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三番目の淫魔姫  作者: 素浪臼
CHAPTER Ⅰ Day One
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022 花三輪よれば姦しい ~Ring-a-Ring-o' Lilies~ 6

 フィリアオレがデスクワークを始めてから、かれこれもう一時限(約一五〇分)以上が経過していた――とは言えこの間、ぶっ続けで仕事をしていた訳ではない。おやつの時間ティータイムを挟んだりしつつ、休憩しながらの作業だ。

 因みにその間には、御不浄トイレにも何度か行ったぞ。だからもうアレの所作も完璧になったぜ、ワッハハハハ……。



 さて仕事仕事っと――書類を読むのは物凄く面倒ではあるが、オレ自身は内容を精査して考えていない。そっちの方は殆ど中の二人に丸投げにしているからだ。

 なのでオレのすることと言えば、言わるがまま書類を『可』『不可』とに選別した上で、書くのがひたすら面倒臭い長い本名フルネーム署名サインして、ただ判子をポンと押す、という単純極まりない作業を繰り返すのみなのだ。

 あれれ? この一見、ホワイトカラーな筈のデスクワーク……でもその実態はアタマを使わず延々と繰り返される単純作業って、蟻さん的シュレッダー係を彷彿させる苦行じゃね?

 いや深く考えてはいけない……要するにオレの担当は肉体労働な訳だ。で頭脳労働の方は――


わたくしと――)


(あたしー……これでギャラは同じなのー!)


 ……というワケだ。ギャラ? 何のこっちゃ。



 本日残りのスケジュールはこの書類の確認作業、デスクワークを八時限ヴェスペルム(地球時間換算で夜七時頃)が終わるまで続けた後……九時限プランディウムに夕食を摂ったら、入浴してから就寝となっているが、時間はまだ六刻(約九〇分)くらい残っている。

 ぶっちゃけもう疲れた。止めたい。逃げたい。ああ、物凄く褥台ベッドが恋しい――この単純作業の繰り返しに、肉体的疲労と精神の衰弱が重なって……ヤバいわ、いやこれマジでゲシュタルト崩壞を誘発しそうだ。

 

(デスクワークは毎日続くのよ。この程度で弱音を吐いたりしてだらしないわね――あっ、それ『不可』よ)


(ま、気持ちはわかるけど、そのうち慣れるからー……●ーメンを飲む感覚で気軽に出来るようになるよー)


(ちょっと貴女あなた! 下品な言い方しないでちょうだい)


 なぬ? 真面まともなツッコミだと!?


(そこはス●ルマを嚥下するように、と品よく言いなさい)


 おいっ……それも全然、品よくねーから!


(じゃあさー、チ●コをしゃぶるはー?)


(●ニスを舐める、よ)


(マ●汁を吸うはー?)


(ラ●・●ュースを啜る、かしら)


(マ●コを舐めさせるはー?)


(ク●ニね――ええと、それは『可』ね)


(おおー、なるほどー!)


 どっちも変わんねえよ……っていうかお前らどっちも等しく下品だっつーの!


(がーーん、クズでゲスいヒトに下品っていわれたー!)


 黙れ! オレはお前らより真面まともだよ……多分。きっと。おそらく……。


(何度も言っているように、わたくしたちは同じ魂から生まれた同一存在なのだから、その本質は変わらないハズなのだけど。ねぇ先輩・・?)


(そーそー! あたしたちはイッショなんだよっ、おねえちゃん・・・・・・!)


 あーもうっ、その話はもういいよ!――大体だなオレがこんなにも疲れているのは、何故だと思ってんだよ。


(デスクワークのせいでしょー?)


 ちゃうわい! いやそっちも大いにあるけど、この精神的疲労のもう一つの原因はお前らが五月蠅いからだよ! 二重音声ステレオで下品な会話ばっかされたら、こっちのアタマまでおかしくなってしまうんだっつーの!

 大体だな。こうなるってなんとなく分かっていたから、お前らのことずっと無視していたっていうのに……オレの心の平穏を保つ為に、頼むからもう少し静かにしてくれよ。


 あれ? 静かと言えば……お前らなんでさっきはさ、昼食頃からルーチェと遊んでいた間は大人しかったんだ?


(お腹がいっぱいになって、眠くなったんだー)


(ま、つまり一時限(約一五〇分)ばかりお昼寝していたワケよ――っと、それは『不可』……かしらね?)


(あたしたちのアタマとカラダってー、お昼寝しないと調子でないんだよー――えー? あたしはそれ『可』だと思うなー)


(そう?……ではそれは『保留』にしておいて頂戴)


 そーいえばルーチェも昼寝の習慣があるんだよな。『調子が出ない』って。

 っていうか、それって単にフィリア(この体)がお子ちゃまなだけなのでは……じゃなくて、お前らだけズルいぞ。

 オレが慣れないデスクワークで精神を摩耗させているっつーのに、お前らはお昼寝を満喫してリフレッシュしていたとかさ。ホントいい御身分だな!


(でもその代わり、お風呂で気絶したからいいでしょう?)


 よかねーよ――っと、雑談してる場合じゃない。書類はまだ沢山残っているんだ……こっちに集中しないと。

 因みにオレたちはこんな阿呆な雑談を挟みながらも、休むことなく手作業の方も並行して続けている……うん、我ながら実に惚れ惚れとする起用っぷりである。


(あっ……そこ綴りスペルが間違っているわよ)



    ★★★LAST-PRINCESS or LUST-PRINCESS★★★



 ところで今更な話だが、今フィリアオレがさせられている仕事について説明しておこう。

 大公位が不在ではあるものの、ここに残っている氏族クランの中では宗家の長女であるフィリアオレが最高位である為、事実上の大公としての公務に当たっている訳だけど……何度も言っているようにフィリアオレは現時点ではまだこの国の大公ではない。

 しかも公的には大公代行ですらないのだ。正式の大公代行は未だに、出奔してしまった叔母のままなのである。


 今のフィリアオレの公的身分は故・大公の遺児、第一公女(長女)で公位継承権第一位の次期大公候補であり、公職としては『大公代行補佐』或いは『大公見習い』という曖昧なものに過ぎない。

 フィリアが今の公務をするようになったのも、叔母が失踪した半年前からだ。因みに我が兄ラテアは、叔母の代行時代から大公代行補佐として執政を輔けていた。


 叔母と言えば――よくよく考えてみたら、例の置手紙の内容が「童貞千本斬りの旅に出ます」っていうのも随分とまあ巫山戯た話だよな。これマジで実践するとしたら、一日に一人として三年くらい掛かるのだろうか?


(いいこと教えてあげましょうか? スワロー叔母様は若い頃に一度ね――)


(ドーテー千本斬りを一年で達成させちゃった実績があるんだよー!)


(そう、それで付いた二つ名が千本桜ン棒ミーレ・チレージェという訳よ)


 うーわー、マジひくわー……そんな痴女い武勇伝なんか知りたくなかった!


(あたしたちも大人になったら、挑戦したいよねー!)


(ええ、是非とも!)


 させるか! オレの目が黒い……いや虹彩異眼オッドアイのうちは、男となんか絶対しないからな!!――っと、話を戻そう。


 前に淫魔ルッスーリアとは、『生来自由奔放な存在であり、何者からの支配も束縛も厭い、一処ひとところに留まり続けることを苦手とする流浪の種族』だと説明したが、全てがそうなのではない。

 同じ淫魔ルッスーリアでも庶民階級の場合、その多くが飲食業や酪農など各種産業に就き、殆ど人間ニンゲンと変わらないような暮らしぶりで、割と真面目に仕事をしているらしい。


 逆に上流階級である氏族クランの身分ともなると、淫魔ルッスーリアとしての性質がより顕著なものとなり、放蕩三昧で頽廃的な生き方を是とする怠惰な連中が多いのだとか。

 そんな性質だからそいつらは勤勉な仕事を極端に厭う。でそれが国の政策に関わる重要な責務であっても、面倒な雑事だと考える者たちばかりなのだという。


 なおこれは淫魔ルッスーリアだけに限った話ではないのだが、魔族デーモニヌには個人主義が多い。故に内政について無関心な者も多いらしい。 

 だがそんな怠惰な【淫魔族ルッスリアーニ】の氏族クランの中にあっても、宮殿に毎日参内さんだいして執政を輔けたり、治安維持部隊を組織したりして、大公家に……執政に対して積極的に協力する氏族クランも、多くはないが確かに存在する。


 とは言えやはりその大半の氏族クランが非協力的であり、各家当主たちが集う定例氏族クラン会議すらも四年に一度――って、まるで五輪大会オリンピックだな……。

 でその会議は、その年に一か月間だけ開催されるものであり……それは即ち氏族クランの国政への参議は、この時だけしかないという意味でもある。

  

 但し一応、淫魔ルッスーリアの名誉の為に断っておくと、議会の開催頻度が少ないのは我が【淫欲の大公国ルクスリア】が特別に怠惰だからではない。

 長き時を生きる不滅なる存在インモータル魔族デーモニヌなればこそ、この魔界パンデモニウムであればどこの国でもこんな調子らしい。

 ……なもんで日々の国民からの陳情や、商業や外交問題などの即決が必要な案件については、全て大公或いは最高位の者が対処しなくてはいけないっていう訳だ。



 そーいえば氏族クラン会議と言えば――さっきジョルジュの報告で「フィリアの大公継承の不信任案が可決」されたとか、「玉璽が盗まれた」とか、すっごく重要そうな話が出た訳だけども……それを報せたジュルジュ自身が「詳しくは後日、御前会議で」とか言って軽く流してしまったんだよな。

 あとあの時は雑音ノイズとして無視スルーしてしまったけどその際、フィリア1号(仮)も「気にする必要はない」と囁き掛けてきたから、オレも敢えて気にしないことにしたんだっけ……。


(ええ、そのとおりよ。気にしなくていいわ……玉璽の件は兎も角、氏族クラン会議には元々、太夫プリマと大公の継承者に対する不信任を決められる権限なんてないもの)


 えっ? そーなの?


氏族クラン会議で大公に対してあるのは、進退を問う審査権だけよ)


(しっかもーその審議って、一〇〇年に一度だけなんだよー)


(おまけにその審議も半ば形骸化しているのだけど)


 無駄にスケールが長いな、おい!……ん? じゃあ不信任案の採決って何だったのさ?


虚仮威しブラフ……いえ、ただの嫌がらせかしらね)


(よーするに、あたしたちのこと小娘だとか思って、ローガイどもに舐められているんだよー)


 小娘なのは事実だろ?……っていうか老害とか、さらっと酷いこと言うなぁ。


(ま、そんな些事について考えるのは後回しにして……今は書類確認チェックの方が大事よ――っと、どうやら終了の時間が来たみたいね。これで最後みたいよ?)


 ほっ、やっと終わるのか。ああ、一刻も早く褥台ベッドに飛び込みたい……。

 最後の一枚ね。えーと……なになに――『フィリア姫様の大浴場の利用頻度についての改革』の意見書? なんじゃこりゃ!?

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