二十五話
俺とケイは依頼を終えて街の冒険者ギルドへ戻る。
『デビルナッツ』の殻を討伐証明部位として出す。
そして『トレント』の幹も出す。
「枝でも良いか?」と思ったが、一体のトレントから何本枝が取れるかなんてわからない。
幹であれば一体に一つしかない。
「幹が2つも3つもある木はあるぞ?」
確かに木には幹が複数あってもおかしくない。
しかしトレントは中央の太い幹に人面があるモンスターだ。
幹は一つしかないらしい。
でも幹を持って来る、という事は『トレントを一体丸々持って来る』と言う事だ。
冒険者ギルドの応接室にトレントの死骸を次々と出している・・・途中でギルドマスターが音をあげた。
「ちょっと待ってくれ!
この部屋をトレントの死骸で埋め尽くす気か!?」と。
「でも出さないと討伐した証明にならないし」
「普通トレントは硬過ぎるから討伐はしない!
こちらから攻撃しないとやり返して来ないし!」
「そうは言ってもトレントの実、『デビルナッツ』はかなり害があるんじゃないの?」
「だからトレントが繁殖したら森ごと燃やすんだ。
確かに多くの森林資源は失われるが、背に腹はかえられない。
それにトレントは良い炭になるんだ」
「だったらトレント討伐は余計な事だった?」
「そんな事はない。
討伐が手間過ぎて『討伐しない』だけだ。
『デビルナッツ』に噛まれて普段は大人しいモンスターが暴れ出したり・・・放置したら街に害があるからしょうがなく火を放つんだ。
討伐はありがたい。
だが、これだけのトレントの死骸、しかもトレントの枝も幹もかなり高値で取引される。
これだけのトレントの死骸を引き取ったら冒険者ギルドは破産してしまう!」
「じゃあ、これらは引き取り拒否!?」
「そんな事はない。
ギルドだって手に入れた『トレントの枝』も『トレントの幹』も売り払う。
一時的に金銭は無くなるが取引後はそれまで以上の金銭を手に入れる。
問題は『今、そんな金はない』と言う事だ。
それに他の冒険者にも色々ギャランティを支払わなくてはいけない。
ギルドが一時的にでも『無一文』というわけにはいかないんだ」
なるほど。
別に俺は『今すぐ金が欲しい』と言う訳じゃない。
むしろ装備を整えた後だから「しばらく大金は必要ない」とも言える。
「それに一気に売ったら、折角の高級素材が値崩れするぞ?」
そういうものなのか?
そういうものなのだろう。
確かに俺はこの異世界の事は無知だ。
でもベガとケイが何も言わないのを見ると、おそらくギルドマスターの言い分は間違っていないんだろう。
俺はギルドマスターの言う通りトレントの死骸を三体ギルドに売り渡した。
ギルドマスターは金庫から白金貨六枚を俺に渡した。
俺は"一番価値のある硬貨"を『500円玉』くらいの価値かと思って、「何だよ、勿体ぶりやがって。もう少し売れば良かった」と心の中で悪態をついていたがベガとケイは驚きで固まっていた。
どうやら庶民が『白金貨なんて見た事がない』っていうのは珍しくないらしい。
白金貨は『一枚で10年間働かないで何不自由なく暮らしていける』金額だ。
「これだけあればしばらくは働かなくて大丈夫よね!?」とケイ。
今まで安月給でコキ使われてきたんだろうなあ。
「一体、白金貨二枚?」俺はギルドマスターに聞く。
「まさか。
ここには『デビルナッツ』の討伐報酬と、依頼達成報酬も加味された値段だよ。
それに依頼は『デビルナッツの間引き』だった。
それを『完全駆除』したんだから、多少のボーナス報酬は払ってるさ。
トレント一体で『金貨10枚』だよ」
ふーん。
ベガがそれを聞いて飲んでいたお茶でムセている。
『金貨20枚=白金貨1枚』
それを聞いたのはその遥か後だった。
夕方になったらナオミを迎えに行こう。
行かないでもナオミは他のネクロマンサー達と共同生活を送っているんだろうが、念のため。
異世界で日本人が生活しているんだ。
ちょっと心配じゃない?
夕方までやる事がない。
というか本格的にやる事がない。
そういえば俺には『使命』みたいなモノがない。
勝手に生きて勝手に死ねば良いのだ。
女神も言っていた。
『今のところ上手くいってる他の異世界にチートを持った異分子に介入して欲しくない』と。
つまり「お前はなにもしなくて良い。むしろ何もするな」と。
だから好きな事をすれば良い。
何をしようか?
取り敢えずお決まりのスローライフでも送ろうか?
って言っても、街では送れないよな。
ベガはお尋ね者だし。
人からコソコソ逃げ回るスローライフなんて楽しくもなんともない。
そうだ!
森の中に小屋作ろう!
そこで悠々自適な生活を送ろう!
木材は死ぬほどある。
だってトレントの死骸は死ぬ程あるんだし。
そうと決まれば『善は急げ』だ!
「ケイ、家作れる?」
「・・・逆に作れると思う?」
そりゃそうか。
心あたりは・・・そういえばベガは出会った時、一人で森の中の小屋に住んでたな。
もしかしたら小屋を自分で建てたのかも!
聞いてみないと!
「作れる訳ないじゃない。
森の中で衰弱して倒れてたホビット族看病したら、お礼に小屋作ってくれたのよ」
ですよねー。
でも作れる人にあてがついた。
ホビットに小屋を作ってもらえば!
「無理ね」
何でだよ!
「ホビットは人間と価値観が違い過ぎる。
お金じゃ全く動いてくれないわよ?」
ベガは動いてもらったんじゃないの?
「私はホビット族の族長の息子の命を助けたからね。
とにかく価値観が違いすぎて彼らがくれようとしてる『お礼』なんてこれっぽっちもいらなかったのよ。
だから『小屋でも作って』って話で一応話はついたんだけどね。
貴女、ホビットに何の恩も売ってないでしょ?
小屋なんて建ててくれる訳がないわ」
そこを何とか!
「私にお願いしてどうすんのよ」
族長の息子の命の恩人であるベガが頼めば小屋くらい建ててくれる!・・・んじゃないかな?って。
「イヤよ。
いつまで恩着せがましい事言わなきゃいけないのよ?
・・・でも、森に小屋を造りたいのは『私のせい』でもあるんでしょ?
私が『お尋ね者』だから街中じゃ悠々自適に暮らせない、からよね?
だったら私抜きで生活すれば良いじゃない?」
それは・・・俺にとってもベガは恩人だし、この世界に来てから一番心細い時に一緒にいてくれた人だし、ベガがいないと寂しいし・・・。
「・・・わかったわよ。
ホビットの所には連れて行く。
でもその後の交渉は貴女がしなさいよ!」
やっぱりベガはなんだかんだ言って優しい。
「お、おだてても何も出ないわよ!
ホラ!手を繋ぐ!」
何で?手を繋ぎたいの?
「バカじゃないの!?
貴女、ホビットの集落知らないんでしょ?
貴女のワープ、行った事がある場所にしか行けないのよね?
この中でホビットの集落に行った事があるのは私だけよ?
つまり私と手を繋がないとホビットの集落には行けないのよ!」
ベガが顔を真っ赤にしながら言う。
これがツンデレというやつか。




