027 秘蜜の花園 ~La Giardina Segreta~ Ⅰ-3
【秘蜜の花園】の本殿前は広いテラスになっており、その上には石造りの小さな四阿が建っていた。
天井には魔道具のランタンが吊るされており、それが発する淡い明かりが照らし出したのは、四阿の内部中央に据えられた小さな円卓……英国の貴族の邸宅の庭なんかに置いてあるような、お茶会に使われる感じの猫足のお洒落な逸品である。
その円卓とセットで置かれた三つの椅子に、1号(仮)と2号(仮)が並んで正面側に腰掛けて、オレの方は対面の席に着いた訳だが――
こうして改めて二人を並べて見ると……言わば同一存在なのだから当たり前なのだが――「いやーホント、二人とも黙っていれば不気味なくらいソックリだよなぁ……さしずめ魂の双子といったところか」
「また口に出して本音を言っているわよ? あと――それついさっきも言ってたし、目覚める前にも同じこと言ってたわね?」
「そ、そうだったっけ?」
「ぶーぶー! それよりさー、ちょっと酷くないー? あたしたちみたいな妖艶な超絶美少女をつかまえて『不気味な双子』だなんてさー!」
「それにさっきから何を他人事みたいに言っているのかしら? もう今の私たちは、貴女を入れて魂の三つ子になったのよ」
「えっ? 魂の三つ子に、なった……ですと!?」
「あー、やっぱり-……このヒトってば無自覚だったみたいだよー?」
「御不浄の時といい、どうして貴女は今の自分の姿に対して、そこまで無自覚でいられるのかしら?――これで自分の姿をよく見なさい」
どこからともなく取り出した手鏡を、目の前に突き付けられる。
その鏡に映っていたのは――あの二人と同じゴスロリを纏った青みがかった銀髪の、虹彩異眼の美少女……ま、つまり現世における現実でのフィリアの姿だった訳だな。
あー……うん。そりゃそうだ。いや分かっていたよ。分かっていたさ。
死んだオレの魂が転生した姿がフィリアであり、その三番目の人格として覚醒したのが今のオレなんだってことは、十分に理解しているし自覚だってある。
別にボケていたワケじゃないんだ、誤解するなよ?……だってさオレが目覚める前は、実体が無くて、靄みたいな姿だったんだよ。だから今回もその時と同じ感覚でいたっていうだけなんだよ。
……とは言え夢の世界でも肉体と同じ姿になってしまうとか、なんたる理不尽! 残念無念なり!!
オレは円卓に両手をつくと、ガクッと項垂れた。
「オレの精神は立派に男のままなのに、なんで精神世界でもこの姿になってしまうんだよ!?」
「でもーそもそも、おねえちゃんは前世の姿なんて覚えてないでしょー?」
「ぐっ、それは確かに……でもさ折角の夢の世界なんだし、贅沢は言わないから高身長のイケメンで、細マッチョな男の姿になりたかったよ……」
「それで贅沢じゃないというなら、他にどんなのが贅沢な姿になるのかしら?」
「……っていうかそれはつまりー、ラテア兄さまの姿だよねー!」
「ぐはっ……!」
「そもそも……いくら夢の中が精神世界だからって、姿が変わる訳ないでしょう? 『魄』は個人の本質であり、『魄』は肉体に支配されるモノなのよ。だから例え夢の世界とはいえ、精神体の方も現身を反映した姿になるのが当然というものよ」
「そーそー、だから諦めて身も心も超絶美少女フィリアちゃんになろうよー!」
だから自分で超絶美少女とか言うなっての! まあ、確かにそのとおりなのだが……。
はぁ~、もういいやこれ以上何も考えたくない……そんなこんなでお茶会開催の運びとなった訳であるが――
★★★LAST-PRINCESS or LUST-PRINCESS★★★
直前まで何もなかった円卓の上に、空中からパっと白磁のティーセットが現れて――オレの席の前に置かれたカップには琥珀色の液体……つまりコーヒーが湯気を立て、芳ばしい香りが鼻孔をくすぐってきた。
さらに円卓の真ん中には、三段重ねの皿の塔になったケーキスタンド……ま、要するにアニメや漫画なんかでよく見掛ける、英国式お茶会でお馴染みのアレだよ――それが出現し、皿の上には各種とりどりの洋菓子が載っていた。
コーヒーカップが載ったソーサーを持ち上げ、カップを顎の下で、湯気を顎に当てるように揺らして香りを愉しむ。鼻孔をくすぐるこの芳醇な香りよ。堪らんな。
出来れば無糖で味わいたいところなのだが、残念ながらこの体は――ってあれ? ここは夢の世界で、そもそもこの体も肉体じゃないハズだが……まあ、これもあとで聞けばいいことだな。
気を取り直して……この体は子供舌でおまけに甘党だから、苦いものは口に合わないのだ。
そういえばあいつらは? と思ってチラッと二人の方を見てみると――シュガーポッドを寄せて、それぞれの手前に置かれたコーヒーカップに、スプンーンで一杯、二杯、三杯、四杯とドバドバと入れ、さらにミルクポッドの中身もドバドバと入れて、涼しい顔でカキ混ぜていた。
一連のその作業を見届けたオレは、無言で同じようにシュガーを四杯、ミルクをドバドバと入れてカキ混ぜたのであった……。
コーヒーを一口飲む。メッチャ甘いし、おまけにちょっと温い……じゃなくて、やっぱ味覚も普通にあるんだな。
次いで1号(仮)手づから菓子台から取り分けて、皿で差し出してくれた生菓子を一口食べてみる。
あー、うん。メッチャ甘い、けど美味しい。その生菓子一個をあっという間に平らげてしまった。しかも早速二個目を所望したほどだ。
…………。
…………。
…………。
「さてっと、何から話しましょうか?」
その一声でハッとする――オレはここで何をやってたんだ!?
本来の目的を忘れてオレは二人と一緒になって、会話もなく黙々と生菓子を食していたことに気付いた。
冷静になって考えてみたら、ゴスロリな三つ子が黙々と生菓子を食べる姿は、客観的に見ればちょっと異様な光景だったに違いない……・
でオレが生菓子を三個平らげて、二杯目のコーヒーを飲み干して……一息着いた頃――1号(仮)が徐に女子談義の開始を突然に告げた訳である。
因みにオレが三個を平らげたその間に、1号(仮)は四個、2号(仮)は五個――それぞれ生菓子を食べ終えた後だったりする。
「色々聞きたいことはあるが、その前に……おい、2号(仮)さんや。ほっぺにクリームが付いているぞ」
「貴女のほっぺたにも付いているわよ」
「お、おう……」
★★★LAST-PRINCESS or LUST-PRINCESS★★★
オッホン!……さーてと気を取り直して――
「取り敢えず、一つ。さっきからずっと気になっていたことがあるんだけど?」
「あら何かしら?」
「鉄扇だの、手鏡だの……あとパンツとか。それにこのコーヒーや生菓子も。さっきからさ、どこからともなく出してるけど、これなんなの?」
実はさっきからこの小さなケーキスタンドも中身が無くなる毎に、いつの間にか生菓子が補充されていたりする。
「ああ。これ? 何てことないわ。お取り寄せよ。この空間に保管されているモノであれば、なんでも瞬時に手元に取り寄せることが出来るわ――因みにこのコーヒーや生菓子は全部現実から持ち込んだ……本物よ」
「お取り寄せ?」
「そそ。こんな風にパっと出せるんだよー」
そう言うと同時に、ずいっといきなり鼻先に突き付けられる鋭利なモノ――2号(仮)の手の中に現れた日傘を、閉ざした状態でランスを振りかざすようにして、こちらに突き付けやがったのだ……あっぶねぇなー! 今ちょっとマジでビビったわ。
っていうか、あと少しでもオレが首を後ろに逸らすのが遅れていたら顔に刺さっていたぞ。ヤバい……ちょこっとチビったかも!?
「……そんでもってー消すのもカンタンなんだよー」
そう言うと、鼻先に突き付けられた日傘が今度はパっと消える。
「へえー面白そうだな。それってオレにも出来るのか?」
「ええ。お姉様もコツを掴めばすぐに出来るようになるわ」
「どうやんの? まさかこれも教えないとか言わないよな?」
「これくらいなら教えてもいいよねー? この空間に保管されているモノ……つまりこの場合、本殿の保管庫にあるものだねー。それを頭に思い浮かべて『来い』って念じればいいんだよー」
「逆に戻す時には、元の場所に『戻れ』と念じればいいだけよ。簡単でしょう?」
「ほう……では、いっちょやってみるか」
試しに2号(仮)が手に持っていた……今出し入れされたモノを頭に思い浮かべて、召喚してみよう――「来い!」
そして、オレの手の中に現れたのは――
「あらっ? フッフフフフ……」
「ほーほー、なるほどー!」
それは穴あき透けパンツだった――あれっ? おかしいな。日傘を召喚するつもりだったのだが!?
「おねえちゃんは穴あき透けパンツ派だったんだねー!」
「それ穿きたいなら、今ここで穿いてみてもいいわよ?」
「ちゃうわ! これはきっとあれだ。さっき1号(仮)のパンツをじっくり観察したから、変に印象に残ってしまったからなんだよ……多分」
「つまりー、おねえちゃんもこんなエロっちぃのを穿きたいっていう願望のー、深層心理を反映した結果だねー?」
「ちゃうっつーの! しつこいわ! よーし今度こそ……戻れ! そんでもって――日傘よ、来い!」
そして、オレの手に召喚されたのは――
「お約束ね」
「お約束だねー」
オレの手にあったのは、極細紐パンツだった……。
「穿くのはそっちかしら?」
「だから穿かないっつーの!!……キャッ!?」
「とか言いつつー、今穿いているのはエロっちい透けパンのくせにー」
こ、こんにゃろー……いつの間にか、円卓の下に潜っていた2号(仮)が、オレのスカートを捲って、中を覗きこんできやがったのだ。
「知ってるくせに! 勝手に穿かされただけで、これはオレの意志じゃないっつーの!!……っていうかスカートに顔を突っ込むな!!」
「くんかくんか。この臭い……あれっひょっとして?」
「言うなー!!」
その後、パンツネタで二人に散々弄られまくり……次の話題に移ったのはそれから暫くした後――体感時間にして一刻ほどが経ってからだった。
イ400、イ401、イ402、概念伝達、お茶会……うっ頭が!




