ナズナとオキナグサの攻防
ナズナ:あなたに私のすべてを捧げます
オキナグサ:告げられぬ恋
言いたいことを全て言い終えた私は、鼻をすすって涙を拭った。
そうして落ち着いてくると、だんだんと理性が戻ってくるのがわかる。
(言っちゃった!わ、私、後先考えずに告っちゃった!!)
さぁっと血の気が引いて、私は思わず頭を抱えたくなった。
目の前で置いてけぼりにされた葉月さんが、石造のごとくピシリと固まっていた。
困惑した表情に、また泣きたくなる。
しかし、それでも想いを告げたことを後悔したくなくて、私は無理やり笑顔を作った。
「アーロンさんに術をかけてもらったら、少しは安全だと思うんです。もちろん、何か見合ったものと交換して。現世のものなら価値があるでしょうし、自分で用意するので葉月さんが気にする必要はありません」
それならいいでしょう?と尋ねる。
けれど、葉月さんは目を背けたまま顔をゆがめた。
「それでも駄目です」
頑なに常世に行くことを許してくれない葉月さんに、私は途方に暮れた。
ここで折れるわけにはいかないと喝を入れてくる自分とは別に、もうこれ以上葉月さんを困らせたくないと叫ぶ自分もいる。
きっと葉月さんと出会う前の自分なら、素直に身を引いていただろう。
何しろ、他人にそれほど執着していなかったのだから。
友達との関係も、大切にしてはいたけれど、わりとドライな方だった。
(でも、やっぱり私は諦めきれない。たとえこの選択がどれほど危険なものだとしても、葉月さんの意に沿わないことだとしても、これだけは譲っちゃいけない。今引いたら、絶対に後で後悔する)
だから、と私は前を向く。
見慣れたはずの葉月さんの姿が、なぜか知らない人のように映るのは、関係が崩れたせいだろうか。
そのことに寂しさを覚えながら、それでも必死に細糸を手繰る。言葉という心もとない手を使って。
正直、そこに正しさはなかった。
「そばに居させてもらえるだけでいいんです。弾除けでもなんでもいいから、ただ一緒に居たいんです。お役に立てるよう、頑張りますから――」
「やめてください!」
私の言葉を悲痛な声が遮った。
強めの口調に、ドキリと心臓が嫌な音を立てる。
「もう、やめてください。結奈さんを弾除けにするなど、できるわけがないでしょう。いえ、出来る出来ない以前に、そんなことしたくありません。当たり前です。私だって、あなたのことを……」
そこまで言いかけて、葉月さんは何かを無理やり飲み込むように息をつめ、口を閉ざす。
感情を抑えるように深呼吸した彼の吐息は、しかし分かりやすく震えていた。
そのことに自分でも気が付いたのだろう。
葉月さんは顔を歪めて、呻くように言った。
「無責任ではないですか」
「……え?」
私のことを言っているのかとショックを受ける。
今さら告白など、無責任だと、そう言っているのだろうか。
けれど、そんな私に気づくことなく、葉月さんは顔を俯かせた。
「常世に戻れば、私は明日をも知らない身なのです。そのような者が、容易く想いを告げるなど、無責任ではないですか。だからずっと、自分でも無意識のうちに、必死にかき消そうとしていました。でも、もう……」
ごめんなさい。そう呟いて目を伏せた葉月さんは、次の瞬間にはまっすぐこちらを見据えていた。
「私も、結奈さんのことをお慕い申しております。自分勝手なこの気持ちを抑えきれないほど、どうしようもなく」
そこに甘い雰囲気など無かった。
言葉通り、どうしようもなくて。
進みたい道に足を踏み出せなくて、遣る瀬無い気持ちを抱えた二人は、ただ首を垂れた。
自分の願いを叶えるには、大切な人の身を危険にさらさなければならない。
それならいっそ、諦めたらよかったのだ。
一緒に生きる道を手放して、別れ道でそれぞれ背を向けたらよかったのだ。
だけど、恋心は理屈ではどうにもならなくて。
相手を思いやる気持ちと、自分の中で膨らんだ欲望がせめぎ合う。
どちらも大事だから身動きが取れなくなる。
顔を見合わせて「両想いですね」なんて笑いたかったけれど、できなかった。
だって、わかってしまったのだ。
私が葉月さんの身を案じ、命をかけてまで一緒に居たいのと同じように、葉月さんも私の身を案じ、自分から引き離そうとしている。
同じ気持ちだったのだ。
(じゃあ、私と葉月さん、両方の願いを叶えるには一体どうしたらいいんだろう)
ふと、そんな疑問が浮かぶ。
それについて少し考えて、それから私は顔を上げた。
「葉月さん、二人で考えませんか?」
顔を上げる葉月さんに、私は微笑む。
「これからどうするか、どうしたいのか。一人で考え込んで、それぞれの中で完結するより、二人で話し合いましょう。その方がきっと、良い答えが出ますよ」
「……そうですね。その方が、きっと良い」
そう言った彼は、肯定的な返事とは裏腹に、苦笑まじりの諦めた顔をしていた。
私の言葉を拒否することを諦めた顔。
話し合いと私は言ったが、要は葉月さんが折れるまでじっくりお話しようと、そういう目論みがあった。
それを敏感に察知したらしい葉月さんは、それからおよそ数十分後には白旗を上げた。
「翔月さんのおっしゃっていた意味がわかりました」などと言いながら。
え?なになに?糖度が足りないですって!?
大丈夫です。まだもう1シリーズ残ってますから!!
せっかくなので出し惜しみさせてくださいっ(>人<)




