二十九話
聞くと女の子達は色々な所で拐われたらしい。
それだけ手広く山賊が活動している、という事だ。
ベガは俺が山賊を退治せずに戻ってきたのが不服らしい。
まぁ、待て。
ギルドマスターに山賊の悪行を女の子達から話させている。
程なく『山賊討伐』のギルド直々の依頼が大々的に冒険者ギルドの掲示板に貼り出される。
多くの冒険者達が掲示板の前に群がっている。
間もなく山賊のアジトに多くの冒険者が押し寄せるだろう。
震えて眠れ。
しかしこの女の子らはどうしよう?
家族や知り合い達は殺されて、帰る宛すらないんだよな。
ギルドマスターに聞いたら「こういう場合が一番厄介だ」との事。
小さい子供であれば、里子として育てられることも孤児院に入る事も多いが、ある程度大きな子の場合・・・孤児院にも入れない、里子として欲しがる人もいない、仕事を覚えるには遅いから良い奉公先も見つからない。
こういった若者が生きる為に裏社会や夜の街に落ちていくそうだ。
「後は知らないよ、勝手に生きて勝手に死ね」とは俺は言えない。
この女の子達が『適職』に付けるようにしばらく面倒を見よう。
『適材適所』のスキルがある事だし。
女の子の一人に『料理人』の適職を持っている女の子がいた。
俺はギルドマスターに教えてもらった定食屋に女の子を連れて行く。
「この子に料理を叩き込んで欲しい」
「ウチに人を雇う余裕なんてないよ」
「雇わないで良い。
教えてもらうんだから、金を払うのはこちらの方だ。
二週間、料理の『いろは』を叩き込んで欲しい」
こういう風に言ったのには理由がある。
定食屋は日本から来た店主の祖父が始めたらしい。
だとしたら日本の職人にはありがちな『見て覚えろ』って料理人の育成方針もあり得る。
だとしたら定食屋に彼女を放り込んでも、一人前の料理人になるのは十年後かも知れない。
この異世界で生まれ育った人間がその料理人育成方針に忍耐強く付き合う可能性は低い。
あれは一人前になるビジョンが見えていて、初めて耐えられる育成方針だろう。
「定食屋の近くで店をやられたら商売敵になっちまう」
「それは心配しないで大丈夫だ。
この子は街には住まない。
だからこの定食屋の商売敵になる事はあり得ない。
この女の子に料理を教えてくれるなら店主のおじいさんが残した『再現不可能なレシピ』について俺が再現を手伝う」
「そんな事が出来るのか!?」
「恐らく可能だ。
なぜならおじいさんと俺はきっと同じ出身地だからだ。
料理は出来ない。
でも『足りない食材』ならきっと手に入ると思う」
「・・・交換条件だ。
じゃあどうやっても手に入らなかった『ナツメグ』が手に入ったらこの女の子に料理を教えよう」
しかし『ナツメグ』とは。
どこで手に入れるんだろうか?
俺はポケットの中の小銭をかき集める。
異世界の硬貨は銅貨も銀貨も金貨もそこそこある。
でも日本円は463円しかない。
何とか牛丼の並は食べれそうだ。
元々日本円なんか持ってなかった。
自販機の下から金を拾わなかったら実質無一文だ。
ナツメグは持ち金で買えるんだろうか?
異世界ではちょっとした小金持ちな俺も日本では貧乏と良いところだ。
まあここにいてもしょうがない。
日本にワープしよう。
一旦女の子を連れて小屋の建築予定地にワープする・・・前に大切な事を女の子に確認する。
「名前、何ていうの?」と。
「私の名前はレナ」
これまた日本でも通用する名前だ。
俺とレナは一旦ベガの元に戻る。
一瞬目を疑う。
「小屋が出来ている」
「出来てないわよ。
これは取り敢えず作った掘っ立て小屋らしいわよ」とベガ。
プレハブ小屋みたいなモノか。
そりゃ小屋が建つまで大工職人もベガも野宿って訳にはいかないもんな。
「それはともかく・・・ナオミは?」
「今日はまだ戻って来てないわよ」
そうか、部屋のどこに財布があるか聞こうと思ってたのに。
五百円弱で買うしかないな。
買えるかも知れないぞ?
「高そう」とは言え、所詮は調味料。
何だかんだ言って五百円はしないだろう。
早く女の子達の身の振り方を決めなきゃいけない。
取り敢えず一人目の進路を決めよう。
ナオミがいるんだったらナオミも連れて日本に行こうとは思っていた。
ワープするのはナオミの部屋だし、日本に滞在中は部屋を拠点として利用させてもらうし。
ケイを連れて行った時もナオミの服を勝手に借りた。
だって異世界の服と靴だと日本だと怪しまれるんだもん。
ナオミがいないんだったら俺一人で日本へ行こう。
地球の時間と異世界の時間は連動していない。
地球で時間を過ごしても異世界では瞬きしている時間しか経過していない。
でもナオミが修行を終えて戻って来るのをこちらの世界で待っていたらこちらの世界では時間は経過してしまう。
俺は日本のナオミの部屋にワープした。
きっとこの部屋には小銭がある。
でもそれを勝手に使うのは違う気がする。
部屋の近所にあるスーパーマーケットに『ナツメグ』を買いに行く。
「た、高い・・・」
1200円だと・・・、しかもそれでもかなりの安売りだ。
これ以上の安売りはどこへ行っても見込めない。
とにかくあと800円、何とかして手に入れるしかない。
自販機の下を覗く。
152円見つけた。
意外にチョロいのかも・・・と思ったのも一瞬。
そんなに金なんて拾える訳がない。
日の高いウチから自販機の下を覗き込んでいる俺はかなり変な人として見られているらしい。
遠巻きに「可哀想に・・・」なんて言われている。
同情するなら金をくれ。
いや、マジで1000円下さい。
四つん這いになって自販機の下を見る俺に声をかけてくる奇特な人がいた。
「貴女、お金が必要なの?」
「悪い事をしないで綺麗な金が必要なんだよ」
「『悪い事はしない』って・・・。
拾ったお金を警察に届けないで猫ババするのは充分悪い事よ」
「なん・・・だと・・・」
「そんな事しなくても、真っ当にお金を稼がない?」
「そういった勧誘が『真っ当』だったためしがない」
俺は胡散臭そうに声の主を見る。
声の主は俺と同じ年頃の女の子だった。
俺は少し驚いた。
驚いた理由は女の子の格好がメイド服だったからだ。
「今、私はバイト中なのよ。
チラシ配りの最中って訳。
この格好を見れば私がどんなバイトをしてるかわかるわよね?」
「メイド風俗・・・」
「違うわよ!
メイド喫茶よ!」
女の子は心外な事を言われたように膨れ面をするが俺にはどう違うのか良くわからない。
「俺は未成年だから、風俗はちょっと・・・」
「だから風俗じゃないって行ってるじゃない!
ホラ、メイド服とか可愛い格好とか興味ない?」
「ない。
そんな事より小銭が俺には必要なんだ」
「そ、即答ね」
「何で俺にメイドをやらせたがるんだよ?」
「配ってるチラシの隅にも書いてあるでしょう?
今、メイドのバイトを募集してるのよ!
メイドのバイトをお店に連れて行くと、私は金一封が受け取れるのよ!」
なるほど。
ある意味、魂胆がハッキリしてた方が信じられる。
俺はコソコソする必要はないが、記憶喪失ってことになってて、バイトする時に説明するのが面倒臭い。
だから金稼ぎをする時が面倒臭い。
バイトしようにも履歴書に学歴も職歴も書けないのだ。
だからバイト先からスカウトしてもらうのは正直有難い。
しかし、メイドはやりたくないぞ。
「金は必要だ。
でもメイドはやりたくない。
どうだろう?
掃除スタッフとか、厨房スタッフなら喜んで引き受ける。
それで雇ってくれないか?」
「雇う、雇わない、は私らみたいなバイトのメイドが判断する事じゃないわ。
取り敢えず、私がバイトしてるメイド喫茶に来てみない?」
「わかった」
俺は女の子についてメイド喫茶に行った。
裏口から入るとそこには俺より少し上だろう、二十代中頃に見えるスーツ姿の女性と目が合った。
女性は俺の全身をじろじろと眺める。
女性はボソリと一言「・・・採用」と言った。
「良かったわね!
貴女、採用よ!」俺をここまで連れて来た女の子が俺の手を握ってピョンピョン跳びはねる。
?????




