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リクルーター  作者: 海星
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三十話

 「良く似合うわ!」とスーツの女性。

 「だからメイドは無理だって言ったじゃねーか!」

 「何が無理なの?」

 「言葉遣いとかも直せねーし」

 「そんな言葉遣いのメイドが何人もいたらダメだけど一人だけならバリエーションの一部よ!」

 「『メイド』ってアレだろ?

 逆を『御主人様』とか言う例のアレだろ?

 無理だから!

 知らない人を『御主人様』とか敬えないから!」

 「大丈夫!

 私達も敬ってないから!

 形だけだから!」

 「断言するな!」

 「何で?

 事実よ?

 口じゃ『御主人様』とか言いながら、頭の中じゃ『コイツは金、コイツは金・・・』と自分に言い聞かせているわ。

 客商売に限らず『人と人』を基本とする仕事をしてる人は誰も彼も客を金として見ているはずよ?」

 「そうだとしても、それをこれから働くヤツに言うなよ!」

 「ありがとう!」

 「え?

 何が?

 何を言ってるの?」

 「『これから働く』んでしょ?

 一緒に働いてくれるんでしょ?」

 「そ、それは『言葉のあや』ってヤツで・・・」

 「早速貴女には仕事に入ってもらうわ!」

 ・・・まぁ金が必要なのは本当だ。

 1日我慢して『なんちゃってメイド』をやろう。

 「『客を金だと思え』って言う以上、金の支払い方法はハッキリさせて欲しいんだけど。

 俺は給与振込口座なんて持ってねーぞ?

 それに時給の話も聞いてない。

 『時給650円』じゃ働かねーぞ?」

 「そうよね。

 時給は1500円払いましょう。

 あと、給与振込口座がないなら、給与は現金で手渡ししましょう!

 給与は20日締め月末払いね」

 「ちょっと待て。

 今日は何日なんだ?」

 「何を言ってるの?

 今日は8月3日よ?

 だから貴女だって夏休みなんでしょう?」

 あ、俺、女子高生だと思われてる。

 元の身体の持ち主が何歳かはハッキリわからないけど、そう見えるんだろうな。

 それは大した問題じゃない。

 問題は〆日まで17日、支払い日まで27日ある事だ。

 つまり今月一杯、メイドをやらなきゃいけないって事だ。

 正直、今日の給料を受け取ったらそのままバックれるつもりでいた。

 無理矢理連れて来られて、騙すみたいに強引に働かされるんだ。

 『騙し騙されの世界』の話だろう。

 しかし騙されているのは俺の方だった。


 「接客の基本を教えるわ」

 ビラを配っていた少女が言う。

 どうやら彼女が俺の教育係のようだ。

 「よろしくお願いします、先輩」

 教えてくれるんだから、ある程度敬意は払うべきだろう。

 ぶっちゃけ『仕事』と割りきらないと、こんな茶番はやってられない。

 「『先輩』じゃないわ。

 このメイド喫茶じゃ目上の人は『お姉さま』って呼ぶのよ」

 狂ってる・・・何が悲しくてこの小娘を『お姉さま』って呼ばなきゃいけないのか。

 確かにこの肉体が何歳かわからない。

 でも俺が男だった時の年齢はこの小娘を『お姉さま』って呼ぶほどガキじゃない。

 少なくとも同い年くらいだろう。

 「この『姉妹制度』、何とかならんすかね?」

 「ならないわね。

 メイドが『お姉さま』って言うのを見に来てる御主人様が多いのよ。

 ウチのメイド喫茶は『マジ恋勢』の御主人様がほとんどいないのが働いてる娘にとっては評判が良いのよ。

 でも『百合好き』が圧倒的に多いのよ。

 他の呼び方をして御主人様達をガッカリさせちゃいけないわ」

 男ってヤツは!

 ・・・いや、俺も『男である事』を止めたつもりはないけども!

 「だったら俺は先輩の事を何て呼べば良いんだ?

 他にも『お姉さま』は沢山いるんだろ?」

 「私の事は『ゆかりお姉さま』って呼べば良いわ」

 「そんな赤じそのふりかけみたいな源氏名なの?」

 「『源氏名』って・・・風俗じゃないって言ってるでしょう?

 本名よ!」

 「本名を名乗らなくちゃいけないの?」

 「そんな事ないわよ。

 別にニックネームを名乗ってる女の子も多いわよ」

 意地でも源氏名とは言わないらしい。

 「じゃあ『山田』ってニックネームを名乗る事にするよ『若菜お姉さま』」

 「『ゆかりお姉さま』よ!

 いい加減、まぜご飯おにぎりから離れなさい!

 それにしても『山田』って・・・。」

 「名字はダメ?」

 「ダメじゃないけど。

 普通ニックネームって言ったら名前じゃない?

 百歩譲って名字にするとしても『山田』はないでしょう?

 御主人様は貴女の事を何て呼べば良いの?

 『山田ちゃん』?」

 「好きに呼べば良いと思うよ?

 何なら『ミスタートリプルスリー』とでも呼んで?」

 「その『山田』なの!?

 何で『ミスター』なのよ!?

 貴女、自分が男だと思ってるの!?」

 「・・・それに関してはノーコメントとさせてもらうよ」

 「意味深!」

 「それはともかく覚えなきゃいけない事を教えてよ『のり玉お姉さま』」

 「だからふりかけから離れなさいって!

 『ゆかりお姉さま』よ!

 まぁ良いわ、じゃあ御主人様の"帰宅"の時の挨拶から教えるわね」

 「帰宅?

 まずは"来店"の時から教えてよ。

 カモが帰る時なんて『とっとと帰れ』とでも言えば良いんでしょ?」

 「『御主人様』の事を『カモ』なんて絶対に言っちゃダメよ!」 

 「わかった、『金ヅル』って呼ぶよ」

 「それはもっとダメ!

 ・・・というか、勘違いしてるわね。

 "帰宅"って言うのは『御主人様』を『お客様』としてみた時『来店』の事よ。

 メイド喫茶に来た御主人様に私達は『お帰りなさいませ』って言うのよ。

 後は・・・」

 ・

 ・

 ・

 ・

 俺は『ゆかりお姉さま』から"接客のなんたるか"を学んだ。

 「山田ちゃん、中々の強敵ね」

 「『山田ちゃん』って誰やねん!」

 「貴女よ!

 貴女がそう呼べって言ったじゃない!」

 「そんな事言ったっけ?

 それよりスカートが短すぎないか?」

 「そういうメイド服なのよ。

 恥ずかしい?」

 「いや、スカートが短い言葉は全く恥ずかしくない。

 メイドの格好をしなきゃいけないのが赤っ恥だけど」

 「何で?

 メイドの格好可愛いじゃない?」

 「可愛い物が好きでも、可愛い格好を『自分がしたいか?』と言われたら、それは別の話じゃないか?」

 「それは確かにそうかもね。

 『可愛い物が好き』って女の子が"可愛い格好"をするかといったらそれは話が違うものね」

 「全然可愛い物好きじゃないんだけどね」

 「じゃあ何が好きなのよ?」

 「旨いモン」

 「食いしん坊か!」

 「食いしん坊だよ」

 そんなこんなでついにメイド喫茶の開店時間になった。


 「お邪魔するよ」初めてのカモ・・・いや御主人様だ。

 「邪魔するなら来んといて」と俺。

 「あ、じゃあ帰るわ」

 「もう来ないでねー」

 

 「ふう、初めての御主人様も何とか追い返したぜ・・・」

 「追い返しちゃダメでしょう!」

 「えー、でも接客したくないし」

 「『接客したくない』なら何でメイドになったのよ!」

 「ゆかりお姉さまに無理矢理連れて来られたから・・・」

 「本音を言っちゃダメ!

 山田ちゃんは『メイド服に憧れてメイド喫茶で働き始めた』のよ!」

 「ただの『嘘つき』じゃねーか!」

 「『人を傷つけない優しい嘘』は良いと思わない?」

 「確かに少しくらいの嘘なら良いかも知れないけど嘘ばっかりじゃねーか!」

 「その嘘が御主人様を喜ばせるのよ。

 山田ちゃんの好きな食べ物は?」

 「とろろ昆布」

 「イチゴでしょう!」

 「別に嫌いじゃねーけど美味いイチゴは高いし。

 イチゴはコスパが悪いよ」

 「だから御主人様を喜ばす為の嘘は"嘘じゃない"のよ!」

 「何で野郎共を喜ばせなきゃいかんのだ?」

 「『メイド喫茶がそういうところだから』よ!」


 俺は何故かメイドとしてそこそこ人気が出た。

 「この"クソ御主人様"!

 無駄遣いしてんじゃねえ!

 こんなところに来るよりも良いモンでも食いに行きやがれ!」

 「はい!山田様!」と御主人様(カモ)

 「誰が『山田様』だ!」

 「無茶苦茶よ・・・」教育係のゆかりお姉さまが頭を抱える。

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