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リクルーター  作者: 海星
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三十二話

 煽りじゃなくて本気で誰かわからない。

 御主人様(カモ)として過去に俺を指名してきた変わり者だったら見た事くらいはあるはずだ。

 それに俺は指名してきた御主人様(カモ)には愛称を付ける。

 「おう、角栄また懲りもせず来たのか?

 サッサと帰れ!」とか。

 「栄作、テメーはここに来てる暇があったらオナニーみたいな文章書け。

 物書きなんだろう?」とか。

 だからもし過去に指名されているなら、これだけ特徴的な男に愛称と言う名の蔑称をつけていない訳がない。

 愛称を付けるなら『ヨーダ』と言ったところか。


 「お、お前が来てから『マーメイド』の一番人気がゆかりちゃんじゃなくなったんだ!」

 『マーメイド』というのは俺がバイトしてるメイド喫茶の事だ。

 「ゆかりお姉さまは別に一番人気に拘ってねーぞ?

 無茶苦茶金持ちの娘だからな。

 むしろ俺が『マーメイド』に溶け込んだのを喜んでるくらいだ」

 「お前に何がわかるんだ!」ヨーダが激昂する。

 「むしろテメーに何がわかるんだよ?」

 「変なキャラ付けしやがって。

 何が『俺』だよ!?

 そんなに人気が欲しいのか!?」

 「いや、全くいらない。

 時給さえもらえれば他はなんにもいらない」

 つーか、俺の口調はキャラ付けだと思われてるのか。

 まぁ、思われてもしょうがないかな?

 『私はバナナ星のお姫様です』って言ってる女の子いるもんな。

 ちょっと話したら茨城出身だとか言ってた。

 茨城に『バナナ星』て地名がない限りアレはキャラ付けだよな。

 ちょっと待て。

 ゆかりお姉さまもキャラ付けしてるんじゃないのか?

 「おい、ゆかりお姉さまが何て言ってたか聞かせてもらえないか?」

 「パパとママが事故で亡くなって、幼い弟と二人肩を寄せあって生きてるんだろ?」

 弟とは周りを巻き込んで骨肉の争いをしてるんじゃないのかよ!?

 つーか両親を殺すな!

 「父親は殺しても死なない」って言ってたじゃねーか。

 「テメーの『人を信じる事』は美徳だとは思うけどな。

 あんまり信じ過ぎるとダークサイドに落ちるぞ。

 信じるのはフォースだけにしとけな?」

 メイド喫茶に勤務して思った。

 真実は残酷だ。

 御主人様(カモ)が入れあげているメイドには当たり前に彼氏がいたりする。

 『いらっしゃいませ御主人様!』とか言っておきながら、後で「アイツまた来たよ」なんて陰口叩いてるメイドも少なくない。

 そんなのを見ているから「御主人様(カモ)には素で接してやろう」なんて思っている。

 そしてそれが何故かバカ受けした。

 「来るんじゃねえ」

 「金の無駄だ」

 「鬱陶しい」

 「近寄るな」

 「死んで詫びろ」

 御主人様(ブタ)達は大喜びだ。


 基本的に大喜びのはずなのに、たまに俺を『親の仇』のように睨む御主人様(カモ)がいる。

 他に『推しのメイド』がいる御主人様(ブタ)だ。

 「俺の何が気に入らないんだろ?」なんて思ってたけど、そういう事か。

 確かに俺がいなければゆかりお姉さまが一番人気のメイドだっただろう。


 「これはキャラじゃなくて、本気でテメーの事『別に死んでも良い』と思ってるよ」と俺。

 「メイドがそんな事、本気で考える訳ないだろ!?」

 確かに本物のメイドはそんな事は考えないかも知れない。

 でも俺達は所詮『なんちゃってメイド』だからね。

 ここでコイツの目を醒まさせるのは『マーメイド』の営業妨害だろうか?


 「もう少し我慢してくれよ。

 俺が働くのは8月一杯だから。

 バイト代が入ったら『マーメイド』から消えるからさ。

 そうすればゆかりお姉さまが再び人気トップに戻るからさ」

 「お前みたいに金の為にメイドやってるヤツが業界をダメにするんだ!」

 「たかが御主人様(カモ)が何で業界の将来を憂いてるんだよ?」

 「どうせ金が必要なのだってお洒落の為に・・・」御主人様(ヨーダ)は言いかけて、俺の格好を見る。

 スクールジャージとナオミさんが寝間着代わりに使ってたダボダボのTシャツを着た少女が目の前にいる。

 出勤するために朝『マーメイド』に行くと、ゆかりお姉さまが「ちょっとは髪の毛を整えなさい!」と髪の毛をセットしてくれる。

 ついでに頼んでもいないのに軽くメイクもしてくれる。

 つまりメイド喫茶に来る御主人様(カモ)達は普段着の俺を知らない。

 「俺はお洒落には興味ないんだよ。

 犯罪じゃなく外を歩き回れる格好なら別に構わない」

 「ウソつけ!

 だったら何でメイド喫茶で働こうと思ったんだよ!?」

 「強引にスカウトされたんだよ。

 まぁ金は必要だった。

 自販機の下を覗き込んだりしてたからな」

 「・・・そんな話信じるもんか!」

 御主人様(ヨーダ)はナイフを懐から抜き構える。

 あ、引くに引けなくなってやけくそになってるパターンだ。

 「・・・にしてもナイフを常備してるって事は最初から俺を殺すつもりはあった、と?」

 「このナイフはゆかりちゃんを護る為に持ってたモノだ!

 今だって、ゆかりちゃんを脅かす『山田』を成敗するためにこのナイフを構えてるんだ!」

 「やめとけ。

 ゆかりお姉さまは自分を指名してる御主人様が凶行に出るのも、自分が教育したメイドが刺されるのも望んじゃいねーはずだよ」

 「何でそんな事がわかるんだ!」

 「御主人様(ヨーダ)よりゆかりお姉さまと毎日接してるからだよ。

 俺の髪の毛をセットしてくれたのも、メイクしてくれたのもゆかりお姉さまだ。

 ゆかりお姉さまは俺に『家に遊びに来い』っていつも言うんだよ。

 いつも俺を控え室で着せ替え人形にしようとするゆかりお姉さまのテリトリーには入りたくないから断ってるけどな」


 何とか御主人様(ヨーダ)を説得出来ないものか。

 追い詰められるほどコイツは凶行におよびそうだ。

 「ここで止めるなら『何もなかった』事にする。

 御主人様(ヨーダ)が『マーメイド』に来ても、俺は何も言わないし、知らん顔をする。

 だいたい俺が『マーメイド』を辞めるまで、一月もないんだ」俺は御主人様(ヨーダ)を宥めようとする。

 「ぼ、ボクを『ヨーダ』と呼ぶな!」御主人様(ヨーダ)は激昂する。

 しまった、どうやら『ヨーダ』は地雷だったらしい。

 しょうがない。

 俺が取り押さえるしかないようだ。

 

 コイツが手斧を持って襲いかかってくるゴブリンの群れより戦闘力が高いとは考えられない。

 ナイフだって『果物ナイフ』に毛が生えた程度の代物だ。

 俺が気をつけなきゃいけないのはジャージに傷を付ける事だ。

 だってジャージは一着しかないし、明日から裸で外に出る事になりかねない。

 「キエエエエエエエ」ヨーダが怪鳥のような奇声を上げてナイフを振り回しながら突っ込んでくる。

 見える、俺にも敵が見えるぞ!

 俺は男の手首を軽く蹴り上げる。

 怪我を負わせちゃいけない。

 そうしたら最悪警察沙汰になってしまう。

 何も悪い事はしていないが、警察に目をつけられたらこれから行動しにくい。

 それにこれからベガやケイみたいな異世界人を日本に連れて来る可能性がある。

 彼女達に疚しい事はないが、日本の法律に照らし合わせたら『不法滞在』だ。

 俺が警察にマークされるのは不味い。

 手首を蹴り上げられた男はナイフを手放す。

 バカ!それはお前にとって唯一の武器だろうが!

 この程度の衝撃で手放してどうするんだよ!?

 男が手放したナイフが緩い放物線を描いて俺の方へ飛んで来る。

 マジか!

 俺は紙一重でナイフを・・・かわせなかった。

 ナイフは俺の履いているジャージとTシャツをかすった程度に切りつけた。

 あっぶねー!

 この野郎、死んだらどうしてくれるんだ!?


 Tシャツは脇腹のところに少し穴が空いた。

 まぁもう二度と着れないだろうが今日一日着る分にはそんなに問題はなさそうだ。

 問題はTシャツの下の切られたジャージの部分だ。

 ジャージで切れた部分は腰の部分だ。

 まぁ大した事はない・・・と思っていたらジャージのズボンがストンと落ちた。

 どうやらジャージの腰の部分、ゴムが入っている箇所がナイフで切られたらしい。

 ダブダブのTシャツのお陰でパンツ丸出しにはならずに済んだ。

 「な、何しやがんだ!?」

 俺は咄嗟に男の側頭部に回し蹴りを入れた。

 あ、力加減間違えた。

 死んだかな?

 「み、見えた・・・」男は崩れ落ちる瞬間、そう呟いた。

 何を見られたかは考えないようにしよう。

 なんにしても死んではいないようでよかった。

 俺はアイテムボックスの中からポーションを取り出すと、倒れている男の口から無理矢理飲ませた。

 どうやら男に負わせた頭部への打撲も消えたみたいだ。

 俺は道路の隅に男を寝っ転がらせる。


 しかし誰にも見られずに帰りたい。

 今の俺は端から見たら痴女みたいな格好だ。

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