148 闇世の中のアウトロー
キャンプでは曲者揃いの六人が俺達を出迎えていた。
鼻の下に生えた整った髭がトレードマークの伊達男ことハリー。犯罪者で罪状はギャンブルのイカサマだ。
無精髭の濃いエルフ、ヴァン・D。DはドワーフのDらしい。レバーアクション式のウェーブライフルを手に噛みタバコと洒落こんでいる。
俺と同じく非エルフでトカゲ人間のムスカ。弓矢と投げナイフが得意らしく、手でナイフをもてあそんでいる。
焚き火を余所事にラジオをいじっているのはドク。本物のドクターらしいのだが、医療過誤を起こしたらしく、免許は剥奪されている。今夜はメスでなく爆薬を持ってきたらしい。
髪を真ん中で分け、プロップ帽を被ったロバートは一見まともそうだったが、14回の決闘を行ったイカれた野郎だ。引き金のないウェーブ銃使いで、撃鉄を起こすと撃鉄が勝手におりて弾を発射するという暴発したみたいな撃ち方で決闘を勝ってきた。
坊主頭で髭のない最年少のリコ。幼いが年齢は23歳らしい。ウェーブ銃よりもスコープのついたボルトアクション式の火薬銃を信頼している。
エルフはリコ以外皆100歳を超えており、ムスカは30代。俺は40代で、年齢層の高い一団だが、寿命の長いエルフにあってはさほど珍しくない。
ベルの息子ジョンくん奪還隊は、予想通りはみ出し者が多い。
「そのクソ人間で全部か?」
黒いシャツ黒い革パンと黒い帽子でカラスみたいに格好を決めたハリーが、俺を見て鼻白む。こいつ、差別主義者だ。
「どーも。スペースニートだ。」
俺はハリーに片目を閉じると、俺を知っているらしい何人かがピクリと反応した。
「これで全員だ。今から草馬に乗って希望の谷へ出発し、ブラッドクルスを潰し、息子を助ける。」
「早くジョンを助けなきゃ!」
気を揉んでいるリコをヴァン・Dが手で制した。
「落ち着け。作戦が先だ。敵に突っ込んでいくついでに、棺桶に突っ込むのは無しだぜ。」
汚れたオーバーオールを着たヴァン・Dが髭をボリボリとかく。白いカウボーイハットがミスマッチだ。
「常時、闇の中でのスニーキングミッション。見つかれば銃撃戦。それでいいだろう。」
カウボーイハットでなくトリルビー帽を被ったムスカがたき火に木の棒を突っ込んだ。
「敵のアジトの地形とか頭に入れときたいんだが。」
俺が喋りながら後頭部をかくと、ベルが頷いた。
「地図がある。」
ベルがペーパーディスプレイを広げた。ディスプレイが3つの異なった風景を立体画像で映し出す。
「連中は希望の谷の略奪した農場に20人単位で住んでいる。それが3カ所。情報によると、ジョンはここにいる。」
ベルが風景の一つを指さすと、ディスプレイが反応して画面がアップになった。
「この納屋の中だ。他にも囚われている人々は居るが、ジョンを助けるのを最優先で頼む。」
「なんで囚われてるんだ?金目当てか?」
俺の素直な疑問に、ベルが表情を変えた。
「連中のボスは…アスマン人なんだ。」
アスマン人。
人食い宇宙人として知られる人種だ。
生体実験で生まれ、卵生で見かけこそ人型だが、平気で人を食う。
牛や豚のように人を食う種族をつくり、愚かな人間の天敵を作る。
狂気の科学者グリック・アスマンの忘れ形見という迷惑な種族である。宇宙法では人類種初の『駆除』対象になっていた。
「オーケー。それじゃ遠足に行きますか。」
早くしないとジョンは晩飯にされてしまう。
俺は焚き火で淹れた珈琲を啜ると、腰を上げた。
荒野を進む。
草馬という生物は走るのが速いうえに音がしない。蹄ではなく硬質化した組織が足先についているようだった。
こんな辺鄙な惑星でカウボーイごっこをする羽目になるとは。だが、人助けは俺の領分だ。
白と青。2つの月が幻想的に一行を照らす。
程なくして、農園の松明の明かりが見えた。
「ここからは徒歩で行く。」
ベルの言葉に従い、俺達は闇夜に乗じて農園へ接近した。
赤い十字の入ったズタ袋を被ったおかしな連中が、レバー銃を手に見張りについている。
杭で囲まれた農園には大きな民家があり、使用人が使う小さな家があり、奥に納屋があった。
悪いことに2つの満月が俺達を照らす。
「雲が出ていればな。」
「見てろ。」
ヴァンDの小声にムスカが呟いた。
ムスカはイモリかヤモリのようにスルスルと地を這い、音もなく農園入り口に立つ男の背後に回って、男が背伸びをした隙に頭を押さえてナイフを突き立てた。
「ふんっ!」
更にやって来た男が殺人現場に悲鳴を上げそうになったので、俺はやむなく死神の鎌を念動した。男の首をはねる。
「なんだ?ヒューマ、どうやった?」
「ニートの企業秘密さ。」
鼻血を袖でこっそり拭きながら、俺は片目を閉じた。
ともあれ、作戦開始だ。
ドクとハリーはボスのオーロットのいる屋敷に爆薬を仕掛けに、ムスカとロバートは使用人の小屋へ行き、リコは給水用の塔へと登った。
ベルとヴァンD、そして俺は納屋へと急ぐ。
納屋の中は暗い。
エルフは眼の桿体細胞の機能が強い者が多く、暗闇でもモノクロに物が見える。
サイバーアイを暗視モードにする俺だったが、納屋の中を見て唖然となった。
納屋の地面には血らしき染みがこびりついており、腐った牛の頭が臭いを発していた。
ベルが梯子を登ると、そこには縛られた人々がいて、そのなかにジョンがいた。
熱病らしく、ぐったりと倒れている。
「敵襲だ!」
くぐもった声と銃声が、辺りに響いた。
「マズイぞ!」
パニックを起こす人々の縄をナイフで切りながら、ヴァンDが焦った声を出した。
「スペースニート。ジョンを担いでくれ。」
「まかせろ。」
俺は息の荒いジョンを背負う。
納屋の外では、銃撃戦が始まっていた。
ズタ袋を被った男たちの中に、場違いの様にタキシードを着たハゲの男が立っていた。
屋敷は燃え、炎の色に照らされて、黒く落ち窪んだ眼窩をした男が乱杭歯を見せて笑っている。
こいつがオーロットか。
爆薬設置に失敗したドクが、ダイナマイトを投げる方向に考えを変えたらしく、そこかしこで爆発が相次いだ。
レバー銃を撃つ手下の頭を、リコのライフルが狙撃する。
倒れた男の中に、ズタ袋がとれたものがいた。
干からびたミイラ。そうとしか思えない頭部が露わになる。わずかな食料を求めてウジが乾燥した腐肉に沸いていた。
生物学的に死体が動くわけがないのだが、俺はそれどころではなかった。
ジョンを連れて脱出しないといけない。
撃鉄を叩くように発砲していたロバートが、オーロットに挑んだ。ウェーブ銃から放たれた光弾がオーロットのタキシードを貫通する。
だが、ゆっくりと、しかし確実に拳銃を構えるオーロットに、ロバートが戦慄した。
「ロバート!」
銃で顔面を撃たれたロバートに代わって、ハリーがオーロットの服に穴をあける。
血が噴き出るが、オーロットは嘲笑しながら飾りのついた火薬式拳銃を撃った。
ハリーは慌てて物陰に隠れる。
更にウェーブ銃を抜いたベルが、オーロットに立ちはだかった。
「よくも夫と息子を!」
ベルのウェーブリボルバーがオーロットの手首に光弾を当てた。腕がいい。
俺は隙をついて、逃げ出した納屋からの人々に紛れて走った。
三十六計逃げるにしかず、だ。
「おや、スペースニートじゃないか。」
逃げる目の前に、オーロットがいつの間にか移動していた。
どうやって!?
そういう思いで俺はジョンを背負ったまま、ブラックマンバを抜く。
「無駄だ。不死の私にそんなおもちゃは効くものか!」
「なら、死神の鎌はどうだい!」
俺は念動し、念動鎌がオーロットの胸板をとらえた。
「グフっ。」
倒れるオーロットを尻目に、俺は一目散に逃げ出した。
屋敷、家、納屋。全てを巻き込んで、炎があがる。枯れた作物に火がついて、煙が辺り一面に充満していた。
草馬の所まで逃げた俺は、ジョンを降ろすと容態を診た。
左腕のモニターを操作し、宇宙服に備え付けられている緊急用の医療錠剤を取り出す。
確か鎮痛や解熱作用もあったはずだ。
水無しで飲める錠剤をジョンに飲ませ、俺は農園に急いだ。
農園はもはや火災現場として消火しかねる所まで燃えている。
俺は仲間を探した。
「ベル!」
俺は倒れたベルの元へ走った。
ベルは肩を撃たれたらしい。
出血が酷い。
俺は肩に布を巻きつけて縛り、圧迫止血させながら、身体をささえるように起こした。
「どこに行こうと言うのだね。」
血まみれのタキシードを着たオーロットが、まだ無事な手下を連れて現れた。
「アジトを焼いておいて、命があると思うな。もはや、君らは私の舌の上だ。」
オーロットが紫色の舌で黒い唇をなめ、拳銃をこちらに向けた。
「そうかい。」
問答無用、先手必勝。
俺の念動鎌は手下をバラバラにしたが、オーロットはタキシードの上着に沈むような動作で俺の鎌をかわした。
念動鎌が、見えているだと!?
俺はブラックマンバを宇宙一早く抜くと、オーロットの額に穴をあけた。
「カハッ!」
ひるむことなく火薬式拳銃から鉛玉発射され、俺の宇宙服を腹に入った。
「チッ!」
撃たれた衝撃を耐えつつ、ウェーブ銃を連発し、足にも当たってオーロットが地面に倒れる。
「クソっ!」
俺は腹を押さえながら、ベルに肩をかして逃げ出した。
燃える農園の中、今度こそオーロットが起き上がることは無かった。




