↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/12

改稿は、終わらない

 翌日。


 私は、第一話を開いた。


 昨日までとは、少しだけ見え方が違う。


 文章を読む。


 そして、一文ごとに問いかける。


「この文章は、読者に何を感じさせる?」


 最初の一文。


 状況説明。


 世界観の説明。


 主人公の説明。


 設定。


 また説明。


「……多いな」


 思わず呟いた。


 以前なら、


「必要な情報だから」


 で済ませていた。


 でも、今は違う。


 必要かどうかではなく、


**「今、この瞬間に必要なのか?」**


 と考える。


 すると、削れる文章が次々に見つかった。


「これ、後でもいいな」


 削除。


「これも、読者は今知らなくても困らない」


 削除。


「これは……設定としては重要だけど」


 少し悩む。


 そして。


 削除。


「……思ったより消えるな」


 画面の文章が、どんどん短くなっていく。


 けれど、不思議だった。


 短くなっているのに、話が分かりにくくなっている感じがしない。


 むしろ。


 主人公が何をしているのかが、前より見える。


「なるほど……」


 今までの私は、


**「読者に全部分かってもらおう」**


 としていた。


 でも。


 全部説明してしまえば、読者が考える余地がなくなる。


 そして、考える必要がなくなれば――。


 先を知りたい理由も減ってしまう。


「説明しすぎると、謎まで消えるのか」


 これは大きな発見だった。


 私はさらに読み進める。


 次は、主人公の行動だ。


 第一話の中で、主人公はいくつかのことをしている。


 歩く。


 調べる。


 考える。


 発見する。


 そして、次の場所へ向かう。


 以前は、


「ちゃんと行動している」


 と思っていた。


 でも、改めて見ると。


「……全部、受け身だ」


 主人公自身が、


**「これをやる」**


 と決めて動いている場面が少ない。


 何かが起きる。


 それに対応する。


 また何かが起きる。


 それに対応する。


 その繰り返しだった。


「これじゃ、主人公についていく理由が弱い」


 主人公が次に何をするのか。


 それを読者が知りたいなら。


 まず主人公自身が、


**「次はこれをする」**


 と決めなければならない。


 私は第一話の途中に、新しい一文を入れてみた。


 主人公が発見したものを見て。


 そして、自分から次の行動を決める。


 それだけ。


 たった一文だった。


 けれど。


「……こっちのほうがいい」


 明らかに違った。


 物語が前へ進んだ。


 何か大事件が起きたわけではない。


 敵が出たわけでもない。


 新しい能力を手に入れたわけでもない。


 ただ。


**主人公が、自分の意思で次へ進む。**


 それだけで、物語に方向が生まれた。


「これか……」


 私は画面を見つめる。


 読者が知りたいのは、必ずしも大事件じゃない。


 主人公が何をするのか。


 なぜ、それをするのか。


 その結果、何が起きるのか。


 それが見えていれば、


「もう少し読んでみよう」


 と思ってもらえる。


 そして最後。


 第一話のラストを見る。


「……ここだな」


 以前のラストでは、主人公が一つの出来事を終えていた。


 だから、物語としては区切りがついている。


 問題は。


 **区切りがつきすぎていることだった。**


 読者が安心して、


「ここで終わりだな」


 と思える。


 つまり。


 そこで閉じられてしまう。


「だったら……」


 私はラストを書き換えた。


 出来事を完全には終わらせない。


 新しい問題を一つだけ残す。


 主人公自身に、


「これを確かめなければならない」


 と思わせる。


 そして。


 そのために、次の場所へ向かう。


 文章を書き終えてから、私は数秒間、画面を見つめた。


「……なるほど」


 昨日までとは違う。


 第一話の最後に、


**「次に何をするのか」**


 が残っている。


 そして、その行動の結果が気になる。


 私は試しに、そのまま第二話を開いてみた。


 以前なら、


「第一話はここまで」


 という感覚だった。


 でも今は違う。


 第一話の最後に、


**「次はどうなる?」**


 という疑問が残っている。


 だから、自然に第二話へ進める。


「……これなら、読者も同じように感じてくれるかもしれない」


 もちろん。


 これで人気作になる保証なんてない。


 文章だって、まだまだ下手だ。


 設定に問題があるかもしれない。


 展開だって、もっと良くできる。


 それでも。


 昨日までとは、一つだけ違う。


 私はようやく、


**「何を直せばいいのか分からない」**


 という状態から抜け出した。


 第一話を良くする。


 その意味が、少しだけ分かった気がする。


 文章を綺麗にすることだけじゃない。


 設定を増やすことでもない。


 派手な展開を入れることでもない。


 読者が第一話を読み終えたときに、


**「この先を知りたい」**


 と思える形にすること。


 そのために。


 主人公を動かす。


 問題を残す。


 次の行動を決める。


 そして――。


 読者に一つだけ、


**「なぜ?」**


 を残す。


「……よし」


 私は保存ボタンを押した。


 けれど。


 そこで終わりにはしなかった。


 今度は第二話を開く。


「……あ」


 思わず声が出た。


 第二話の冒頭が。


 昨日までとは違って見える。


 第一話のラストで主人公が次の行動を決めたせいで。


 第二話の最初から、


**「その行動の結果を見る」**


 という目的が生まれている。


 第一話と第二話が、ちゃんと繋がっている。


「……これまで、話ごとに考えてたんだ」


 私は苦笑した。


 第一話は第一話。


 第二話は第二話。


 それぞれを面白くしようとしていた。


 でも、本当は違う。


 一話ごとに完全に区切るのではなく。


 前の話で生まれた疑問を、次の話で少しだけ進める。


 そして。


 新しい疑問を生み出す。


 その繰り返しで、読者は先へ進んでいく。


「……物語って、こういうことなのか」


 初めて。


 私は「続きを書く」という意味を、少し理解できた気がした。


 そして、その瞬間。


 新しい問題に気づいた。


 私は第二話を読み返す。


 第三話。


 第四話。


 さらに先まで。


 そして――。


「……まずい」


 思わず呟いた。


 第一話を直したことで。


 今度は、**第二話以降の弱さが全部見えてしまった。**


 昨日までなら、気づかなかった。


 でも。


 もう、気づいてしまった。


「……また最初からかよ」


 頭を抱える。


 けれど。


 今度は、少しだけ笑えた。


 昨日とは違う。


 何を直せばいいのかは、分かっている。


 だから。


 私は、第二話の一行目にカーソルを合わせた。


「よし」


 まだ終わらない。


 むしろ――。


**ここからが、本当の改稿だった。**


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。