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手紙の解読

 きちんと【拝啓】から始まり、長々と季節の挨拶文が連なった、あの意味不明な手紙。

 それにもう一度目を通す。

 しかし、残念ながら私の貧相な語彙力では何度読んでも分からなかった。


 私はお手上げとばかりに手紙から顔を上げて、葉月さんのほうに目を向けた。

「あの、雲翳(うんえい)ってどういう意味ですか?」

 分からない言葉は考えても無駄。恥を忍んで問うと、葉月さんは表情一つ変えずに口を開いた。


「曇り空のことです。挨拶の文に使用する言葉ではないですし、そもそも普段から使うことはないので、知らなくて当然ですよ。レオドール様は結奈さんが分からないようにあえて難読漢字を用いたのですから」


「えぇ……なんで私に隠そうとしたんでしょうか」

 意図がわからずムッとすると、葉月さんが苦笑しつつ「結奈さんのためですよ」と黄泉の王をフォローした。


「ようやく現世に戻ってきたのですから、あまり気がかりになるようなことを言いたくなかったのだと思います」

「……そうですか。それなら、はい、わかりました」

 ──と言いつつ、全然納得はしていないが。


「それで、なぜこの手紙だけで常世に異常事態が起きているって分かったんですか?」

 私の質問にひとつ頷いて、葉月さんは説明を進めた。

「まずこの、『雲翳の候、日差しが恋しく感じられるこの頃ですが』というところですが、そもそも常世には四季がなければ、天気の変化もありません。黄泉には若干(じゃっかん)の天候不順がありますが、それでも日差しが恋しくなるほど長いあいだ空が曇ることはないのです」


 まぁ、日差しが恋しくなるまでにかかる日数が如何(いか)ほどなのか、わかりませんが。

 そういって葉月さんは肩をすくめた。


「それじゃあ、大地が揺れるほどの、は地震を指しているんですね?」

「はい。他にも溢れんばかりの水や凍てつく氷など、とにかく異常を伝えようと必死に頭を巡らせた痕跡がそこら中にありました。後半はもはや文章と呼んでよいものか迷うほど意味不明ですが」


 無情にも痕跡呼ばわりされた箇所を改めて読んでみると、たしかに文章というよりは、キーワードを強引に接続語で括(くく)りつけたような文が連なっていた。


『速報です』

 手紙を覗き込んでいた私たちは、その言葉を聞いていっせいにテレビを振り返った。

『今日未明に日本全域で発生した地震が、同時期に各国でも発生していたことが判明しました』


 僅かにアナウンサーの声が上ずっている。

 伝えられたのは、日本時間の三時十九分に、普段地震が起こらないような国でも揺れたことと、それについての各国の考えだった。

 色々な見解が巡るなか、またも新情報が届く。

 それによると、どうやら日本を含めた地震大国は、その名を遺憾なく発揮して、津波の心配はないということまで突き止めたらしい。


「とりあえず、避難の必要はなさそうですね」

 緊張していたせいか、安堵の息が漏れる。

 しかし心の奥では、冷えきった不安の渦がモヤモヤと燻(くすぶ)っていた。


 各国に同じタイミングで起こった地震。

 震源地の特定が不可能という前代未聞の事態。

 テレビでもネットのニュース速報でも飛び交う【異常事態】の文字。

 ふと、動物園の救護室で聞いた、葉月さんの言葉を思い出した。


『今はまだ気付くことのできないほど小さな変化ですが、それでも確実に近づいています。……世界の崩壊が』

 その【小さな変化】というものが、先ほどになって【大きな変化】として表れてしまった。


 カラカラに乾いた喉をごくりと鳴らし、顔を上げる。

 目の前のテレビ画面には、各国から届いた情報や映像が次々と流れていた。

あともう1話だけ、説明が続きます。

お付き合いのほどよろしくお願いします( ˊᵕˋ ;)


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