流行に乗って、個性を出す――ファンタジー小説の差別化について
前回の感想で挙げた「後半の反復を少し圧縮する」「珍しい設定→主人公の行動→作品らしさの流れを強める」という方向で、文章全体を整理しました。特に結論がより鋭くなるようにしています。
さて、小説というものは、基本的には文字だけで読者に物語を伝える媒体である。
もちろん、表紙や挿絵といった要素はある。
(WEB小説投稿サイトだと、それすら難しい場合もあるが)
しかし、実際に読者が作品を読むとき、そこにあるのは文章と物語だ。
だからこそ、私は小説という媒体は、正直なところ差別化が非常に難しいものだと思っている。
例えば、ファンタジー小説。
剣と魔法。
異世界。
冒険者や勇者。
魔物や魔王。
貴族や王族。
ダンジョン。
こうした要素は、すでに数え切れないほどの作品で使われている。
もちろん、それらを使ってはいけないという話ではない。
むしろ、人気のある要素だからこそ、多くの読者が安心して作品を読み始めることができる。
問題は――。
**同じような要素を使う作品が、あまりにも多いことだ。**
剣と魔法の世界で、主人公が冒険者になり、仲間を集め、魔物を倒し、成長していく。
設定を文章で説明すれば、十作品どころか百作品以上が似たような紹介文になってしまうことも珍しくない。
では、そんな中で、どうやって読者に、
「この作品を読んでみよう」
と思ってもらうのか。
これは、ファンタジー小説における大きな難しさだと思う。
そして私は、この問題はVチューバーにも少し似ているのではないかと思っている。
Vチューバーはイラストのアバターを使うことで、顔を出さずに活動できる。
これは非常に大きな利点だ。
しかし一方で、イラストを使うからこそ、人気のあるデザインや流行の方向性に集まりやすいという側面もある。
可愛い女の子。
格好いい男性。
獣耳。
ファンタジー風の衣装。
メイドや学生服。
そうした人気のある要素を取り入れれば、当然ながら似たような印象のアバターも増えていく。
さらに配信内容も、ゲーム実況や雑談、歌や踊ってみたなど、人気のあるジャンルに集中しやすい。
ある配信が大きく伸びれば、似たような企画をする人が増える。
あるゲームが流行れば、多くの配信者が同じゲームをプレイする。
流行が見えれば、みんながそこへ向かう。
これは決して悪いことではない。
人気があるものをやるのは、当然の選択だからだ。
むしろ、何が流行っているのかを理解することは、活動するうえで非常に重要だろう。
ただ、その結果として、外から見たときに、
「この人は他の人と何が違うのだろう?」
と分かりにくくなることがある。
そして、ここにはもう一つ問題がある。
**知名度そのものが、作品や活動を見てもらうための力になってしまうことだ。**
例えば、Vチューバーなら、すでに多くの視聴者を抱えている大手事務所や有名な配信者は、新しい配信を始めたときにも、それだけで多くの人に存在を知ってもらえる。
一方で、知名度のない個人や小規模な事務所の場合、どれだけ面白い配信をしていても、まず「存在を知ってもらう」という段階で苦労する。
もちろん、個人勢や中小規模の事務所から大きく伸びる例もある。
だから「有名でなければ見てもらえない」という話ではない。
ただ、**知名度があること自体が、最初の入口を広げる力になる**というのは間違いなくあるだろう。
小説も、これとよく似ている。
異世界転生が流行れば、異世界転生が増える。
追放が流行れば、追放ものが増える。
悪役令嬢が流行れば、悪役令嬢ものが増える。
スローライフが流行れば、今度はスローライフ作品が増えていく。
読者が求めているものがある以上、それ自体は自然な流れだ。
だが、同じ流行を多くの作者が追いかければ追いかけるほど、作品同士の差別化は難しくなっていく。
さらに、小説にはVチューバー以上に厳しい部分がある。
作者の知名度だ。
有名な作者なら、新作を出しただけで一定数の読者が読みに来てくれる。
過去作を読んでいた読者が、
「この作者の新作なら読んでみよう」
と思ってくれるからだ。
しかし、無名の作者にはそれがない。
どれだけ面白い作品を書いていても、まず作品そのものを見つけてもらわなければならない。
つまり、小説には、
**「面白い作品を書く」**
という問題の前に、
**「そもそも作品を読んでもらう」**
という問題がある。
ここは非常に重要だと思う。
だからといって、流行を避ければいいわけではない。
むしろ逆だ。
流行には、読者を作品へ連れてくる力がある。
誰も見ていないゲームを選べば、それだけで個性的になるかもしれない。
誰も読んでいない題材を選べば、それだけで他作品との差は作れるかもしれない。
しかし、そこには別の問題がある。
**そもそも、その題材を求めている読者がどれだけいるのか分からない。**
個性的であることと、読者に見つけてもらえることは、別の問題なのだ。
だから重要なのは、流行から離れることではなく、**流行を入口として利用すること**なのだと思う。
例えば、人気のあるジャンルを使う。
タイトルやあらすじを見れば、読者が、
「これは自分の好きなタイプの作品だ」
と分かる。
そして、実際に読み始めてもらう。
ここまでは、ある意味で「王道」でいい。
重要なのは、その先だ。
数ページ読んだところで、
「でも、この作品は他の作品とは少し違うな」
と思わせる。
そして、
「この先、主人公は何をするんだ?」
と続きを読みたくさせる。
私は、ここに差別化の本当の意味があるのではないかと思っている。
つまり、小説の読者を増やす過程には、少なくとも三つの段階がある。
**第一段階は、見つけてもらうこと。**
タイトルやジャンル、ランキング、キーワードなどを通して、まず作品の存在を知ってもらう。
**第二段階は、読み始めてもらうこと。**
タイトルやあらすじ、キャッチコピー、そして第一話によって、
「ちょっと読んでみよう」
と思ってもらう。
**第三段階は、続きを読んでもらうこと。**
ここで初めて、
「この作品、他とは違うな」
と思わせる。
この三つは、全部別の問題なのだと思う。
どれだけ独創的な作品でも、見つけてもらえなければ始まらない。
どれだけ素晴らしい物語でも、タイトルやあらすじで内容がまったく伝わらなければ、読み始めてもらえない。
そして、読み始めてもらったとしても、最初の数ページで、
「思っていたのと違った」
と思われれば、そこで離脱されてしまう。
だからこそ、ファンタジー小説では「王道」と「個性」の両方が必要になる。
タイトルやあらすじでは、ある程度王道でいい。
むしろ、
「異世界転生です」
「悪役令嬢です」
「スローライフです」
「ダンジョン攻略です」
といった、読者が理解しやすい入口を作ることには意味がある。
読者が、
「これは自分が好きそうな作品だ」
と判断できるからだ。
しかし、作品の中身まで他作品と同じにする必要はない。
むしろ、そこで違いを見せる。
ここで重要になるのが、
**「その設定で、主人公に何をさせるのか」**
ということだと思う。
例えば、
「異世界転生」
という設定自体は珍しくない。
しかし、その主人公が、
「せっかく異世界に来たのだから、魔法で農業を改革しよう」
と考えれば、そこから物語は変わっていく。
同じ「魔法」でも、
魔物を倒すために使うのか。
農地を改良するために使うのか。
建物を作るために使うのか。
失われた文明を復元するために使うのか。
それだけでも、作品の印象は大きく変わる。
同じ「冒険者」でも、魔物を倒して成長するのではなく、未知の土地を測量するのかもしれない。
失われた文明を調査するのかもしれない。
商売をするのかもしれない。
農業をするのかもしれない。
あるいは、そもそも戦闘を物語の中心にしないという選択もある。
つまり、
**設定そのものが作品を差別化するのではない。**
**その設定を使って主人公が何をするのかが、物語を差別化する。**
ここが重要なのではないだろうか。
珍しい設定を考えることだけが、差別化ではない。
むしろ、
「普通の設定なのに、なぜか今まで読んだ作品とは違う」
という状態を作れれば、それは十分に強い個性になる。
そして、その個性は主人公の行動から生まれる。
主人公が何を目的にするのか。
何を問題だと考えるのか。
問題に対して、どう行動するのか。
その結果として何が起こるのか。
その積み重ねによって、物語は少しずつ他作品から離れていく。
例えば、異世界転生した主人公がいる。
多くの作品なら、
「俺にはチート能力がある!」
「魔王を倒そう!」
となるかもしれない。
しかし、そこで主人公が、
「この世界、識字率が低すぎるな。まず学校を作ろう」
と言い出したらどうだろう。
さらに、
「学校を作るなら教科書が必要だ」
「教科書を作るなら印刷技術が必要だ」
「印刷するなら紙が必要だ」
と話が広がっていく。
すると、最初は普通の異世界転生だったはずなのに、いつの間にか、
「異世界で教育制度と印刷産業を作る話」
になっている。
これが、設定ではなく主人公の行動による差別化なのだと思う。
だから私は、
**「誰も使っていない設定を探す」**
よりも、
**「よくある設定で、自分なら主人公に何をさせるのかを考える」**
ほうが重要なのではないかと思っている。
同じ材料でも、料理する人が違えば味は変わる。
同じ「異世界」でも、主人公が何を見て、何を考え、何を選択するのかによって、物語はまったく違うものになる。
そして、その違いが積み重なった結果、
**「この作品らしさ」**
が生まれる。
もちろん、簡単なことではない。
むしろ、ここが一番難しい。
ただ珍しい設定を考えるだけなら、既存作品とは違うものを組み合わせればいい。
しかし、それが面白いとは限らない。
読者が求めているものを理解しながら、その期待を裏切りすぎず、それでいて予想通りにもならない。
そのバランスを取る必要がある。
だからこそ、差別化に必要なのは「奇抜さ」ではないのだと思う。
**「読者が知っている入口」と「作者にしか作れない中身」。**
この二つを組み合わせることが重要なのではないだろうか。
例えばタイトルで、
「異世界転生」
と分かる。
あらすじで、
「貴族として生きる」
と分かる。
読者は、
「なるほど、こういう作品か」
と思って読み始める。
ところが第一話を読んでみると、主人公がいきなり、
「まず、この領地の土地台帳を作ろう」
などと言い出す。
そこで、
「ん?」
となる。
さらに読み進めると、
「この主人公、戦うより先に測量を始めたぞ」
となる。
そして気づけば、
「この先、こいつはいったい何をするんだ?」
と思って続きを読んでいる。
こういう形なら、入口は王道でも、物語そのものは十分に個性的になり得る。
つまり――。
**王道は、読者を連れてくるために使う。**
**個性は、読者をその場に留めるために使う。**
そして、その個性を作るために、必ずしも誰も考えたことのない設定を用意する必要はない。
主人公に何をさせるのか。
主人公は何を目的にするのか。
何を問題だと考えるのか。
その問題をどう解決しようとするのか。
その一つ一つの選択が、作品を少しずつ他作品から離していく。
だから、流行を恐れる必要はない。
むしろ流行しているジャンルだからこそ、その入口を利用すればいい。
ただし、その先では、
「自分なら、この主人公に何をさせるのか」
を考える。
それが、自分だけの物語を作るための一つの方法なのではないだろうか。
だからファンタジー小説で本当に難しいのは、
「珍しい設定を考えること」
ではない。
**読者が一目見たときに内容をイメージでき、読み始める理由がある。**
そのうえで、数ページ読んだところで――。
**「これは自分が今まで読んできた作品とは、何かが違う」**
そう感じてもらうこと。
私は、それこそがファンタジー作品における、本当の差別化なのではないかと思っている。
そして、その「何かが違う」を作るために必要なのは、誰も考えたことのない設定ではない。
**同じ設定から、違う主人公を生み出すこと。**
**同じ材料から、違う物語を作ること。**
そのために必要なのは、
「この設定なら、普通は主人公に何をさせるだろう?」
と考えるだけではなく、
**「この設定で、自分なら主人公に何をさせたいだろう?」**
と考えることなのだと思う。
流行を入口にする。
王道で読者を引き込む。
そして、その先で自分だけの物語を見せる。
それこそが、似た作品があふれる現在の創作において、作品を埋もれさせないための一つの方法なのではないだろうか。




