六話
「俺の名前は中佐古甚五郎」
「そ、それはちょっと呼べないわね」
「まず『中佐古』って苗字が珍しい。
この苗字を名乗るなら特定がされやすいし『アイツは死んだはずだ!偽名だ!』って騒がれるだろう。
役所で戸籍を調べてきた。
この世界で俺は死んだ事にされてる。
『実は生きていた』なんて名乗り出てもリスクしかない。
その上に俺が『甚五郎』なんて名前を名乗ったらどうなる?」
「悪目立ちするわね・・・」
「だから『記憶喪失』って設定が役に立つんだよ。
『聞いたってどうせわからない。
記憶がないんだから』って思わせておけば、堂々としてれば良い」
「でもベガさんは世間には何て説明すれば良いの?」
「同じ病室だったアルゼンチン人にベガの万能薬を分ける条件で精巧な偽物のパスポートと必要書類を作ってもらったよ。
ベガは『アルゼンチン人だ』って事になってる。
スペイン語で話し掛けられたら、すぐ嘘がバレちゃうけどね」
「なるほど。
・・・少し脱線したけど、貴女の名前を決めなきゃね」
「名前、無きゃ駄目かな?」
「家では『甚五郎』って呼べば良いよ」
「外では?
それに徹底しとかないと必ずボロが出るわよ」
「俺はこの世界で死んだ事になってるんだよ。
別に『何物かわからない』って言うのは嘘じゃない。
本当にこの肉体の元の持ち主が誰かなんて俺でもわかんないんだから。
警察に調べられても別に何も困らない」
「貴女は困らないかも知れないけど、ベガさんの事を深く調べられたら困るでしょ?
目立たない方が良いに決まってるじゃない」
「そういうモノかな?」
「そういうモノよ。
・・・という訳で貴女の名前をきめましょう!」
「呼び名か。
別に何でも良いよ」
「そんな投げやりな。
何かあるでしょう?
その名前を名乗りましょう!」
「じゃあ『ビアンカ』で」
「何から取ったのよ!
日本人の名前としたらキラキラネームの極致じゃない!」
「でも他に思い入れがある女性の名前ないからなぁ。
『甚五子』とかで良くない?」
「だから何でそんな悪目立ちする名前を名乗りたがるのよ!
・・・じゃあ『ビアンカ』をもじって貴女は"杏奈"でどうかな?」
「『杏奈』か。
悪くなくんじゃない?」
「リアクション薄いわね」
「名前が特別じゃなくても良いんじゃない?
ストーリーが名前を特別にするんだし」
「深いわね。
誰かの言葉?」
「いや、俺の実体験だ。
あそこでドラクエで『フローラ』を選んでいたら『ビアンカ』という名前には思い入れはなかった」
「実体験ってゲームじゃない!
・・・まぁ良いわ。
貴女は『岡本杏奈』で決まりね!」
「『岡本』?
ナオミさんの苗字を名乗って良いの?」
「苗字がないと不便でしょ?」
「わかった。
ありがとう」
「どういたしまして!」
「ナオミの再就職を手助けするの?」とベガ。
「手助け・・・するほど自分に余裕がある訳じゃないよ。
俺も無職の穀潰しだし。
でも遅かれ自分の身の振り方を考えておかないと」
「ナオミはしばらく私達と行動を共にする事を望んでいるわよ。
寝たきりだったナオミにはしばらく私の薬が必要だしね。
しかもナオミは『霊媒体質』。
放っておくとどんどん生気を吸われちゃうからね。
薬で生気を補わないと」
「そうか。
・・・そんな事より聞きたい事があったんだよ。
この部屋、地縛霊がいるんでしょ?
俺らはここにいて大丈夫なの?」
「全然平気よ。
ホラ、私はナオミに話し掛けないでしょ?
何でかわかる?」
「何で・・・って。
言葉が通じないからでしょ?」
「その通り。
霊体も自分を認識してくれる人間にしかほとんど近付かないわよ。
特に『霊媒体質』の人間が近くにいたら、私達は安心して良いわ。
稀に『霊媒体質』の人間が近くにいない場合、地縛霊が起こした癇癪が霊障を起こして一般人の身体に悪影響が起こす事もあるけど」
「ナオミが犠牲になるの!?」
「生気が満タンなら大した健康被害はないわよ。
ナオミも以前、生気があるウチはここで普通に生活出来てたみたいだし。
・・・でも、貴女がナオミの事を心配するのは尤もね。
私だって自分達がいなくなった後のナオミの事がどうでも良いとは思ってない。
ナオミには『霊媒体質』をコントロールする術が必要だと思う」
「『霊媒体質のコントロール』?」
「つまり『ネクロマンサー』として覚醒すべきだわ」
「そんな事出来るの!?」
「おそらくこの世界では無理ね。
『ネクロマンサー』って仕事が確立されていないみたいだし。
『ネクロマンサー』になる術は異世界で学ぶのよ」
「異世界って。
どうやって行くのさ?」
「多分行けるわよ。
貴女が強く願えば」
「・・・『世界旅行』か。」




