五十七話
山神さんにこれからどうするのか説明する。
「信じられないかも知れないけど、ここは異世界なんだ」
「うん、信じられない」
「で、今から山神さんのレベル上げをします」
「何のために!?」
「『美しさ』のパラメーターを上げるために、だよ。
タレントになるんだからね」
「だから信じられてないってば。
で、具体的に何をすれば良いの?」
「何にもしないで。
モンスターは俺と俺の連れが倒します。
山神さんは何もしないで。
やられそうになったら『助けて!』って大声で叫んで」
「『連れ』って誰なのよ?」
「山神さんと事務所の仲間になる連中だよ。
あの娘達もレベリングして『美しさ』のパラメーターをもう少し上げておきたいからね」
「何を言ってるか全くわからない・・・。
でもまぁ、貴女には両膝の激痛を取り除いてもらった恩もあるし、多少の話には付き合うのが筋だとは思うし『何もするな』って言うなら『何かしろ』と言われるよりは楽だろうし・・・。
でも、一旦学校に戻らせて。
クラスのみんなが心配してると思うから」
「それなら大丈夫だよ。
異世界の時間は進んでも、日本の時間は進んでないから。
でも一旦戻ろうか。
仲間達を連れて来なきゃいけないし」
「?
意味がわからないわ。
学校に戻るのにも時間がかかるんじゃないの?」
「一瞬だってば。
ここに来るのも一瞬だったでしょ?
取り敢えず俺と手を繋いで、目を閉じてよ」
山神さんは半信半疑ながらも俺の言うことに従ってくれる。
それほどまでに長い事苦しんでいた膝の不調を取り除いた事は大きいらしい。
俺と山神さんは手を繋ぐと再びワープした。
ワープした先は元の校舎の昇降口だ。
授業中の時間なんで、昇降口は閑散としている。
が、人影がある。
ヤバい、ワープを見られたか!?
別に悪い事をしている訳じゃないが、見られたら説明するのが面倒臭い。
それにバレたら権力者に力を利用されそうだ。
どうしよう?
「何やってんのよ?」
よく聞いた声だ。
「凛火?」
そこにはここ最近、一緒に異世界と日本を行き来した凛火がいた。
「ワープしてきたんでしょ?
無用心ね。
見たのが私だったから良かったけど、無関係の人に見られたら大騒ぎになってたわよ?」
「気をつける。
・・・って、凛火はここで何やってるの?」
「聖華の『芸能科』に編入する事になったのよ。
杏奈、マネージャーなんだから少しぐらいは聞いてると思ったけど。
でもマネージャーが仕事せずにスクールライフを満喫してるっていうのもどうかと思うわ」
「満喫してない。
退学届を提出しようと思ってたところだ」
「どうしてよ!?」
「どうやら俺は『高校卒業資格は欲しい』けど『勉強はしたくない』らしい。
ちょっとぐらいなら我慢して勉強しようかとも思ったが、聖華の『普通科』のレベルは半端じゃない事に気付いた。
俺じゃ『普通科』にしがみつくのは無理だ」
「じゃあ中退するの!?」
「いや『芸能科』に転科しようか、と」
「杏奈、芸能人じゃないじゃない!」
「今日から俺は芸能事務所『ラグナログ』のタレントだ。
宜しくな」
「マネージャーの仕事はどうするのよ?」
「『二刀流』って言葉を知っているか?」
「相変わらず貴女は無茶苦茶ね。
まぁ、どうせまともにマネージャーの仕事なんてしてなかったから良いけど。
・・・良くはないか」
「でも本当に大きな学校ね。
理事長室に行こうとしてるんだけど、どこにあるのやら・・・」と凛火。
「理事長室?」
「異世界に行った時に知り合った人、ホラ、『ネクロマンサー』の人。
彼女が『聖華に行きたいなら理事長を紹介してあげる』って言ったのよ。
半信半疑だったんだけれどね、電話があって『編入したいなら理事長室に来なさい』って。
芸能科に編入出来るだけじゃなくて、特待生として学費免除らしいわ。
そんな美味しい話、信じられないけど、話を聞くだけでも聞いてみたいじゃない?」
「なるほど。
俺達も理事長に用事があったから調度良かった。
さぁ、理事長室に行こうか?
・・・で、理事長室ってどこにあるんだ?」と俺。
「私が聞いてるのに逆に質問してどうするのよ!?」と凛火。
「そんな事言われても、今日初めてここ来たんだから、知らなくてもしょうがないじゃん。
ワープ使えば理事長室に行くくらい訳ないけど、誰かに見られてたらイヤだし・・・」
「あの、私、理事長室の場所わかるよ?」と山神さん。
「じゃあ案内してよ」
「その前に着替えさせてよ!
私達、体操服のままじゃない!」
更衣室で山神さんが着替えて出てくる。
「お待たせ・・・って、何で岡田さんは?」
「杏奈も着替えて来るって。
聖華って凄いね。
杏奈が使ってた更衣室と、貴女が使ってた更衣室って違う場所にあるのね!」
「あぁ、そうか。
聖華には第一~第五まで更衣室があるのよ。
私が使っていた更衣室と岡田さんが使っていた更衣室は別だったんでしょうね。
・・・しかし、岡田さんはよく一人で更衣室まで行けたわね。
初めて聖華に来た人は校舎内で大体迷ってしまうのに」
「杏奈は特別なのよ。
一度行った事があるところには迷わず、すぐに行けるのよ」
「凄い方向感覚ね。
方向音痴の私には真似出来ない芸当ね」
「そういう次元の芸当じゃないんだけどね」
「?」
「お待たせ」
山神さんの目には虚空から瞬時に俺が登場したように見えただろう?
「!?
岡田さん、貴女どこから現れたの!?
瞬間移動してきたように見えたけど!?」
「だから『瞬間移動』して来たんだよ」
「どこから!?」
「更衣室から。
ホラ、制服に着替えてるでしょ?」
「岡田さん、貴女、手品師だったの!?」
「手品師だったら『タネ』や『仕掛け』があるでしょ。
そんなもんはないよ。
俺は本当に『ワープ』出来るんだ。
山神さんを異世界にワープで連れて行ったでしょ?」
「『異世界』って冗談じゃなかったの!?
ウソ!?
まだ信じられないし、よくわかんない!」
「そうだよね、私も最初はしんじられなかったし」と凛火がしみじみと言う。
「そのうちイヤでも信じるようになるよ。
後で異世界でレベリングする事になるからね。
あ、凛火も後で異世界に行く事になってるからね」と俺。
「勝手に決めないでよ。
まあ良いけど。
それより杏奈、私の事『凛火』って呼ぶようになったんだ」
「イヤだった?
馴れ馴れしい?」
「ううん、ちょっと嬉しい!」
「それより凛火も俺達の事、『杏奈』って呼ぶようになったんだ」
「嬉しい?」
「ちょっと鬱陶しいかな?」
「なんで!?」
「まぁ、良いけど」
「良いの?
じゃあ『杏奈』って呼ぶね!」
俺達は雑談しながら理事長室に向かった。
理事長室の扉をノックする。
「どうぞ」中から理事長の声が聞こえる。
俺と凛火と山神さんは理事長室に入室する。
「あら?
珍しい取り合わせね」こちらを見ながら理事長が言う。
「理事長は相変わらずの美魔女っぷりだな」と俺。
「どういう意味かしら?」と理事長。
「『年増のわりにはまあまあ見れる』って事だよ」と俺。
デスクに座っている理事長が凍る。
「・・・凛火さんを呼んだのは私だけど、山神さんと岡田さんは私に何の用事?」と理事長。
「理事長、私の事を知っているんですか?」と山神さん。
「当たり前じゃない。
『体操界の新星』を知らない人がいるかしら?」
「それも昔の話です。
私は全日本も強化選手指定も外されてました。
・・・怪我人は用済みだそうです。
だから私はもうアスリートじゃありません。
だからもう体育科には在籍出来ません」
「そうよね。
体育科の授業料も安くないものね。
アスリートとしての未来がないのに払えないわよね、でどうするの?
転校するの?」
「それなんだけど、俺と山神さん『芸能科』に転科出来ない?」と俺。
「何で転科したいのか聞かせてもらえるかしら?」と理事長。
「俺も山神さんも今さら普通科で勉強は無理なんだよ」
「なるほど。
でも私が『勉強したくないから芸能科に入りたい』なんて人を『芸能科』に入れると思いますか?」
「どうすれば『芸能科』に入れるの?」
「いくら容姿が良くても無理よ?
芸能事務所に所属していないと。
ここにいる人で『芸能科』に入る条件を満たしているのは凛火さんだけです」
「だから俺と山神さんも芸能事務所『ラグナログ』の所属タレントになるよ」
「『なるよ』でなれるモノなの!?」
「なれるよ。
俺は『ラグナログ』のマネージャーなんだから!」
「何でマネージャーがそんなに偉いのよ!?
まるでタレントを自由に雇えるみたいに・・・。
マネージャーって社長より権限があるの!?」
「当たり前じゃない。
マネージャーは社長より偉いんだよ?」
「それはどこの世界の常識なのかしら?
岡田さんは娘の命の恩人だし、山神さんも今まで学校の名前を世の中に広めてくれていたし、『芸能科』に転科させるのは吝かじゃないけれど芸能事務所に必要書類揃えてもらって持ってきてよ。
・・・て言うか、そういう必要書類を揃えるのはマネージャーの仕事なんじゃないの?」
「いや、そういう面倒臭い事務仕事は社長に押し付けてるから・・・」
「普通社長が面倒臭い事務仕事をマネージャーに押し付けてるものじゃないのかしら?
とにかく転科を希望するなら書類を揃えて持って来てね!」
俺達は理事長室を後にした。
書類を揃えるために事務所に寄ろう。
そこで凛火の編入の書類と、俺と山神さんの転科の書類を揃えよう。
ついでに俺とと山神さんのタレント登録もやってしまおう。




