三十一話
オムライスにケチャップで文字を書く。
最初のウチは苦戦したが今はもう慣れたモノだ。
ケチャップで文字を書く。
「山田様、ケチャップで文字を書いて貰えませんか!?」と御主人様。
「断る、面倒臭い」
「山田ちゃん!
やって差し上げなさい!」とお姉さま。
「ちっ!
わーったよ・・・」
俺は嫌々オムライスにケチャップで文字を書く。
『食い物で遊ぶな!死んで詫びろ!』
「相変わらず、山田様の『オムライス文字』は達筆だ!」と御主人様。
だから山田様って誰だよ?
いつの間にか『書道二段』というスキルが追加されている。
書道なんて日本でしかいかされないからな。
筆なんて異世界にはないし。
そもそも異世界で日本語を書く機会がない。
日本に戻って来て発現したスキルかも知れないな。
「山田ちゃん、ご飯食べて帰らない?」同僚のメイドに言われる。
「そうしたいのは山々だけど、給料日まで節約しなきゃいけないからね。
それまでの収入源は自販機の下を覗くしかないんだよ」
「山田ちゃんの言う事って、どこまで冗談でどこまで本気だがわかんない・・・」
大体こいつらが食いに行くものっていまいち腹持ちが良くなくって、高いんだよな。
「どうせ今流行りのタピオカミルク飲みに行くんだろ?」
「もうタピオカは古いわよ」
食い物に『新しい』も『古い』もねーだろーが。
俺は今日の労働を終えて、ナオミさんのアパートに戻る。
レベルが上がって多少は生き物の気配には鋭くなってきた。
何者かに尾行されている。
・・・しかし下手な尾行だな。
付いてくる、来ないに関係なくスーパーマーケットに寄る。
スーパーマーケットは夜9時まで開いている。
まぁ、スーパーマーケットまでは付いて来ないだろ。
でも外で待ってる可能性もあるよな。
違う出口から逃げよう。
俺はスパゲティの乾麺とモヤシを買ってサッサとスーパーの裏口から出る。
急いで買い物した訳じゃない。
買い物しようにも金がなかったんだ。
俺は裏口から出る。
どうにか尾行をまけた。
一体何だったんだ?
まぁ良いか。
俺に疚しいところはない。
あ、あるか。
自販機の下で拾った小銭を警察に届けなかったわ。
それが原因で公安から追われるのか!?
・・・そんな訳ないか。
今日も今日とて、メイド喫茶に出勤する。
ようやくかかとが高い靴にも馴れてきた。
最初の頃はがに股、猫背で『お婆さんみたい』と言われたものだ。
「女はよくこんなモン履いて普通に歩けるな」
「山田ちゃんも女の子じゃない」
「普通名字に『ちゃん』は付けないモンだよ?
つーか『山田ちゃん』って誰だよ、気持ち悪い」
「貴女よ!
貴女がそう呼べって言ったじゃない!
いい加減本名教えてよ。
『山田』って本名じゃないんでしょ?」
「人に名前を聞くなら自分から名を名乗れ、無礼者」
「『ゆかり』は本名よ?」
「名乗るならフルネームだろ?」
「私のフルネームなんて知りたいの?」
「よく考えたらどうでも良いような・・・」
「『榎本ゆかり』よ」
「へ?何が?」
「何って私の本名に決まってるじゃない!
山田ちゃんの本名は?」
「中迫甚五郎」
「こ、個性的な名前ね」
「遠慮しないで『変な名前』って言って良いよ。
子供の頃の俺のあだ名は『チンコ』だからね」
「ち、チンコ!?」
「女の子が『チンコ』なんて下品な事を言っちゃダメじゃねーか」
「貴女だって女の子じゃない!
・・・でも山田ちゃんの口汚さの理由がちょっとわかったわ。
周りが、その、下品だったから口が悪くなったのね。
それに常に男の子に囲まれてたんじゃない?
それで『自分は男だ』って思い込んだ・・・」
「思い込むも何も男だし・・・」
「はいはい。
ようやく山田ちゃんの事がわかり始めたわ。
単純な興味から尾行なんかもしたけどね。
山田ちゃん気づいてたんじゃない?
何回か尾行したけど、その度に見失ったからね。
アレって尾行をまいてたんだよね?」
「尾行はゆかりお姉さまだったんだ。
声かけてくれれば良かったのに。
悪質なストーカーかと思って逃げちゃってたよ」
「声をかけたら尾行にならないじゃない。
・・・とは言え、少し怖がらせちゃってたみたいね。
ごめんなさい」
「いや、別に怖がってねーし。
でも、尾行されてたって事は自販機の下を漁ってた姿も見られてたって事だよな?
いつもあぁやって漁ってる訳じゃねーんだ。
3日に2日くらいしか漁ってないんだ」
「『3日に2日』って、ほぼ毎日漁ってるじゃない!
・・・と言うか、私、山田ちゃんが自販機の下を漁る姿を目撃してないわよ?」
「え?じゃあ昨日尾けてきてたのって・・・。
昨日はみんなでご飯食べて帰ったわよ。
山田ちゃんも誘われたんじゃなかったの?」
そうだ、昨日食事に誘われたんだった。
だったら一体昨日尾けてきてたのは誰だったんだ?
疑う訳じゃないが、一応ゆかりお姉さまのステータスを覗く。
榎本ゆかり
ジョブ:社長令嬢
社長令嬢!?
ハッ!もしかして『榎本』って!?
「失礼な事を聞くようですが・・・ゆかりお姉さまの名字の『榎本』ってもしかして『榎本財閥』と関係があったりは・・・」
「関係ないわよ」とキッパリ。
「あぁ、良かった・・・」
「『榎本財閥』はお父さんから弟に総裁の座が行くでしょうね。
『弟が正妻の子供じゃない』とか『長子はゆかりお嬢様だ』とか騒いでる連中からは野心が透けて見えるのよ。
それに乗って私が踊ってあげる筋合いはないわ。
私は跡目争いに興味はないわ」
『興味はない』って言ったって、否応なしに巻き込まれるだろう?
どうやらメイド喫茶で働いているのは、厳しい家に反発しての事らしい。
・・・予測でしかないけど。
『社長令嬢』のインパクトに気を取られて『適職:探偵』という項目を見逃していた。
探偵があんなに尾行が下手くそな訳がない。
現に俺はゆかりお姉さまに尾行された時、尾行に一切気づいていなかったのだ。
尾行はまいたんじゃない。
メイド喫茶で働いている最中、慣れないかかとが高い靴を履いているから『もう歩きたくない』って、ワープでナオミさんのアパートまで戻っていたのだ。
いきなり消えたように感じたゆかりお姉さまが『まかれた』と思っただけで。
勝手に『俺を尾けていたのはゆかりお姉さまだ』と安心していた。
そして事件は起こる。
「お疲れさんでした」俺はバイト後すぐにナオミさんの家にあった、ナオミさんの高校時代のスクールジャージに着替え、帰ろうとする。
「山田ちゃんって、聖華女子高なんだ」
「え?何で?」
「何でも何もそれ、聖華のスクールジャージでしょ?
しかも赤って事は今、高一なんだ?」
「そんな事までわかるの?」
「中学の時の友達で聖華に行った娘がいて、彼女から聞いたんだよ。
今、高一が赤いジャージ。
高二が緑のジャージ。
高三が青いジャージなんでしょ?」
「そうなのかもね」
なるほどナオミさんは19歳って言ってたもんな。
つまりナオミさんの世代が卒業して新一年生に赤いジャージが受け継がれた、と。
しかし夏だし下しかジャージ履いてないんだよ?
それで気づくとか目敏いな。
結構何を着ているか見られてるって事かも。
まぁ、いいや。
俺はいち早くメイド服を着替えている女の子を尻目にロッカーを出る。
これでもかなり慣れた方だ。
最初の頃、ムキになって女の子達が着替え始める前に着替えを終えて出て行こうとしていた。
でもそのうちに『誰も気にしていない』と気づいて一方的に意識するのがバカらしくなった。
結局、こっちも向こうも気にしないなら特に何の問題もないな、と。
向こうが気にするならこちらが気にしなくても問題だらけだ。
『心が女だ』『身体が男だ』なんていう事が度々問題になるようだが、結局『お互いに気にするか?』が全てらしい。
お互いに『嫌なモノはイヤだ!』って生理的な嫌悪感があるかどうかが全てらしい。
向こうが何とも思ってない。
こちらも気にするのがバカらしくなった。
だったら何も問題はないのだ。
メイド喫茶を出てしばらくすると尾行されている事に気づく。
相変わらず下手くそな尾行だ。
俺は尾行しているのは『ゆかりお姉さま』だと思い込んでる。
どうしようか?
アパートに招き入れて、お茶くらい出そうか?
確か、ティーパックがあったはずだ。
あれ?
ティーパックが正しいのか?
ティーバッグが正しいのか?
・・・どうでも良いか。
やっぱり、居候の分際で家主のことわりなしで人を勝手に上げちゃダメだ。
ここいらで『尾行に気づいてますよ、いい加減にしなはれ』ってキッパリと態度で見せるか。
ワープで消えるにしても一旦は尾行の視界から消えなきゃいけない。
堂々と尾行の目の前で消える訳にはいかないのだ。
そう決めた俺は少し小走りで公園をショートカットする。
人影が慌てて俺の後を追って来る。
下手くそか!
曲がり角を曲がったところで俺は電柱の影に身を隠す。
ちょっと驚かせてやろう。
尾行が曲がり角を曲がって走って来る。
「ばあ!」
俺は電柱の影から飛び出し、尾行してきた者をおどかす。
「ひい!」
そこには知らない男が腰を抜かしてへたり込んでいた。
俺は男に声をかける。
「誰だ、テメー?」




