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第71話 剣聖の行方

「そうか」



諜報武官からの報告を受けてユーディーンはただそう呟いた。

ユーディーンにとってもこれは予想していなかった事ではない。

ただ予想よりも早すぎた。


過去の失敗から諜報戦を強化してきたつもりだったが、今回もまた敗れてしまった。


周囲の配下の視線が集まる中、ユーディーンは玉座の間に集う者達に告げた。



「神獣ドラゴンがやってくる。ノーヴルヴェート、ロンデイルからの援軍は間に合わぬ。5万の中央軍だけで戦うしかない」



「……まさか、そんな」



ユーディーンの言葉に玉座の間に集う者達から次々と失望の声が漏れた。

失望というより絶望と言った方が正解かもしれない。


確かに2万のノーヴルヴェート、ロンデイルの援軍は間に合わなくなってしまったが、正直に言ってドラゴン500体もの群れに2万程度の援軍が増えた程度では何の足しにもならないとユーディーンは思っているので、援軍が間に合わない事に対する失望感はそれほど強くない。



そんなことよりも——。



「それとは別に先程、ルベリ村からアッシュの仲間である2人の戦士、そして少し遅れてアッシュがこちらに向かったと報告が入った。3名とも空を飛行し、こちらへ向かっているそうだが、それでもこちらに到着するには少し時間がかかるそうだ」



ユーディーンがその事実と伝えると、玉座の間にアッシュの到着を期待する者、アッシュの強さを疑問視する者など意見が分かれる声が漏れて出てくる。

既にアッシュが行った驚愕すべき力の情報の共有は済んでいるが、それでも500体ものドラゴン相手に戦えることを疑問視している者も多い。


だが、今ドレアス王国の首脳陣が考えるべきはアッシュがドラゴン500体相手に太刀打ちできるかなどではなくどうやってアッシュが到着するまで時間を稼ぐかという事だった


「こうして再度やってきたという事は交渉は無駄だろう。中央軍全騎士団、全兵に告げよ。ストレイン!」



「はっ、ここに!」



ユーディーンに呼ばれユーディーンと同年齢くらいの一人の騎士が膝を付く。


騎士の名はストレイン。

王国三騎士の一人にして、ドレアス王国騎士団総団長である。


膝を付きながら命令を待つストレインにユーディーンは大きな声で命令を下す。



「其方に全軍の前線指揮を任ずる。勝てと無理な事は言わぬ。1時間でいい、時間を稼げ」



1時間、それはユーディーンがガルドから報告を受けたアッシュの到着にかかる時間だった。

それはアッシュから直接聞いたわけではなく、ルベリ村に一人取り残されてしまったガルドが上空を高速馬車を遥かに超える速度で飛翔するアッシュ達を見て想像しただけに過ぎない。



(呑気にカレーなど食わず、交渉を終わらせてほしかったものだが、あの者相手に交渉を成功させただけで褒めるべきなのであろうな)



その交渉の後、2体のドラゴンがルベリ村に襲来し、ガルドが現場に到着した時には既に1体のドラゴンはアッシュにより倒され、なぜかもう一体のドラゴンの上にエリシア達が乗り込み飛び立とうとしていた所だとユーディーンはガルドから報告を受けていた。


アッシュがドラゴンを倒してしまった事にユーディーンとしては全く驚きはないが、エリシア達がドラゴンに乗り、飛び去ってしまったという事実には流石のユーディーンでも全く状況が理解できなかった。


エリシアの心配をしていないわけではないが、ユーディーンに取って今、一番重要な事はドラゴン相手に時間を稼ぐ事である。



ユーディーンは傍に控えるバデスにも指示を出した。



「バデス、余の護衛はいらぬ。其方も前線でストレインと共に戦ってこい」



「えー、マジですか?」



僅かに不満を漏らすバデスに正面のストレインが厳しい視線を向けた。



「マジですか? ではない。お前も騎士ならば王国の為に戦え。腕は落ちてはいないだろうな。早く行くぞ」



そう言って、ストレインがバデスを半ば引きずるようにして玉座の間を後にして行った。



ストレインたちが去り、ふと気になったユーディーンが近くにいた軍務長官であるベルゼスに問いかけた。



「レイは今どこにいる?」



今回のドラゴンとの戦いのある意味発端とも言えるレイは王城内での待機を命じられていた。

王都内にドラゴンの監視が紛れ込んでいるとは流石に思えなかったが、念のためにそのように命令を出していた。



「そういえば、見ておりませんな……ってまさか」



ベルゼスが最悪の事態を予想したのかその表情がみるみる青くなっていった。

そんなベルゼスを見て、ユーディーンもすぐにレイの行動に予想がついた。



「今すぐ、捜索させます」



「いや、待て。よい」



動き出そうとしたベルゼスをユーディーンは止めた。



「いえ、ですが……」



「よい、よいのだ。好きにさせておけ」



(そうか、やはりあの二人の子だな。責任感の強さは親譲りか)



ユーディーンはそんな事を思いながら、友が残した王国最強の剣聖、レイの無事を只祈る事にした。

次回から6話続けて、レイの回です。

個人的には一番好きな回が6話続きます。

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