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リクルーター  作者: 海星
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五十四話

 「で、カルダモンって何に使うんだ?」と定食屋の親父に聞かれる。

 「知らん」と俺は答える。

 知らんモノは知らんのだ。

 知ったかぶりしてもしょうがない。

 確かカレーに入れる、なんて話も聞いた事があるが、カレーには他のスパイスも沢山入れなきゃいけないはずだ。

 カルダモンだけ入れてもどうしようもない、と思う。

 詳しい事はわからん。

 「オマケで渡したんだ。

 ありがたく受け取っておけ」と俺。

 「確か、お茶とかお菓子とか菓子パンに入れるのよ?」とナオミさんが慌ててフォローを入れる。

 「何で杏奈はすぐに敵を作ろうとするのよ!」とナオミさんが耳元で囁く。

 別に敵を作ろうとしてる訳じゃないんだが。

 興味ない事にまで口は挟まないだけの事だ。


 「私はネクロマンサーの修行に戻るわ。

 それじゃあ、私の部屋は好きに使ってもかまわないけど、私がいない間は留守番お願いね!」と言うとナオミさんは森の奥に消えて行った。


 日本のナオミさんの部屋にムサイとペプシとコーラがいる。

 「何してるの?」と俺。

 「何って、今日から学校に通うんじゃないの?」とムサイ。

 「?

 誰がそんな事を?」

 「杏奈が言ったのよ?

 『芸能活動するにも最低限の教養は必要だし、日本の文化を覚えないと』って」

 確かに言ったかも知れない。

 まぁ、自分だけが高校に通う事になって知り合いがいなくてボッチなのがイヤだっただけなのだが。

 一人で寂しく便所飯とか、死にたくなる。


 『高校くらいは通っておきたい』とは言ったもののいざ通うとなると面倒臭くなってくる。

 それに何で俺が名門私立女子校に通わなきゃいかんのだ?

 俺が通っていたのは底辺県立高校だぞ?

 まぁムサイ達は芸能科なんで、勉強なんて出来なくても良いだろうが、俺はそんな訳にはいかない。

 また『サイン、コサイン、タンジェント』とか覚えなきゃいかんのだろうか?

 あれ?『サイン、コサイン、タンジェント』て中学校だっけ?

 帰国子女ってことになってるらしい。

 『翻訳スキル』があるから語学は問題ないだろう。

 しかしそれ以外問題ありまくりだ。

 数学とか物理とか出来る気がしない。

 「アカン」

 俺はPCでインターネットを立ち上げると『退学届の書き方』を検索した。


 バッチリだ。

 中々素晴らしい退学届が書けた。

 高校入学初日に退学って珍しいのかな?

 しかし九月に入学ってどうなんだろ?


 俺たち四人は校門をくぐる。

 俺は夏休み中、ジャージが着れなくなってから『外出といえば制服姿』だったからいつもの格好だったが、ムサイ達にとっては支給された制服は珍しかったらしい。

 「こんな滑らかな材質の服なんて・・・」

 「あぁ、ポリエステルって言うんだよ。

 別に絹の服じゃないから」

 異世界じゃ絹糸を出すのは虫のモンスターだ。

 モンスターテイマーが食いっぱぐれない理由の一つが、テイムしたモンスターが吐き出す絹糸だ。

 しかしモンスターは身体の大きさの割に吐き出す絹糸の量はごくわずかだ。

 当然絹糸は高級品で、シルクで出来た服など庶民には手が出ない。

 じゃあ、庶民が何を着るか?

 木綿の服だ。

 俺が「アルプスの少女みてーだ」と評したあの服だ。


 「参ったな、こんな時期に入学したら目立っちまうな」と思っていたら、九月入学の生徒は意外に多かった。

 留学生、帰国子女はみんな九月入学らしい。

 そういや、海外は九月入学の国々の多いんだっけ?

 良かった。

 九月入学の入学式もあるみたいだし、外国人も目立たない。

 後は懐に入れた退学届を叩きつけるだけだ。

 入学式が終わると、どうやら『芸能科』と『普通科』は分かれなきゃいけないらしい。

 というか、もう本当はとっくに分かれていたんだが、俺が『芸能科』の連中が固まっていた場所に案内されていたみたいだ。

 どうやら俺は『芸能科』の生徒だと思われたようだ。

 間違いに気づいたのは理事長、つまりナオミさんのお母さんだ。

 「あれ?

 杏奈さん、何でこの列にいるのかしら?

 ここは『芸能科』よ?」と。

 知るかいな。

 俺が入学式会場に案内された時に『ここに座れ』って言われて座っただけだ。

 辺りを見回して見る。

 流石、芸能科だ。

 みんな、アイドルやモデルの卵なんだろう。

 見た目がそれなりに良い。

 何で『それなり』なのか?

 みんな『それなり』に見た目は良いけど、ムサイ達ほどじゃないからだ。


 ひそひそ声が聞こえてくる。

 「あの子、芸能科じゃないんだ」

 あん?何見てんだ?

 見せ物じゃねーぞ?

 「うわ、顔ちっちゃ!

 本当に芸能人じゃないの?」

 「スタイルも良いよ!

 胸は小さいけど」

 良いんだよ、この胸でも動きにくいんだ。

 これ以上大きくなったらたまったもんじゃない。

 スタイルが良いと言われてもわからん。

 大体この身体は元々俺の物じゃない。

 この身体を誉められても微妙だ。

 それに地球に住む人は例外なく『レベル1』だ。

 レベル1だからといってステータスが上昇しない訳じゃない。

 『補正値』は上がる。

 『+1』とかってヤツだ。

 でも『補正値』じゃなくて大元のステータスを上げるためにはレベルアップしなきゃいけない。

 そしてレベルアップするためにはモンスターを討伐しなきゃいけない。

 レベルアップすればあらゆるステータスが上がる。

 それこそ『美しさ』のステータスも上がる。

 異世界人は妙に見た目が良いな、と思っていた。

 その理由はこの世界の人が誰も少しはレベルアップしているからだ。

 畑に現れる害虫、害獣も地球と違いモンスターだ。

 それを駆除したら意識せずにモンスターを討伐した事になり、意識せずに『美しさ』を含む全てのステータスが上がる。

 自然と異世界人は見た目が上がるのだ。


 だからレベリングすればするほど俺の見た目は良くなる。

 最初の頃、自分の見た目がどうなっていたかわからなかった。

 そりゃそうだろう。

 鏡がない世界なんだから。

 「女になった」ってのは何となくわかったけど、『見た目がどうか?』なんて気にしている余裕はなかった。

 だから、芸能科の女の子らの『美しさ』は異世界の一般レベルだ。

 逆に考えれば「『レベル1』でこの『美しさ』という」事になる。

 きっと芸能科の生徒達は異世界でレベリングしたら、神レベルの美しさになるだろう。

 なるだろうが、別の芸能事務所に所属しているヤツらの見た目を磨いてやる必要はない。

 俺は芸能事務所『ラグナログ』のマネージャーなのだ。

 「本当にマネージャーで良いんですか?

 タレントをやる気はないんですか?」と角栄が言う。

 残念だな、俺は芸能に関わる全てに興味がないのだ。

 そんな芸能全てに興味がないヤツが芸能事務所のマネージャーをやるのもどうかとは思うが、タレントをやるよりはナンボかはマシだろう。


 俺は改めて『普通科』の列に並び直す。


 しかしこんな名門校でも校長の訓示は

つまらないモノなんだな。

 「学校生活には大事な3つの袋があります」

 そりゃ夫婦生活じゃねーの?

 まぁ誰も聞いちゃいねーからデタラメ言ってるのか。

 それに今日、退学届を出すんだ。

 『学校生活の心得』なんて聞いてもしょうがない。

 そう考えると咄嗟に睡魔が襲ってきた。

 良く考えたらここ最近、忙し過ぎたな。

 異世界と日本を行ったり来たりで単純に1日の長さが倍になっていたんだから。

 しかも色んな事があって、倍になった1日の時間で倍以上激しく動きまくった。

 俺は入学式の会場で爆睡した。


 遠くから声が聞こえる。

 「岡田さん、起きて下さい!」

 若い女の人の声だ。

 「もっと優しく頼む」

 「え?

 じ、じゃあ『起きれる?』

 こんな感じかしら?」

 「もっと恋人同士みたいに」

 「ねぇ起きてよ、お寝坊さん!」

 「アンタは恋人にそうやって甘えるのか」

 「違う!

 私に恋人なんていた事ないんだから!」

 「モテないんだな」

 「そうじゃないわ!

 中学、高校、大学と聖華だったし・・・。

 ずっと女子校だったから、男の人と接する機会がなかっただけで・・・。

 って、そんなのはどうでも良いでしょう!?

 それより先生に『アンタ』はないんじゃない!?」

 「先生?」

 俺はゆっくりと顔を上げる。

 そこにはおっとりとした感じの女性が立っている。

 「わかったよ、みくるちゃん」

 「誰がみくるちゃんですか!?

 私には佐々岡優奈という名前があります!」

 「ごめん『優奈ちゃん』」

 「そうです。

 ・・・ってそうじゃありません!

 何で貴女達生徒は私の事を『優奈ちゃん』と呼ぶんですか!?」

 どうやら『優奈ちゃん』と呼んでいるのは俺だけじゃないらしい。

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