二十六話
ホビットの集落にベガと俺とでワープする。
ケイは冒険者ギルドへ置いて来た。
ギルドマスターはケイの意外な部分に興味を示した。
「君の連れている獣の中に『モンスターを食べる獣』がいるんだって?」
「鰐や虎や北極熊はモンスターの死骸を食べるよ」
「だったら獣達に食わせたいモンスターの死骸があるんだよ!」
モンスターの死骸は討伐した時に処分するのが基本だ。
だがそれが出来ないシチュエーションなんていくらでも存在する。
例えば『他にまだいくらでも敵のモンスターがいる時』処分なんてしている暇なんてある訳がない。
モンスターの縄張りの中で焼却処分しようにも、火を炊いたら目立って仕方がない。
狭いダンジョンの中で、どんな空気が漂ってるかわからないで、松明だって使わずに光魔法を使ってるのに、火なんて炊ける訳がない。
だから、モンスターの死骸を取り敢えずアイテムボックスの中等で保管して後で処分しようとするケースが多い。
でも、結局処分する機会なんて訪れないまま、冒険者ギルドにモンスターの死骸を押し付けて行く場合があるのだ。
肉が美味しいモンスターならいくらでもどうとでもしようがある。
だが『こんなもんもらっても・・・』という肉の場合もある。
例えば近くに集落を作って異常発生したゴブリンなどだ。
ゴブリンの死骸は毎日山ほど持ち込まれる。
しかしゴブリンの肉を食うのはモンスターテイマーの使役しているモンスターだけだ。
その数も大して多くない。
残りは焼却処分するしかない。
アイテムボックスに入れておけばモンスターの死骸は瘴気を発しない。
でもアイテムボックスには容量がある。
その容量は『アイテムボックス』のスキルを持っている個人の能力に依存するが、毎日持ち込まれるモンスターの死骸にギルド職員の『アイテムボックス』の容量はパンク寸前だ。
というか、折角『アイテムボックス』という便利なスキルを持っているのに、肝腎の『アイテムボックス』の中身はゴブリンの死骸だらけでは職員が「辞めさせて下さい」と言うのもしょうがない。
ようやく持ち込みの『ゴブリンの死骸ラッシュ』が止んだのだ。
ここで一旦、パンク寸前の『アイテムボックス内』を綺麗に片付けたい。
「食べさせるのは良いけど、室内で食べさせない方が良い」
「????」
「ゴブリンの溜め込んでる『魔素』程度なら、そこまで巨大化しないかも知れないけど部屋は壊さないまでも部屋から出れなくなるかも。
あぁ、そうなったら私がテイムボックスに戻せば良いのか・・・」
「君は何を言っているんだ?」
ギルドマスターはケイが何のことを言っているのかサッパリわからない。
わからないが、取り敢えずケイは一匹ずつ獣を、先ず鰐を演習場に召還した。
演習場は広い。
冒険者と騎士団が合同訓練した時、この街にいる全冒険者と騎士団員を飲み込んで尚、演習が余裕を持って出来るだけの広さがある。
よく日本で使われる喩え、『東京ドーム四個分』の大きさがある。
だからどれだけ大きいモンスターテイマーのテイムモンスターも演習場では小さく見える。
「デカっ!」ギルドマスターは思わず叫んだ。
「これは何なんだ!
モンスターか!?
ドラゴンの亜種なのか!?」
「わかんない。
でもモンスターじゃない。
モンスターの使役は何度も試した。
一度も出来なかった。
これからも多分出来ない。
杏奈が言うにはこれは『ワニ』って生き物なんだって。
『クロコダイル』とも言うらしい。
だから名前は『クロコ』。
『クロコ』挨拶して」ケイが言うと『クロコ』がカパッと口を開けた。
「ヒィッ!
そ、そうか・・・。
それじゃここにモンスターの死骸を置いていくから処分、頼むよ」
「任せて。
『クロコ』食事の時間だよ。
好きなだけ食べちゃって」
それを聞くと『クロコ』はそれまでの鈍重さがウソのように俊敏に動くと山のように積み上げられたゴブリンを食い始めた。
「何と言うか・・・」ギルドマスターは絶句する。
目の前で地獄絵図のようなスプラッターな光景が繰り広げられているんだから無理もない。
『クロコ』はいくらでも食えるようだ。
でも「他の子の分も残しておいてあげて」と食事途中にテイムボックスの中に戻された。
結局、三匹の獣の食事は30分もかからなかった。
「これからもよろしく」とケイ。
「そ、それはこちらの台詞だ」と唖然としたギルドマスターが呟く。
場所は変わってホビットの集落。
何か俺警戒されてる?
歓迎されてない?
ベガと一緒にいるから攻撃されていないけど、どうやらホビットは人間にあまり良い感情は持っていないようだ。
「しかたないわよ。
かつて人間はホビットを奴隷として使役した歴史があるからね」
「それっていつの話?」
「えーっと、五百年くらい前の話かしら?」
「そんな昔の話!?」
「昔の話が風化するケースと、言い伝えとして更に尾ひれが付くケースがあるのよ。
片側が『そんな本当かどうかわからない話を』って主張しても、片側が『俺達は過去にお前らがした事を忘れない!』って主張するのは珍しくない話よ?」
そういうモノなんだろうか?
「にしてもベガは受け入れられてるみたいね」
「私が社会で受け入れられてないのがシンパシーを産んだのかしら?」
ベガは少しふざけて言う。
「いや、そうじゃない。
ベガ様、アンタは俺達の命の恩人だ」
俺とベガの会話に割り込んできたホビットがいる。
かなりの高齢のようだ。
ヒゲはほぼ全てのホビットが生やしている。
話しかけてきたホビットのヒゲは白く、眉毛もまた白く長い。
「『恩人』?
何があったの?」
「彼らの使える『治療魔術』じゃ治療出来ない伝染病がホビットの集落に蔓延したのよ。
偶然私がその治療薬を持ってたから彼に渡したって訳。
人間だったら『治療魔術』で簡単に治しちゃう病気よ?」
「我々が人間と交流を断絶している事はご存じのはず。
しかもその歴史は数百年にも及ぶ。
今更人間に頼る事は出来ない。
しかしベガ様は我々を助けてくれただけでなく、見返りを求めなかった!」
ベガは人が良いからな。
俺もその人の良さに助けられた訳だし。
しかし『ベガ様』ってイヤな感じだな。
何かサイコパワーを纏ってダイブして来そうだ。
「『見返りを求めない』と言われた後だと話し辛いわね。
実は今日は『お願い』があって来たのよ」
「『お願い』?
何なりと言って下さい!
老い先短いワシなんかの『命を差し出せ』と言うんであれば、喜んで差し出しましょう!」
「そんな物騒な『お願い』はしないわよ。
実は私が住む家を作って欲しいのよ」
「『ベガ様の家』?」
「それは構わないのですが・・・。
ベガ様の家は以前に森の中に我々が建てたはずでは?」
「折角建ててもらったのに申し訳ないんだけど、あの小屋は森ごと燃えてしまったのよ。
あそこにもう一度小屋を建ててもらおうにも『あそこに潜伏していた事』が既にバレてしまったのよ。
新しい場所に新しい潜伏先を作るしかないって訳」
「それは構わないのですが・・・お言葉ですがあそこ以上の潜伏先があるとは思えません。
強いモンスターが現れるあの森は『モンスター避け』の薬が作れるベガ様以外には恐ろしくて近寄れない場所でした」
「私もそう思ってたのよ。
『森ごと燃やされる』のは意外だったわ。
・・・でも、ようやく見つけたのよ。
『私の安住の地』を!」
「ほう。
詳しく聞きましょう」
「王国と『不可侵』の契約を結んでいる『ネクロマンサー』の根城の小屋がある森よ。
あそこであれば、追っ手も来ない」
「理屈はわかりました。
しかし我々ホビットはあの森に行けませんし、『不可侵の森』に踏み込んで、ネクロマンサー達と事を構えたくありません」
「あの森へはこの娘が連れて行くわ」
突然話を振られて俺は戸惑いペコッと頭を下げる。
「この娘が?
・・・まぁ百歩譲ってあの森へ行けるとしましょう。
しかしネクロマンサーの縄張りに勝手に小屋を建ててトラブルが起きない訳がありません」
「それが大丈夫なのよ。
ネクロマンサー達が所属している『冒険者ギルド』のギルドマスターがこの娘の後ろにいる。
そのギルドマスターが頼ってる冒険者が彼女なのよ。
ネクロマンサー達はギルドマスターには一目置いている。
そのギルドマスターと一緒にネクロマンサー達の小屋に泊まったのよ、彼女は」
「本当か!
し、信じられん・・・」
ベガは『自分も一緒に泊まった』という部分をわざとぼかした。
"杏奈の凄さ"をアピールした方がこの場合は得策だと思ったからだ。
その意図がわかったから俺は敢えてベガの言うことを黙って聞いていた。
「でもそれだけでネクロマンサーの小屋の近くに家を建てて良い理由にならないのでは?」
「そうね、確かにネクロマンサー達は人との交流を嫌う。
そのために危険な森の中で生活している。
森の中だったら人があまり来ないからね。
でも森の中は人が来ないだけじゃなく、自分達にも危険はある。
モンスターを遠ざける方法を私達が持っているとしたら?」
「ベガ様の薬ですか?」
「ネクロマンサーはただでさえ人間を信用してないのよ?
『お尋ね者』の薬なんか信用する訳ないじゃないの!
モンスター達が怖れて近付かない獣をテイムしている者がこの娘の仲間にいるのよ。
ネクロマンサー達にとってその娘の存在は大きいと思うわ。
だから近くに小屋を作っても嫌がられるどころか歓迎されるのよ。
しかもこの娘達の身内にネクロマンサー見習いがいて、この娘達がネクロマンサーに敵対しない事は保証されているのよ」
「なるほど。
だったら、ネクロマンサー達に受け入れられるかも知れませんな。
しかし小屋を建てるにも建材を確保しなくちゃいけません。
しかもその建材を小屋を建てる森まではこばなきゃいけない。
それは現実的じゃないんじゃ・・・」
「工具は全て私達が運ぶわ。
私達は『アイテムボックス』持ちよ。
しかも二人ともかなり容量の大きいアイテムボックスを持ってる。
職人全員の工具を運ぶのは訳ないわ」
「自分で使う工具くらいなら人に運ばせる職人はいません。
工具が揃わないんじゃない。
建材が、材木が揃わないのです」
「木材なら最高級の物をこちらで用意してあるわよ」
「え?そうなの?
いつの間に?」と俺。
「何を言っているの?
大量のトレントを狩ったのは貴女でしょう?」
いや、厳密に言うとトレントを倒したのは俺じゃないんだけど。
「トレントって建材になるの?」
「トレントは敵対しない限りは襲ってくる事はないのよ。
だからトレントをわざわざ狩る冒険者は少ない。
だからトレントの死骸は建材としてとても希少価値が高いのよ。
しかも軽くて頑丈、見た目も美しい。
普通、トレントは武器や防具に加工されて建材にまではならないのよ」
「おぉ!
トレント!
職人としては憧れの建材ですな!
トレントを触らせて頂けるのですか?
で、どれくらいのトレントを使わせて貰えるんですか?」
「そうね、小屋丸々トレントを使って構わないわよ」
「え!?
本当ですか?」
「良いのよね?」ベガが聞いてくる。
良いも悪いも・・・処分に困るゴミだと思ってた。
ゴブリンの死骸を放置して、モンスターを呼び寄せてしまった。
だから私は『産業廃棄物』のようにトレントの死骸を保存していた。
「いつかどのタイミングかで処分しなきゃいけない」そうは思っても、取り敢えず処分は後回しにしていた。
その結果、『アイテムボックス』の中に大量のトレントの死骸があったのだが。
幸い「トレントの死骸は武具として加工される」と聞いていた。
だから少しずつ処分していくしかないかな?、なんて思っていた。
まさかトレントが『職人の夢の建材』だとは思わなかった。
「こんなもんで良ければ好きなだけ・・・」
ホビットは食い気味に「本当ですか!?是非自分らにやらせて下さい!」と言った。




