二十二話
俺が帰って来るまで6日くらいはかかるとギルドマスターは思っていたようだ。
岩山に辿り着くまでが3日、逃げて帰って来るまでが3日。
岩山での滞在期間が計算に含まれてはいない。
計算ミスではない。
ギルドマスターの『見通し』では『すぐに逃げて帰って来る』と思っていた。
そうじゃなくちゃ困る。
ギルドマスターは別に所属の冒険者を殺そうとしてる訳じゃない。
『悪名付のオーガを倒した冒険者ですら逃げて帰ってきたのだ』という"実態"が欲しいだけなのだ。
その"実態"を王国に連絡し、大規模なモンスターの討伐隊を組んでもらう。
ベテラン冒険者でも討伐不能な『謎のモンスター』は正直『冒険者ギルド』の手には余る。
『悪名付』のオーガを討伐した冒険者なら倒せないまでも逃げ帰っては来れるだろう。
騙したような形になって内心申し訳なくは思っている。
でも『冒険者ギルド』としては、これ以上の犠牲者を出す訳にはいかないのだ。
その代わり、ちゃんと『ネクロマンサー』は紹介する。
今は無事に戻って来る事を祈るだけだ。
有能なギルド所属冒険者を減らしたい訳がない。
『ヤツなら死亡者なく戻って来れる』と考えただけだ。
3日間はネクロマンサーの小屋に泊めて貰える。
それ以降はきっと『帰れ』と追い出されるだろう。
それで『はい、そうですか』と帰らない。
「もう少ししたら『北の岩山』へ向かった冒険者が帰ってくる。
それまでこの小屋に置いておいてくれないか?」と少しでも粘ろう。
この少女がネクロマンサーになれる可能性は低い。
でも代わりに『ほぼ不可能な近い任務』を引き受けてもらった以上、こちらも最大限協力しなくちゃいけない。
ギルドマスターは初日の晩、一日目のレクチャーを受けて戻ってきたナオミとベガから話を聞き自分の耳を疑った。
「何だって?」
「ネクロマンサーにしてもらえるみたい」
「どうして?」
「変な事言うね。
『ネクロマンサーになる為に来た』のに」
「いや、それはそうなんだけど・・・」
元々望み薄で『取り敢えず紹介だけする』予定だった、事は言えない。
「暫くこの小屋に置いてもらえる事になった。
でもギルドマスターとベガはここには長く滞在出来ないよねえ?」
「ベガはともかく、俺にはギルドマスターとしての仕事もあるし、今は北の岩山に現れた謎のモンスターの事で長くは街を留守に出来ない」とギルドマスター。
「私も『ナオミが言葉がわからないなら』って同行したけど、ナオミが『翻訳スキル』を持っているならいてもしょうがないのよね。
一旦、街へ戻ろうかしら?」とベガ。
「うん。
ここから先は私一人で何とか出来ると思う。
私の事は気にせずに一旦、街へ戻って」とナオミ。
その晩一行は小屋で食事をして眠りについた。
食事をしたナオミがベガに「頼むから日本から持って来た調味料をここに置いて行って!」と懇願していた。
どうやら異世界の料理の味気なさを忘れていたらしい。
ベガだって日本の調味料は手放したくない。
「醤油は半分あげるわ。
でもみりんと味噌はダメ!
元々そんなに量はないし!」
その晩は交渉の結果は出なかった。
「私の部屋にあった調味料、ベガだって勝手に使ったじゃない!」とナオミ。
「いつでも手軽に調味料が手に入る時と、今を一緒に考えられたら困るわ!」ベガも一歩も引かない。
その日ベガとナオミは口論の末、疲れて何時の間にか寝てしまっていた。
次の日の朝、一行が起きるとそこには杏奈とケイがいた。
「ちゃんと岩山に行け、と言っただろう!?」とギルドマスター。
「行って来たよ」と杏奈。
「ウソつけ!
片道3日はかかる!」
「『歩いていったら』だろ?
しかも『道に沿って行ったら』だろ?」
「?」
「乗り物に乗ってたんだよ。
しかも直進して行ったんだよ。
グルーって遠回りする道を無視して、真っ直ぐ進んで来たら1日ちょっとで帰って来れた」
「乗り物って?
乗り合い竜馬?」
「『乗り合い竜馬』って。
そんなモノがあるなら行ってよ」
「いや、こんな辺鄙なところを走ってるワケない、と決めつけてたし」
「まぁそれに乗った訳じゃないけどね」
「じゃあ何に乗ったんだよ?」
「ゾウ」
「『ゾウ』!?」と飲んでいたお茶を吹き出してナオミがムセる。
「異世界にゾウがいるの?」
「いない。
ゾウどころか『獣』が一匹もいない」
だから地球から連れて来た」
「どこから?」
「サバンナ」
「勝手に連れて来て良いの!?」
「それ悩んだんだけどね。
答えが出る前に襲いかかって来たんだよ、ね?
死ぬかと思ったよ」
「うん、テイムするしかなかった」とケイ。
「そ、そう。
で、そのゾウはどこにいるの?」
「テイムボックスの中。
ポ◯モンみたいな感じ。
『行け!ゾウ!』
『戻れ!ゾウ!』って。
無茶苦茶デカいからね。
普段はテイムボックスの中に入っててもらうようにしたんだよ。
室内じゃゾウは出せないじゃん?」
「何を言ってるのかサッパリわからない・・・」とギルドマスター。
「ケイは『ビーストテイマー』なのね。
ステータスを覗き見させてもらったわ。
しかしこの世界では獣自体が絶滅しているからね。
『チキュウ』の獣って私が見たのはアパートの向かい側の家の『ペス』くらいしか実際には知らないわね。
でもペスは獰猛よ?
私を見ると『キャンキャン』吠えるのよ。
あんな獰猛な獣ほどじゃないにしても、野生の獣をよくテイム出来たわね!」とベガ。
『ペス』と言うのは向かい側の家のお婆ちゃんが飼ってるトイプードルだ。
人懐っこく絶対に噛まないが少しはしゃぎ過ぎな傾向があって、よく吠える。
ベガは何故かペスに好かれていて、ペスはベガに飛び掛かって来る。
ベガはペスを怖がっており「ひい!来ないで!」と逃げ回っている。
ベガは『獣』と言うと『室内犬の子犬』を思い浮かべているようだ。
そりゃそうか、それしか見た事ないわだから。
「あれよりは大きいかな?」と俺。
「そうよね。
『あれは子供だ』って貴女言ってたものね」
「じゃあケイ、表でテイムして?」
「うん」と俺とケイが先に表に出る。
「どうしてよ?
向かいのお婆ちゃん、『ペス』を部屋の中で飼ってる、って言ってたじゃない?」
「言ったじゃない。
『ペスより大きい』って。
地球でも大きな犬は外で飼ってるんだよ?」
「大げさな。
大きいって言ったって・・・」
ベガは外に出てケイに召還されている『ゾウ』を見る。
小屋よりも何十倍もデカい。
ベガは気を失う他にリアクションの取りようがなかった。
「それにしてもこのゾウ大き過ぎじゃない?
バケモノサイズじゃない」とナオミ。
「この世界の魔素を取り込むと、獣は大きくなっちゃうみたい。
テイムされてないと獣は魔獣になっちゃうんだってさ。
だから、この世界には獣がいないんだって。
テイムされてればひたすらデカくなるだけみたい」
「そうなんだ。
でもこれ何て説明するのよ!
小屋の周りの森の木、みんな薙ぎ倒してるじゃないの!?」
「まぁ昨日の夜、ここに戻ってきた時点でここら辺の森の木は既に薙ぎ倒してあるからね。
今さら取り繕っても遅いし・・・」
「そりゃそうかも知れないけど・・・」ナオミはこれから世話になるネクロマンサー達に何て説明を
すべきか頭を抱えた。




