二十話
俺とケイちゃんは手を繋ぎ、異世界へ戻ってきた。
天気や太陽の位置など・・・間違いない。
地球に向かったあの日、あの時間に戻って来たんだ。
これ『精神と時の部屋』じゃないけど、地球にいる時、異世界で修行出来るんじゃないか?
あ、でもその逆は無理か。
地球で経験値積めないもん。
とにかく俺らは異世界へ戻って来た。
「岩山に向かおう」
しかしかなりの距離だよな?
「そうだ!いっぺんやってみたい事があるんだ!
ゾウの背中に乗れないかな?」と俺。
「乗れるもんなの?」
「わかんない。
乗れるのはアジアゾウかな?
アフリカゾウに乗るなんて話は聞いた事ないかも。
でもテイムしたアフリカゾウには乗れるんじゃない?」
「わかった。
『乗せて』って頼んでみるよ」
ケイちゃんはゾウを召還して何か言っている。
話して獣に通じるんだろうか?
「『いいよ』だって」
「獣と話せるの!?」
「テイムした獣となら。
頭の中に話しかければ、頭の中に答えが浮かび上がるんだよ」とケイちゃん。
夢の一つが叶った。
俺とケイちゃんはゾウの背中に乗っている。
しかし、やはりテレビで見る背中に人を乗せるゾウはアジアゾウらしい。
こんなアフリカゾウ、しかも特大の個体が人間を乗せるなんて事は地球上ではないんじゃないかな?
スゲー高い。
それにのんびり歩かない。
常に小走りだ。
結構速い。
無茶苦茶怖い。
モンスターには遭遇しない。
本当は遭遇しているのかも知れない。
でもモンスターもビビるよね。
モンスターの何倍もデカいもんね。
ゾウは時々草や木の葉を食べる。
それ自体は何の問題もない。
好きなだけ食え。
そりゃ良いんだが・・・。
「徐々にだから気にしないようにしてたんだけど・・・ゾウ、無茶苦茶大きくなってない?」
「この世界の植物は『魔素』、『魔力』の素をため込んでるから、食べると獣には影響があるらしいよ。
『獣王』がテイムしていた獣も充満し始めていた魔素のせいで巨大化しまくったらしいし」
「そう言う事は先に言ってよ!
そういや、この世界の獣は魔素の影響を受けて『魔獣』に変わり果てたんだよね!?」
「でも一旦テイムされた獣は巨大化はするけど魔獣には変わらなかったらしいし平気だと思うよ?」
「どこまでその言い伝えを信じてるのさ!?
伝記なんて途中で話が変わってる、なんて良くある話だよ!?」
「でも今のところゾウは巨大化しただけで、魔獣化はしてないよ?」
まぁその話を信用するしかないか。
しかしアフリカゾウは元々大きいし、この個体はその中でも飛び抜けて大きかった。
・・・にしても、デカくなりすぎだ。
いつの間にか道にゾウは入りきらなくなって森の木を鼻で薙ぎ倒しながら走っている。
周り道は一切しない。
道は森の木を薙ぎ倒しながら作る。
鼻で木を薙ぎ倒しながら木の枝をむしる。
走りながらむしった枝の葉をムシャムシャと食べる。
食べるたびに身体が大きくなる。
これどうすんだ?
このデカさ、モンスターどころの騒ぎじゃねーぞ?
そして一歩一歩がアホほどデカい。
そして走る速度が無茶苦茶速い。
しがみついていないと振り落とされそうだ。
怪鳥のところに着く前に作戦を考えておくつもりだったのに作戦を考える前に怪鳥の住み家の岩山に到着してしまった。
何が怪鳥だ?
全然鳥じゃないじゃないか!
いや、確かに『鳥みたいな』羽は生えている。
でも鳥の羽が生えたライオンだ。
そしてもう一つ首がある。
その首は山羊だ。
そして尻尾は蛇だ。
要するに・・・「キマイラだな」俺は呟く。
キマイラは巨大だ。
俺が闘ったオーガなんて比べものにならないくらい大きい。
キマイラに会った冒険者達はその大きさに絶望したに違いない。
しかしゾウと比べたらキマイラはまるで猫のような大きさだ。
キマイラはゾウを威嚇している。
その姿はビクビクしながら大型犬相手に毛を逆立てる子猫のようだ。
ゾウはまるでハエをはらうように鼻でペシッとキマイラを叩いた。
『魔力のない攻撃はある程度の強さのあるモンスターには通用しない』という話だったが、魔素を含んだ草や葉を食べただけでモンスターにこれだけ有効な攻撃が出来るのか。
ゾウの鼻で軽く撫でられたキマイラはもうフラフラだ。
絶好のチャンスだ。
俺なんかがこんな大物のモンスターを倒す機会は滅多に来ないだろう。
それにこんなデカブツが鳥に見えたのはきっと『動きが素早くて良く見えなかったから』だ。
辛うじて翼が視認できたから『アイツは鳥に違いない』と。
ビビッて動かない、殴られてフラフラの千鳥足のキマイラ・・・こんなチャンスは二度とない。
普通なら俺の攻撃なんてキマイラには当たらないだろう。
でも今なら当たる!
俺は投げナイフを二本用意する。
一本はライオンの頭の眉間に、一本は山羊の頭の眉間に目掛けて投げナイフを投げる。
トス、トス
ナイフは見事に命中する。
「別にナイフなんて刺さないでもゾウが踏んだら勝負は終わるじゃん」とか言わない。
「俺が」キマイラに止めを刺す事が大事なのだ。
だって経験値欲しいじゃん?
漁夫の利って言うな!
これが凡人が生き残る処世術なんだ!
痙攣するキマイラがついにはバタリと倒れて動かなくなる。
『美味しいところだけ持っていった』?
『卑怯』?
それは誉め言葉かね?
キマイラのたてがみと山羊のツノと蛇の尻尾と羽をアイテムボックスに入れる。
いや、どこが『討伐証明部位』だかわかんねーんだもん。
それっぽいところをアイテムボックスにいれとくしかないじゃん。
で、ケイが肉食の獣にキマイラの肉を食わせる。
肉食の獣が目に見えて大きくなる。
相対的に他の獣が巨大化すると肉を食べないゴリラだけが以上に小さくみえる。
「ゴリラって何食べるの?」とケイちゃんに聞かれる。
知らんがな。
「果物?野菜?木の実?昆虫?」俺はテキトーに答える。
うん、デタラメ言ったよ。
だって知らねーもん。
「疑問があるんだけど」と俺。
「難しい事は答えられないよ。
だって私だって何にも詳しくはないし」
「この世界の一般常識の範囲で答えてくれれば良いよ」
「わかった」
「人間だってモンスターの肉を食べるし、魔素を取り込んだ野菜や果物や木の実を食べるんでしょ?
何で獣は魔獣になるのに人間は魔獣にならないの?」
「そこからわからないの!?」
「基本的に『何もわかんない』って思ってもらって間違いはないよ」
「人間は魔力を貯めておけるんだよ。
接種した魔力を貯めて消費出来る。
だから魔力を接種しても身体が変異する事はないんだよ。
でも獣はそれが出来ない。
身体の中に染み込んだ魔力は獣道の体を変異させるんだよ」
「じゃあ、魔力を接種しても人間の身体が変異する事はないんだね?」
「基本的にはね」
「『基本的』?」
「人間の肉体を魔力でモンスター化させる『禁断の魔法』があるとか、ないとか言われてるんだよ」
「その魔法使うのって・・・」
「ゴメン。
詳しい事は全然知らない。
あくまで『噂』だからね」
「そっか。
これからもこの世界の事を聞くと思うけど、よろしくね!」
「じゃあ木の実を探しながら戻ろうか?
ゴリラだけ何にもたべさせないんじゃ可哀想だからね!」
この時、ゴリラがまさか一番の成長株になろうとは想像も出来なかった。




