十五話
頭を失ったゴブリン達はとにかく戸惑った。
そして、戦意を失ったゴブリン達は脆かった。
正直「なんとか生きててくれりゃ良いや」って思ってたナオミさんがゴブリン相手に奮戦するとは思ってなかった。
ベガから『身体増強』の薬をもらっていたし、俺とパーティを組んで、そこそこレベルが上がっていたからね。
しかしこれで懲りただろう。
「『漁夫の利』を得て、レベルアップして強くなろう」とかムシが良すぎるんだよ。
ノビているオーガを拘束する。
とどめを刺そうとして攻撃したら起きちゃうかも知れない。
普通に攻撃したら、勝てない相手なんだし。
生け捕りにするのが精一杯だ。
ギルドで盗賊の生け捕り任務を受けていたから、拘束具を持っているのがここで生きた。
正直、『生け捕り任務』もうすぐタイムリミットで依頼失敗なんだよな。
どこに盗賊がいるかなんてツテも情報もない俺らが調べられるワケがない。
しかしここで拘束具が活用出来たんだから、結果的に良かった。
「オーガが帰りに目を覚ましたらどうしよう!?」なんて俺がビビってたら「そんなもん、手足拘束されて猿轡噛まされて目隠しされてるんだから大丈夫よ」とベガが言った。
「そんな事言ったって、拘束具を引きちぎるかも・・・」
「拘束具はそんなヤワな作りじゃないわよ。
それでもどうしても心配なら、後一日目を覚まさない『睡眠薬』でも飲ませましょうか?」
・・・という訳で、オーガに睡眠薬を飲ませた。
睡眠薬を飲ませる間は猿轡を外させたが「今のタイミングで目を覚ましたらどうしよう!?」と俺がビビりまくってたら「猿轡外させたって噛みつけないわよ、どうせ顎の骨折れて外れてるんだから。貴女、ネームドのモンスターと渡り合ったクセに『ビビり』なのね」
「闘ったからこそ、コイツの恐ろしさを知ってるんだってば。
そうだ!
ベガの薬で毒殺しようよ!」
「毒は絶対に使わないのよ」
「何で?」
「使わないにもかかわらず、私には毒殺の容疑がかかってるのよ。
『毒薬』なんて使ったらすぐに処刑されるわ。
それに私がいくら『人殺しに毒薬は使わない』なんて言っても、私の作った毒薬で誰かが人殺しをするかも知れない」
「そっか」
俺達は街まで帰って来た。
町の住民達は拘束しているオーガを引きずって歩いている俺を見てギョッとした顔をしている。
その光景を見て衛兵が声をかけてくる。
「ゴブリンの集落を依頼で殲滅したら、ゴブリンを率いてたのがオーガだった。
そのオーガを生け捕りにして連れて来た」という説明を衛兵にする。
衛兵は『ステータスオープン』のスキルを持っているらしい。
「おい、このオーガ『悪名付』だぞ!
しかも『メア』と言えばここら辺を荒らし回ってたオーガだ!」
どうやらこのオーガは俺が思う以上に有名だったらしい。
衛兵はどうやら冒険者ギルドまでついてくるらしい。
冒険者ギルドへ到着する。
ギルドはもう会館時間が終わって閑散としている。
でも住み込みで働いている人達はいるし、会館時間が終わっても残務をこなしている職員達はギルドの中で働いているようだ。
それに『消防署』と同じで、一般受付はしなくても有事には即対応する準備がある。
ギルドメンバーは依頼を終えて戻ってきたのが深夜だとしても、正面玄関は閉まっていても勝手口からは入って来れる。
俺達は勝手口から冒険者ギルドへ入る。
ここに来るまでは『いつオーガが暴れだすか?』という不安はあった。
もう大丈夫だ。
ギルドマスターは既に引退したが、腕ききの元冒険者らしい。
勝手口から入った冒険者ギルドの光景は普段とは違う。
俺は受付のカウンターの内側に入った事はなかった。
あるのが普通なのかも知れない、言うほど冒険者ギルドに通っていないのだ。
「お嬢ちゃんが『悪名付』を倒したって言うアンナちゃんかい?」後ろにオッサンが立っていた。
いつの間に後ろに立たれていた?
オッサンはいかにも『ベテラン』という風格の漂う筋骨隆々の中年だ。
銀髪のボサボサの長髪をうなじ付近で束ねている。右瞼にはモンスターに引っ掻かれたのか、三つの筋状の傷痕がある。
しかし右目は失明はしていないようだ。
「へえ、このオーガがここいら辺を荒らし回っている『悪名付』か!
肌が青じゃなくて赤いんだな!」
「この世界の『鬼』は青いのか。
『鬼』は赤いんじゃないの?」
「何を言っている?
オーガと言えば青だろう?」
「つまりコイツは色違いのレアモンスターって事だね?」
「れあもんすたー?
何を言ってるんだ?
・・・それよりお嬢ちゃん『この世界』と言ってたな?
俺の予想が正しいなら、お嬢ちゃんは『迷い人』かい?」
確か『迷い人』って異世界転移人だよな。
『迷い人』って、勇者とか特別な力を持っているって言われてるんだっけ?
俺はスキルを持ってるから『世界旅行』出来るだけで『特別な力』とやらを持ってる訳じゃない。
現に俺の力じゃオーガを殺しきらないで、どうして良いかわからないで拘束して生け捕りにして連れて来た。
『勇者』のようなモノを期待されても困ってしまう。
「即答出来ないって事は『迷い人だ』って認めているみたいなモノだよな?
確かに『迷い人』はこの世界じゃ色々本人の意志とは関係なく利用される事が多い。
この世界へ来て早々、魔王討伐を言い渡された・・・なんて話もある。
それに、無限の力を持つ『迷い人』は利用後、邪魔者扱いされる事が多い。
放っておくと権力者になりかねないからな。
だから毒殺、暗殺、濡れ衣を着せられて処刑される事が一般的だ。
『迷い人』である事を隠すのは間違ってないぜ、お嬢ちゃん」
隠してもバレているようだ。
俺は全てを素直に話す事にした。




