014 姫様はじめました ~Little Bitch Girl~ 3
それは片側だけで七、八人は余裕で座れそうなほど長い長方形のテーブル、つまり食卓だった。
その左右の片方ずつに手前から二人分ほどの間を取って、ラテア兄ィと愛妹ルーチェがそれぞれ席に着いている……でフィリアはといえば上座、所謂『お誕生日席』にその身を置いていた。
余談だが今フィリアたちが座っている椅子……と言うよりこの国の椅子は、背もたれの臀部が当たる部分が空洞になっているのが特徴だ。だがこれは決してエロ目的ではないぞ。
座る時に腰に巻いている淫魔尾針を外に解放して、後ろに逃す為の工夫である。淫魔がこの空洞が無い普通の椅子に座ったら、腰や尻への嵩張り感があって大変落ち着かないらしい。
それぞれの背後には給仕担当のメイドが控えているが、フィリアの背後にいるのはホノカではなく、別のメイドが控えていた。ホノカは下着を替えに……じゃなくて、ここは彼女の仕事の担当ではないので、一時下がったからである。
因みにフィリアの背後にはメイドさんの他にも、毛公仔のうさちゃんズも控えているが……ルーチェの背後にも籃球のボールほどの大きさの、ペンギンなのかツバメなのかよく分からない丸い鳥っぽい形状のヌイグルミ――トリさんが浮いている。
あの騒ぎの後で主であるルーチェに、遅れて合流して来たのだ。このヌイグルミも我が愛しの配下うさちゃんズと同様、魅了に魅かれて襲ってきた痴漢にツッコミをかますのがその役目である。肝心な時に不在で使えないところも同じだ。
そのトリさんが現れた時、うさちゃんズと『やあ』と、お互いにミトンの腕を上げて、挨拶らしき動作を交わしていた姿ときたら、もう無性に可愛いらしかった……それは兎も角、さっきは大変だったなぁ――
因みにあの後で大食堂に入ると、既にラテア兄ィが席に着いており――大浴場であんなことをヤっていたクセに、フィリアより早く、身嗜みを整えて先に待っているとか……そんな兄ィがヌイグルミたちと同じように、「やあ」と腕を上げて爽やかな笑顔で挨拶を返しやがった。
さらに――
「我が愛しの妹たちよ――ルーチェ、先程泣いていたようだけど大丈夫かい?……フィリアは一糸纏わゆ姿が一番美しいけど、いつものそのドレス姿もよく似合っているよ」
と気遣ったり、褒めることも忘れないシスコン兄ィ、流石ですわ。それは兎も角――なんで、こっちは部屋の外であんな騒ぎがあったのに様子を見に出て来なかったの? と疑問に思っていたら……兄ィの座る席のテーブルの下、その足元からテーブル・クロスが捲られると、先程とは違うメイドが涼しい顔をして這い出て来た。
すくっと立ち上がってハンカチで口元を拭うと、フィリアたちに会釈してスタスタと部屋を出て行ったのだった……キミタチハ何ヲヤッテイタノカナァ? フィリア分かんにゃい。
ああ、なるほどね~。それで身動きが取れなかったってワケね、いやあ納得納得……じゃなくて、子供に変なもん見せんじゃねーよ!
あーいや、でもよくよく考えてみれば、こう見えてルーチェもサキュバスなんだよな? ってことはこのコも将来はあんなコトやそんなコトを色々とするビッチになっちゃうのかぁ。お姉ちゃんちょっと複雑です。もっともこれは決して他人事ではない訳だけど……。
★★★LAST-PRINCESS or LUST-PRINCESS★★★
……っとそろそろ現在の方に話を戻そう――フィリアたちがいるこの場所は、家族専用の大食堂である。
高価そうな西洋骨董品の調度品の数々、半円形の高い天井に吊るされたシャンデリア、精緻な刺繍が行き渡ったカーペット、豪華な装飾が施されたマントルピースが飾られた暖炉……等々で彩られたこの大食堂は、ボキャ貧であれなのだが、ここを例えるならば高級レストランの個室みたいな感じであろうか。
フィリアのベッドルームも広かったが、ここもそれと同じくらいの広さがありそうだ。
で今からフィリアたちは、ここで昼食を摂る訳だけども――オレが目覚めてから、かれこれ二時限ばかりが過ぎたが……さっき湯上り後にミルクを飲んだのを除けば、この世界では初めての食事をこれから摂る訳だ。
正直言ってもうさっきから、お腹がペコペコなので食事が待ち遠しい。でも――
サキュバスの食事かぁ……いやまさか、皿に載せられた生きた二脚羊が饗されたりしないよな? そんなものを躍り喰いしたくないぞ――だなんて思っていたが、それは心配無用だったようだ。食卓に並べられた食事は極めてまともそうな物だったので一安心した。
食卓に並べられたメニューは――搾りたてのミックスジュース、鶏肉と大豆がたっぷり入ったミルクポタージュ、レタス・キャベツ・海藻・レーズン・鶏肉・リンゴ・コーン・馬鈴薯・トマト・大豆……あとよく分からない食材等々をふんだんに使った特盛りのサラダ。
バスケットの中に山盛りになったライ麦パンと、ジャム・マーマレード・バターなどの基本的なものから始まって……蜂蜜・ピーナッツバター・チョコバター・サワークリーム・メープルシロップ・キャビア・フォアグラ……という選り取り見取りの塗りもの類がたっぷり盛られた小皿の数々。
おおーどれも美味そう。では早速、いただきまーす!……ってあれ? 誰も食べ始めない? 兄ィとルーチェがこちらの顔をじっと見つめている。 ん? ひょっとしてここはフィリアがなにかする流れなのだろうか?
「フィリア。食前の祈りを」
あ、やっぱり? 食前の祈りねぇ――『いただきます』じゃダメなのかな? 『アーメン』は絶対違うだろうし……『ザー●ン』の可能性も微レ存?
真面目な話――食前の祈りって一般的には、家長が取り仕切るものらしいけど……我がタリア大公家の場合はフィリアが次期大公であり、現状この家では一番地位が上の立場なので家長に相当するって訳だ。なのでそのフィリアが率先して、食前の祈りをしなくてはいけないらしい。
ふむ困ったな。こんな時は何て言えばいいんだ? フィリアの記憶の表層からそれに関する情報を探ればいんだよな……あった! これでいいのだろうか? フィリアは両手を合わせて、えーと……――
「……我らの血肉になる為に敗れ、その命を捧げしもの共の魂に安寧の時を。恵み与えたもうた地母神を齎した混沌なる存在の気まぐれに感謝を……欲望の為すがままに――」
記憶の中にあった祈りの言葉を捧げると、兄ィとルーチェも「欲望の為すがままに」と復唱する。ほっ、良かったぁ……これで合っていたか――そんでまあ、なんとか食前の祈りを無事終えたことで、ようやく食事が開始となった訳である。
ミルクポタージュ、サラダ、ライ麦パンと各種の塗りもの類……と食品目自体は至ってシンプルなものばかりで――しかもフィリアが長い間眠ったままだった為、全体的に胃にやさしそうなものを取り揃えたようだが、どれもボリュームたっぷりで美味しそうだ。
フィリアはフォークとスプーンを手に取った途端、喰らいつくようにして食べ始めた……先ずは具がたっぷりのサラダだ。むしゃむしゃむしゃ、ぱくぱくぱく――
「フィリア。ところでこの後の予定なんだけど――」
上に掛けられているドレッシングはチーズクリームドレッシングか。酸味と微かな甘さのあるこのチーズの風味は癖になりそうだ……胃の調子も良さそうだな。であればこの体が求めるまま、ひたすら黙々と食べるのみ……むしゃむしゃむしゃ。
「姉さまぁ。何して遊ばれますぅ?――」
女の子といえば普通、昼食なんかはちっちゃい手のひらサイズの弁当箱だけ、みたいな小食が多いものだけど……どうやらフィリアは相当な健啖家だったようだ。食べても食べても一向に満腹にならない――っていうか口がちっさ過ぎて、一気に食えないのが実にもどかしい……ぱくぱくぱく。
「……で、確認が必要な書類について――」
むしゃむしゃむしゃ……ライ麦パンと塗りものは、贅沢に各種類を一口食べては次はまた別のをと繰り返し……高級食材のキャビアやフォアグラもたっぷり塗りたくって食べてみたり――
「……だから、夜はルーもご一緒に――」
ぱくぱくぱく……その中でも個人的に一番気に入ったのは、甘さと酸味の利いたサワークリームだ。しまいには小皿を空にしてしまい、お代わりまで所望してしまった。
「フィリア……そんなに沢山食べたら胃に悪いよ――」
むしゃむしゃむしゃ……ふむ、胃腸か――そういえば食中毒で三日三晩苦しんだ覚えがあるが、あの時は痛みが治まった直後の数日間は、胃腸が弱ってヨーグルトやお粥以外はロクに食べられなかったものだけど……五〇日というブランクがあったにも関わらず、いきなり立って歩けたことといい、食事も直ぐにこんだけ食べられるとは、流石は人外の体は伊達じゃないな。
「……ルーチェ、それだけで足りるのかい?」
「ルーはねぇ、姉さまのを見てるだけもう――」
ぱくぱくぱく……ところでミルクポタージュとサラダについてなのだが――どちらも具がたっぷりで大変美味しいんだけど……それらに使われていた食材の大半が、身体のとある部位の育成に効果があるとされるものばかりのような気がするのは……いやこれ以上は追及すまい――「あっ、ミックスジュースお代わり頂戴!」
「以前は二人分だったけど――今回はきっちり三人分完食したんだね、なるほどねぇ……」
…………。
…………。
…………。
ふう~っ……いや~食った食った。
ぶっちゃけ感覚的には満腹にはまだ程遠いのだが腹八分と言うし、食後にはまだデザートもあることだし、ここは我慢しとかなきゃね。
ん?……ふと周囲を見回すと、我が兄妹たちが呆れた顔で何か言いたそうにしていた。
はて? どうしたんだろ?……っと最後の大事なあれを忘れてはいけない。
「――混沌に感謝を」
と食後の祈りを捧げて、食事を終えたのだった。
ヤる者とヤらせる者、その両方を狙う者。性欲を持たぬ者は生きてゆかれぬ淫欲の国。
あらゆる色欲が武装する【淫欲の大公国】の街。
ここは魔界大乱が産み落とした魔界のソドムの市。
フィリアの躰に染みついた体臭の臭いに惹かれて、アブない奴らが集まってくる。
次回「勝負」
フィリアが飲む【淫欲の大公国】のコーヒーは甘い。




