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第70話 無駄な説得

生意気なオリスを華麗なパス回しで瞬殺し、地面へと降り立った俺様はボーゼンと共にエリシア達の所へと向かった。


俺様の華麗なパス回しに感動したのかエリシアと騎士共は俺様の顔を呆然と見つめている。



「おいっ、何を呆けている。さっさと準備しろ」



「えっ、これに乗るのですか?」



エリシアがボーゼンを見上げる。

確かに乗り心地は悪そうだが、どのみち俺様についてこれなどしないのでボーゼンには安全運転で飛んでもらえばいい。

そんなエリシアにボーゼンはフンと鼻を鳴らす。



「我の背に乗れるなんて光栄に思うのだな。急げ、あの人間達では母上は止められぬ」



そう言ってボーゼンは姿勢を低くしてエリシア達に搭乗を促す。

エリシア達は少し躊躇していたが、意を決したのか一人ずつボーゼンの背に乗って行く。



「お前、セラたちの事を甘く見過ぎではないか。アイツらはあぁ見えて結構強いぞ。少なくともドラゴンなんぞに遅れは取らん」



そうでもなければいくら俺様がいるとはいえ魔王討伐の旅になどついていけるわけがないからな。

セラが本気を出しさえすればドラゴン500体を倒す事も不可能ではないだろう。



「ふん、そうだといいがな」



ボーゼンはそう言ったが、心の中ではセラたちではその母上を止める事などできないと信じ切っているようだった。

まぁ確かにアイツらは強いがかといって無敵と言うわけではない。



急ぐか。



「先に行く。ゆっくりで構わんからこいつらを頼んだぞ」



俺様はそう言い残し、王都へと出発した。







アッシュがルベリ村を出発した少し後——。



500体近くものドラゴンを背後に引き連れたドラゴン族の女王エルディアは視線の先に広がる王都を見下ろしていた。

エルディア自身が人間に課したタイムリミットは3日後だが、エルディアがこの地を去って、再度この王都まで帰ってくるのにまだ半日すら経過してはいなかった。


エルディアからすればとんぼ返りに等しかったが、エルディア自身、そこまで心は乱してはいなかった。

ただ感じたとすればそれは人間への呆れくらいのものだった。



「ここまで愚かだとは思わなかったわ」



エルディアはただそれだけ呟いた。

そんなエルディアの傍で呟いた声を聞いていたドラゴンがいた。

エルディアの側近であり、古くからエルディアに仕えているドラゴン、ギーラだ。

ギーラはエルディアのように人間形態を取る力までは持っていないが、他のドラゴンに比べ大きな魔力と力を持ち、エルディアの配下のドラゴンの誰よりも大きな体を持っていた。



「エルディア様、どうかお考え直し下さいませんか? カルルを攻撃され、お怒りなのは分かりますが、人間の国一つ滅ぼすなどやりすぎです。ここはどうか下手人と王の処刑を以てお許しになるのが賢明かと思われます」



ギーラは効果がないだろうと感じながらもあえてこれから起こるであろう惨劇を止める為、エルディアに考え直すよう訴え出た。

多くのドラゴン族は今回のエルディアの行いには肯定的な立場だが、それでもドラゴン族の中でも否定的な者は一定数存在していて、ギーラもそのドラゴンの内の一体だった。


そんなギーラへエルディアは冷たい視線を向ける。



「意味が分からないわ。なぜ私の大事なカルルをあれ程までに痛みつけた人間を許すと言うのかしら?」



冷たい視線でエルディアはそう言うが、そもそも半日もせずにドレアス王国を滅ぼすと決めた理由もギーラから考えれば些細なものだった。

滅ぼすと決めた王都から数人の人間が逃げ出し、王都へと戦力を集め始めたというのがその理由なのだが、ギーラからすれば数人が逃げた程度では何も変わらないし、戦いの準備を始めた事だって、エルディアが率いるドラゴンの軍勢からすればまったく脅威ではない。


面と向かってこそ言わないが、エルディアはただ鬱憤を晴らす為だけにここまで大事にしたのではないかとすらギーラは感じていた。

それほどまでに特にここ数百年のエルディアの機嫌は悪かった。


理由は分かっている。

1000年ほど前に起きたあの事件が原因だという事は。


事件が起きた当初こそエルディアはまたあの日々が戻ってくると信じていたが、時がつれる内にエルディアは信じることを忘れ、笑う事もなくなってしまった。



「お気持ちは分かります。ですが、このままでは戦争になります」



「へぇ、ギーラ。貴方、まさか私があの人間もどきに後れを取るとでも思っているのかしら?」



ギーラが戦争になると心配し、エルディアが人間もどきと言う者達はもちろん人間の事ではない。

遥か昔、ドラゴン族と同じくこの世界に取り残されてしまった者——人間のいう所の大陸西の神獣の領域に住まうエルフ族の事だ。


彼らエルフ族は、人間とほぼ同じ外見をしながら人間とは隔絶した力を持っている。

だからこそ、戦乱渦巻く人間の世界と立地的に繋がっている地に住みながら人間と戦争になった事は一度たりともない。


隔絶した力を持ち、人間を滅ぼしうる力を持ちながらエルフ族が人間に自分から力を振るわないのはエルフ族が人間を守るべき対象として見ているからだ。

もちろん、人間が自ら滅ぼしにやってくるというのなら反撃を行うが、基本は交流を行う事もせずただ見守るという姿勢を保っている。


その理由は今までドラゴン族が自ら人間に滅ぼしに動かなかった理由と同じものだが、彼らはドラゴン族よりもその傾向が一層強い。


人間同士の戦いには介入してこないエルフ族だが、その相手がドラゴン族であるならばエルフが介入してくる可能性があるとギーラは見ているのだ。



「そうは思いませんが、エルフ族とは戦うべきではありません。あの方たちの、リティスリティア様とのお約束をお忘れになられたのですか?」



ギーラがその名を出した瞬間、エルディアの目付きが変わる。

それと同時に華奢なエルディアの身体から周囲が重苦しくなるまでの凄まじい冷気を帯びた魔力が噴き出した。



「……裏切り者の名を出すな。これ以上言うならギーラ、貴方から消す事になるわよ?」



ギーラは息を呑む。

強大な力を持つドラゴンであるギーラだが、エルディアと戦って勝つ事などできないし、そもそもこの世界のドラゴンの王であるギーラと戦うべきではないことくらい分かっている。



(やはり無駄か。悪く思うなよ、人間)



「そうですか、ではこの戦いが終わったら私がエルフ族を説得致します」



ギーラは人間の国を救う事を諦めた。

そして、今から起こる蹂躙の後のエルフ族との話し合いへと頭を切り替えて、今はただ戦う事をギーラは決めたのだった。

オリスとボーゼンもそうでしたがドラゴン族の中でも今回の件に関して色々と意見が割れているようです。

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