キャラクター、増やしすぎ問題
キャラクターを増やしすぎるのは良くない。
頭では分かっている。
特に長編小説では、登場人物が増えれば増えるほど、一人ひとりの存在感が薄くなってしまう。
読者からすれば、
「この人、誰だっけ?」
となりかねない。
しかし、自分の作品は登場人物が増えやすい傾向がある。
特にいま書いている『ゲーム開発者だった私だけが都市管理システムを起動できる~滅びた文明を復興して最強国家を築く~』では、それが顕著だ。
他の作品でも、ヒロインが増えすぎて、差別化できていないのではないかという懸念がある。
主人公とヒロイン一人、それに物語の中心となる数人くらいなら覚えてもらいやすい。
しかし、そこに仲間が増え、敵が増え、協力者が増え、各地の領主や商人、兵士、職人、役人などまで名前を付け始めると、あっという間に登場人物の一覧が膨れ上がる。
作者としては、一人ひとりにちゃんと役割がある。
この人物は主人公の理解者。
この人物は対立する相手。
この人物は情報を伝える役。
この人物は後々重要になる。
そんなふうに考えている。
だから、ついつい名前を付けたくなる。
そして、名前を付けると今度は、
「せっかく名前を付けたんだから、もう少し出番を増やそう」
となる。
これが危ない。
気が付けば、脇役だったはずのキャラクターが主人公と一緒に行動している。
さらに会話をさせる。
過去を設定する。
性格を考える。
家族関係まで作る。
そうしているうちに、いつの間にか一人のキャラクターとして完成してしまう。
作者としては楽しい。
ものすごく楽しい。
だが、読者にとってはどうなのか。
ここは冷静に考えないといけない。
作者が十人のキャラクターを覚えていても、読者も十人全員を同じ熱量で覚えてくれるとは限らない。
むしろ、重要人物が埋もれてしまう可能性がある。
ただし、だからといって「キャラクターが多い作品は駄目」というわけでもない。
実際、キャラクターがかなり多い作品でも、それぞれを上手く立たせている作品はある。
例えば『ゲーム世界転生〈ダン活〉~ゲーマーは【ダンジョン就活のススメ】を〈はじめから〉プレイする~』、通称『ダン活』だ。
私が『ダン活』を読んでいて感じるのは、キャラクターを増やしていくうえで、もう一つ重要なことがあるということだ。
それは、
「同じような役割のキャラクターを増やすと、二番手以降はどうしても影が薄くなりやすい」
ということだ。
特にジョブが同じ場合は、それが分かりやすい。
アタッカーならゼフィルス、タンクならシェラ、ヒーラーならラナ、スカウトならカルア、錬金術師ならハンナとどうしても最初からいるメンバーが目立ってしまう。
あ、ロリ好きのシェリアとか、ゼフィルス大好きなリーナ&アイギスなどは出番があるので、別の意味で目立ってますが。
ジョブが同じなら、どうしても戦闘で担う役割も似てくるからだ。
同じ系統のジョブを持つキャラクターが何人もいると、読者からすれば、
「この二人は何が違うんだ?」
となりやすい。
もちろん、細かく見れば性格も違うし、装備も違うし、戦い方も違う。
作者の中では明確に別のキャラクターとして作っている。
しかし、それが読者にも同じように伝わるとは限らない。
特にアタッカー系のキャラクターは、この問題が起こりやすい。
攻撃力が高い。
敵を倒す。
強力なスキルを使う。
ボスに大ダメージを与える。
もちろん一人なら十分に魅力的なのだが、同じような役割のキャラクターが増えてくると、どうしても比較される。
実際、必殺技の名前を叫ばれても、正直なところ、ほとんどのキャラクターがどんな攻撃をしているのか、読者には想像しづらい。
技そのものに強烈な個性があれば別だが、名前だけでは、
「強力な攻撃をした」
というところまでしか伝わらないこともある。
そうなると、一番目立つキャラクターが強く印象に残り、その後に登場したアタッカーは、
「この人も強い人」
くらいの認識になってしまう。
つまり、単純に人数を増やすだけでは駄目なのだ。
同じジョブなら、戦い方を大きく変える。
性格を変える。
立場を変える。
主人公との関係を変える。
あるいは、戦闘以外の部分で強烈な個性を持たせる。
そうしないと、どうしても先に登場したキャラクターの影に隠れてしまう。
これは『ダン活』に限った話ではない。
パーティーものの作品なら、かなり普遍的な問題だと思う。
例えば、
「剣で戦うキャラA」
「剣で戦うキャラB」
「剣で戦うキャラC」
と並べた場合、三人全員に強い個性を与えるのは意外と難しい。
一方で、
「剣士」
「魔法使い」
「回復役」
「盾役」
「商人」
というように役割が違えば、それだけでも読者は区別しやすい。
つまり、キャラクターを増やすときには、
「人数」
だけではなく、
「役割の重複」
も考えなければならない。
もう一つ、方向性は違うが参考になるのが『お嬢様バズ』だ。
そもそも、こちらは登場人物がさほど多くない。
役割の被りも比較的少なく、それぞれのキャラクターの個性が際立っている。
だからこそ、一人ひとりのキャラクターや、キャラクター同士の関係性に焦点を当てやすい。
単純な能力ではなく、
「このキャラクターは誰とどういう関係なのか」
という部分そのものが個性になる。
そのため、少ない人数でもキャラクター同士の掛け合いや関係性を使って、十分に物語を動かすことができる。
つまり、
「キャラクターを増やして世界を広げる」
という方法もあれば、
「キャラクターを絞って、一人ひとりを深く描く」
という方法もあるわけだ。
どちらが正しいという話ではない。
作品に合ったやり方を選ぶ必要がある。
結局のところ、重要なのは単純な人数ではない。
キャラクターが増えたとしても、読者がその人物を認識できる「目印」があればいい。
口調。
性格。
立場。
主人公との関係。
得意分野。
戦い方。
あるいは、そのキャラクターが登場したときに必ず起こる出来事。
こうした特徴があれば、読者は名前を完全に覚えていなくても、
「ああ、この人か」
と認識できる。
逆に言えば、キャラクターを増やすときに怖いのは、人数そのものではない。
似たような立場。
似たような性格。
似たような口調。
似たような役割。
そんなキャラクターを大量に投入してしまうことだ。
これは本当に覚えにくい。
特に長編になると、
「この人は前に出てきたあの人と何が違うんだ?」
となってしまう。
だから、キャラクターを増やすのであれば、一人ひとりに「この人物ならではの役割」を持たせる必要がある。
私の場合、物語の舞台が広がっていくと、それに合わせて新しい勢力や地域が登場する。
政治の話をすれば政治家が必要になる。
商売の話をすれば商人が必要になる。
軍事の話をすれば武将や兵士が必要になる。
農業の話をすれば農民や技術者が必要になる。
主人公が何か新しいことを始めるたびに、
「それなら、この分野を担当するキャラクターを一人出そう」
と考えてしまう。
結果。
キャラクターが増える。
増える。
さらに増える。
そして最終的には、
「……この人、誰だっけ?」
と作者自身がなりかねない。
いや、本当に危ない。
だから、キャラクターを増やす前に、
「この人物は本当に必要なのか?」
と、一度考える必要がある。
既存のキャラクターに兼任させられないか。
名前のない役人や兵士、店員として処理できないか。
あるいは、すでに登場しているキャラクターに新しい役割を持たせることはできないか。
そして、もし新しいキャラクターを追加するなら、
「既存のキャラクターと何が違うのか」
を考えたほうがいい。
特に同じジョブや同じ役割のキャラクターを追加する場合は、なおさらだ。
単に、
「もう一人、強いアタッカーを増やそう」
では、先にいるキャラクターの影に埋もれてしまう可能性が高い。
だったら、
「同じアタッカーでも、この人にしかできないことは何か?」
を考える。
それがキャラクターの個性になる。
キャラクターを増やすことそのものが悪いわけではない。
『ダン活』のように多くのキャラクターを登場させる作品もあれば、『お嬢様バズ』のように人数を絞ってキャラクター同士の関係性を深く描く作品もある。
問題なのは、増やした結果として、物語の焦点がぼやけることだ。
新しいキャラクターを出すなら、その人物が登場することで物語が面白くなる必要がある。
主人公との関係が変わる。
新しい情報が出る。
対立が生まれる。
物語の世界が広がる。
あるいは、読者がその人物を好きになれる。
そういう明確な理由が欲しい。
単純に、
「この設定を説明するには、このキャラクターがいたほうが便利だから」
だけでは、少し弱い。
便利な説明役を増やしていくと、物語がどんどん「説明するための人」で埋まってしまうからだ。
とはいえ。
キャラクターを作るのが楽しいのも事実である。
設定を考えていると、
「この人物ならこういうことを言うだろうな」
とか、
「この人と主人公を会わせたら面白そうだな」
とか、次々とアイデアが出てくる。
だからこそ難しい。
増やしたくなる気持ちを抑えつつ、必要なところでは思い切って増やす。
そして増やすなら、既存キャラクターと役割が被らないようにする。
結局のところ大切なのは、
「キャラクターの人数」ではなく、
「そのキャラクターが物語の中で何をしているのか」
なのだと思う。
十人のキャラクターが全員似たような役割をしているより、五人しかいなくても、それぞれが違う立場や目的を持って動いているほうが面白い。
逆に、二十人、三十人とキャラクターが増えても、それぞれに明確な役割があり、読者が見分けられるなら、それは作品の武器になる。
だから今後は、新しいキャラクターを思いついたときほど慎重になろうと思う。
――まあ。
そう思った直後に、
「この展開なら、もう一人くらい必要だな」
と考えてしまうのが、作者というものなのだが。




