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リクルーター  作者: 海星
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四十七話

 「若頭、何であんな連中に車を貸したんですか?」チンピラが如何にも『インテリヤクザ』という男に聞く。

 「『谷中組』は小さな組だったんだよ。

 その『谷中組』が大きくなったシノギが何かわかってるか?」

 「『ノミ屋』ですよね?」

 ノミ屋とは・・・例えば競馬で客が実際の馬券を買わずに『ノミ屋』に「1-3に三万円」と金を渡す。

 『ノミ屋』は三万円を受け取りながら、馬券は買わない。

 『三万円を飲む』と言う状態だ。

 三万円を猫ババする訳じゃない。

 実際のレースで「1-3」が来たら『ノミ屋』は当たり金額を客に払わなきゃいけない。

 でも外れたら三万円を『飲む』、つまりその三万円は『ノミ屋』の懐に入る。

 『ノミ屋』は常にリスクを背負う。

 外れた人は一切いないのに当たり金額だけ払わなきゃいけない可能性があるのだ。

 だからある程度の財力がなければ『ノミ屋』なんて稼業は出来ない。

 もちろん『ノミ行為』は法律で禁止されている。

 「『外れる』ってわかってたらいくらであっても天井なしで飲む・・・、当たるとわかっていたら理由をつけて飲むのを断る、もしくは掛け金を少額に、させる。

 絶対に損をしない商売だったんだよ、俺らがやってるノミ屋は」

 「何で『当たる』とか『外れる』ってわかってたんですか?」

 「教団の初代『指導者』が残した『預言の書』に書かれてたからだよ。

 的中率は100%だった。

 指導者は貧乏な信者から布施を受け取らなかった。

 でも指導者を慕う信者は貧乏人だらけだったんだ。

 当然教団の台所は火の車だ。

 それで指導者が始めたのが『予知』の力を利用した『ギャンブル』だった。

 それで教団は大きくなっていった。

 指導者の言った事は『預言の書』にまとめられた。

 でもその9割はギャンブルの予想だった。

 残りの1割の中に大災害、大事故の予知があった。

 『預言の書』は門外不出だった。

 教団が大きくなるにつれて、指導者とその妻の間には溝が出来た。

 いや、指導者は『預言の書』には残さなかったが妻の不貞を予知していたのかも知れない。

 いきなり冷たい態度を取られた妻は、クズみたいなホストに入れあげる。

 そのクズホストが借金していた闇金っていうのがウチの組のシノギだったんだよ。

 クズホストは指導者の妻に泣きつく。

 『このままじゃ俺は海の底に沈むしかない』と。

 そして借金棒引き代わりにクズホストがウチの組に差し出して来たのが、指導者の妻提供の『預言の書』の写しなのさ。

 これがウチの組と教団との付き合いの始まりだ」

 「それで今でも教団と付き合いがあるんですね?

 教団の窓口は指導者の妻?」

 「指導者はとっくに死んで、指導者の妻も今頃海の底でクズホストと仲良くしてるだろうぜ?」

 「殺しちまったんですか!?

 何で!?」

 「散々、ウチに汚れ仕事を押し付けておきながら、ウチを切り捨てようとしやがったのさ。

 母親とホストは二人、仲良く今頃深海魚のエサになってるぜ」

 「誰が今、教団のトップなんですか?」

 「今、教団の窓口は指導者とその妻の息子だ。

 アホなクセに用心深い男だ。

 中々尻尾を見せない。

 凡人だが、凡人に珍しく警戒心が強い。

 邪魔にならない間は利用してやるさ。

 俺ら暴力団の"表の顔"として。

 少しでも色気を見せたら消すさ、母親と同じように。

 だから今回も"無理矢理"車を貸してやった」

 「無理矢理?」

 「指導者の男は『預言の書』の通り、教団に最後が訪れる事がわかっていながら、それを受け入れようとしていたんだ」

 「何で教団の存続にウチの組が力を貸すんですか?」

 「わからねーか?

 ウチの組は『預言の書』に散々儲けさせてもらったんだよ。

 異能は儲かるんだよ。

 異能じゃなくても教団は組の金ヅルになるんだよ。

 その金ヅルが『預言』じゃ解散するって言う。

 だったら『解散』の未来は変えれば良いじゃねえか」

 「それで教団を『解散』に導く『歌姫』を誘拐させようとしたんだよ。

 誘拐先はここ、組事務所・・・だった」

 「『だった』?」

 「誘拐は成功したはずだったんだ。

 でも『歌姫』を誘拐したはずのワンボックスカーの後部座席は藻抜けの殻だったんだ」

 「何でですか?

 車は内側から開かないはずでしょう?」

 「わからん。

 どうやって『歌姫』が外に出たのか。

 しかし・・・」

 「何かあてはあるんですか?」

 「教団の先代指導者は『預言』という『異能』を使った、と話したよな?

 『歌姫』も異能を使って、車から脱出した可能性がある。

 言っただろう?

 『異能は儲かる』って。

 『歌姫』を薬漬けにして利用すれば・・・。

 『預言の書』は今年以降の預言内容が書かれていないんだよ。

 つまり、ウチの組は確実に儲かるシノギを失ってしまう。

 だから新しい『異能者』を手に入れたいのさ。

 『歌姫』を誘拐出来れば、教団の消失がなくなって、ウチの組は金ヅルを失わずに済むだけじゃなく、新たな金ヅルの『歌姫』も手に入る」


 「なるほど」

 「誰だテメーは!」

 「『謎の鉄仮面』とでも名乗っておこうか」

 「ふざけるな!

 テメー女だろ!?

 声を聞けばわかるんだぞ!」

 いや、そこを隠す気はない。

 むしろ顔だって隠す気はない。

 全身鎧を着ていたら顔が隠れちゃうだけで。

 じゃあ何で全身鎧を着ているのか?

 「オイ、コラ!

 いきなり組事務所にこんな格好で乗り込んできて何のつもりじゃ!?」組長のボディーガードのチンピラが俺に凄む。

 「アポイントが必要でした?」と俺。

 「『あぽいんと』?

 何だ、それは?」

 「アポイントを知らんのか?

 美味(うま)いんだぞ?」と俺はチンピラの肩にポンと手を置く。

 次の瞬間、俺はチンピラを連れて異世界へワープする。

 ワープ先は最初に俺が異世界に降り立ったベガの家の前だ。

 アレ?ここに来ようなんて思ってないんだけど。

 どうやらちゃんと手を繋がないと人を連れて異世界へワープ出来ないらしい。

 ここはおそらく異世界の入り口なのだ。

 初めて異世界へ来た人は問答無用でここに案内される、と。

 しかしここはベガがモンスター避けの結界を張っていて、モンスター避けの薬剤を撒いていたから、俺らは安全に暮らせていた。

 元はここは多くのモンスターがいる恐ろしい場所だ、と。

 しかし今は一面が焼けた針葉樹で覆われている。

 命を狙われていたベガは小屋の近くの森に火を放たれたのだ。

 結界も既に壊れている。

 撒いた薬剤も効果を失っている。

 森は既に灰なので殆ど生命の息吹きを感じない。

 しかし森は燃やされても強いモンスターは生き残っているだろう。

 そして『生命の息吹きを感じない』と言う事は『食べる物がなくて餓えている』と言う事だ。

 おそらくこの森には『餓えて気が立っている強いモンスターがウロウロしている』

 でも、そんな事は知った事じゃない。

 だってここに俺、長居する気ねーもん。


 何が起きたかわかっていないチンピラに声をかける。

 「すぐに仲間連れて来るから待ってて」

 そう言うと俺はワープでヤクザの組事務所に戻る。

 思った通りだ。

 時間が全く進んでいない。

 俺がチンピラの肩に手を置いた次の瞬間だ。

 つまりヤクザ達は『突然チンピラだけが消えた』ように見えている。

 「テメー!

 隆司(りゅうじ)をどこにやった!?」別のチンピラが喚く。

 アイツ、隆司って名前だったのか。

 「手品に決まってるだろ?

 本当にいなくなってる訳ないじゃんか」と俺。

 「だからどういう仕組みなんだよ!?」

 「手品師がネタを観客に教える訳ないだろうが」

 「・・・それもそうか」

 納得すんなよ。

 お前、実はアホだな?

 「心配するなよ。

 すぐにお前も隆司に会えるから」俺はアホなチンピラの肩に手を置く。

 次の瞬間俺とアホは異世界の隆司の前にいた。

 「隆司!」

 「兄貴!」

 感動の再会に水を差すほど俺は野暮じゃない。

 見つめ合う二人を置き、俺はヤクザの組事務所へワープする。

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