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第53話 密談1

「あなた! クレア!」



「ママ!」



家へと入った女は周囲を囲んでいた騎士達を振り切り、リビングで待っていた夫であるランドと娘である少女クレアと抱き合った。

あの絶望的な状況から家族が誰一人かけることなく救われたのはこの家族にとってみればまさに奇跡以外の何物でもない。

そんな奇跡を噛みしめながら抱き合う家族をバデスは温かい視線でただ見守っていた。



少しして、落ち着いたランドが女から体を離すとチラッとバデスと黒服の男達へと視線を移しながら女に尋ねた。



「サーシャ、こちらの方々は?」



ランドはバデスが家の中でルシードの親衛隊騎士を戦うことなく投降させたのをその目で見ていたのでバデスの存在自体は知っていたし、親衛隊騎士がバデスの名を呟いていたので名前も聞いていた。

しかし、女——サーシャの時とは違い、娘であるクレアが連れ去られそうな緊迫した状況の中でまさかそれが国王直属の親衛隊騎士隊長で王国3騎士であるバデス=クリフトハットであるなどと予想する間もなかったのだ。


そんなランドの問いにサーシャではなく、これまで家族の抱擁をじっと見守っていたバデスが答える。



「俺の名はバデス=クリフトハット。陛下直属の親衛隊騎士をしている者だ」



「……国王陛下の親衛隊騎士? ま、まさか王国3騎士のあのバデス様ですか?」



「あぁ、一応そんな呼ばれ方をされる事もある」



確認してみたもののまさか自分の目の前に王国3騎士の一人であるバデスがいるなどとは思ってもいなかったランドは顔を真っ青にしてその場で頭を地面に擦りつける様に土下座をし始めた。



「こ、こ、この度は私達家族をお救い頂きましてありがとうございました! まさか3騎士のバデス様とは知らず、とんだご無礼をー!」



そんなランドの姿を見て、サーシャも慌てて男と同じように頭を下げたが、幼い娘クレアがそんな状況がいまいち理解できていなかったのか、トコトコとバデスの傍まで歩み寄ると——



「ありがとねー! おじちゃん!」



と、言いながらバデスの手を握りしめた。


頭を下げているのでクレアの挙動こそ見えていなかったが、はっきりと聞こえた我が子の声にランドは血の気が引いていく。


クレアとしてはただ純粋に感謝を伝えたかっただけなのだが、ドレアス王国において国王ユーディーン=パブロ=ドレアスという存在は神に等しく、ランドたちの目の前に立つバデス=クリフトハットという男は正にその神の右腕なのである。

「おじちゃん」などと呼んでいい相手でもなければ、いきなり手を触れてることなど絶対に許されない上位貴族であるのは間違いない。


娘クレアの純粋過ぎる行動にすぐさま土下座の姿勢を崩したランドはバデスからクレアを引き離し、守る様にクレアを抱きしめながらバデスの顔を見上げた。



「ど、ど、ど、どうかご容赦をー! この子はまだ6歳の子供で何もわかっていないのですー!」



そんなランドを見下ろしながらバデスはゆっくりと近づいていくと男が抱きしめているクレアの頭にポンと手を置いた。



「……お、おじちゃんか。まぁどういたしまして」



「えへへ」



バデスに頭を撫でられて笑うクレアを見ながら心底安堵したような表情のランドにバデスは言う。



「先程も奥さんに言ったが、謝らないといけないのはこちらの方だ。本当にすまなかった。馬鹿の所為で少し予定は変わってしまったが、元々あなた方には話があったんだ。こんなことがあった後ですまないが聞いてはくれないだろうか? 俺の家でもないんだが、まぁとりあえず座ってくれ」



そう言って、バデスが部屋の中央にある4人掛けのダイニングテーブルへと家族3人を促すと。

そんなハデスを見てサーシャは慌てて、奥の部屋から椅子を取りに行こうとしたがそんなサーシャを壮年の黒服の男が呼び止めた。



「あぁ、我々は結構。バデスとお家族3人でお座りください」



「いや、何言ってんだ? 旦那が座れ。俺は元々来る予定じゃなかったから詳しい話はよく分からねーんだよ」



そう言ってバデスが壮年の男に席を譲ると、壮年の男に向かい合うようにランド、クレア、サーシャの順で並ぶように座る形になった。

その周囲を囲うようにして黒服の男達とバデスと騎士達が立ち並んでいる。



「やっぱりバデス様だけでもお座りになられたら……」



周囲を囲われ緊張した男が恐る恐るバデスに提案するが、「いや、慣れているから大丈夫だ」と断られてしまう。

確かにバデスはユーディーンの親衛隊騎士なので立つことに慣れてはいるのだが、ランドは貴族である騎士を立たせたまま自分達だけが座る事になど慣れていないのだ。

とはいえ、これ以上問答もできないのでランドは緊張に耐えながら、現状を受け入れることにした。



「さて、まず初めに自己紹介……といきたい所なのですが、私の職務上本名は明かせない事になっておりますので、ここでは私の事はイーグルとお呼びください」



そう前置いた黒服の壮年の男——イーグルにランド達が頷くと、イーグルはゆっくりと話し始めた。



「ありがとうございます。お話とはあなた方のご子息ケイン殿のことです」



「ケイン! ケインは生きているのですか!?」



イーグルの言葉に大きな反応を見せたのはケインの母であるサーシャだった。

そんなサーシャをクレアは不思議そうな表情で見つめている。

クレアが驚いているのはケインは友達の家に泊まりに行っていると説明されていたのにサーシャがいきなりそんな事を言い出したからだ。



「もちろん生きております。ケイン殿はとある重要人物の手によってルシード様から救われ、今はその方の元で元気にしております」



「……よかった、本当に」



イーグルの言葉にサーシャは目に涙を浮かべている。

そんなサーシャとは対照的にランドは不可解そうな表情でイーグルの話を聞いていた。

確かにランドとしてもサーシャと同様息子のケインが生きている事をとても嬉しく思ってはいたが、それ以上にあまりにもその話と今日起きた出来事が現実離れすぎていた。



このドレアス王国の第一王子であるルシードに逆らい、ケインを救ったという存在がいるという事。

なぜあの傍若無人なルシードがケインを救ったというその者ではなくケインの家族である自分達の元にやってきたのかという事

そして、ただの一平民にしか過ぎない自分達に対するこの異様とまでいえる貴族たちの対応の変わり様。


どれを一つをとってもランドからすれば考えられない話だ。

そんな事を思うランドの表情を読み取ったのかイーグルは小さな笑みを浮かべ、更に話を続ける。



「ご存じの通り、現在王都は神獣ドラゴン襲来による都市封鎖がなされています」



「それはもちろん知っていますが、それと私の息子に何の関係が? それにドラゴンは追い払ったのでしょう?」



少なくても国の発表ではそうなっている。


都市封鎖は追い払った神獣ドラゴンに一応警戒するための念の為の処置であり、もし仮に追い払った神獣ドラゴンが戻ってきた場合には10万を超えるドレアス軍と王国最強の騎士である剣聖レイが神獣ドラゴンを討ち滅ぼすと国王ユーディーンが宣言を出していたのである。


いきなりの話題転換にランドが更に怪訝そうな表情を浮かべる中、「これは絶対に他言無用でお願いしたいのですが」とイーグルは前置いた上で凄まじい爆弾を投下した。



「神獣ドラゴンは追い払ってなどいません。ただ交渉で時間を稼いだだけで、3日後この王都は500体を超えるドラゴンの軍勢によって滅ぼされます」



「……なっ、では国王陛下のお話は?」



「ほとんど嘘ですな。仮にドレアス王国が全戦力を投入して戦ったとしても万が一にも勝てる相手ではありません。それでもあのように説明しなければ王都はパニックに陥り、大門前には今頃市民の死体の山が築かれていた事でしょう。多くの市民が逃げ出すのを黙って見過ごすほど神獣ドラゴンは甘い相手ではありませんからな」



「……そ、そんな」



まさかいきなりそんな重要機密を教えられるとは思っても見なかったランドはあまりの衝撃に言葉を失ってしまう。

なぜ息子であるケインの話からこのような国家滅亡の危機に関する話に転換されたのかがランドには全く理解できなかった。



「ですが、その神獣ドラゴンに唯一対抗できる可能性がある人物がいるのです」



「……人物?」



「はい、その方こそ二度に渡ってあなたのご子息をルシード様からお救いになられたアッシュという戦士です」



ケインの実家回ですが、あと2話ほど続く予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 自分達で、ドラゴンを襲撃して住みかを荒らした癖に、無関係の人間に戦わせようとする根性が気にくわないよね。
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