第52話 親衛隊騎士隊長バデス=クリフトハット
ちょっと間が空きました。
ストック自体はあるので明日も多分更新します
「嘘だ、ありえない。父上がそんな……」
ここまで大声で喚いていたルシードもバデスの言葉を聞き、膝から崩れ落ちて独り言のように呟いた。
ルシードはここに来ても自分が何をしたのかが理解できていなかった。
これまでに散々王族の信頼を損なう問題を起こし続け、今回にいたってはドレアス王国を明確に存亡の危機に陥れた上に僅かに残された最後の希望の灯すらをも消し去ろうとしてしまったという事実に。
だが、そんなルシードでもこれだけは理解できた。
父でありドレアスの王であるユーディーンが自身を見限ったという事を。
王国3騎士の一人であり、本来であれば国王ユーディーンの傍で盾となっていなければいけないドレアス王国国王直属親衛隊騎士隊長バデス=クリフトハットが今ここにいる事でそれを理解してしまったのである。
バデスは完全に戦意を喪失したルシードも見下ろしながら、持っていた煙草にライターで火をつけてプカプカと一服し始めた。
「小さい頃は可愛げもあったのに残念だ。本当に鷹のダンナの言う通り、どこで間違えてしまったんだろうな、陛下は。……後は任せたよ、旦那」
バデスが壮年の男を見てそう言い終えるとほぼ同時に家の中から悲壮感漂ったルシードの親衛隊騎士達がルシードの見覚えがない騎士達に連れられ出てきた。
親衛隊騎士の鎧や体などには傷一つなく、戦闘が行われた形跡はまったくなかった。
そんな姿を見て、ルシードは戦闘が起こることすらなく、親衛隊騎士がバデスに白旗を上げたのだと悟った。
バデスの言葉を聞いた壮年の男は周囲にいた黒服の男達に視線で合図を送ると、無駄のない動きで膝をついているルシードを取り囲んだ。
その様子を見ながら、バデスは吸い終えた煙草を地面に擦りつけてから金属製の携帯灰皿の中へと放り込む。
「あー、そうそう、そいつらだがよ。出世は完全に閉ざされた訳だが、ストレインの奴に頼んで見習い騎士から始めてもらう事になったぞ。今の状況で才能のあるやつを腐らせておく余裕は王国にはないからな」
「……そうか」
ルシードはユーディーンに見限られた事実を受け止め切れず、気の無い返事でバデスに返す。
そんなルシードにバデスは溜息を吐き、自らが連れてきた騎士達に命令を下す。
「連れていけ。俺も用が終わったらあとで向かう」
バデスの命令に従い、数名の騎士が手錠をかけルシードを貴族街の方へと連れて行った。
「さて」
バデスはルシードと騎士達が見えなくなったのを確認してから、黒服の男達に保護されていた女へと視線を移す。
「大変お騒がせした。これまでの数々の非礼を詫びる。どうか許してほしい」
そう言って、女に頭を下げたバデスの姿に周囲は騒然となった。
王国3騎士の一人であり、国王直属親衛騎士隊長であるバデスがドレアス国王ユーディーン以外に頭を下げる事などほとんどない。
そんな立場にあるバデスが高位貴族ならまだしもただの一平民にしか過ぎない女に頭を下げたのだからそんな騎士達の反応は当然だった。
「……ハ、ハデス? もしかして王国3騎士のハデス様ですか?」
名や周囲の反応でハデスの正体に気付いている女は驚いたようにハデスに誰何した。
女からすればなぜハデスのような雲の上のような存在が一平民にしか過ぎない自分達家族を救うために国王であるユーディーンの守りを捨て、このような市民街の外れにやってきたのかが理解できなかった。
しかもそんなハデスが一平民でしかない自分に頭を下げ、謝罪の言葉を口にしているのだ。
女が知る貴族は雲の上の存在であり、ハデスほどの高位貴族ならば目を合わせる事すら不敬に当たるというのにである。
そんな女の反応にハデスはふっと柔らかい笑みを浮かべながら答えた。
「いかにも俺は陛下直属の親衛隊騎士隊長のハデスだ。疑うのは無理もない。普通に考えれば陛下の傍を離れてこのような市民街に来るなどあり得ないからな」
「いえ、疑ってなどいませんが……」
「まぁ今は非常事態だからな。間に合ってよかった。これであなた方に何かあれば本当にどうしようもなくなっていた所だ」
「それはどういう……」
「一応人払いはしているはずだが、ここではまずい。あなた方の家でお話をしても?」
「構いませんが……」
ハデスの提案を断れるはずもなく、黒服の男達や騎士達に周囲をがっちりと固められながら女はハデスと一緒に家へと戻るのだった。




