうが!」
「そんな事はないぞ?」
「わかった。
最低限、こちらの言う事を聞いてくれ」
「わかった」
「・・・じゃあ笑ってカメラのほうを向いて・・・」
「断る。
面白くもないのに『笑え』って言われても無理」
「それがモデルの仕事だ!」
「因果なモンだな」
「そうでもないぞ!
その部分に文句をつけるヤツなんて今まではいなかった!
芸能人は悲しくても笑う生き物だ!
『演じる事』が出来ない者は役者にもモデルにも
アイドルにもなれない!」
「別になりたくねーし」
「じゃあ君は何になりたいんだ?
コメディアンか?」
「いや、俺は芸能人になりたくない」
「『芸能科』に入りたいんじゃないのか!?」
「『芸能科』には入りたいぞ。
だから『芸能事務所』には所属したい。
でも芸能活動なんてまっぴらごめんだ。
芸能科の生徒が芸能人に皆、芸能人になりたいと思わないほうが良い」
「いや、普通はなりたいだろうが!
芸能科は授業料が高いんだろう?」
「そうなのか?
俺は理事長の娘の命の恩人として、授業料は免除されてるから気にした事はないな」と俺。
「授業料の事を考えると気が重いです。
今まではスポーツ特待生として授業料免除だったけど、将来借りた奨学金は返済しなきゃいけないし」と山神さん。
「大丈夫!
芸能活動をして返していこう!」と俺。
「君も芸能活動しろよ!」とカメラマン。
「・・・そんな事より写真撮影を続けようよ」とカメラマン。
「お前、下手か?
こちらをその気にさせなきゃ、服は脱がねーぞ?」
「ヌードグラビアじゃない!
学校のパンフレットでヌードが載ってる訳ないだろう!?」
「え、脱がなきゃダメなんですか?」と山神さん。
「いやいやいやいや、そんな事ないよ?」とカメラマン。
「最初はどのカメラマンも『脱がなくて良い』って言うんだよ。
でも最後には『じゃあ、下着脱いでみようか?』って言いだす・・・」
「それはどこで得た知識なんだよ!?」
「AV見た事があれば、そんなの常識だろーが。
最初はソフトにインタビューから入るんだよ。
それで段々ハードな内容になっていくんだよ」
「高校入ったばっかりの女の子が、AVに詳しいって言うのはどうなんだ?」
「友達の兄貴がAVのDVD隠し持ってて、友達みんなで見たんだよ。
ラベルのタイトルは『スターウォーズ』だった。
もっと人気の無いタイトルに偽装すりゃ良いのに。
スターウォーズ見ようとしたら星間戦争じゃなくて『男と女の真剣勝負』が始まったんだ」
「そんな生々しい話はしなくて良い!
とにかくヌードグラビアは撮らない!
水着グラビアも撮らない!」
「水虫グラビアは?」
「そんなものは存在しない!」
「じゃあ何を撮影するのさ?」
「君らの楽しそうなスクールライフを・・・」
「そんなの知る訳ないじゃん。
だって俺、入学したばっかりだよ?」
「本当に楽しいかどうかは二の次なんだよ!
学校生活が凄いつまらなかったとして、その学校のパンフレットに写ってるモデルがつまんなそうにしてる訳ないでしょ!?」
「つまり嘘をつく訳だな?
この詐欺師が!」
「そういうモノなの!
半分以上やめる専門学校だって、無茶苦茶クリエイティブで楽しそうなCM流してるでしょ?」
「知らん」
「話の腰を折るな!
そうなんだよ!
つまりモデルが楽しそうにスクールライフを送っている風の写真を見て、受験生や父兄は願書を出すんだよ!」
「だったらここで『悪しき習慣』を断ち切らないとな」
「『悪しき習慣』?」
「高校生活が楽しい事だらけな訳がない。
トイレの中で弁当を食べて、『仲の良い人同士で二人一組になって』という教師の言葉に怯えている。
そんな高校生のリアルをパンフレットの写真に込めよう」
「そんなリアルはごく一部の話だ!」
「学校をエンジョイしてる生徒もごく一部だと思うぞ?
どちらも『少数派』という意味では大差ない」
「パンフレットでネガティブなモデルを使う訳ないだろ!」
「そういうモノなのか?」
「そういうモノなんだよ!」
「世も末だな・・・」
「何でだよ!」
そんなこんながありつつ写真撮影は進んでいった。
「カメラマンが撮影を途中で投げださなかったのは何でだろう?
少なくとも俺は全くやる気はなかったんだが・・・」と俺は首をかしげながら呟く。
しかし山神さんはその理由がわかっているようだ。
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~山神有末視点~
「はい、笑って~」とカメラマン。
「先にテメーが笑え」と杏奈。
「どうしてこっちが笑わなきゃいけないの!?」
「そりゃこっちのセリフだ。
何でクソゲ面白くもないのに笑わなきゃいけないんだ?」
「モデルって言うのはそういうモノなの!」
「こちらの表情を引き出すのがテメーの役割だろうが。
自分の無能さをこっちのせいにするんじゃねえ」
「撮影っていうのは撮影班とモデルの共同さ作業なの!
モデルの力量も良い撮影には不可欠なモノなんだよ!?」
「何か勘違いをしてねーか?
こっちは今日が初めてのモデルのズブの素人なんだよ。
こっちに何を期待してるんだよ?
良い撮影をするのは単にテメー一人の力量次第なんだよ。
何でもかんでも周りの環境のせいにしやがって。
恥を知れ!」
「何で『自称ズブの素人』にそこまで言われなきゃいけないの!?」
最初のウチ、撮影班におかしな空気が漂っていたが、今、撮影班には笑顔が溢れている。
杏奈が意図して空気を作り出しているとは思えない。
だが、予感は確信に変わりつつある。
『このパンフレット撮影は大成功だ』
私はその空気に乗せられてパンフレット撮影に挑む。
「はい、最後の一枚を撮影します!
山神さんと岡田さん、二人でポーズを取って下さい」
「どんなポーズを取れば良いんだ?」と杏奈。
「それはお二人に任せます」とカメラマン。
「どんなポーズにしよう?」と私。
「こんなのはどうだろう?」と杏奈が私に耳打ちする。
「・・・本当にそれで良いのかしら?」
「『任せる』って言ってるんだからやってみようよ」
「わかったわ」
「じゃあ、撮影開始しまーす」
「南斗獄屠拳!」と杏奈。
「北斗飛燕拳!」と私。
二人が飛び蹴りをしながら、校舎をバックに交差する。
その写真はパンフレットには使われなかったが、『聖華女学院』のホームページのトップ画像として使われる。
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~後日~
コンコン
「入りなさい」
「失礼します。
ある写真がネット上を騒がせています」
「『騒がせて』?
どういう事?」
「ちょっとした話題になっているのです。
見てもらうのが早いでしょう」
執事のような男はフカフカの椅子に座っている中年女性にノートパソコンの画面を見せる。
「何これ?
『聖華女学院高等学校』、高校の紹介ページよね?
コレがどうかしたの?」
「ここをご覧下さい」
女子高生二人が校舎をバックに飛び蹴りをしながら交差している。
「わ、訳がわからないわ。
何でこの画像をトップ画像にしたのかしら?」
「確かに訳がわからない画像です。
ですが写真としてとても優れています。
左右対照で、モデルの身体能力も優れているし、そして二人のモデルが本当に美しい。
おそらく訳がわからない写真であることはわかっていつつも、この画像を使わざるを得なかったのでしょう。
・・・しかし今回はそれが言いたいのではありません」
執事は飛び蹴りしている女の子の画像を拡大する。
「こ、これは!」
「そうです。
行方不明のお嬢様とこのモデルが瓜二つ、いや、生き写しなのです」




