二十三話
「はい、お土産」と俺。
「何よ?」と手渡された段ボール箱を振ってみるベガ。
音はしない。
重くもない。
でも空ではない。
何かしらの重みは微かにある。
ベガは段ボール箱を開けて叫び声を上げる。
「こ、これは!ペンペン草じゃない!」
そうだ、段ボールの中には雑草が一杯に入っていた。
「前に『ペンペン草が貴重だ』みたいな事を言ってたから日本に帰ったついでに暇な時、集めておいた。
いらなかった?」
「こんな大量のペンペン草、二十回産まれ変わって遊んで暮らせるだけの『エリクサー』が出来るわよ!」
「薬って軽んじられててあんまり価値がないんじゃなかったの?」
「薬が権威を失ったのは『魔法と比べて割高だから』『材料を手に入れるのが大変だから』
特にエリクサーの材料になるペンペン草は『入手困難』を通り越して『入手不可能』とまで言われているのよ。
いくら薬が人気なくても『エリクサー』を市場価格の百分の一で売ったら、飛ぶように売れるわよ!
元々、エリクサー自体が天井知らずの値段で取引されてるのよ。
百分の一の値段だって、二十生くらい楽勝で遊んで暮らせるわよ!」
「『二十生』って単語初めて聞いた・・・」
「こうしちゃいられない。
私は一度街へ帰って薬制作作業に入るわ!」とベガ。
「俺もいつまでもギルドを開けてはおけん」とギルドマスター。
「じゃあ送っていくよ」
「あ、そうか。
『世界旅行』で一瞬で行けるのか」
「そうそう。行った事ある場所だったら。
知らない場所はここみたいに歩いて来なきゃいけないけど」
「だったらここまでも『世界旅行』『』で戻って来れば良かったんじゃない?」
「そうなんだけど北の岩山に行くまでにも、ゾウがかなり成長してね。
どうせあんまり早く戻ってもしょうがなかったし『ゾウを成長させながら戻ろうか?』って思って」
「充分速かったとは思うけども・・・。
で、貴女はどうするの?
ケイは?」
「俺とケイはギルドマスターとベガを街まで送ったらここに戻って来るよ」
「何で?」
「北の岩山にいたモンスター『キメラ』は俺には倒せなかった。
『キメラ』を倒したのはケイの連れていた獣だったんだ。
俺はまだまだ修行不足だ。
森の中で鍛えないと。
それにケイのテイム出来る獣が最初は『五体』だったんだけど、今は『十体』まで増えているんだ。
これはおそらくだけど、ケイのレベルが上がるとテイム出来る獣の数がさらに上がると思う。
俺もケイも更に強くならないと。
それにおそらく森の中じゃないと育て上げられない獣もいるしね」
「『森の中じゃないと育て上げられない獣』?」
「ゴリラって言うんだけどね、肉食わないんだよ。
森の中の木の実やフルーツを食わせるしかないかな?って」
「だったら『デビルナッツ』ね」
「『デビルナッツ』?」
「木の実のモンスターよ。
魔素をたっぷりため込む特性があるのよ」
「木の実のモンスターなんているの?」
「植物のモンスターはかなり多いわよ?
木のモンスターや草のモンスター、フルーツのモンスターもいるわよ」
「魔素が必要なんだよ。
それが獣を成長させるんだから!
・・・まぁ、俺らも街で寝泊まりするよ。
ここに来るのは『世界旅行』で一瞬だからね」
「ち、ちょっと待ってよ!
じゃあここで滞在するのは私だけ!?」とナオミ。
「そりゃそうだよ。
ここでネクロマンサーの修行するのはナオミだけなんだから」
「そ、そうだ!
私も街で寝泊まりして通いでネクロマンサーの修行を・・・」
「ダメよ。
暁前に修行は始まるんでしょ?
何でそんな早くに杏奈が送って来なきゃいけないのよ。
それに『精神修行』も修行の一環なんでしょ?
共同生活出来なくて、どうするの?」
「わかってるけど、この世界の御飯薄味すぎるのよー!」
「そういうと思って、味噌と醤油と砂糖を日本から持って来たよ。
だから頑張って!」
「杏奈~!
ありがとう!」
本当はそのために調味料を持って来たんじゃない。
でも「異世界の料理は不味い」と言い続けている立場としてはわからないでもない。
しかしナオミさんってやけに距離が近いんだよな。
パーソナルスペースが小さい人ってたまにいるけど、それを男女に適用しちゃダメだよね。
男はみんなバカだから「俺に気があるのかな?」なんて勘違いしちゃうよ?
・・・いや、俺を男と思ってないだけか。
今も普通に抱きついて来るし。
「それじゃ行って来る」と俺。
「行ってらっしゃい」とナオミさん。
新婚夫婦のようなやり取りだ。
見た目、女の子同士なんだけど。
ケイは森の小屋に置いて行く。
連れて行こうとしたけど、あんまり戻りたくないみたいだし。
街に対してあんまり良い感情がないみたいだ。
そりゃ、『不遇職ビーストテイマー』として冷遇されたんだろうから当たり前か。
俺はベガとギルドマスターと両手を繋ぐ。
ベガはもう慣れたモノだが、ギルドマスターはかなりおっかなビックリだ。
童貞中学生じゃないんだから、女の子と手を繋ぐのをビビッてる訳じゃないよな。
『世界旅行』ってモノがよくわからないからビビってるんだ。
中年男がちょっと可愛いところあるじゃんか。
お兄さんが優しくリードしてあげるとしよう。
俺がギュッと手を握るとギルドマスターはビクッとする。
でもそんなビビるような話じゃない。
『世界旅行』をするのは俺てあって、他の人は俺の手を握って目を瞑っているだけだ。
俺達は丸くなって手を繋ぎ『世界旅行』のスキルで街へとワープした。
俺がイメージしたのは冒険者ギルドの中、ギルドマスターの部屋の中だ。
なのに辿り着いたのは冒険者ギルドの応接室だった。
そうだった。
『行った事のない所には行けない』んだった。
変な場所にワープしなくて良かった。
『壁の中にいる!』なんて事になったら詰むところだった。
これからは『行った事がある場所』にワープするようにしよう。
ルーラの要領だな。
壁の中にワープするのは問題外だが、事情を知らない人の前にワープしたらきっと大騒ぎになるだろう。
「じゃあ俺は小屋に戻るね。
ベガはどこに行くの?
もう泊まってた宿は引き払っちゃったよね?」
「俺の家に匿おう。
お尋ね者なんだし、一人で行動させる訳にはいかない」とギルドマスター。
「ギルドマスターが良くてもギルドマスターの家族がいるんじゃ?」
「俺は独り身だ!」
「え?
独身男の家に女性一人泊めるのはコンプライアンス的に不味いんじゃない?」
「大丈夫。
ギルドマスターには精力減退の薬を飲んでもらったから」とベガ。
「そんな訳のわからんモノは飲みたくないわ!」
「もう飲んだ後だから遅いわよ?
さっき飲んだお茶の中に薬は入ってたんだから。
大丈夫。
薬の効果は一週間ぐらいで切れるから」
「一週間!?
長過ぎるわ!」
ベガとギルドマスターが漫才をやっているのに付き合いきれなくなった俺は「それじゃあまた夕方にケイと二人でここに来るよ。
よろしくね」と言うと『世界旅行』のスキルで森の小屋に戻って行った。




