021 花三輪よれば姦しい ~Ring-a-Ring-o' Lilies~ 5
フィリア1号(仮)、2号(仮)よ――オレの『心に干渉しない』と言ったな? ならば改めて問おう――
この体で目覚める前に、オレはこう言ったよな?――『前世たるオレの、忘れるくらいに空虚な生涯でしかなかったオレなんかが、お前たちが必死で生きて来た半生を否定する資格はないし、台無しにしていい道理はない。だからこそ有り得なかった筈のこの奇縁を運命として受け入れて、お前たちが望むとおりに、オレは【淫欲の大公国】の姫君としての責任を負って生きていく』ことを引き受けたって。
(ええ、確かにそう言ってくれたわね)
(うんうん、あの誓いの言葉はムネアツだったよー)
で、だ。こうも言ったよな?――『オレは男性性たるオレの心を失いたくない。だからこの身が女体になったとしても、オンナとしての、いや女性淫魔としては……オレには男相手にあれやこれやなんて悍ましい真似など出来ない。だからオレの心が男である限り、女性淫魔という性には全力で抗わせて貰う』と。それに対してお前たちは……。
(『それでも構わないし、女性淫魔としての生き方も無理強いしない』と私たちは言ったわ)
(でもー、女の子とねんごろになっちゃうのは、オーケーなんだよねー?)
ま、まあな。クックククク……じゃなくて! なのに、風呂での身動き出来なくなったあの『悍ましい自動行為』はなんだったの? アレもお前たちの仕業だったんだろ?
(でもでもー、すっごく気持ちよかったでしょでしょー?)
おう、アレは凄く気持ちよか……じゃねーよ! 同じこと言わせんな!!
(でもアレも『身体との繋がりがまだ不安定だったから』介入して出来たことなのよ。だからもう出来ないわ。そこは安心して頂戴)
いやだから、あれ何のつもりなのかって聞いてるの! オレが『女性淫魔という性に全力で抗う』ことに関しては、お前たちも『否定も無理強いもしない』と言って納得してくれたんじゃなかったのか!?
(ええ、そうね。私たちは『抗うことを否定するつもりもないし、無理強いもしない』わよ。でも――)
(あたしたちは諦めるとはいってないよー)
は……?
(貴女にはいつかこの体の性……女性淫魔の本能を受け入れて貰って、身も心も私たちと一体になって欲しい。でもそれは今すぐの話じゃないわ。貴女が素直に受け入れてくれるようになる日を、十年でも百年でも待つつもり……以上が私たちの考えよ)
(それはすなわちー、いつかメス猫になる日までー……三心同体少女体なんだよー!)
2号(仮)よ、お前の言っていることは意味が分からんが――なるほどつまりあの自動行為は……。
(少しでも早く、この体の性に慣れて貰おうと思って、あの時はいい機会だったから肉体占拠して快楽漬けに――要するに調教を試してみたって訳ね)
(ってワケだよー、納得したー?)
ああ、納得したよ……っていう訳ないだろ、ざけんなっ! そんな詭弁がとおるかよ!!
あと今さり気なく『調整』じゃなく『調教』って言ったな!? このド外道! 鬼! 悪魔!
(あら知らなかったかしら? 人間は私たち魔族のことを、悪魔って呼んでいるのですって)
知らんわ! お前たちの思惑通りになってたまるか!
(お好きにどうぞ)
オレは……オレは絶ッ対に――「チ●コになんか負けないからなーーーー!!」
(……あっ、それフラグね?)
(うん、これフラグ踏んだねー!)
(あと声に出しているわよ? しかも大声で)
★★★LAST-PRINCESS or LUST-PRINCESS★★★
なになに……「宮殿内の御不浄増設要望案」?――うん、これは聞くまでもない。速攻で『可』で決まりだよな?
(ええ、そのとおり――可よ)
……だよなぁ――なにせここの宮殿の御不浄の少なさについては、ついさっき実体験したばかりだ。御不浄の個室が無かったというヴェルサイユ宮殿よりマシなのかも知れないが、こっちの宮殿もその広さに反して御不浄数があまりにも少な過ぎる気がする。
(まあねぇ――それに関しては前から問題視されていたことだし、これは当初の設計構想から四倍に拡大してしまったことの弊害ね)
(そーそー、お御不浄が少ないのはホント困っちゃうよねー! あたしもそのせいで、お庭で野ションを何度もしてるんだよー)
(野ションは貴女の趣味でしょ! いつも『開放的ですっごく気持ちいい』って言ってるじゃない?)
(てへっ……でもそーゆーおねぇだってさ、このあいだ『意外と悪くなかったわ。クセになるかも』とか言ってたでしょー?)
(……だからと言って、私は貴女みたいに公開露出……)
わーわーわーわー!! 聞きたくない聞きたくない――女の子同士のそんな下品な会話は聞くに堪えないんだっつーの!……まして超絶美少女がしていい会話ではない!!
(はぁー……貴女はちょっと女の子に幻想を持ち過ぎなのではなくて?)
(しかも目覚めた直後に、おかしなこと言ったり、アヘ顔とかダブルピースとかま●●り返しとか、さんざん好き勝手にヘンタイ行為をやってたヒトに言われてもねぇー?)
さーてっとボケっとしてる場合じゃない。書類の確認作業に……デスクワークに意識を戻らないとな。処理待ちの書類はまだいっぱいあるんだし。
(誤魔化したわね)
(誤魔化したー!)
『御不浄増設要望案』の書類に長い本名で署名を書き、取手付きの大きな判子をポンッと押す。さらに二重丸いや花丸も大きく入れて、御不浄増設計画を最優先で実行するよう書き添えておく。
因みにオレがこの国の言語、ルクスリア語の読み書きを特に意識することなく、完璧にこなせているのは基礎知識のお陰だ。
(感謝しなさいよ)
(カンシャしろよー)
あーはいはい、感謝感謝――さてフィリアは今、見てお分かりのとおり先程から……御不浄を出てからずっと執務室で大公代行としての公務、つまりお仕事の真っ最中なのである。
御不浄での一人脳内女子会はあの後、フィリアの絶叫に何事かと慌てたホノカがやっ来てしまい、結局ロクな話も出来ないまま会話終了となってしまったのだ。
一人脳内女子会は現実の方では、四半刻にも満たない時間に過ぎなかった訳だけども、だがそれだけあればご●淫を愉しむには十分な時間であった。
だもんで御不浄から出て来たフィリアを出迎えたホノカは、口角を若干釣り上げたとてもいい笑顔を向けて……おまけにサムズアップをキメながら――
「ふふふ……お愉しみになられたようで」
と宣ったのであった――断っておくが、他愛のない女子会に終始しただけで、フィリアはご●淫なんかしてないから!……それは兎も角、御不浄タイムを終えたフィリアを待っていたのが、執務机に積まれた書類の山なのであった。
でもさよく考えてみたらいくら責任ある立場とは言え、数十日ぶりに目覚めたその当日から、いきなりデスクワークをさせるとか酷い話だよな。
なんて思う訳だけど、なんか知らんけどさっき昼食中に、フィリアはこの仕事するかと問われて、無意識のうちに頷いてしまったらしい……あー、メンド臭い。
そんでまあ、かれこれ四刻ばかり、フィリアは肘掛け付きの……大きなソファ椅子にちょこんと座りながら、重厚な執務机に向かって書類確認作業を続けている訳だが……このちっこい体で一生懸命に書類の山と格闘するフィリアの今の姿は客観的に見たら、それはもう小動物的な可愛らしい姿だったに違いない。
おまけにその背後に置かれたキャビネットの上には、今は大人しく座したままのヌイグルミのうさちゃんズがいて、我が身たるゴスロリ美少女との相乗効果で以て、お花畑っぷりな場違い感を醸し出している。
この執務室も例の如く豪華な内装で、これはさながら校長室いや、見たことないけど一流企業の社長室のようだ。入口のドアから入った真正面の奥に、この部屋の主の席――つまりフィリアが陣取った執務机が置かれている。
床には桃色の百合が刺繍されたカーペット、高い天井にはもう見慣れたシャンデリアが吊るされており……執務机の方から見て右側は、全面がガラス張りの窓となっていて、外光をいっぱい採り入れていた。
その反対側の入口の側には、先程フィリアがお世話になったばかりの御不浄の|ドアと、使用人用の控室のドアが並ぶ。
さらにその横には事務机があり、ラテア兄ィが座って書類確認の作業をしている。
因みにフィリアの側には駄蛇っ子メイドのホノカが控えて、出来るオンナの顔で書類整理を手伝っていた。
そして最後にフィリアの席の背面――執務机の背後には、中央に黄金の竜を象った超帝国の国旗、その左右には桃色の百合が描かれた大公家の紋章旗、皮膜の翼を生やした女性の人影……初代・太夫が描かれた大公国の国旗――それらが刺繍された三つの緙織壁毯が壁に飾られていた。
なお余談だが、フィリアが住むこの豪華な宮殿――【不夜なる大淫魔殿】は、先程フィリア1号(仮)が『当初の設計構想から四倍に拡大』したと言っていたように、実は未完成であり現在進行形で建設が続いていたりする。
(1号(仮)って、また呼んでるし)
オッホン! この宮殿は先々代大公……つまりフィリアの祖母の時代の三〇〇年前から、ここは建設途中なのだとか。
サグラダ・ファミリアの二倍以上とか時間の感覚がおかしいだろ。確かフランスのどっかにあるノートルダム大聖堂でさえ、最長で二〇〇年くらいだったかな?
一応、あと一世紀位で完成する予定なのだそうだが、長命種の魔族らしいこの無駄に長い時間スケールっぷり、パねえっすわ。
因みにこの宮殿は四つのブロックから成っている。各ブロックは最大で一〇〇メートル程の長さがある、幾つもの空中回廊で繋がった構造となっていた。イメージ的にはお台場にあるフ●テレビ本社ビルを想像すると早いかもしれない。
要するに、本来の設計構想ではこのブロックが一つだけだったものが、これが四つに増えてしまった訳である。なお各ブロックの間は、広大な庭園で埋め尽くされている……らしい。
余談だが、先程フィリアが隣ブロックへの移動途中で尿意を催したのは、空中回廊の方ではなく、最大で二〇〇メートル以上もある地下回廊でのことだった。
そんでここに限らずこの長い回廊では、何処にも御不浄が設置されていなかったという次第である……。
なおこれは後で知ったことだが、近場には一般用の公衆御不浄があったのだとか。だが高貴な身分たる者が、使っていい場所ではなく、フィリアもその存在を普段意識していない為、記憶にも無かったらしい……。
お次はっと――「【嫉妬の大公国】からの蜘蛛絹糸と蜘蛛糸石の輸出価格の一方的な値上げ勧告」について?
こうしてフィリアのデスクワークは、日が暮れるまで続いていくのだった………。
デスクワークは次回も続きます。




