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三番目の淫魔姫  作者: 素浪臼
CHAPTER Ⅰ Day One
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016 姫様はじめました ~Little Bitch Girl~ 5

 眠れ眠れ可愛めぐ緑子わくご

 母君ははぎみいだかれつ

 ここちよき 歌聲うたごえ

 むすばずや うまし夢



 フィリア(オレ)は今、子守唄を歌いながらその頭を撫でつつ、ルーチェを寝かし付けている……フィリア(オレ)の膝の上――つまり膝枕で。

 ルーチェはヌイグルミのトリさん(シニョーリ・ピゴ)を抱きしめたまま、泣き疲れて眠ってしまっていた。ああもうっ、ルーチェは可愛いのう……母性愛全開である。


 大人気なくも、フィリア(オレ)が本気でやらかした尻尾引きで負かしまくったせいで、マジ泣きしてしまったルーチェをあやしたりなだめたり、平身低頭でひたすら謝りまくっていたら……ルーチェが膝枕を要求した結果、こうなったワケである。

 そもそもこの時間は、本来であればルーチェのお昼寝の時間なので、習慣には勝てず寝落ちしてしまったのだろうな……。


「ふふふっ……」


「――ん? どしたの?」


 側に立って控えていたホノカが、フィリア(オレ)たちの姿を微笑ましそうに見つめていた。


「いえ……とても懐かしい光景ものを見たので、つい――あっ、いえ今の・・フィリア様のご存知のないことですよね……多分」


「ふーん、今の・・ねぇ……」


 オレの知らないフィリアたちの過去の思い出か――この未だ不完全なフィリアの記憶(情報)を補完することが出来れば、オレも何れ知ることになるのだろうけど……ちょっとだけ疎外感? いやいや寂しくなんかないやい!



 膝枕とは――前世のオレが果たしてその経験があったのかどうかは覚えていないが、女の子にやって貰いたい、全国の男子憧れのシチュだ。だがそれを実際にさせられる立場になってしまうと……。

 しかもこっちはソファの上とは言え、正座状態なのだ……この姿勢は辛くなるし、長時間ともなると太腿ふとももが段々と痛くなってきてキツい。この苦行はまるであれだな、江戸時代にあったという拷問の石抱みたいだ……。


 スヤスヤと眠るルーチェの寝顔は愛くるしいし、それを見てるだけで心がとても安らぐ。オレが苦しいからと言って下手に身動きして、ルーチェの安眠を妨げるのは忍びない。

 おまけにオレがちょっとでも油断すると、厄介な魅了ファッシノが発動して体臭フェロモンを発散させてしまいそうになるので、ルーチェの側では迂闊に気を抜けられない。ヒッヒッフー、ヒッヒッフー……。

 ホノカに目を向けて助けを求めたら、「自業自得です。そのままでしばらく反省していて下さい」と冷たい一言を賜ってしまった――


 拷問的膝枕(石抱の刑)を受けて始めてから、三刻(四五分弱)程が経った頃だろうか――チラッと壁に掛けられた時計の方を見ると、一本だけある針が七時限ポルティオを通過しており、そこからさらに二刻(三〇分弱)ばかり過ぎたことを示していた……。



ひぃ様ご苦労さまどした」


 フィリア(オレ)が刑を受けている間にホノカが呼んだのか、一人のメイドがルーチェを迎えに現れた。

 そのメイドは記憶によると、冥徒メイド組三番隊筆頭のライラといい、迦樓羅ガルーダ族という少数種族らしい。その背中に天使のような翼を生やしているのが最大の特徴だが、収納自在なようで今はその背中には羽根の一枚も生えていない。

 細目の笑顔(アルカイックスマイル)がチャームポイントのライラは、ホノカより年上でスレンダーな体形の女性だった。因みに身長はホノカより高いが、オッパイは小さい。だがちっぱいフィリアよりは大きいようだ。


 ライラはフィリア(オレ)の膝の上で眠るルーチェを、ふわっと羽のような軽やかさで以て、静かにその腕に抱き上げた。


「ほなおしまいやす」


 軽く会釈して、物一つ立てずにリビングルームから退室して行った。

 因みにルーチェにはホノカのような専属メイドがまだいない為、主に三番隊が交代でルーチェ番を担当しているらしい。 


 フィリア(オレ)の鶏ガラのような太腿ふとももを責めた伊豆石、じゃなかったルーチェが膝の上からいなくなったことで、その愛の責め苦からやっと解放されて、くてっと脱力したのだった。

 だが……この時、オレはとある驚愕の事実を知ってしまった。聞いてくれマイサンよ! オレは……フィリア(オレ)はあろうことか、ナチュラルに自分の両脚を開いてその間にお尻を落とし込んで座ってしまっていたんだ!――要するに女の子ぺたん座りをしちゃってたんだよ!


 父はここでも『男として大事な何か』をまた一つ失ってしまったらしいぞ――あ、でもこの座り方って慣れると、すっごいラクチンだな。ふむ、意外といいかも……。



     ★★★LAST-PRINCESS or LUST-PRINCESS★★★



「……フィリア様が眠られてから五デカードが経ってしまわれたのは、既にご存知のことかと思われます。ですが残念ながら眠られている間に……三(デカード)前にお誕生日が過ぎてしまわれました――」


 と渋い声で告げたのは、初老の執事のジョルジュだった――


 眠ったままルーチェが連れて行かれた後――頃合いを見計らっていたのか、ジョルジュが現れてフィリア(オレ)がこなすべき本日のスケジュールと、フィリアが眠っていた間の重要案件を告げたのであった。


 面倒臭そうな今後のスケジュールの方は兎も角――フィリア(オレ)が置かれている立場や、この世界についてオレが知った情報は非常に雑多な物なのだ……なので今オレが把握している情報を、ここらで一度まとめておいた方がいいかな。



 まずフィリア(オレ)がいるこの場所は、人間ニンゲンたちが住まう大陸・【人間界ホニヌム】の北にある【諸悪の諸島フォルニカリース】――通称・魔界パンデモニウムだ。

 この魔界パンデモニウムは四つの大きな島からなる群島地帯である。英国のような感じの小大陸と言い表した方がイメージ的には近いかも知れない。


 魔界パンデモニウムには【七大支族(セプテム・トライブ)】と呼ばれる魔族デーモニヌがおり、またそれらの種族は【魔界七大公国(セプテム・デーモヌム)】を支配する最大勢力でもある。

 その大公国の一つとしてあるのが、【淫魔族ルッスリアーニ】が支配する【淫欲の大公国ルクスリア】――正式名称を【退廃(Regno di) と享楽と肉(decadenza)欲の(e di)(piacere)公国(e lussuria)】と長ったらしいもので……つまりそれがオレの転生体であるフィリアが住まう国なのだ。


 そしてこのオレが……【淫欲の大公国ルクスリア】大公の第一後継者にして、次期大公であるフィリアことフィオリトゥーラ=ノッテ・S・デラ・タリアが今いるここは、その首都【聖域なき性域バビロニア・ラ・グランデ】であり、その中心にある大公一族が住まう宮殿【不夜なる大淫魔殿パラッツァ・センサ・ノッテ】なのである。


 そんで直近の事情だけど――この国の大公たる太夫プリマについてだ。

太夫プリマと言うのは淫魔族ルッスリアーニの種族代表としての階級兼称号であり……大公とは【淫欲の大公国ルクスリア】の国家代表を意味する――大公も太夫プリマも両方を必ず兼任するものであり、そのどちらも大公家による世襲制なので、つまりその意味するところは殆ど同じである。

 これは日本で例えれば自●党の総裁=太夫プリマ、内閣総理大臣=大公……みたいな関係に近いのかも知れない。


 因みに【淫魔族ルッスリアーニ】は女尊男碑とまではいかないが女性上位……つまり女性淫魔サキュバスが上位に立つ女尊種族である。

 これには理由が二つある――一つは出生率で女性淫魔サキュバスの方が大きく上回っている為。

 そして二つ目は、淫魔ルッスーリアを産めるのが女性淫魔サキュバスだけだからだ。


 男性淫魔インキュバスの場合、相手が女性淫魔サキュバスでない限り、人間ニンゲンを含め他種族の異性相手に子を産ませても、その子は母体の方の種族として生まれてくる為、淫魔ルッスーリアが生まれてくることはない。

 対して女性淫魔サキュバスの場合、相手が如何なる種族であろうとも、子は淫魔ルッスーリアとして生まれてくるのである。


 故に【淫魔族ルッスリアーニ】の社会――つまり【淫欲の大公国ルクスリア】において、唯一種族を繁栄させられる女性淫魔サキュバスの方が地位が上なのだ。

 そんな種族的事情により、一般家庭における家長の座も家督も財産相続も、この国の頂点たる大公兼太夫プリマの地位も、その全てがサキュバスだけが継承出来る仕組みとなっている。


 余談だが【淫魔族ルッスリアーニ】に限らず、魔界パンデモニウム全体においても女性人口の方が多く、【七大支族(セプテム・トライブ)】もその半数以上が女尊種族らしい。

 なおホノカの出身種族たる【蛇媧種ラミア】は、男性の存在しない完全な単一女系種族なのだとか。


 話を戻そう――先代であるフィリアの母が十年以上前に急逝して以来、大公の座は空位のままであり、その後は半年くらい前までは母の妹――つまりフィリアの叔母が大公代行をずっと務めていたのだが、その叔母もフィリアの準・成人の証しを迎えたのを見届けた直後……ある日「飽きた。童貞千本斬りの旅に出ます」と置手紙を残して出奔してしまったらしい。


 この叔母の行為は一見すると、無責任のようにも見える行動なのだが――そもそも淫魔ルッスーリアとは生来自由奔放な存在であり、何者からの支配も束縛も厭い、一処ひとところに留まり続けることを苦手とする流浪の種族なのである。

 その淫魔ルッスーリアとしてのサガを、誰よりも体現した性質を持ったその叔母が、十年以上も執務机デスクに居座り続けられた訳だから、寧ろ褒めるべきなのかも知れない。


 さて準・成人の件であるが――その証しが体に顕れれば、この国の大公たる太夫プリマになる資格を持てるというのがこの国の掟なんだけど……本来であれば、代行たる叔母の出奔後、直ぐにでも大公に就任したかったところを、まだ若過ぎると国内外で五月蠅く言われた為、証しが体に顕れてから一年が経ち、近いうちに三十九歳の誕生日を迎えるので、その祝いの席で改めて太夫プリマの座に正式に就任する予定だったのだが……。

 ところがジョルジュが明かしたところによると、残念ながらその誕生日はフィリアが眠っている間にとっくに過ぎてしまっていたらしい――



「――と言う訳でして、お誕生会の方は後日改めて盛大に祝わせて頂きますとして……先ずは三十九回目のお誕生日、おめでとうございます」


 ……とまあ、そんなジョルジュの報告を、両足を投げ出しただらしない格好でソファで寛ぎつつ聞いていた訳だけど――三十九歳かぁ……こんなナリなのでおかしくはないのだが、この年でまだ新品なんだっけ。


「次に残念なお知らせが――これは二つあります」


 成人と言えば、成人の証しって背中に淫魔膜翼インキュバス・ウィングが生えることなんだよな?……じゃあ準・成人の証しってなんなのだろうか?


「フィリア様の誕生日から二デカード後に……つまり今から一デカード前に臨時氏族クラン会議が開かれました。その会議で――」


 氏族クラン?……ああ、我がタリア氏族を宗家とするその分家、つまりこの国の貴族のようなものみたいだな。


「フィリア様の次期太夫プリマ就任に反対する不信任決議が行われ……可決されたそうです」


 それってつまり、このままだとフィリアは大公にはなれないってことなのか?


「さらにこれは時が前後するのですが――氏族クラン会議が開催される一デカード前に、地下霊廟で厳重に保管されていた伝国璽でんこくじ……玉璽ぎょくじが何者かの手によって持ち去られました」


「……は?」


「つまり大公の証したる玉璽ぎょくじが盗まれてしまったのです」


 ふむ……どうやら、このままお姫様ライフをのんびり満喫とはいかないらしい――

掲載した詩:シューベルト作曲/作詞者不明『Wiegen(ヴィーゲン)lied (リード)

日本語訳詞:近藤朔風『うまし夢』より引用

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