二十七話
ホビットの職人達と一列になり手を繋ぐ。
別に仲良しな訳じゃない。
ワープする時手を繋がなきゃいけなのだ。
しかし疑問はある。
繋がっていたら良いんだろうか?
直接手を繋がなくて良いんだろうか?
直接手を繋がなきゃワープが出来ないなら、何回にも分けて最大二人と両手で手を繋いでワープをすれば良いんだし『何回もワープしなくちゃいけなくて面倒臭い』という以外に何も問題はない。
連れて行くホビットは全員で6人。
・・・アレ?
7人連れて行く事になったの?
いや、別に構わないんだけどさ。
一応、『世界旅行』は世間の人には秘密、って事になってるんだから勝手に人数増やすのはちょっとルール違反だな。
「悪いな、確かに連れて行く職人は6人なんだけど、見習いを1人連れて行く事を言うのを忘れてた」とホビット。
「『忘れてた』はわかったけど・・・。
この娘、ホビットじゃないよね?」
「よくわかったな!」
そりゃわかるよ。
だってその娘は確かに背は低いけど、ホビットほど背は低くないし、それ以上にヒゲがはえていない。
当たり前か、女性なんだから。
そういやホビットの女性っているのか?
ヒゲははえてるのか?
「この娘は街道で家族と乗り合い竜車」に乗っていたところを山賊に襲われたのさ。
可哀想に家族や乗り合い竜車にいた他の人らは山賊に殺されちまったみたいだが、若い娘2人は山賊の砦に連れ去られたって話だ。
「 命からがら脱出したこの娘を俺らが『大工職人見習い』として面倒見てるのさ!」とホビット。
うん、そりゃ構わない。
人助けは美しい。
でもこの娘のステータスを盗み見る。
この娘の『適職』は『鍛冶士』だ。
「しかしルイは全く仕事を覚えない。
覚えが悪すぎる・・・」
そりゃそうだろう、職業適性がないんだから。
合っていない職業だって何とかそれなりにこなせる。
だが『この職業だけは絶対にダメだ』という職業があるらしい。
それがこのルイという少女にとっては『大工職人』らしい。
俺はベガに聞く。
「大工職人ってホビットじゃなくても出来るの?」
「大工職人は種族固有のジョブじゃないのよ。
確かにホビットには『大工職人』が多いけど、違うジョブのホビットもいるし、他の種族でも『大工職人』になれるわ。
『大工職人』は『鍛冶士』とは違うのよ」
「え?『鍛冶士』は固有の種族しかなれないの?」
「基本的にはその通りよ」
「『基本的』って言うと?
例外もあるの?」
「『鍛冶士』はドワーフしかなれないんだけどね。
先祖にドワーフの血が混じっている場合、極稀に先祖返りして『鍛冶士』の適性のある子が産まれてくるらしいのよ」
なるほど、それで。
「ドワーフが『鍛冶士』にしかなれないように『鍛冶士』の適性を持って産まれた他種族の者は『鍛冶士』にしかなれないらしいのよ」
なるほど。
この娘はいくら『大工職人』の修行をしても絶対に『大工職人』にはなれないって事か。
どうする?
『適材適所』のスキルを持っている者の責任として「アンタ、『大工職人』には向いてないよ」って言うべきなのか?
それとも必死でホビット達に恩返ししようとしてる少女の善意に水を差すべきじゃないのか?
取り敢えず様子を見よう。
俺はベガと『大工職人』達と手を繋ぎ、ネクロマンサーの小屋の近くの森にワープする。
森は小屋を建てるスペースを切り開かなくても、既にゾウのワンダが森の木々を薙ぎ倒している。
「この倒された木々を使え、って事か?」
「生木は使いにくいぞ。
せめて少しは木材を乾燥させないと」
ホビット達が色々言っている。
「この木々は全て貴方達にプレゼントするわ。
貴方達の集落には私達が『アイテムボックス』を使って運ぶ。
乾燥させて好きに使いなさい」とベガ。
そりゃホビット達が「ベガのためならタダ働きも厭わない」って言ったって実際にタダ働きさせる訳じゃないよな。
「あ、あの!」後ろから声をかけられる。
ルイと言う少女だ。
声をかけようとは思っていた。
でも何て声をかければ良いかわからなかった。
だって「この仕事、向いてないよ」なんて突然言えないじゃん。
「何て声をかけようか?」と悩んでいたんだ。
まさか少女の方から声をかけてくるとは思わなかった。
「一緒に捕まってた子を助けてくれませんか?」
「『捕まってた』って山賊のところ?」
「そうです」
「そうは言っても俺は山賊なんて倒せないよ?」
「多分貴女だったら山賊なんて敵にはならないと思うわよ」とベガ。
「山賊集団がゴブリンの集落より手強いなんて事があり得ると思う?
しかも貴女は『悪名付』のオーガを討伐したのよ?
少しは自分に自信を持ってみたら?」
「そうは言っても・・・。
俺が強くなったのなんて偶然みたいなモノだし。
偶然俺より強い山賊がいる可能性だってあるじゃん」
「それは否定出来ないけど。
多分大丈夫だと思うなー」
「何で?」
「だって貴女より強かったら山賊なんてやらなくても普通に稼げるわよ」
「そういうモノなの?」
「そうよ、貴女だって冒険者として不自由なく稼げてるでしょ?
中途半端な強さしかないから山賊になったのよ。
しかもあのゴブリン集落殲滅依頼の当時より格段に強くなってるはずよ?
だって、北の岩山のキメラ退治を成し遂げたんだから!」
「あれは俺は何もやってないよ。
やったのはケイのテイムしている獣達だ」
「でもケイと同じパーティに貴女がいたのは間違いないわ!
貴女にはキメラ退治の時の経験値が入っているはずよ!
覚悟を決めなさい。
貴女は捕らわれの女の子を助けたくないの?」
「そんな訳ないじゃないか!」
「だったら女の子を助けられるのは貴女だけよ?
ここにはケイはいないんだから」
「だったらケイを連れてくれば・・・」
「事は一刻を競うのかも知れないのよ?
ケイを迎えに行く時間はないかも知れないのよ?
しかも、ケイが何かやっている可能性も『行かない』って言う可能性も0じゃない」
「わ、わかったよ!
俺が救助に行くよ・・・」
嫌々救助にむかう俺だったが、後から聞くとケイを迎えに行かなくて良かったようだ。
この時、ケイは冒険者ギルドの依頼でテイムビーストにモンスターを食べさせていて動けなかった。
「じゃあ怖くてイヤだけど山賊のアジトに案内するよ・・・」とルイ。
「その必要はないよ」
「?
どういう事?」
「俺が『そこに行った事がある人』と手を繋げば・・・って説明してもわからないか。
口で説明するより経験してもらった方が早いね」
俺はルイと少し強引に手を繋ぐ。
次の瞬間視界が暗転して、気付いたら目の前に砦がある。
砦の入り口には見張りの山賊がいる。
「お前ら、一体何だ!?」
「『何だ!?』と言われても・・・」
「おい!
この女、一昨日逃げ出した女じゃないか?
コイツ、何で戻ってきやがった!
もしかして捕まってる女を助けに来たのか!?」
ザコのクセに中々勘が良いな。
相変わらず敵のステータスは読めない。
ステータスを読むには、ある程度精神を集中してゆっくり相手を見る必要があるみたいだ。
覗くんであれば、相手の死角からこっそり覗く必要がありそうだ。
それとも訓練すれば敵のステータスを瞬時に見れるようになるんだろうか?
とにかくこの山賊の強さが良くわからない。
強いのか、弱いのかわからないのだ。
えーい、出たとこ勝負だ。
俺は山賊にモンゴリアンチョップをかます。
これ以上騒がれたら、山賊の仲間が集まってきそうだったからだ。
敵が集まってきて、どの程度の脅威になるかわからない。
でも一つだけわかっている事がある。
敵に俺達の存在がバレたら、捕まっている女の子に危険が及ぶ可能性が高くなる。
山賊に人間らしい感情なんてない事はルイの家族を笑いながら殺した話を聞いても間違いないだろう。
俺の放ったモンゴリアンチョップは山賊の両方の鎖骨を粉砕した。
良かった、山賊は泡を吹いて白目を剥いて倒れている。
死んではいないようだ。
「情けは無用よ。
ルイの家族だけじゃなく、沢山の人の命を奪ってきた連中なんだから。
生かしたらその後更に人を殺すわよ」とベガは言っていた。
どうせ今殺さなくても街に突き出せば処刑されて死ぬんだろうし、今から『山賊を取り押さえよう』と言うのと『山賊を殺そう』と言うのは大差ないだろう。
綺麗事を言うんじゃない。
俺にまだ人を殺す覚悟がないだけの話だ。




