017 花三輪よれば姦しい ~Ring-a-Ring-o' Lilies~ 1
一個人として遊んでいられる時間は終わった――
これからフィリアがしなくてはいけないことは、公人としての仕事――つまり公務である。だと言うのに……。
ヤバいよ、ヤバいよ! リアルガチでヤバい!!――フィリアは今、本日何度目かの最大の危機を迎えていた。
昼食からどれだけ時間が経った?……いや違う。もっと前だ。湯上りのミルクを飲んでから、もう一時限と四刻は経っているだろう……。
リビングルームを出て、執事のジョルジュとホノカの間に挟まれた形で……ついでに例の如くヌイグルミのうさちゃんズを背後に引き連れて、フィリアが執務室へと向かっている最中にそれが来た。
人間……じゃなったヒトには三大欲求というものがある――睡眠欲、性欲、食欲の三つである。睡眠は既に飽きるほどしたばかりだし、性欲も浴場で欲情を発散させられたし、食欲も満たした……そして食欲を満たせば当然ながら、次に訪れるのは生理的欲求である。生理と言っても赤い悪魔の血祭りではないぞ。
まあつまりアレだよ――
尿 意 が来たんだ!
お 漏 ら し の危機なんだ!
土手の堤防が決壊する寸前なんだよ!
これまでのことを振り返ってみれば、フィリアが目覚めてから今日はいっぱい飲んだ――ミルク1リットルを一気飲みしたのから始まって、昼食ではミックスジュースをガブ飲みしたし、食後にはコーヒーを何杯も飲んでいた……それに昼食のミルクポタージュだって汁物だし。
そう飲みに飲みまくっていたのだ。それでいて、こんだけ飲んでいたのに今まで一度も尿意を催さなかったのが、逆に不思議なくらいだ。
魔族は長命種だ――成長も老化も遅いからその分、人間よりも新陳代謝の方も遅くて、体内動態の排泄に関する動きも鈍いのだろうか?……などと冷静に分析している場合じゃない!
くっヤバい。
なんで選りに選ってこんな時にかぎって……御不浄であればリビングルームにもあったというのに。
記憶によると現状では近場に無いらしいのだ。で、ここから一番近い所にあるのが執務室に併設されているものらしい。
因みにリビングルームがあったのは公族用の居住区であり、今向かっている執務室は別ブロックにあるのだが……そこまでがやたら遠い。
浴場での快楽マッサージ地獄の時以上に、時間がとても長く感じられる。早く、早く、早く! 頼む早く着いてくれ!!
思い返してみればオレが男だった時は、尿意なんか一時間くらいは余裕で耐えられた――だというのにフィリアと来たら、尿道が短すぎるんだよ!
正直もう歩くだけでも辛くなってきた。全身に脂汗を掻いているのが自分でも分かる……おそらくフィリアは今、顔面蒼白になっているハズだ。
「フィリア様。なんだかお身体が震えているようですけど、体調が優れないのでしょうか?」
「ナ、ナンデモナイヨ……?」
背後から小声でホノカに囁かれたが、今のフィリアの顔を見せる訳にはいかない。振り返らずにそう応えるだけで精一杯だった――ってあれ? なんでオレは尿意を隠そうとしてんの?
授業中に恥ずかしくて『先生、トイレに行きたい』の一言が言えず、終いには教室でお漏らしてしまい、さらにクラスメイトからは『エンガチョ!』とその学期が終わるまで言われる羽目になる小学生じゃあるまいに、なんで中身成人男性のオレが尿意如きで恥ずかしがってんだよ!
そもそもフィリアはこれまで、いきなり●ん●り返しを見られそうになったり、真っ裸を衆目のもとで公開しまくったり、浴場で欲情させられまくったり、アヘ顔ダブルピースをキメたり……。
(ダブルピースってー……それ、自分で勝手にやっただけでしょー?)
と・に・か・く・だ! 今日一日だけで色々恥ずかしい姿を晒しているのだ。今更尿意がなんだって言うんだ。
ましてここは淫欲の国――あらゆる色欲が跋扈する魔窟なのだ。全然恥ずかしがることではない。
寧ろ先の例えじゃないが、通路上でお漏らしをした挙句、お風呂だ着替えだ床の清掃だと事後処理のあれこれの事態を招いてしまうとか、恥ずかしくて悶死したくなる最悪の未来想像図だ。だとすれば……。
(いいから、さっさとホノカに助けを求めなさいな)
そうだな。ここは始めから素直に、ホノカに助けを求めるべきなのか……フィリアはピタリと歩みを止めると、ギギギッと顔を背後に向けて――
「ホノカ、私ヤバい――おしっこしたい。我慢出来ない、助けて……」
言ったぞ。言ったったわ――フィリアちゃんえらい、やれば出来るコなんや!
「よくぞ言ってくださいました。フィリア様――ここは私めにお任せあれ!……して、あとどれくらい我慢出来そうですか?」
「四半刻――の半分も、ムリそう……?」
そもそも男女では尿道の長さが違う……ましてフィリアは子供にひとしい――女体初心者のオレには果たして、フィリアの膀胱がどこまで耐えられるのか、その限界をまだ知らないのだ。
因みにこの魔界では、四半刻よりも前の時間は正確には計測されない。これは魔族が長い時を生きる長命種故に、細かい時間は気にしない……いや逆に気にしていたら気がおかしくなるから、敢えて計測しないのだとか。
なお四半刻は『瞬きを百回』とし、四半刻より少ない時間に関しては『瞬きを●回しているあいだ』と形容するのが一般的らしい。
「それは一大事ですね――であれば少々急がねばなりません」
ホノカはそう言って、手も触れずに自身のパンプスとソックスをポイポイと起用に脱ぎ捨てると、次いで両手でスカートの裾を掴むとバッと捲り上げた。
フワッと舞い上がったスカートの中から、一瞬顕わになった極細紐パンツへ、空いた両手を素早く差すと、腰の両側の紐を引っ張って紐パンを一気に解除する……上がっていたスカートが降りたのと同時に、外れたパンツがパサっと足元に落ちた。
とフィリアがその紐パンにばかり注視していたら……次の瞬間――いつの間にかホノカの両脚が無くなっており……。
おおっ、なんと太くて長くて逞しいものをお持ちでいらっしゃる――腰(スカートで隠れているけど)から先の下半身が、白い鱗に覆われた蛇身に変化を完了していたのだった。
魔法のある世界でこんなこと言うのも変だが、この早業っぷりまるで引田天功みたいだな。
魔族の異貌変異――【蛇媧種】の真の姿たる、その本性を顕わにした訳である。
なるほど……こうして改めてその姿を見ると、ホノカも人外なのだと実感が湧いてくると言うものだ……っと感心している場合じゃなかったな。
床に落ちた紐パンとパンプスとソックスをパパっと拾い上げて、ポケットにしまうと、フィリアより一メートルほど高く上がっていたホノカの上半身が、前屈するようにして身を乗り出して、その両腕をこちらに差し出した。
「さあ、フィリア様――」
おそるおそる横を向いて腰を屈めて、ホノカの肩に横から両腕を回して、両手を組んでしっかりしがみ付くと、両腕で救い上げられて宙に浮いた――フィリアは本日二度目のお姫様抱っこをされた訳である。
おお、高い高い。でもこれ――いきなり目線が急に高くなって、ちょっと怖いかも。
フィリアをその両腕で抱きしめると、ホノカの腰から下、尻尾の先端まで十メートル近くはあろうかというその蛇身が、クネクネと文字通り蛇行して横向きでジグザグな形に――大腸のように折り畳まれる。
「ホ、ホノカ頼む――急いで、もう……」
「はっ、畏まりました。我が姫君の仰せのままに! 振り落とされないように、しっかり私に掴まっていて下さい。あとくれぐれも私の鱗には触れないよう願います……感電しますので――ではジョルジュ様、お先に失礼します」
「ホノカさん頼みましたよ……ではフィリア様、また後ほ――」
表情一つ変えずフィリアたちのやり取りを黙って見守っていたジョルジュが、全て言い終わるより前に――その蛇身にバチバチバチッと電気が迸り、次いで電気がバチンッと爆ぜたのと同時に溜めて解放されたスプリングが跳ねるように、一気に全力疾走……その瞬間、ホノカは一陣の疾風と化したのだった。
ホノカの肩越しに後方を見ると――頭を下げたジョルジュと、『ご武運を』みたいな感じで敬礼して見送るうさちゃんズが、あっと言う間に遠くに引き離されていく。
そして周囲の光景が流線となって流れ去っていくのだった……。
強烈なGと風圧で以て、顔がホノカのオッパイに押し付けられる。
うおおおうっ、この感触よ、堪らん!――なんて呑気にパイ圧を堪能してる余裕は今は無い……っていうか何この絶叫マシン? 振動が無いのはいいのだが、このスピードはコワいよ……マジでちびりそうなんですけど!?
くっ……耐えてくれ我が膀胱よ――早く、早くしてくれ! 土手の堤防が決壊してしまう……その前に!!
★オマケ
NGバージョン①
「フィリア様――ここは私めにお任せあれ!」
ホノカがそう言って、どこからともなく取り出したのはアヒルを模した白い物体――それは差し込み便器だった……。
NGバージョン②
「フィリア様――ここは私めにお任せあれ!」
ホノカがそう言って、どこからともなく取り出したのはガラス容器――それは尿瓶だった……。
NGバージョン③
「フィリア様――ここは私めにお任せあれ!」
ホノカはそう言うと跪いて、二つの掌を繋げ合わせた平手をサッと差し出した……。
NGバージョン④
「フィリア様――ここは私めにお任せあれ!」
ホノカはそう言うと、いきなり横たわって仰向けになり、その顔を蛇面に変貌させて咢を大きく開いた……。
NGバージョン⑤
「フィリア様――ここは私めにお任せあれ!」
ホノカはそう言うと、いきなり横たわって仰向けになり、さらにどこからともなく取り出したストロー状の細長い管を口に咥えると、もう一方の先端をフィリアに差し出した――それは尿管だった……。
NGバージョン⑥
「フィリア様――振り落とされないように、しっかり私に掴まっていて下さい!」
そう言うとフィリアを抱えたままホノカは、嵌め殺しの窓ガラスを豪快に突き破って外へと飛び出した!
四階のフロアから急落下し、物音一つ立てずに中庭に着地すると、ホノカは両手をフィリアの背後から回して、二の太股をガシッと掴んで抱え上げられた――こ、この姿勢はまさか……。
「さあ、フィリア様……ここで存分に致して下さい!」
しーしーだと? しかも野ション!? 色々ツッコミどころは多いけど……ホノカよ、だがなぁまだこれじゃあ駄目なんだよ――パンツ穿いたままだからな!




