四十六話
アイテムボックスから全身鎧を取り出す。
正直、コレ、動き難くて嫌いだ。
でも今回はしょうがない。
取っておいてよかった。
今までケイが強すぎて俺の出る幕はなかった。
でも『女の子に丸投げ』って「ちょっと格好悪いなー」なんて思う自分もいたりして。
で、こっそり武具屋で全身鎧を買ったは良いが・・・。
大した重さじゃない。
さすが魔法銀製だ。
でも可動箇所が限られてる全身鎧は本当に動きにくい。
特に『捻る』と言った動きがダメだ。
プラモデルを思い浮かべて欲しい。
関節部分には球のような部品が入っていないと、自然な動きは出来ない。
関節とは前後に曲がるだけのパーツじゃないのだ。
簡単な話が全身鎧を着ていると動きがロボットみたいな動きになる、と。
慣れたらある程度自然に動けるようにはなるらしいんだけど俺は可動部分に肌が挟まる『肉チョビ』の地味な痛みに耐えられない。
動く度、断続的につねられているようで不愉快だ。
だから全身鎧は一度着て「もう二度と着るもんか」としまい込んでた。
全身鎧を着ていれば『お嬢ちゃん』って言われないで不愉快な思いをしなくて済むかと思ってた。
でも『肉チョビ』はそれ以上に不愉快だった。
もう一度全身鎧を着る事になるなんて。
「ヤクザの組事務所に乗り込むつもり?」と凛火。
さすがに不安そうだ。
そりゃそうだろう。
「大丈夫。
平和的にやるから」
「平和的に話し合うの?」
「いや、平和的に異世界の危険地帯にブチ込む。
この全身鎧は魔法銀製で、魔力を通してない攻撃は一切効かないから。
拳銃だろうが、ドスだろうが」
「それのどこが平和的なのよ!」
「俺は平和そのものだよ?
非暴力を貫くよ。
ただひたすらヤクザを異世界の危険地帯に招待するだけだよ。
そうだね、こないだ行った火山地帯なんてどうだろう?
俺が行ける場所で一番の危険地帯だ。
しかも俺がいないと絶対にヤクザ達は日本に戻って来れない。
その上、全身鎧を着てるから俺が誰だかわかんない」
「貴女はバレなくても私は全身鎧着てないんだからバレバレじゃない!?」
「大丈夫。
ヤクザの組事務所には俺、一人で行くから。
凛火さんはウチでカレー食べて来てよ」
「わ、私は異世界で待ってるわよ。
異世界じゃ時間が止まってるんでしょ?」
「『世界旅行』は俺の主観時間なんだよ。
だから俺が存在する世界じゃ時間が進んじまう。
つまり俺が日本にいる限り異世界に行ったら止まってるのは異世界の時間で、日本の時間は進んじゃうんだよ。
だから凛火さんはいっぺん家に帰るしかないんだ。
『一人で乗り込む』って言った俺を心配して、気遣ってくれたんだよね?
ありがとう!」
「そんなんじゃ・・・気をつけなさいよね!」
ツンデレかよ。
「私はどうする?」とケイ。
「全身鎧は一つしかないけど、別に今から異世界に行ってもう一つ全身鎧を調達してきたって大した手間じゃない。
でも今回は良いよ。
獣達に暴れさせたら『ヤクザ謎の集団失踪』が目立っちゃう。
今回の『異世界へのご招待』はひっそりと行いたいからね。
それにはケイはむかないと思うから・・・一人でやらせて?」
「うん、わかった。
気をつけて」
「気をつけるような事はないと思うけど」
「一応結果が聞きたいわ。
スマホの番号教えて」と凛火。
「凛火さん、スマホ持ってたんだ」
「持ってるわよ。
今は電源落としてるけど。
異世界じゃ何の役にも立たなかったから。
使うには多分、長い事充電しなきゃいけないけど。
放電しちゃってるだろうし」
「でも俺、持ってない」
「嘘でしょ?女子高生が・・・」
「あぁ、それについても説明しなきゃいけない事があるんだよ」
「連絡取れる手段がないわね」
「伝書鳩・・・いや、伝書鷲を飛ばして結果を報告するよ」
「ダメ!あんなのデカいのが家の外にいたらパパとママが卒倒しちゃう!」
「だったら今から凛火さんの家までワープで送って行くよ。
いっぺん行った所にはワープで行けるようになるから。
全てが終わったら凛火さんの家に行くって事で良いよね?」
「わかった。
でもママの前にワープしたら・・・」
「そうならないように凛火さんの部屋にワープするよ。
そうしたら『いつの間に帰ってきたのか?』って思われる程度でしょ?」
「それで頼むわ」
「部屋をイメージするのは凛火さんなんだけどね」
俺達の話は教団の連中には『何を言ってるのか?』とわからない様子だ。
勘が良くてわかったら凄いけど。
アホの信者からヤクザの組事務所の場所を聞く。
話が噛み合わない。
アホは組事務所を『何か怖い人が沢山いる建物だなー』としか思ってなかったらしい。
そこまではワープ出来ない。
だって一度も行った事ないんだから。
悩んだ挙げ句、そこまでタクシーを呼んで乗り付ける事になった。
タクシー代?
「角栄、ごめん、タクシー代貸してくれない?
あとここにタクシー1台回してもらえない?」
「タダでタクシー代を貸すワケにはいきません」
「オムライスに一回タダで文字書いてやるから」
『オムライス無料』くらい言えれば良いけど、さすがにただのバイトに権限はない。
「本当に!?
このタクシーチケット好きに使って下さい!」
意外に『ケチャップ文字』は魅力的らしい。
俺は教団施設に来たタクシーに乗り込む。
運転手が怪訝な顔で聞く「どちらまで?」と。
女子高生がVIP専用回線の電話番号を知ってる訳がない。
あ、言ってなかったが、タクシーに乗り込むにあたっていつも着ている制服に着替えた。
だってタクシー運転手に異世界の服見られるの変じゃん?
何か警察が動くような事があった時、刑事が「ここら辺で何か変わった事はなかったか?」ってタクシー運転手に聞いた時「そう言えば『アルプスの少女』みたいな女を客として乗せました」とか言われたら足がついちゃう。
ケイを今回同行させなかったのなんて「ケイが日本の住民権を持っていない」という事も理由の一つだ。
万が一警察沙汰になった時、出来るだけ弱みはない方が良い。
「川越のスーパー◯◯まで」と俺。
「わざわざスーパーマーケットまで行くのに川越まで?」運転手が怪訝な顔をして聞く。
さすがに『ヤクザの組事務所まで』とは言えない。
近くのちょっと目立つ建物が『スーパー◯◯』だっただけの話だ。
「今日、『スーパー◯◯』でゴボウが特売なんで・・・」
「・・・そうですか」
ふう、少し怪しまれたけど何とか誤魔化せた。
俺はタクシーの助手席に乗り込む。
「お、お客様何で助手席に乗るんですか!?」
「あ、ごめんなさい。
助手席はシートベルト必須でしたね」
「いえ、そんな事じゃなくて・・・」
「?」
「いえ、何でもありません・・・」
「もうすぐ着きますか?」と俺。
「そうですね、あと三分くらいですね」
「近くにヤクザの組事務所があるって聞いたんですが・・・」
運転手の顔色が変わる。
「確かに近くは通りますが、あんまりジロジロ見ない方が良いですよ?
正直、良い噂を聞かない連中です。
目を付けられたらおしまいですよ?
ホラ、今、左手に見えているのが『谷中組』の組事務所です」
俺は組事務所の光景を脳裏に焼き付ける。
これでワープでここまで来れるはずだ。
スーパー◯◯の駐車場で、タクシーはお役御免となる。
俺はタクシーチケットを運転手に渡す。
運転手は露骨にほっとした顔をする。
「金がもらえないんじゃないか?」と思っていたらしい。
俺はスーパー◯◯の外付けになっている多目的トイレに入る。
何で多目的か?
だって多目的なら男も女もないんだもん。
俺はトイレに入るとすぐに教団にワープした。
「お帰りなさい」と凛火。
今から凛火を家まで送っていく。
そしてケイをナオミさんのアパートまで送っていく。
その後がメインイベント、ヤクザの組事務所に単身で乗り込まなくっちゃいけない。




