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第72話 レイの戦い①

レイはただ一人でそこに立っていた。

彼女が見据える先には既に500体ものドラゴンがこちらへと向かい、飛んできている。


こちらから確認できているのはもちろん既に相手もレイの事には気づいているだろう。


レイはあまりに壮観な光景に只、溜息を漏らし、呟いた。



「父上、母上……、私は役目を果たせるでしょうか?」



剣聖レイはこれまで多くの戦いで前線へと立ち、数多くの敵を葬ってきた。

戦場に立つようになってから敗北を喫したのは昨日アッシュと戦った時のたった一度きりである。

その戦績に裏づかれるように、これまでレイは今は亡き両親に恥じぬ剣士になる為、尋常ではない研鑽を続けてきた。


全ては偉大な剣士だった両親に認められるような剣士になる為。

天命を全うし、天国に行った時、また昔のように褒めてもらえる為に。


だから、これまでどんな敵を前にしても逃げる事はなかった。


だが、そんなレイでも今まさに目の前にいる敵の大群を見て、忘れてしまっていた恐怖をじわじわと蘇ってくるのを感じていた。



(父上、母上、力を貸してください)



ぐっと足に力を込め、レイは銀色の仮面の奥からドラゴンの先頭を飛ぶ人の形をした女性を見る。


ベルゼスが言っていた通り、女は人間では考えられないような美しいエメラルドグリーンの髪と瞳を持っていた。

そんな神秘的な美しさと共に女は絶対的な強者の威圧感と風格も持ち合わせている。


レイは直感的に女に500体のドラゴンに匹敵するほどの脅威を感じていた。


そんなレイの視線に答えるように女——エルディアは空中で制止し、レイを高い所から見下ろした。



「ふふ、何かしら? こんな所に一人でなぜ立っているの?」



「私の名は剣聖レイ。悪しき神獣ドラゴンから我が祖国から守るために来た」



そんなレイの宣誓にエルディアは眉をピクリと動かした。

エルディアにとってまさにレイは自身の子供カルルを害し、今回の騒動の発端を引き起こした人物だった。



「お前がレイね。よくもカルルちゃんを虐めてくれたわね。やはり人間共は嘘を吐いていた。今更、人間の愚かさには驚きはしないけれど、まさか一人でやってきたの? 残念だけど今更、お前の命一つでどうにかなる自体じゃなくなっているのよ? 理解できる?」



そう言いながら、エルディアはレイの剣が届くくらいの高さまで降りてきた。


エルディアはまったく警戒はしていない。


いきなり斬りかかってくる可能性自体は捨ててはいないが、レイが何をしても自身に傷一つつける事ができないとエルディアはそのように考えている。



「あなたの名は?」



エルディアの質問を完全に無視して、レイは彼女に誰何した。



「名? 今から死ぬお前が私の名を知っても無駄だと思うのだけれどまぁいいわ。私の名はエルディア。始祖竜フィーリーア様よって生み出されたこの世界最強のドラゴンよ」



「……エルディア。ベルゼス様からの報告で人間が神獣ドラゴンの頭をしていると聞いて驚いていたのですが、やはり神獣ドラゴンなのですね」



ベルゼスが嘘の報告をするわけがないが、ドラゴンの頭目が人間な訳がないので、なんらかの手段を用いて人間に化けているドラゴンだと予想していたが、それでもレイにはかなりの驚きがあった。



「で、私の名を知ってどうするのかしら?」



エルディアはレイの事に微塵の脅威も感じてなどいないが、わざわざ名を尋ねた理由は全く思い当たらなかった。


そんなエルディアに突然レイは剣を向ける。

エルディアとしては不意打ちで斬り込んでくる可能性は考えていたが、ただ剣を向けてくるとは思わず、眉を顰めた。



「へぇ、なんのつもりかしら?」



単なる興味からエルディアはレイに尋ねると、レイは大きな声を上げ、宣言した。



「エルディア、貴方に今から一騎打ちを申し込む! 私が勝てば、すぐに兵を引くと約束しろ!」



「……は?」



思いもよらないレイの言葉に一瞬エルディアは初めて呆気に取られてしまった。

エルディアからすればこのような何の利益にもならない一騎打ちを受ける理由はない。

ただ数に任せて、蹂躙しつくしてしまえばいいのだから。


一瞬返答を迷っていると、レイから更に言葉が飛んでくる。



「私に勝つ自信がありませんか? あの神獣ドラゴンもそうでしたが、一体では私と戦う勇気もありませんか?」



「あぁ? 今、お前、カルルちゃんの事を侮辱したの? しかも私に勝つ? 人間のお前如きがこの私に?」



ありえない暴言を吐くレイに頭に血が上ると同時にエルディアは脳裏に一つの感情が湧いて出た。



(あぁ、どこまでいってもやっぱり人間は愚かなのね。だけど面白いわ、私に勝てると思えるその馬鹿さ加減が)



人間が自身に勝つ可能性が微塵にでもあると思うこと自体がエルディアからすれば愚かだった。



「ふふふ、いいわよ。お前が私に万が一でも勝つことが出来ればすぐに全軍引き上げて、今後一切お前達に手を出さないと約束するわ。そんな約束を申し出る時点でお前に勝つ事ななんてできないのだけどね!」



「そうですか、ありがとうございます」



この時点でレイの狙いは成功することになったのだが、レイは知らなかった。


始祖竜フィーリーアから生み出されたと言ったエルディアがどのような存在であるかという事を。

レイの回が続きます。


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