四十八話
「このクソアマ・・・二人をどこにやったんだ」
若頭っぽいヤツが言う。
「誰が『アマ』だよ?」
「女だろうが。
声聞けばわかるんだよ!
ごまかせるって思ってるのか?」
あ、そうか。
俺は他のヤツからしたら女なのか。
まぁ良い。
「だから手品だってば」
「大がかりの手品は協力者が必要だろうが!」
「詳しいな」
「そりゃ手品じゃないけど、昔はシノギでカードのイカサマをやったからな」
「良いのか?
『イカサマやってました』なんて白状しちまって」
「良いんだよ!
どうせお前は終わりなんだから」
「『終わり』?」
「ヤクザに楯突いて目を付けられたらソイツの人生は終わりなんだよ!」
「なんだ、そんな事か。
話ならまとめて聞くわ」
「『まとめて』?」
「そうだよ。
今からアンタを遠くへ連れて行く」
「遠くってどこだよ?」
「ついてから説明するよ」
俺は若頭の肩にポンと手を置く。
次の瞬間、俺と若頭はやはり異世界の元ベガの小屋があった場所にいた。
思った通りだ。
やはり手を握らずに、目的地を決めずにワープするとここにワープするんだ。
「行った場所にしかワープ出来ないはずなのに何で俺はここにワープしてきたんだろう?」と思っていた。
テキトーにワープするとここにワープしちゃうんだね。
組事務所にいるヤクザをほとんど全員異世界へワープさせた。
ヤクザに撃たれる事を覚悟していたが、ヤクザが普段拳銃を持っている訳じゃないらしい。
どこかに隠し持っていて『出入り』の時に取り出すのかな?
それに異世界にワープしている間、全く日本の時間は進んでいない。
ヤクザ達からしたら突然現れた全身鎧の女に肩に手を置かれたら姿が消えてしまう・・・ホラーだ。
ヤクザ達には身構える時間すらない。
目の前に全身鎧の女が現れたと思ったら次の瞬間には焼け跡にいるのだ。
日本の時間は進んでいなくても20人も異世界に連れてくれば異世界の時間は30分くらいは進んでいる。
しかも連れてこられたヤクザ達だって大人しくしている訳じゃない。
しかも何人も連れてこられて何の相談もしない訳がないし、ヤクザ同士が話して物騒な話にならないはずがない。
「これで全員かな?
ふう、疲れた!」と俺。
「『ふう、疲れた!』じゃねえ!
何『一仕事終えた』雰囲気出してるんだよ!」
そりゃコイツらにしてみたら突然拉致されて来たんだもんな。
「おいコラ!
何のつもりだ!」チンピラの一人が声をあげる。
いかにも雑魚、鉄砲玉といった風情だ。
上の者を差し置いてコイツが俺に接触してくる理由は一つしかない。
コイツが攻撃の手段を持っているのだ。
案の定、チンピラが懐からドスを抜く。
「やめときなよ。
俺を殺したら元の場所に帰る方法は永遠に失われるんだよ?
ここにずっといたいの?」と俺。
「殺しゃしねーよ。
軽くドスで撫でれば、こちらが頼まなくてもお嬢ちゃんは聞いてない事までおしゃべりし始めるよ」とチンピラ。
「そう来るだろうと思って刃物も弾丸も通さない全身鎧を着たんだよ」
「いや、そうはならんだろう?
そんな格好で突然現れたらホラーだぞ?
だいたいその鎧、どこで手に入れたんだ?」
「『人形の秀月』だ」
「嘘をつくな!
秀月の鎧はもっと和風だろうが!
それに飾り物の鎧に防御力はないだろうが!」
「お前、なかなか賢いな。
ヤクザなんてもっと簡単に騙されると思ってた。
どこで手に入れたか言っても良いが、どうせ理解出来ないだろう。
あきらめろ、とにかく俺にお前の攻撃は効かん」
「そんな訳ねーだろうが!
全身鎧だって継ぎ目だらけだ!
継ぎ目から刃物突き刺されたらテメーだってひとたまりもないに決まってる!
だいたいさっきからテメーの動き、ロボットダンスみたいなんだよ!
テメー鎧着てまともに動けないんだろうが!」
確かに全身鎧は動きにくい。
でもしょうがないじゃん。
だって異世界に銃ないんだもん。
全身鎧じゃなくてもある程度の鎧だったら全身に膜が張って魔力を帯びていない攻撃は無効化される。
それは遠距離攻撃武器も同じ事だ。
でもその膜が銃火器を跳ね返すかどうかなんて、やってみなくちゃわからない。
銃で蜂の巣にされた後に「やっぱりダメでした」なんて言うワケにはいかない。
だから念のため全身鎧を準備した。
銃で撃たれても大丈夫なように。
しかしそれはいらない心配だったようだ。
ヤクザ達が今持っている最強の武器は『ドス』と呼ばれる短刀だ。
俺の装備している全身鎧は魔力を帯びていない武器の攻撃を通しにくい。
しかし油断大敵だ。
俺は魔力攻撃以外は効きにくいオーガを魔力抜きで倒した。
ヤクザにだって魔力抜きで俺を倒す実力があるかも知れない。
「『攻撃が効かない』って言うのが嘘だと思うなら試しに俺に斬りかかってみなよ」
「コイツ!
減らず口を!」
チンピラは本気で俺に斬りかかる気はなかったようだ。
そりゃそうだ。
俺に万が一の事があったら、コイツらはヤクザの組事務には戻れないんだから。
チンピラは俺に斬りかかる。
しかし、その『斬りかかり方』は遠慮がちだ。
「ちょっと脅せば、この女は言う事を聞く」と相変わらず思っているらしい。
避けるのは簡単だ。
本気で斬りかかられても軽く躱せるだろう。
ましてや脅しとばかりに『形だけ』斬りかかっているのだ。
多分、こちらがビビって逃げる計算なのだろう。
俺は敢えて斬檄を受ける。
こちらが避けると思っているからドスの刃は鎧の隙間を狙っていない。
チンピラが振り回したドスは俺が被っている兜の側頭部、耳の横辺りに当たった。
『キィーン』
金属と金属がぶつかり合う音じゃない。
魔力でコーティングされているミスリルと金属がぶつかり合う音はまるで上質なハンドベルの音のような良い音がする。
しかし、どんな良い音でも耳の真横で思い切り鳴らされたら・・・。
「うるせえな!?
コノヤロウ!」俺は怒鳴った。
「いや・・・テメーが避けなかったんだろうが!」とチンピラ。
「誰の決めたシナリオだよ?
『じゃあチンピラが刃物を振り回すから、超絶美形主人公はそれを軽く避けてね』なんて言われてねーぞ!?」
「誰が超絶美形主人公だよ!?
そんな鎧着てたら美形かどうかなんてわかんねーだろうが!」
「この鎧、動きにくいんだよ。
だから避けるのが面倒臭いんだ。
ナマクラの一発くらいは受けても大丈夫だと思ってた。
確かに肉体的なダメージは受けない。
でも音までは吸収されないみたいだ。
煩くて敵わない!」
俺はブツブツ言いながら全身鎧を脱いだ。
「お、おい。
脱いで大丈夫なのか?」とチンピラ。
「あぁ。
俺が警戒してたのは銃での武装だ。
お前らが銃を持ってないなら、全身鎧なんて必要ない。
つーか、肉がチョビチョビつままれて中途半端に痛いんだよ。
痛くて不愉快なんだよ!」
「勝手にテメーが鎧着たんじゃねーか。
何でそのイライラを俺にぶつけるんだよ!?」
「知るか、ボケェ!」
「理不尽なキレ方しやがって・・・。
でも良いのか?
確かに俺らは銃は持ってねえ。
でも刃物は・・・」チンピラは途中で台詞を止めた。
チンピラの握りしめていたドスの刃は根元から折れていた。
ドスはミスリルと衝突して砕けないだけの硬度がなかったのだ。
「言う事ないなら俺は『日本』に帰るぞ。
お前らはここで暮らしていけば良い。
余計なアドバイスかも知れんが言っておく。
『ここからあんまり動くな。ここにはある人が撒いた薬剤"モンスターよけ"の効果がまだ残っている』みたいだ。
ここからお前らが動いたら危険なモンスターがウロウロしている森の中を彷徨う事になる」
「何を訳のわからない事を言ってやがる!
俺らを元の場所に・・・」チンピラが言い終える前に少女の姿は虚空へと消えた。




