二十一話
一方その頃、ギルドマスターはナオミを『ネクロマンサー』のところに連れて北の森のはずれにある小屋へ来ていた。
霊感の強いナオミにはそこが"如何にヤバい場所か"直ぐにわかった。
「こ、この人達は『霊にモテモテの人』よ!」ビビりながらナオミが囁く。
「『霊にモテモテの人』?
何それ?」ベガには何の話かわからない。
ナオミの『霊に関する話』はだいたい感覚的だ。
周りの人が「何を言っているかわからない」と言ってもナオミにとっては「何がわからないかわからない」のだ。
勉強出来る人が勉強を教える時「何がわからないかわからない」、勉強出来ない人が勉強を教わる時「何がわからないかわからない」と言うのと良く似ている。
理屈じゃないのだ。
ネクロマンサーはナオミ曰くの『霊にモテモテの人達』なのだ。
人は相手にしてくれる人のところに行きがちだ。
『話を聞いてくれない人』『話の通じない人』のところへは行ってもしょうがない。
それは霊も同様だ。
「この人なら何とかしてくれる」そう霊に思わせてしまう人がいる。
それが『霊媒体質』だ。
『霊媒体質』の人は霊を引き寄せる。
全く害のない霊もいる。
それどころか、護ってくれる霊だっている。
『守護霊』と言われるモノだ。
毒にも薬にもならない霊もいる。
相手にして欲しくてイタズラを仕掛けて来る霊もいる。
『霊障』『ポルターガイスト』なんて呼ばれるモノだ。
そのイタズラが時々シャレにならない事があるが『イタズラが悪質なかまってちゃん』は生きてる人間でも珍しくない。
厄介なのが『生気を吸う霊』『魔力を吸う霊』だ。
『悪霊』なんて言葉を聞いた事があるだろう。
ここにいる『ネクロマンサー』の多くが『悪霊』に悩まされてここに集まっていた。
「アンタかい?
『ネクロマンサーになりたい』って変わり者は?」
ギルドマスターが声を掛ける前に黒いローブを着た女性が話し掛けてくる。
見た目だけでは老若男女はわからない。
ただ、声を聞くと『恐らく妙齢の女性』だと推測される。
「わかるかい?」とギルドマスター。
「そりゃわかるさ。
ここにいるのは『そんな連中』ばかりだからね」
「だったら弟子になれるのか?」
「それとこれとは話が違う。
私らネクロマンサーは世間の鼻つまみモノさ。
ひっそりと生きて行く事で世の中じゃその活動を『お目こぼし』してもらって生きているのさ。
次々に仲間を増やしていたら『ネクロマンサーの連中が調子にのっている』『ネクロマンサーの連中が勢力を伸ばそうとしている』なんて弾圧されかねない」
「アンタだったらわかるんじゃないか?
そんな思惑とは関係なく『この娘』はただ単純に困ってここに駆け込んだんだ、って」
「もちろんわかるさ。
気の毒にだって思う。
出来る事なら助けてあげたいさ。
でも『ネクロマンサーが勢力を伸ばそうとしている』なんて考えるのは『ネクロマンサー』じゃないのさ。
私らがそんな事を思ってなくても世間はそうは思っちゃくれない。
『見えないモノ』『見えちゃいけないモノ』が見えてしまう私らは世間から見たら不気味なんだよ。
『いない方が良い』って思われてるんだ。
私らを弾圧する機会を伺っている連中がいる。
現に過去に数回、私らは濡れ衣で弾圧されてる。
・・・でも私らにだって血も涙もある。
それにギルドマスター、アンタには借りもある。
3日間だ、3日間この娘に私がレクチャーする。
その間に『この娘をネクロマンサーとして育てたい』と私に思わせたら・・・」
「『思わせたら』?」とナオミさん。
「いや、期待を持たせて済まなかったね。
そんな事はあり得ないんだよ。
一昔前ならいざ知らず。
数年前までは私も定期的にネクロマンサーを育てていたんだよ。
それを世間では『ネクロマンサーが勢力を増やそうとしている』と弾圧してきたんだ。
私が新しくネクロマンサーを増やそうとするなんて、もう有り得ない。
でも3日の間にアンタの延命の方法は教えるよ」
「『延命』ってどういう事?」
「霊に魔力、生命力とも言えるかな?・・・を吸われて死ぬ人は同じ特徴を持った人なんだよ」
「それはどんな『特徴』なんですか?」
『霊を強く感じられる』って特徴さ。
人は誰でも『相手してくれる人』に話し掛けるだろう?
霊だって同じさ。
霊を感じれる人につきまとうんだよ。
でも、霊っていうのは非常に不安定な存在なのさ。
水は器に入ってないと零れて地面に流れ出てしまうだろ?
霊だって同じさ。
"肉体"って器に入ってない霊は常に『消えてしまうんじゃないか?』って強迫観念と闘ってるんだよ。
エネルギー体である霊は非常に燃費が悪い。
だから燃料代わりの"魔力"をつきまとってる人からチューチューと常に吸い上げようとするんだ。
霊から魔力を吸われた人間がどうなるかはいくつか道があるんだ。
①魔力を吸い尽くされて死ぬ。
②取り憑いている霊を消す。
③霊に取り憑かれながらも共存していく。
④取り憑いている霊を利用する。
まず一番目の『死ぬ』だ。
それは受け入れたくないからここに来たんだよね?」
「はい、その通りです」
「だったら別の道を模索するわな。
だから私はアンタに延命の方法を教えるのさ。
『延命』の方法は『子育て』を想像してもらえれば良い」
「『子育て』?」
「そうだ。
『子供』を『霊』に置き換えるんだよ。
先ずは『癇癪を起こす霊をあやす』
次に『霊に親(主人)を教える』
次に『霊とコミュニケーションを取る』
次に『霊に行儀を教える』
ここまで3日で出来るようになってもらうよ」
「それが『延命』になるの?」
「なるさ。
魔力は『睡眠』や『休息』で回復する。
霊に『魔力を吸いすぎるな』とちゃんと教えれば上手く付き合っていく事だって可能さ」
「じ、じゃあ別に霊に取り憑かれていても普通に・・・!」
「それは無理だね。
言っただろう?
『子育てみたいなモノだ』って。
100%親の言う事を聞く子供がいるかい?
イタズラして、意地悪して、暴れて、反抗するのが子供なのさ。
それは『霊』も同様なのさ。
数年『霊』を抑えこめれば上出来だよ。
だから『霊』が暴れ出した時、緊急の魔力回復手段はあった方が良いだろうね」
「魔力回復手段さえあれば・・・」
「一時的には生き長らえられるだろうね。
でも『霊』は『子供』と一緒だと言っただろう?
『子供』は一度上手くいった『わがまま』に味をしめるのさ。
『霊』も一度暴れて上手くいったら、その後何度でも暴れるんだよ。
元々取り憑く『霊』なんてロクなモノじゃない。
本当は暴れたくてしょうがないのさ」
「じゃあどうやれば、本当に助かるの?」
「ネクロマンサーになるか、エクソシストに霊を払ってもらわないと。
でもエクソシストに支払う金銭を庶民に用意なんて出来る訳がない。
出来たとしても、エクソシストが貴族じゃない平民を相手にしてくれるなんて思えないね」
「『エクソシスト』って『権威主義』、『拝金主義』なの?」
「違う、違う。
金なんていくらあっても本当は『除霊』なんてやりたくないんだよ。
『除霊』の成功率は約7割。
失敗したらエクソシストは命を落とすからね。
『いくら金を積まれてもやりたくない』それでも『やらざるを得ない』理由がなんだかわかる?」
「『国家の圧力』か」
「そういう事。
『やりませんよ。
やるなら大金が必要ですよ』と。
その大金を本当に準備してしまうのが『お貴族様』なんだよ。
だから『霊』に取り憑かれた庶民はネクロマンサーを探す。
元々『ネクロマンサーは庶民寄り』って考え方があって、お貴族様はネクロマンサーに対する良い感情はなかったのさ。
それが『ネクロマンサーの弾圧』に繋がっているんだ。
話が逸れたね。
じゃあ、先ずはアンタに取り憑いてる『霊』を宥めるところから始めようか?」
「わかりました」
ナオミは身体の周囲を浮遊する霊に『黙れ!』と頭の中で語りかける。
一般人には『霊』は見えない。
ネクロマンサーの女性にもハッキリとは霊の姿は見えない、ナオミのようには。
ナオミに『黙れ!』と命令された霊達は途端に大人しくなる。
ネクロマンサーにはハッキリ見えていなかったが、暴れていた霊達はネクロマンサーには暖色に薄く見えていたのが、ピタリと動きを止めた霊達は青白い強い光を放ち始めたように見えた。
「アンタ、これだけの霊に取り憑かれてたのかい!?」
「いや『言う事を聞いてくれた霊』は半分弱だったから。
実際には二十一匹の霊に取り憑かれてるよ」
「な、何でアンタ生きてるんだい!?」
「あー、ナオミは元々の魔力量が半端じゃないのよ」とベガ。
「て言うか、何で初めてで霊に言う事を聞かせられるのさ!?」
「何でだろう?
翻訳スキルのおかげかな?
正直、この世界の人とコミニュケーションを取るのも『霊』とコミニュケーションを取るのも変わらないからね」
「・・・信じられない。
霊は『孤独』なんだよ。
だから『認識してくれる人』につきまとうんだ。
『見える』だけじゃない。
教えなくても『コミニュケーション』が取れるならアンタは凄いネクロマンサーになれるよ!」
「でも私にネクロマンサーの教育はしてくれないんだよね?」
「いや、話は変わった!
私の手でアンタをネクロマンサーとして育て上げてみたくなった!
さあ!バシバシしごくよ!」




