十四話
ベガは・・・大丈夫だ。
ちゃんと草むらの中に隠れて周りに人払いの薬品を撒いている。
よほど大声をあげないとゴブリン達に居どころがバレる事はないだろう。
戦闘に集中しよう。
ジャイアントスイングでゴブリンを振り回す。
『武器がないならゴブリンを武器にすれば良いじゃない』
マリーアントワネットがそう言ったかどうかはわからない。
もう面倒臭くなってきた。
回転しているとこちらも目が回る。
泡を吹いて倒れているゴブリンの足を持って振り回して武器にする。
ゴブリンにとっては壮絶な光景だろう。
仲間が振り回されているのだ。
ゴブリンを怯ませるには充分な効果があった。
・・・はずなのに、再びゴブリン達が俺達を取り囲んだ。
ゴブリンの手には石斧が握られている。
もうここまで来ると疑いようがない。
何者かがゴブリンに指示を出している。
ゴブリンに武器を持とうなんて知識がある訳がない。
『武器を持て』と言われたのだ。
『戦略的に敵を攻撃しろ』と言われたのだ。
その根拠を裏付けるようにゴブリンの後ろからゴブリンより一回り大きい人型のモンスターが姿を現す。
そのモンスターの額には二本短い角が生えている。
俺は敵のステータスを見る。
こんな時に悠長に見ている余裕はない。
ちょっと盗み見る程度の事しか出来ない。
『オーガ』
名前:悪夢
以前にベガが言っていた。
強いモンスターは人間に名前を付けられている、と。
つまりこのオーガは人々に恐れられ『メア』と呼ばれている。
『白い悪魔』みたいなモノか。
「『メア』だ。
逃げろー!」って感じか?
「ナオミさん、どうやら庇いながら闘うのは無理みたいだ。
自分の身は自分で守ってね」
「そ、そんな・・・!」
『そんな』と言われようが出来ない事は出来ない。
その代わり、オーガの攻撃は俺が一手に引き受けよう。
それにゴブリンが組織立った動きをしているのはオーガの指示のせいだろう。
オーガさえ倒してしまえば、ゴブリンは烏合の衆だ、多分。
オーガが棍棒を俺に振り下ろす。
半身になって棍棒を避ける。
俺に当たらなかった棍棒は地面に激突し、恐ろしい震動と轟音が起こると地面にクレーターを作る。
げ、マジか。
こんなんかすっただけで身体が潰れる!
絶対当たる訳にはいかない!
今度はオーガが横薙ぎに棍棒を振る。
半身で避ける事は出来ない。
俺は咄嗟にしゃがんで棍棒を避ける。
大振りも良いところだ。
予備動作が大きいから、スイングスピードがとてつもなく速くても何とか躱せている。
大振りの横薙ぎがゴブリン達を巻き込んでいる。
棍棒が直撃したゴブリンは三匹ほどまとめて棍棒のシミになって息絶える。
いつまでも躱すのは限界がある。
万全の姿勢で棍棒を振らせてはいけない。
どうするのか?
こちらから攻撃を仕掛けるしかない。
俺はしゃがんで棍棒を避けた拍子に、足払いをオーガに仕掛けた。
オーガはヨロついたが転倒するには至らなかった。
しかし『体勢不充分』にさせるのが目的だ。
オーガはヨロついた体勢のまま棍棒を上から振り下ろす。
この勢いなら躱せるし、当たっても大怪我はするだろうが死ぬ事はないだろう。
ヨロつきながら棍棒を振り下ろしたオーガの頭がずいぶん低くにきた。
俺は渾身の回し蹴りをオーガの頭に食らわせた。
これ以上はないクリーンヒット。
正に『会心の一撃』
実は蹴り技は難しい。
素人がいきなり繰り出して、キチンとバランスの取れた威力のある蹴りを出せるなんてほとんど有り得ない。
だから俺がオーガに『会心の一撃』の蹴りを食らわせたのは奇跡に近い。
オーガは回転しながら地面に激突する。
手応えあり!
もう立ち上がらないでくれ!
その願いむなしくオーガはフラフラと立ち上がる。
マジかよ。
もうこれ以上の攻撃は繰り出せない。
そもそも油断がなければオーガは俺なんて敵じゃない。
俺は必死で小石を拾いオーガに向かって投げつける。
・・・全く効いていない。
オーガは静かに怒っている。
恐らく地面に這いつくばったのは初めてか、久しぶりなのだろう。
二度とオーガは油断などしないだろう。
勝負を焦りもしない。
ゆっくりと俺を追い詰める。
考えろ!
一目散に逃げるべきか?
逃げたらナオミさんは死ぬだろうな。
ここにいる限り薬の効果が切れたらベガだって死ぬかも知れない。
・・・わかったよ。
俺がコイツらを倒すしかないんだろ?
俺は『男の子』だからな、見た目は『女の子』だけど。
『女の子』は守らないとな。
とにかくオーガにダメージを与えるんだ。
オーガに体勢を整えさせちゃいけない。
オーガの脇腹に前蹴りを入れる。
硬い!
いや、蹴りは練習しなきゃ難しいんだ。
ちゃんとバランスが取れて相手にダメージが伝わるように蹴るには練習が必要なんだ。
喧嘩もした事がない俺が効果的蹴りなんて撃てるワケがないんだ。
俺の蹴りを脇腹に受けたオーガは平然としている。
そして前蹴りを放った俺の右足首を握った。
ヤバい!
かなりの握力で握られている!
俺の肉体の耐久力はレベルアップしてかなり上がっている。
上がる前なら、俺の足首は握り潰されていただろう。
オーガに俺の足首は握り潰せない。
オーガにもそれが理解出来たらしい。
オーガが俺を足首を持って振り回した。
地面にビターンと叩きつけるつもりのようだ。
怪力で叩きつけられたらひとたまりもない。
俺は必死でオーガの足にしがみついた。
オーガは俺の足首を握っているが、俺もオーガの前腕にしがみついている状態だ。
「俺の足首を放せ!」
俺はオーガの前腕に全力で抱きつく。
オーガの肉体は筋肉の塊だ。
まるで鋼鉄を抱き締めているような感覚だ。
効いているのかどうかはわからない。
でも振り回されて頭に血が上がってくる。
このままだと先に音を上げるのは俺だ。
その前にオーガに俺の右足首を離させるしかない。
我慢比べだ。
振り回されて俺が脱力するのが早いか、思い切り抱きつかれた腕から力を失って足首を放すのが早いか。
「ウガァ!」
ついにオーガの左手が力を失い俺の足首を放す。
見るとオーガと左前腕は鬱血し色が変わっている。
俺の必死のハグはオーガに効いていたようだ。
右手で持った棍棒で殴られないように出来るだけ左腕と一体化していた。
俺を棍棒で殴るという事は自分の左腕に向かって棍棒を振り上げる、という事だ。
自分の棍棒での一撃を理解出来ているなら、そんな恐ろしい事は出来ないだろう・・・というのが俺の目論見だ。
オーガは俺の右足首を握っていた左手を開いた。
どうする?
飛び退いて一旦距離を取るか?
否、オーガに万全の態勢を整えさせちゃいけない。
今、オーガの左腕握力がない状態はチャンスなんだから。
ここで畳み掛けなきゃいけない。
俺は開いたオーガの左掌を足場にジャンプした。
目の前にオーガの顔がくる。
オーガの視線と俺の視線がぶつかる。
正直、怖い。
でもそんな事は言ってられない。
オーガが棍棒を振り上げようとしている。
俺の行動が遅れたら俺は棍棒でカトンボのように撃ち落とされる。
その前に俺は先手を打って攻撃しなきゃいけない。
俺はオーガの肩に着地する。
再び俺はジャンプし、オーガのアゴ目掛けておもいっきり膝蹴りする。
クリーンヒットだ。
俺の膝蹴りがオーガの顎の骨を砕く。
顎に衝撃を受けたオーガは脳震盪を起こしたのだろう。
俺を追い払おうとして振り回した棍棒を自分の顔目掛けて振り下ろした。
自爆だ。
それでオーガは完全に白目を剥いて昏倒した。




